1 はじめに
来年5月に市区町村から住民税の特別徴収義務者に送付される「平成29年度給与所得等に係る市町村民税・道府県民税 特別徴収額の決定・変更通知書(以下「特別徴収税額通知書と称す」。)のうち、特別徴収義務者用の用紙に従業員の住所・氏名・年税額の他に個人番号が記載される予定であることが判りました。
総務省から平成27年10月29日付で、各都道府県・市区町村の税務担当者へ「地方税法施行規則の一部を改正する省令が公布され、第3号様式(特別徴収税額通知書)に個人番号欄を設ける改正を行なう。」と通知がありました。このままでは、各市区町村は総務省が示す様式に従い個人番号を記載することになります。
「役所からマイナンバーが洩れる」との表現は正確ではありませんが、会社等への個人番号の提供を断った従業員にとっては、「会社が知らないはずの私の個人番号」、これが役所からの通知で会社が知った」となれば、「役所から『マイナンバー』が洩れた」と怒り、「マイナンバー」ではなく国家が勝手に付けた「背番号」であると感じるのではないでしょうか。 |
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2 23区全ての区役所に質問状を送付
当税理士法人の若手の税理士が、東京税経新人会役員の任務として東京税理士会理事会の傍聴に参加したところ、会長挨拶のなかで「特別徴収税額通知書にマイナンバーが入ってくる」とあったことから、これは大変な事だと当事務所のもう一人の若手の税理士と相談、区役所に質問状を出すことになりました。
私は地元の大田区とその周辺の区に出すものと思っており、回答も余り返ってこないと考えていましたが、23区全てに送付したようで、22区(1つは電話での回答につき21区)から回答が送られてきました。
回答の取扱い部署は、ほとんどが課税課でしたが、企画課、秘書課、ITC 戦略課、区民の声課もあり、1ヵ所は区長名でした。質問内容は 個人番号を貴所に提供しないことによって、行政上不利益な取り扱いがされることがあるのか否か。 会社等に送付する特別徴収税額通知書に個人番号が記載されるのかどうか。 特別徴収税額通知書に個人番号を記入がされた場合、「普通郵便」にて通知書が送られてくるのでしょうか。 個人番号については、社会保障・税金・災害にしか現行法ではその利用が許されていない。上記のような行為が行われる場合には憲法違反の疑いが強いと思慮されますが、貴所ではどのようにお考えでしょうか。の4つです。
については、ほとんどの区が「不利益な取り扱いはありません。」との回答であったが、一部に「記載したうえで提出していただくようお願いする。」、「内閣官房から見解が出ておりますので、これに基づき、適切に対応してまいります。」、「罰則はないが、事務処理が遅くなる可能性があります。」など回答となっていないものもありました。
については、中央区、千代田区、渋谷区が検討中との回答でしたが、他は3つの区が「記載する」、その他の区は「記載する予定」との回答でした。
については、中央区、千代田区、渋谷区など7つの区が「検討中」との回答で、「普通郵便で送付する」が2つの区、他は「簡易書留を予定」、「特定記録郵便が適している」、「普通郵便の予定」など回答はバラバラでした。
については、「(裁判所の判断になるので)回答はさし控える」、「現行法の範囲内」、「適切な取り扱い、違法な点はない」の回答がほぼ3分の1ずつでした。 |
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3 自治体にも「悩み」が
自治体は総務省が制定した書式(第3号様式・特別徴収税額通知書)に拘束されることになると思われますが、ある区では、ご質問への回答は以上としたうえで、「当区といたしましても、特別徴収税額通知書に従業員の個人番号を記載し、普通郵便で送付差し上げることにつきましては懸念を抱いております。現在、総務省に当面記載しないことができるよう制度改正を要望し、近隣の自治体と意見交換を行っている状況でございます。」との文言、別の区では「…当区ではこの通知に従って事務を進める予定です。なお、都内全区市町村の税務担当課長を包含する東京都市税務連絡会として、当該書類への個人番号記載を不要とするよう、総務省に要望を申し入れています。」との回答があります。
若手税理士が奮闘しているので、私も2つの区の担当者に電話をしたところ、1つの区の担当者は、「簡易書留で送付すると2,500万円程度の予算が必要となる。また、封入封緘会社に個人番号のみシールを貼付ける方法はどうかと聞いてみたが、5月末までに間に合わない可能性があると言われ断念した。」、
「大手事業者からは、番号法では、従業員を個人番号で管理をしてはならないので、個人番号の管理を外部委託している。当社に個人番号を記載した書類を送付されては困ると言われた。」など、苦労話をいくつか話してくれました。
他の区では「源泉徴収票の本人交付用に個人番号を記載するとなっていたが、法施行の直前に『記載しないこと』になりましたよね。」と改正を期待しているような話をされました。また、後日入手した横浜市又はその関係者が作成したと思われる「税務におけるマイナンバー制度対応等に関する…」のなかに、次のような文書がありました。「特別徴収税額通知書は、『27年10月2日通知』で個人番号を記載することとされていますが、第三者への個人番号漏えい防止の観点から、引き続き総務省に対し『個人番号を記載しない』旨の要望を行なっていきます。なお、個人番号を記載することとなった場合は、一部『*』による表示も検討しています。」
このように、回答書などから自治体の「悩み」が読み取れました。 |
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4 個人番号法の基本から考察する
個人番号制度の本質は、「税と社会保障の一体改革」を旗印に国民への税収奪を強め、大企業・大資産家の税負担を軽くし、社会保障・福祉予算削減と国民への給付削減のためであること、憲法を「壊憲」し、国民主権の縮小、基本的人権の制限、軍隊を持つ国家をめざし、国民の情報を管理するためである。と個人的には考えています。
個人番号制について、国家が「法律」で定めたことだから従わざるを得ないと考える方が国民の中では多いようですが、「法律」の定めはどうなっているかを再確認したいと思います。
番号法(行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)の基本は、 個人番号及び法人番号を利用する事業者は、基本理念にのっとり、国及び地方公共団体が個人番号及び法人番号の利用に関し実施する施策に協力するよう努めるものとする(番号法第六条)
個人番号利用事務実施者(一定の者に限る)は、個人番号利用事務を処理するために必要があるときは機構(J-LIS)に対し機構保存本人確認情報の提供を求めることができる。(十四条)
何人も、第十九条各号のいずれかに該当して特定個人情報の提供を受けることができる場合を除き、他人に対し、個人番号の提供を求めてはならない。(十五条)
何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない。(十九条)
以上のように、個人番号は「法に定められた場合を除き提供してはならない」、「事業者は協力するよう努力する」などの定めとなっています。
特別徴収税額通知書に個人番号を記載して会社等に送る、それが許される根拠は (十九条)第一項にあると説明されていますが、法19条の一は |