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税課税自主権〜法定外税と地方自治の一考察〜
東京会 佐伯 和雅
I. はじめに

地方財政は悪化の一途を辿っている。人口の減少や税収の大都市集中などによって、地方の財政は交付金に頼らざるを得ない状況が続いている。地方財政は地方自治(1)の最重要課題の一つである。憲法は第8章に「地方自治」を設け、第92条において「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを決める」と定め、地方交付税法第1条は「この法律は、地方団体が自主的にその財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能をそこなわずに、その財源の均衡化を図り、及び地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障することによつて、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的とする。」としている。「地方自治の本旨」ついて伊藤正巳教授は「地方自治の理念と意義にそうようにということと同じであると思われる(2)」として、国は地方自治の大原則である住民自治と団体自治の基本原則を犯してはならないと説明している。

ところで、現代国家では中央政府と地方公共団体が調和することが求められているが、調和の程度について、その射程は重要である。伊藤教授は、「形式的には地方公共団体の事務と定めながらも、自主決定権を一切奪い、国の監督を強化するような事態も憲法は容認していない(3)」と指摘し、地方公共団体の事務と自主権を認めるべき個別の評価は積極的に行うべきであるとしている。

地方公共団体に対して平成28年に交付された普通交付税は、総額で15兆6983億円にも上る。実に1765の団体のうち1688団体が交付税を受け取っている状況にある(4)。交付金を受け取っている各地方公共団体の立場が国と同格あるいは優位になるなどという事は実質的には難しい。したがって、国からの地方自治の関与を遠ざけるためにも各地方公共団体は自らの課税権を行使し、歳入を増やすことに強い関心があることはいうまでもない。その一手段として法定外税がある。
II. 法定外税の概要

(1)法定外税とは
地方公共団体は、地方税法に定める税目以外に、条例により税目を新設することが出来る。これを「法定外税」と呼ぶ。ここにいう「法定」とは、国会で議決された地方税法において、地方税として限定列挙されていることをいう(5)。また法定外税には法定外普通税と法定外目的税とがある。参考までに、東京都がかつて採用した銀行税(外形標準課税)は事業税の法定内に基づくものであり、法定外税には該当しない。

(2)法定外税の導入
地方自治体の課税自主権については、平成12年4月に施行された「地方分権一括法」等により、法定外目的税を含む課税自主権の活用が一層図られたことをきっかけに、各自治体が積極的に検討を始めたものである。その当時、地方自治体の赤字累計は200兆円を超えていた。
当改正において、法定外普通税については総務大臣の「許可」から「同意」を要する協議制に変更され、併せて法定外目的税が導入された。法定外普通税と法定外目的税の新設及び変更の要件は概ね同じあり、資金使途制限を条例に盛り込むか否かでその区別はされることになる。

(3)根拠法
法定外普通税は、都道府県においては地方税法4条3項に、市町村税にあっては、同法5条3項において「前項に掲げるものを除く外、別に税目を起こして、普通税を課すことができる。」としている。また共通して地方税法259条以下及び669条以下の適用を受けることになる。法定外目的税においては、地方税法731条以下が根拠規定となる。

かかる以前に、地方公共団体に課税自主権が認められるのかという議論がある。これについては有名な大牟田市電気税訴訟(福岡地裁1980年6月5日判 判時966号3頁)がある。裁判例では、憲法は地方公共団体が独立性をもって自主的に統治を行なうものとし、そのために固有の課税権を直接付与していることを認めた。このように憲法に基づいて直接付与を認められた課税権は自主課税権又は課税自主権と呼ばれる。

ところで、地方公共団体が独立性を持って自主的に課税を行うようにするためには、地方税法が定める税目(法定税)のうち、採用が任意であるものの選択、課税免除、標準税率の変更等及び法定外税よることとされていることには注意が必要である。特に法定外税は、地方公共団体が課税要件の全てを定めるため、自主課税権が明確に現れる。ただしその反面、次の二つの制約が認められる。第1に法定税の規定を侵害するような法定外税は認められないと考えられていること(総務大臣の同意を得られない)、第2に、本稿で述べる第3号消極要件(例えば、地方税法第671条3号は「前二号に掲げるものを除くほか、国の経済施策に照らして適当でないこと」とあり、これを消極要件としている。)が新税源の発見をさらに制約していることが挙げられる(詳細は本稿VI. 「地方自治体の課税権に係る裁量」にて記す)。

このように、通説的な見解は地方自治体に課税自主権を認めている。北野弘久名誉教授も「実定法である日本国憲法が地方財政権については各自治体の固有権として保障している(6)」として、自主課税権についての本来的租税条例主義を抽出し、課税権は当該地方議会の判断と決定に基本的に委ねられているとしている。

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法定外税の新設等の手続 2017.1.31 アクセス

(4)総務大臣の同意
法定外税の手続きには総務大臣の同意(地方税法第261条、671条及び733条)が必要であることは既に述べた。ところで、地方自治体と総務省で事前協議が必要であるため、総務大臣の同意は形式手続にすぎない側面があるとの批判もある。総務大臣の同意については、横浜市が争った事例がある。
III. 総務大臣の同意が得られなかった事例(勝馬投票券発売税)

総務大臣の同意が得られなかったものとして勝馬投票券発売税(横浜市)が有名であり、行政法と租税法の両面から注目された。

事実の概要
横浜市議会は、2002年12月、勝馬投票券発売税(以下「馬券税」とする)を新設する市税条例の改正を可決した。その内容は、同市内の日本中央競馬会(以下「JRA」とする)場外馬券売場における売得金から払戻金と第1国庫納付金のうち、市内売得金に係る部分を控除した金額を課税標準とし、税率を5%とする法定外普通税とした。第2国庫納付金や特別振興資金等も課税標準に含まれる。

同市は、総務大臣に対しての同意を得るための協議の申出を行なったが、総務大臣は翌年3月30日、不同意の通知を行なった。このため横浜市長は、地方自治法250条の13に基づき、国地方係争処理委員会に総務大臣が同意をすべきである旨の勧告を求めて審理の申出を行なった。争点としたのは、同意をしない消極要件である「国の経済施策に照らして適当でない」に関してである。

勧告に従い、総務大臣は不同意通知を取り消して協議を再開したが、2003年に横浜市が「新税が導入されても年間税収見込みは市税収入の0.2%に満たない10億円程度で、国の三位一体改革では財源配分を見直す動きも活発化してきたことから、新税にこだわらず、大型税源移譲を国に求める方針に切り替えた方が得策(市幹部)と判断(7)」し、2004年2月に横浜市議会は馬券税の廃止を議決した。

不同意理由
JRA が中央競馬により公益目的のために財政資金を確保する仕組みは、「国の経済施策」に該当するとしたからである。国の経済施策とは、経済活動に関して国の各省庁が行なうべき特に重要な施策であると考えられる。地方税法671条3号にある国の経済施策には、特定の仕組みで財政資金を確保し、これを一定の公益目的のために使用することも国の経済施策に含まれうるとしたのである。

中央競馬は、競馬法及び日本中央競馬会法に基づき、JRA が、畜産振興及び民間社会福祉事業の振興のために財政資金を確保する事を目的として、刑法の特例として独占的に行なう特別な制度であることから、特に重要な施策として国の経済施策に当たると考えられることを示した。

国地方係争処理委員会の勧告
係争処理委員会は総務省の不同意に対して、「総務大臣は、横浜市の勝馬投票券発売税新設市との協議を再開する事」を勧告し、両者による再協議を促した。ここでいくつか重要なキーワードを確認する。

まず(a)「経済施策」には、財政施策及び租税施策がこれに含まれるものとは解されるが、その全てが含まれることになってしまえば、国務大臣である総務大臣が同意する余地がほとんどなくなってしまう事が指摘されている。

次に何が(b)「特に重要」なものかである。国民の経済生活に直接かつ重要な影響を及ぼす経済施策がこれに当たる(畜産振興事業資金の30%にあたる財政資金の確保は国の経済施策に該当する)とされた。

(c)「適当でない」の意味としては、国の経済施策に負の影響を与えることである。また適当でないの解釈についても(d)「重要な」影響を及ぼす場合との限定を付すのが相当であると示した。

次に(e)「量的影響」に関しては、横浜市が予定している税収だけでは国の財政に負の影響を与えない事は明らかであるが、一方で全く同様の法定外税を他の自治体もJRA に課したと仮定すると、重要な負の影響を与えるかどうかの問題が生ずるとした。

(f)「制度的影響」については日本中央競馬会が赤字でない場合には、重要な負の影響を与えるものと解する事はできない。しかし、赤字の場合には実質上第1国庫納付金にも影響が及ぶため、検討が必要であるとした。

最後に(g)「その他」として、以上のことから、地方税法第669条が予定している協議がなされていないことが挙げられた。「協議とはしかるべき意見の一致を見出す努力を重ねる過程をいうものと当委員会は考える」とされ、市町村側の主張である特別の負担を求めるべきでない合理的理由を消極事由に盛り込む事は適当ではなく、総務大臣の裁量の幅が極めて広いことを前提にしている総合的判断は、積極要件が削除され、消極事由の何れかがあると認められる場合を除き同意しなければならないとする地方税法第671条の趣旨に適合するとは言えないものと解されるとして、再協議を求めたのである。
IV. 上記裁判例から見える問題点

当該事件は行政法学と租税法の両者から盛んな議論があった。行政法的見地からの主な問題点は地方公共団体の課税自主権、審査基準、国の同意の性格、裁量の縮減等があり、租税法的見地からはprivate act 説(8)、平等原則違反、中央競馬会法令違反説等と広範に渡った。

(1)行政法的見地からの問題点
行政法学的見地からは阿部泰隆教授の整理が参考になる。阿部教授の関心は第3号規定(国の経済施策)に集中している。第3号規定が法定外税の消極事由の中で最も曖昧であるからだと推認される。阿部教授の指摘事項は多岐に渡っているが、本稿では(a)課税自主権、(b)国の経済施策と「適当でない」の意味への反論を採りあげる。

課税自主権とは
課税自主権の保障は憲法92条(地方自治の基本原則)、憲法94条(地方公共団体の権能・条例制定権)に根拠を認め、憲法から導かれる地方条例主義との見解が有力である。そうだとすると、従来の「3号許可要件は違憲の疑いが濃く、少なくとも大幅な限定解釈を要するものであった」とした、京都市古都保存協力税に関する裁判例(京都地裁昭59.3.30行集35巻3号353頁)で示された許可要件の法定化について、上記憲法条文に反しないと単純に捉えてしまうことは疑問である。

法定外税が、総務大臣の許可制から同意を要する協議制に変更しても、「課税自主権に対する国家の関与の限界ははっきりしない(9)」とする意見や、一応「課税自主権の活用は財政基盤の強化や自己決定権の拡大からは望ましい(10)」とか、「課税自主権の活用は(中略)国においてもこれらの動きをできるだけ支援する必要がある(11)」とした意見表明がされていることからも、国との対等関係を得られる協議制への移行がされたことによって、課税自主権の大幅移譲とともに総務大臣の裁量権の限定を要請したものであったと捉えられよう。

国の経済施策と「適当でない」の意味への反論
国の経済施策とは、一体何であろうか。「国の経済施策については別個に検討する必要がある(12)」としたり、一般論としては、「政府がある目標に対して経済体制を変えたり、ある社会問題を解決するために経済を通してアプローチする際に発動されるもの(13)」としているが、意味はよくわからない。

これら考察について阿部泰隆教授が、「国の経済政策は森羅万象であり経済学上の経済政策としては結構だが、これを基準に規制するには広すぎる(14)」と指摘したのは頷ける。同意を得られるかどうかについて、予測不可能な国の経済施策に地方自治体は縛られ、その結果として地方自治体が萎縮する事に繋がるからである。「適当でない」とあわせて、「国の経済政策として」という文言が必ず置かれている現況下において、国の考える経済政策として適当でなければ不同意とすることも考えられる。阿部教授は、JRA は畜産振興事業などについて助成することを業務とする法人に対する交付金の交付業務を行なうのであるから、明らかな国の政策とは言えないし、「適当でない」の文言にはそもそも総務大臣の裁量が伴う点に重大な問題があると指摘している。

同意又は不同意の通知は行政処分に当たるか
2000年の地方分権一括法施行以前の法定外税は、許可制であった。この許可制に対しては、課税自主権の行政権による制約であるなどの理由により違憲の疑いが濃いものであった(15)。違憲の有無については、行政権による制約、つまり事実上の行政処分がおこなわれていたといえよう。このような状況に対して阿部教授は、総務大臣の不同意は許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるものと解される(地方自治法250条の13)」としているおり、岡村教授も同様の意見である(16)。協議の不調が続くようになれば裁判所に判断を求められる事となったようである(17)から、同意又は不同意は依然として行政処分と同様の効果を持つと考えられる。

勧告の拘束力
勧告に対して訴訟を起こせるか否かについても重要である。阿部教授は「自治法250条の13第3項に基づくものであれば、裁判は予定されないとも解されるが、本件勧告は不同意は同条第1項に基づくものとし、これを公権力の行使として訴訟に進むことができるとの立場である(18)」とし、勧告も行政処分であるとする立場を明らかにしている。ただし、協議を再開すると不同意を取り消した事となるので訴訟は提起できなくなるとしている。

本件に関していえば、再協議の勧告は必ずしも事案を適切に解決しない可能性が高かったこと、また訴訟をする場合には取消訴訟ではやり直しとなってしまう可能性があるため、義務付判決が望ましい(19)のではないか。勧告も、「必要な措置」を勧告できるのであるから義務付勧告あるいは条件付勧告についても検討の余地がある。

(2)租税法的見地からの問題点 

JRA は納税義務者となり得るか
JRA の法人税法上の扱いは公共法人である。公共法人は法人税法4条2項等の定めにより法人税、法人事業税などは非課税とされている。ここで、国が公共法人に指定した団体を「国の経済施策」として法定外税の課税権と衝突させる事が適当かどうかという議論がある。JRA にも固定資産税は課されていることから、法定外税を創設してはならないという非課税規定(地方税法672条)の対象には当たらないと考えられる。従って、JRA に対して法定外税を全く課税できないという法理は成立しない。

また、中央競馬会は特殊法人であり、一見すると公共性の高い法人といえるが、民間会社である電力会社や認可法人である日本銀行等と比較して「公益性が高い」と必ずしも言えない(20)との指摘もある。

租税特別措置と法定外税
国の経済政策に照らし、「適当でない」事由として租税特別措置との関係と公的資金導入の例で検討する。

租税特別措置とは、「担税力その他の点で同様の状況にあるにもかかわらず、なんらかの政策目的実現のために、特定の要件に該当する場合に、税負担を軽減しあるいは加重することを内容とする措置(21)」のことで、あくまで政策的な租税優遇措置であることが多い。これと法定外税を同列に捉えれば、我が国の経済施策に対して適当でないとはできない側面も生じてしまうのではないか。

また、公的資金を注入した金融機関などに課税を行なった場合はどうであろう。外形標準課税も法定内税ではあるが、公的資金の効果を一部帳消しにするような性格を持つことが指摘されている。法定内税では問題がなくとも、法定外税としたことによって租税特別措置と同様の問題を内包することとなってしまうということなのか。ただし、国の施策(補助金等)と地域の施策(課税したい)とが必ずしも合致するとは限らず、また、同一企業内でも事業が異なっていた場合に事業単位で法定外課税できるのか等の点には未解決のままである。

私見
本件は、横浜市が金額の重要性(その後の税源移譲に比して)が乏しいと判断して法定外税の新設を取り下げてしまった。その後の政策により、外形標準課税や住民税の税源移譲が見込まれるためであったことがその理由ではあるが、外形標準課税にせよ住民税の税源移譲にせよ、横浜市固有の問題ではなく、まさに国と地方自治全体の問題である。そういった意味では横浜市が国の政策に屈し、結局のところ第3号要件よって間接的に不同意に落としこまれたことは残念である。
V. スピルオーバー効果と法定外税

(1)スピルオーバー効果とは
スピルオーバー効果とは、ある地域において供給されるサービスが他の地域の者にも享受され得ることをいう。つまり、地域住民の税金によって行なわれる行政サービスを、その負担をせずに他地域の住民が享受してしまうことを指す。例えば、東京都に昼間に流入してくる人口は約300万人と言われているが、この外来者は住民税等の税金を納付せずに、東京都のインフラを利用している事が挙げられる。

(2)スピルオーバー効果における法定外税の役割
スピルオーバー効果に対する調整手段として、法定外税が期待されている。現在でも熱海市の別荘等所有税(平年度税収で約5.6億円)がある。このような固定資産に対する課税は把握と振り分けが比較的容易であるが、商品切手発行税や文化観光施設税のようにサービスや消費に対する課税はそれらが困難であるため、目的税を直接にインフラ投資に充てる事が難しいため、立法が困難である。

(3)ニューヨーク市の例
NY 市では、通勤者税(The New York Cityearnings tax on nonresidents(22))を導入した。課税の趣旨は、「世界を代表する大都市であるニューヨーク市が、都市間の問題に起因する富裕市民や優良企業の市外流出という都市のスプロール化とそれに基づく財政難から、市外から流出してくる昼間人口に対し、その都市としての行政需要に応分の負担を求める名目で、それらの者がニューヨーク市内で稼ぐ収入に対し課税していこう(23)」である。通勤税への期待は、NY 市の財政難の原因が、都市問題の発生による企業や市民の郊外流出が相次いだ事であるとされている。当時のニューヨーク市で都市問題解決のための費用はかさむ一方であったことも一因である。

通勤税の特徴として、課税対象をNY市外から市内に稼ぎに来ている通勤者(住民ではない者)としている事にある。税率は賃金(公務員と軍役に対する給与は対象外)に対して0.45%、自家営業の純所得の0.65%とする源泉徴収制度を採用した。源泉徴収制度を採用することにより企業にとっては事務負担が増大するが、この点をクリアできれば日本(東京などの大都市)での採用も検討される余地がある。但し、人的移動が法定外税の消極要件の第2に該当する「物の流通」に当たると解されるのであれば、相当軽微な負担でない限り「重大な障害」に該当する可能性もあるとの指摘がされている(24)
VI. 地方自治体の課税権に係る裁量

地方税の場合(法定内税)は、地方団体の定める条例に基づき賦課徴収することとされているが、実際は税目・税率・手続等は地方税の枠内で詳細に定められている。このことは、地方税においては地方自治体の裁量が認められていない現状を表している。

一方、法定外税の場合には、上記した通り、地方自治体の議会で条例案を作成し、総務大臣との協議・同意を経れば条例は成立する。しかし必ず新たな納税義務者(あるいは追徴的な納税義務者)が生ずることとなるため、現段階では同意を得ても法定外税の問題は納税義務者によって裁判に持ち込まれる可能性が高いことが指摘されている。
VII. 負担金との問題

地方の歳入手段として、税のほかに負担金(及び使用料)も考えられる。負担金を使うか税を使うかは、理論も大事であるが技術的なアプローチがより重要である。これを検討する際には、公共便益の直接性からの理論展開が有用である。例えば、市町村規模が小さく生活利益が均質であればあるほど、受益程度の測定が容易となり、負担金の活用が見込まれる。他方、市町村規模が拡大し、住民の生活利益が煩雑になってくると利害関係者の増大とも相まって、受益程度の測定が困難となる。そうなると住民が能動的にかつ直接的に便益を受益できるもの(住民票の発行等)は依然として負担金制度の活用が有効となり、それが困難な場合は、行政事務の効率を考えても外形的に税の手段を用いる事となってしまう。

(1)今後の法定外税の方向性
自治体間での課税は可能か
現行法では、国及び地方公共団体には事業所税は課すことができない(地方税法701条の34)とされている。したがって外形標準課税のように床面積や職員数等に応じて、他の自治体に課税するのは困難である。しかし「憲法上、国・地方団体相互非課税原則が採用されているわけではない(25)」ことからしても課税不可能と断定されるわけではない。

そうであれば、自治体同士が課税を行なう場合も想定される。これの調整は国が行なうのか、国際租税条約のようなものを自治体間で締結するのか(道州制の導入が現実となれば起こりうるのか)は判然としないが、法定外税の分野においては、総務大臣の同意の効果も多少なりとも変質し、同意の効果(処分)が本来的な法律行為として発揮されるのではないかと思われる。

環境税としての法定外税
法定外税として採用されているもの、あるいは今後採用され得るもののなかで、最も導入が進められるのが環境に対する課税であろう。環境面からのアプローチは、ユニークな課税方法が検討されることになる。

その前に環境税の主体を国が行なうべきなのか、地方自治体が行なうべきなのかという問題がある。税目による区別としてしまえば議論は成立しないが、重要な論点である。

また、エネルギー関連税の税収使途が環境保全に逆行(26)し、あるいは法定外税第3号要件の適合性問題についても大いに疑念はあるが、依然として問題点は留保されたままである。

環境税(27)は、大別すると2種類考えられる。第一はインセンティブ的な環境税、第二はディスインセンティブ的な環境税である。前者については、いわゆるエコカー減税が代表的であり、後者については応益負担に基づくもの、つまり環境税と呼ばれるものの殆どのものが該当する。また、環境減税のほかに補助金や圧縮積立金や準備金(28)の租税特別措置が用意されている。

環境税として期待されるものには、エネルギー関係や炭素税(排出権取引の問題やピグー税(29)等の詳細については割愛する)もあるが、既存資源の有効活用が最も重要である。一例として神奈川県水源環境税について簡単に触れる事とする。

(2)神奈川県水源環境税

神奈川県では戦後の人口集中や産業蓄積により、水需要の急拡大や大気汚染等の生活環境悪化の問題が生じてきた。そこで神奈川県は森林保全や生活廃水等処理の環境問題に対して汚染者負担原則に基づく対策を講じることの困難さから神奈川県が独自事業として森林保全整備を行なうこととした。

1997年から2003年にかけて114億円の支出を行い、水源の森林作りの指定エリア(次頁の図参照)から放置私有林の約70%についての買取りや借上げによる確保及び整備を行った。

神奈川県は、恒久的財源として期待できる当森林保全税策に対してWTP(住民に対する社会調査に基づき、環境財や環境サービスへの個人支払意志額)を明らかにするため、CVM(仮想市場評価法)やコンジョイント分析(商品やサービスを構成する要素(規格や性能)の最適な組み合わせを探る手法で調査をし、評価された便益額は、限界支払意思額を表す(30))等に基づき社会調査を実施した。いわゆる行政調査である(31)

3,000通発送の調査票から得られた結論(回収率69.4%)は、CVMでは年間128億円、コンジョイント分析では年間69億円の数値評価を得られた。これからすると一世帯辺り(348万2264戸、2002年11月1日時点)の環境税は2,000円〜 3,600円であれば過半数以上の同意が得られることが導かれた。

この数値は税額を下げることで、より多くの同意を得ることも明らかにしている。租税法上の問題を考えなければ、地方自治体においてどのような課税客体及び税額であれば理解を得られるのかを知る重要な手がかりとなる(32)。神奈川県は丁寧に行政調査を行ったのである。

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出所:環境経済・政策学会編『環境税』(2004年12月,東洋経済新報社)201頁

このような具体的手法(調査)に基づき、課税の必要性(地方税法5条1項1号)が認められる場合には、本件のように超過税率による徴税も行われることになる(ただし、租税法律主義の観点からは、若干の疑問が残る。)。法定外税と超過税率のどちらを選択するのか、自治体にとっては選択の幅が広がったのだが、納税者には解り辛いといった問題点がある。
〜総括〜

法定外税を用いた課税自主権の尊重や環境への取組みは今後ますます盛んになると考えられる。ここで大きな問題として住民投票の利用について考えてみたい。日本では地方自治法によって、税の問題を住民投票で行なうことは困難であると解釈される(地方自治法223条「普通地方公共団体は、法律の定めるところにより、地方税を賦課徴収することができる」)。そうはいっても、地方環境税を想定した負担を求める場合には、そこに関わる地域住民の参加は不可欠であるから、法定外税に対する住民の期待が高まった場合に、住民投票に基づいて議会が条例を制定したならば、租税条例主義に適合することになるが、総務大臣が仮に同意しない場合にはどのように取扱われるのかなどは今後注目される。

最後に、環境税というのは時限立法であることが望ましい。性善説的な考え方(インセンティブ的)に捉えるとすると「環境税制の二重の配当」(33)の期待が実現すれば、環境質の改善が早くそれに伴い税収も減る「逃げ足の速い」課税方法となる。このことは本来の目的からは望ましいことであるが、安定税収を確保すべきといった側面からは好ましくない。そのため、他方で、恒久的な財源確保を要するもの(森林保全など)も用意することも必要である。

以上から、法定外税については総務大臣への同意制度は結構であるが、住民投票による課税決定を行えるように検討することが、課税自主権の本旨に適い有意義であるように思われる。
(1) 地方自治とは、「地方における政治と行政を、地域住民の意思に基づいて、国から独立した地方公共団体がその権限と責任において自主的に処理すること。国とは独立の法人格をもった地方公共団体を設けるという“ 団体自治” と、その事務の処理を住民の意思に基づいて行う“ 住民自治” の2つの要素からなる。」『法律学小辞典第5版』905頁.
(2) 伊藤正巳 『憲法第3版』(弘文堂,1995年12月)598頁以下.
(3) 伊藤『前掲書(2)』598頁.
(4) 地方交付税法第6条にて、国税収入に対する配分割合が定められている。
(5) 法定税の中で税収の使途が限定されていないものを法定普通税と呼び、限定されているものを法定目的税という。
(6) 北野弘久『税法学原論〔第6版〕』(青林書房,2007年12月)105頁.
(7) 読売新聞2003年8月23日
(8) ここでは「JRA に対する個別法の問題」を指すものと思われる。
(9) 阿部泰隆「横浜市勝馬投票権発売税に対する総務大臣の不同意処分(1)『自治研究第85巻 第1号』2009年1月号,第一法規出版 27頁
(10) 地方制度調査会「地方分権時代の住民自治制度のあり方及び地方税財源の充実確保に関する答申」2000年10月25日
(11) 税制調査会「わが国税制の現状と課題ー 21世紀に向けた国民の参加と選択ー 2000年7月,63頁」
(12) 碓井光明「法定外税をめぐる諸問題(上)」『自治研究第77巻 第1號』24頁
(13) 例えば日本では「所得倍増計画」や「列島改造計画」がこれにあたる。アメリカでは「ニューディール政策」や「ニクソンショック」等がある
(14) 阿部泰隆『前掲書(9)』37頁
(15) 北野教授も「法定外普通税の自治大臣許可は、法的には一種の行政の内部規律ないし訓示規定と解される」とし、許可制の違憲論を追認している。『前掲書(6)』361頁
(16) 岡村忠生『判例時報1791号』評論524号7頁
(17) 阿部泰隆『前掲書(9)』32頁
(18) 阿部泰隆「横浜市勝馬投票権発売税に対する総務大臣の不同意処分(2)」『自治研究 第2号』2009年1月号,第一法規出版 27頁
(19) 阿部泰隆『前掲書(18)』28頁
(20) 塩野宏『行政法III 第3版』2006年,有斐閣98頁
(21) 金子宏『租税法〔第19版〕』(弘文堂,2014年4月)85頁
(22) 直訳:ニューヨーク非居住者収入税
(23) 斉藤武史『新税ー法定外税ー』2003年11月,三重大学出版会 150頁
(24) 碓井光明「法定外税をめぐる問題(上)」,『自治研究77巻1號』28頁。
(25) 碓井光明「法定外税をめぐる諸問(下)」『自治研究第77巻 第2號』16頁
(26) 航空機燃料税の使途は空港整備等、揮発税や石油ガス税は道路整備にと環境対策には使われていない、いわゆる「懲罰的税金」となり得ていない
(27) 広義には「公害税」と呼ぶこともある。
(28) 隠れた補助金として批判される。
(29) 外部効果の発生により私的費用と社会的費用の間に乖離が生ずることに着目し、それを埋めるために国家による課税と奨励金(補助金)の活用が望ましいとするもの。ただし、費用計測の困難性やその実行可能性の問題から、採用は見送られている(藤田香『環境税制改革の研究』(ミネルヴァ書房,2001年11月)31頁)
(30) 環境経済・政策学会編『環境税』(東洋経済新報社,2004年12月)202頁.
(31) 税務調査も行政調査に類型される。行政調査と言ってもその射程が広いことが伺える。
(32) 神奈川県は「水源環境を保全・再生するための個人県民税超過課税」として、平成19年から20年間個人住民税の均等割り及び所得割り(累進)に対して一定の上乗せを行なう課税を実施し、現在も適用されている。
(33) 財源の調達と課税により自然環境への負荷を下げることともに、税収を植生復元等に利用するという、いわゆる二重の効果のこと。

(さえき・かずまさ)

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