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時潮
【特集 税理士制度】
> 税理士制度と税理士の任務
税理士法の要請する研修制度と
日税連等の研修受講義務化制度について
東京会 粕谷 幸男
昨年の2月号では、「研修受講努力義務未達成に関する不利益処分について」という標題で、税理士法39条の2(研修努力義務)の規定と日本税理士会連合会(以下「日税連」という。)等の会則等に関する研修受講義務規定に関する矛盾や義務等のもたらす問題点、行政手続法等の適正手続と研修の認定手続との関連とその問題点を述べた。また、同年8月号では、「研修義務化に関する審査請求を取り上げない旨の通知に対する意見」との標題で、研修受講義務化に関する税理士会の私的自治としての会則と行政手続法、行政不服審査法との適用に関する私見を述べた。

ところで、税理士の資格の取得経路が4系統ある特殊な資格制度となっているなかで、日税連等が税理士の研修努力義務を受講義務化に格上げすることに伴い研修規則等に基づいて実施されている研修が税理士法に沿った施策化なのか日頃から疑問に思っている。

すなわち、研修受講義務化の研修実施主体は、日税連等であるが、税理士の資格取得の類型に合わせた研修を日税連等が実施することにより、税理士の資格取得類型から求められる資質向上のための研修制度となるのではないかと日頃より考えている。つまり、日税連等の実施する研修が税理士法上の義務規定としての研修受講努力義務制度の意義ないし趣旨に沿った研修制度となるよう構築されるべきと考えている。

そこで、今回は、日税連等の研修受講義務化の会則規定と税理士法との関係について、私見を述べることとしたい。

意 見

I. 税理士法39条の2に定める税理士の研修努力義務は、税理士の資格取得の類型を前提とした研修努力義務と解して、その資質向上のための研修を実施すべきである。

II. 日税連等は税理士に対する研修プログラムを実施するにあたって、税理士法を踏まえたカリュクラムとすべきである。しかし、実施されている研修は、税理士法が要請する税理士の資質向上のためのものとして、その要件を満たしていない。

III. 予定されている研修履歴の公開制度は、税理士の研修による資質向上の努力義務の趣旨からすると、税理士の資質向上の研修受講努力義務の一部ないし部分的な情報開示であって、納税者の知りうる権利に応えたものにはなっていないものと考える。そのため、納税者に誤ったあるいは誤解されかねない情報提供制度と考えられる。少なくとも、本人の自己研修の履歴情報もあわせて開示すべきものと考える。また、会員が承諾していない研修の免除履歴は公開すべきでない。

上記の意見に関する説明を以下にする。
I. 税理士法39条の2の税理士の研修努力義務規定の意義について
(1)税理士法の研修とは

税理士法39条の2での研修の努力義務は、税理士が負うべき義務として位置づけられている。

そこで、税理士法に、税理士の権利及び義務の諸規定を設けている理由についてみてみると、次のように述べられている。

「税理士制度が租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現に資することを究極の目的とし、税務に関する一定範囲の業務を税理士業務と定めて、これを独占的に業務として営むことができる者を税理士とするものであることに伴い、税理士に対して職業上の権利を付与するとともに、一定の義務を課することとしているものである。」(新税理士法4訂版139頁日本税理士会連合会編)と解説されている。この解説に従えば、税理士制度が「納税義務の適正な実現に資することを究極の目的」としているので、税理士法にその権利と義務が定められたものと理解されよう。

そこで、税理士の義務の一つとされている税理士法39条の2の研修の努力義務規定を読むと「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け、その資質の向上を図るように努めなければならない。」とされている。この規定の主語は、「税理士」であり、税理士法上の税理士である。税理士が税理士会等の研修を受け、資質向上の努力をすべき主体となっている。税理士個々人の個性、能力、価値観等は違いがあるだけでなしに、資格取得の類型ないし系統が異なっているので、その資質の向上の重点分野の置き方や研修の仕方にその研修制度を対応すべきであろう。

(2)税理士資格の取得類型ないし系統は

税理士法では税理士の資格取得の類型ないし系統を第3条で定めている。それによると、具体的には、 税理士試験合格者 いわゆる試験免除者 弁護士 公認会計士で、各資格者には、それぞれ実務経験ないし一定の研修を終了した等の条件が付されている。

税理士は、4類型の資格取得基準があるため、それぞれ資格取得条件が異なっている。その資格取得条件の違いは、39条の2の研修努力義務での資質向上の重点の置き方、仕方に違いが発生する。

(3)税理士の業務は

また、税理士の業務としては、法2条で、租税に関する税務代理、税務書類の作成、税務相談に関する事務を業とする。また、税理士業務に付随しての財務書類の作成業務等、租税に関する裁判所における補佐人としての陳述、さらに、税理士の資格でおこなう会社法での会計参与等の業務がある。

(4)租税に関する法令とは

租税に関する法令には、所得税法、法人税法、相続税法、消費税法、国税通則法、国税徴収法、租税特別措置法、いわゆる災害減免法、租税条約等、地方税等租税債務の額を具体的に決定し、又は、その履行を担保するための法律が含まれている(前掲書65頁)。また、税務代理には、租税に関する代理、代行、主張、陳述だけでなく、「徴税官公署を相手方とする分納、納付の猶予等の陳情、交渉の類をも包含する。」と解されている(前掲書67頁)。

(5)資質向上のための研修について
A.資格取得類型からの研修

試験合格者の合格科目は、税法3科目、会計2科目である。しかし、(4)で述べた租税に関する法令のうち、本人が受験する科目以外は合格の求められない税法科目が存在する。税理士として、納税者の納税義務の履行のために必要とされる税法は合格科目以外多岐にわたっている。また、税法の基盤となす会社法等の経済法・私法分野は試験科目ではない。ましてや、行政法の一分野である税法に関連している行政法、行政手続法、行政不服審査法、民事訴訟法も試験に取り上げられていない。

そこで、合格税法科目と受験していない税法科目との税法修得水準は、通常、明らかに、違いがある。そのため、受験していない税法科目を税理士として習得しなければならない。税理士登録時には、登録時研修があるが、その研修は税理士の登録時に修得すべき素養の研修であって、私が指摘している資格取得類型別の研修ではない。現実には、日税連等が提供する研修プログラムには、そのような税理士として納税者の納税義務を履行するための税法修得プログラムは用意されていない。そこで、受験していない税法科目等の修得には自己学習をすることになるが、その自己研修は認定されない。

それ故、それぞれの資格取得類型からの資質向上のための研修では、それぞれ、特有の必要性から来る研修プログラムが必要である。すなわち、日税連の提供する研修の内容は、資格取得類型を考慮したものが必要である。

試験免除者のうち、大学院での論文による試験免除者は、試験合格者と同様の問題を持っている。税務行政経験による免除者の場合には、職務担当分野以外等の精通していない税法の問題もある。

公認会計士は、会計監査の専門家であるため、監査に関連した税務の試験があるとしても、それ以外の租税については、試験を課されている訳ではない。弁護士は租税判例から税法を習得するが、納税義務の履行のための申告等の租税法事務の習得にはかかわらない。

B.税理士業務からの研修

公認会計士は、会計の専門職であるので、会計関係の研修は一般的には必要としないものと考えるが、本人の判断で研修をすればよいものと考える。弁護士は、税務訴訟に関連する研修は不必要と考えるが、本人の判断が優先する。

税理士が、受験勉強や大学院で履修をしていない税目について、例えば、法人税法の体系的な講義が研修で用意されているかというと残念ながら、現状は用意されていないものと考える。そのような基礎的実務的な税法を学習する講座は、自己学習として、書籍等ですることになる。また、税理士業務に必要な民法、会社法、行政手続法等の関連私法や公法の講座が用意されている訳ではない。

納税義務の履行に関する税目に関する資質の向上を図るために、国税徴収法、国税通則法及び関連私法の研修を受けようとしても、用意されている訳ではない。

結論:資質の向上を努力するのは個々の税理士であるが、資格取得類型の違いや本人が扱う税理士業務について、どのような研修を受けて資質の向上を果たすかは本人の資格取得類型に依存している。資格取得類型が研修受講努力義務の内容、重点、方向、種類を規定しているものと考える。
II. 日税連の実施する研修は税理士法39条の2の規定を踏まえた資質向上のための研修制度となっているか。

(1)税理士会・日税連の目的は


税理士会は、税理士及び税理士法人がその使命を十分に果たし、義務を守り、税理士業務の改善進歩に資するための、税理士及び税理士法人の自治的団体として、国税局の管轄区域毎に税理士会が設立されている(前掲書236頁)。

税理士会は、税理士及び税理士法人の自治的団体として、税理士及び税理士法人の使命及び職責にかんがみ、税理士及び税理士法人の義務の遵守、税理士業務の改善進歩に資するため、税理士会の支部及び会員に対し、指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的としている(前掲書239頁)。

すなわち、税理士会は、税理士の義務の遵守に資するため、会員に対して、指導、連絡及び監督をすることになっている。

そして、日本税理士会連合会は、税理士会と同様の目的で設立されているが、日税連は税理士会及びその会員に対する指導、連絡、監督を行うことになっている。

以上のことから、日税連等は、税理士法の枠の中での存在であり、税理士法を遵守すべき存在である。

(2)日税連の研修に関する会則等

日税連会則65条によると「税理士は、その資質の向上を図るため、本会及び所属する税理士会が行う研修を受けなければならない。」(税理士会標準会則58条も同文。)と会員の研修受講の義務規定に改正したとしている。この改正の理由について、Q&Aでは、「以来、10数年が経過し、税理士法改正の機運が高まったことを機に、研修の受講義務を税理士法に盛り込むべく、税理士法改正の要望項目としてとりまとめました。結果として今回の税理士法改正では研修の受講義務化は見送られましたが、国民・納税者から信頼される税理士制度を確立するという観点から、税理士会の自律規範として、「研修を受講しなければならない。」という受講義務規定への会則変更を行いました。」と述べている(Q&A「はしがき」参照)。

そして、日税連研修部が発行している「研修諸規則Q&A」によると、税理士が受講すべき研修は、連合会規則3条、4条、日税連研修細則2条及び税理士会研修細則2条(研修の種類)で定められているとしている。

連合会細則2条は、研修の種類として、(1)全国統一研修会 (2)登録時研修会 (3)公開研究討論会 (4)その他研修とされている。

一方、税理士会の研修細則2条(研修の種類)では、次のように定められている。

(1) 本会が主催、共催又は後援する研修
(2) 連合会が主催、共催又は後援する研修
(3) 支部等が主催、共催又は後援する研修
(4) 本会以外の税理士会(以下「他会」という。)又は税理士会員が所属する支部以外の支部等が主催、共催又は後援する研修で、受講しようとする税理士会員が、あらかじめ当該主催者の承諾を得たもの。
(5) 税理士協同組合等の「関連団体」が主催、共催又は後援する研修
(6) 本会が認定した研修

(7) その他研修
以上のことから、わかるように、税理士の資格取得の類型別の研修を考慮してのものではなく、研修受講義務化以前から実施してされた研修制度をそのまま、受講義務研修に移行したものであるといえる。そのため、前述したように、税理士法39条の2の意義を踏まえた研修制度を構築している訳ではない。

日税連等が会員に資質向上のための研修の受講を義務化するためには、税理士法の要請する税理士の資質向上のための研修制度を抜本的に構築すべきなのに、従来から、実施している研修施策を旧態以前のごとく実施しているに過ぎない。日税連等は、自分たちの施策は完璧で批判や改善の必要性のない施策と考えているのではないかと思えるような無謬主義がはびこっていないことを望む。

(3)日税連等は、会員に対して、独自の義務を課すことが可能か。

税理士会は、その支部及び会員たる税理士及び税理士法人の指導、連絡、監督に関する事務を行うことを目的として設立された法人である。日税連は、税理士会およびその構成員に対する指導、連絡、監督と税理士の登録に関する事務を行うことを目的とする団体である(新税理士法4訂版233頁)。日税連の会則では、絶対的記載事項として、「会員の研修に関する規定」を定めることとされ、財務大臣の認可を受けなければならないものとされている。しかし、94条1項7号の「研修の受講時間及び研修の受講義務の免除に関する記録(前年分)は、会の自主性に委ねられており変更認可を要さないものとされている。

税理士は、開業するためには税理士会への入会を義務づけられ、税理士会から、その指導、連絡、監督を受ける。税理士会は、公益法人であって、その構成員である会員は、その会員としての権利を有し義務を負う。会員としての権利義務には差がない。そのため、会員は税理士会が主催する研修会に、他の会員と同等に差別されることなしに同一の待遇で参加することができる権利を有し、義務を負う。税理士会等は、団体自治の権能を有し、構成員である税理士に義務を課すことが出来るが、税理士法に定めがある事項は、税理士法を超えてすることは出来ないものと考える。なぜなら、税理士法に基づき作られた法人であってそれに拘束されるからである。

そのため、日税連会則65条は「税理士は、その資質の向上を図るため、本会及び所属する税理士会が行う研修を受けなければならない。」と定め、この規定は研修受講義務規定と日税連等から説明されている。しかし、この定めは、税理士法39条の2の規定を受けたものであるので、研修の努力義務を定めたものと解すべきである。なぜなら、日税連等の実施する研修全てを受講しないと会則違反に問われるかというとそのようなことはない。現実には、税理士の資質の向上を図るために日税連等の実施する研修を税理士が受講するものであると解されているに過ぎない。

日税連等の実施する研修を全ての会員が全て受講すべきとする規定と解するのであれば、研修受講義務規定と解すべきであるが、そのように解することは、税理士法との関係上不可能である。

仮に、日税連会則65条が日税連のQ&Aが述べるように、研修受講義務を定めたとしても、税理士法の研修の規定と会則の研修規定とが同一のものでなく、税理士法の定めより会則の定めの方が会員に義務という負担を新たに課した場合には、どちらの適用が優先すべきは自明の理として、税理士法の規定である。

結論:日税連等は私的自治を根拠にして、会則、規則を定め会員に研修受講義務化の施策を実施している。しかし、日税連等の実施している研修制度は、税理士の資格取得の類型を踏まえたものになっておらず、税理士の資質の向上のための研修制度としては、不十分なものといわざるを得ない。日税連等は、税理士法を根拠法として設立された団体であり、税理士法に従って、団体の自治を実施する存在であり、税理士法の定めのない部分については、私的自治により、税理士法の使命等の趣旨の範囲内で会則等を定めることができるに過ぎない。よって、日税連等は税理士法を踏まえた税理士の資格取得類型を考慮した資質の向上をめざす研修制度として構築すべものと考える。
lll. 研修受講時間等の公表制度について
(1)研修受講時間の公表の根拠について

会員が日税連等の主催した研修を年間36時間以上受講していないと会則等に違反する行為をしていると断定している。その理由について、日税連のQ&Aでは、次のように説明している。

法39条、連合会会則第60条、標準会則第42条及び綱紀規則第2条において、税理士に関する法令、会則等を遵守しなければならない旨の規定があることから、研修受講義務を達成していないことは会則等に違反していることとなります。

そして、受講に関する情報が「会員の受講時間その他の研修受講義務の履行等に関する情報を公表すること」とされ、具体的には、連合会のホームページ(税理士情報検索サイト)に掲載することになっている。

この研修受講時間の公表の意義については、日税連のQ&Aでは、不明確である。納税者の知る権利を実現する立場から公表制度が創設されたものと考えることができる。なぜなら、税理士の業務は「他人の求めに応じて」成立するものであるため、納税者等の依頼者にとってどのような税理士に依頼するかは、自己の納税義務の履行の結果に大きな影響を及ぼすものであるため、税理士の研修状況がどういう状況であるのかは大きな関心事であるし、知りたい情報であろう。この制度は消費者保護の考え方を反映したものと考える。また、納税者の権利利益を擁護する立場からも、依頼者保護の論理から当然ともいえよう。

(2)依頼者が知る情報は研修の努力義務の事実を反映したものに

税理士が実施する資質向上のための研修は、日税連等の主催していない研修(前述 I で述べた研修)や書籍による自己研修も含まれる。

日税連の公表するものは「会員の受講時間その他の研修受講義務の履行等に関する情報」の受講時間の事実のみの公表であるが、その情報が、税理士法39条の2に定める研修受講努力義務を実施する会員の一部の情報の事実情報だけであれば、依頼者の知りうる情報としては不正確であり、不十分である。そのような情報公表制度はかえって、依頼者の知りうる権利を阻害ないし侵害する制度といえなくもない。

このことを改善するためには、日税連等の主催していない研修(前述 I で述べた研修)や書籍による自己研修の事績記録もあわせて公表されるべきである。もし、予定されている公表制度の改善もなしに、このまま、日税連等が認めた研修受講時間のみであれば、税理士としての資質向上を努力している会員の名誉と「営業の自由」に多大な損害を及ぼすだけでなしに、依頼者にも不正確で不十分な情報の公表であって、かえって、不誠実な情報提供とみられなくもないと考える。

(3)本人の受講義務免除の公表に関する承諾のない公表の中止

ところで、研修受講時間の記録の公表だけでなしに、「受講義務の免除に関する記録」も公表するとしている。税理士本人の疾病、介護、けが等により研修受講が出来ないため、受講免除の申請をして、免除をされることも含んでいる。本来、病気等による研修受講の免除の効果は、研修受講と同一の効果が付与されなければならない。そうでなければ、わざわざ免除制度を創設した意味がない。その免除記録を公表されてしまったら、本人が病気等で研修や税理士業務が十分に出来ないことについて税理士会を通して公にすることとなる。これを不利益な取扱(差別的取扱)と言わずしてなんと言おうか。

免除申請した事実を税理士法の根拠なしに会則を根拠にして、本人の了解なしに公表することが出来るのか。会員権の差別的取扱になるのではないか考える。結論:日税連の受講時間公表制度は、会員に研修受講を促すための間接強制的な施策から生まれたものと考えられるが、この制度は、税理士の研修状況に関する情報公開でもある。情報公開制度の面からすると、不正確な情報提供を納税者に提供することになるので、本来は、中止すべきであるが、中止しないのではあれば、税理士の研修状況を正確に反映するような自己研修情報も公表すべきである。

(かすや・ゆきお)

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