論文
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研修受講努力義務未達成に関する不利益処分について
東京会 粕谷 幸男
はじめに

日税連研修部発行の冊子「研修諸規則Q&A」(以下Q&Aという。)が、昨年(2015年)、税理士会を経由して送付されていたことを記憶されている方もいらっしゃるかと思う。この配布のことは、マイナンバー制度実施のニュースに隠れてほとんど話題に上らず、税理士会の会報にもほとんどこのことは報じられていない。

この冊子の配布目的は、「研修受講義務の周知徹底」のために、全会員に配布されたものである。周知のためであれば、会報等を通じてすれば良いのであるが、会員が研修義務化のことは聞いていないと言わせないために、わざわざ、私たちの会費を使って周知徹底を図っている。そして、日税連、税理士会の最終目標は、「税理士会員の研修受講義務の履行に関する受講時間の公表」を日税連のホームページ(税理士情報検索サイト)に公表することであり、この配布は、その周知手続きの一環とされているものである(同Q&A 35参照)。この公表は、本人の承諾なしに行うこととなっている。

日税連がいう36時間以上の研修を受講できなかった場合の法的効果について、「税理士法39条、連合会会則第60条、標準会則第42条及び綱紀規則第2条において、税理士に関する法令、会則等を遵守しなければならない旨の規定があることから、研修受講義務を達成していないことは会則等に違反していることになります。」と述べている。この説明では、研修義務未達成は、税理士法等の法令に違反していると解されているわけである。

例えば、未達成税理士が公的職種に就任するとき、法令違反の事実がない等の条件が付されている場合には、税理士法に反した事実があるので、その条件に抵触しかねない問題が発生する。単なる研修時間の未達成が、あらぬ将来の就職等への障害になりかねないことも予想されるのである。また、会員の選挙権、被選挙権についても、現在は、会費未納の場合に、その制限があるだけであるが、研修義務未達成の場合にも、法令、会則違反となるので、将来的に制限されかねないものと考える。

自己学習が資質の向上に資するものであるから、税理士会のやっている研修などは無視すればよいのであって、自分が納税者のために仕事に打ち込めば、納税者の信頼を勝ち得て、税理士会など恐れる必要がないとの自己責任論を強調する考え方の税理士も多いものと考える。そのことも一理はあるが、しかし、自己学習による資質の向上が、何故この研修時間に反映できないのかの疑問をお持ちにならないことが不思議である。自己学習時間を研修時間にカウントさせることが必要ではないか? なぜ認めないのか? 税理士法は研修努力義務規定なのに、会則は研修義務規定としている、何故なのか? Q&Aを読んでいるうちに疑問が涌き出てきた。それ故、この稿をしたためたのである。

なお、この問題提起は、日税連等の研修受講義務化の会則等の問題を議論するものであって、日頃、会員のために労を惜しまず研修会を企画し提供し、会員に献身的に貢献している研修部及び関係者の方々を批判したり不満を述べるためにしているのではない。それよりも役員には、日頃の努力に対して敬意と感謝の念を抱いていることを付言しておくものである。
I. 問題の所在

自己学習等が資質の向上の基本

税理士が、税理士会等の研修を受けて、その資質の向上を図ることは、税理士の資質を向上させる方策の一手段であるとともに、平成13年(2001年)の改正で税理士法からも求められた。

税理士がその資質を向上させる方法には、税理士会の研修細則で予定されていない研修によるものもある。例えば、自己学習、任意の小人数の税理士グループによる研究、弁護士等の法律専門分野の専門家との少人数による勉強会・研究会に基づく資質向上策もある。また、税法や会計分野の学会に所属し、研究論文を発表したり、学会主催の研究発表会に参加し討論をしたりしてその資質の向上を図ることも可能である。

あるいは、税理士等の税務分野の雑誌や会報等に論文を執筆することも、その資質の向上に役立つものと一般的には理解されよう。また、任意の税理士のグループによる税理士業務に関連する研究会で討論・議論をしながら研修し資質の向上を図ることも可能である。さらに、弁護士等の法律専門職との勉強会・研究会等に参加して資質の向上を図ることも可能である。これらの研修は、私が体験している研修の一部である。

税理士法が求める研修とは

税理士法39条の2では、税理士が研修を受け、その資質の向上をはかる努力義務が謳われている。「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け」ることは、後段の「努めなければならない。」に係っているため、税理士の研修を受ける努力義務を定めたものと考えられる。しかし、研修受講の義務規定とは読めない。

仮に、税理士会の行う研修の受講が「義務」規定であれば、税理士は、税理士会がおこなう研修の全てを受講しなければならず、7万人に上る全ての税理士が義務を果たすことは不可能である。7万人全員の研修をすることが目的ではなく、7万人の税理士がその資質の向上を図ることに努力することが目標である。このような理解をすべきものと考える。

また、どのような資質の向上を図るかは、税理士の自由である。税理士会は、税理士の職業選択の自由、表現の自由等の自由権を尊重して研修にあたらなければならない。事実、日税連が提供するインターネット研修では、自由に選択して視聴できるようになっている。また、税理士会のおこなう会場型研修会には、税理士会員全員の座席が確保されている訳ではない。

日税連会則等は研修受講の義務

日税連会則65条によると「税理士は、その資質の向上を図るため、本会及び所属する税理士会が行う研修を受けなければならない。」(税理士会標準会則58条も同文。)と会員の研修受講の義務規定に改正したとしている。この改正の理由について、Q&Aでは、「以来、10数年が経過し、税理士法改正の機運が高まったことを機に、研修の受講義務を税理士法に盛り込むべく、税理士法改正の要望項目としてとりまとめました。

結果として今回の税理士法改正では研修の受講義務化は見送られましたが、国民・納税者から信頼される税理士制度を確立するという観点から、税理士会の自律規範として、「研修を受講しなければならない。」という受講義務規定への会則変更を行いました。」と述べている(Q&A「はしがき」参照)。

今回の税理士法改正で研修受講の義務化が見送られたが、「受講義務規定」へ会則変更を行ったことと書かれている。これは、本来であれば、税理士法の「受講義務規定」の新設を受けて、会則に「受講義務規定」へ変更する予定だったものを、税理士法が改正されなかったので、会則だけ、「受講義務規定」に変更したといっている訳である。

税理士法は、研修による資質向上の努力義務を税理士に求めているが、平成26年(2014年)改正では、立法段階で研修義務化は見送られたものである。日税連・税理士会は税理士法を超えて税理士に研修の受講義務を課しているのであるが、税理士に義務を課す法的根拠なしに会則変更を行っているものと考えられる。果たして、このような義務の創設はできるのであろうか。

果たして研修形態を制限する意味があるのか

また、「所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修」の「会が行う」の意味は、税理士会の予算を使用しての研修だけでなく、税理士協同組合、日本税務研究センター等の関連団体が主催、共催、後援する研修も含むとされ、その研修方式については問わないとされている。さらに、税理士会が認定した研修(認定研修)や税理士会が必要と認めた研修(その他の研修)も含まれるが、その研修方式は「会場参加方式」に限定されている(研修細則第2条、3条参照。)。

研修方式を限定する理由については不明である。いずれにしても、その主催は税理士会だけに制限されている訳ではなく、民間団体も含まれている。このように、「会が行う」研修の意味を広くとらえるのは、税理士の資質の向上を図ることが目的であるので、主催者を限定的に制限すべきでないことは当然である。

しかしながら、税理士会でない関連団体が主催、共催、後援する研修は事前認定制度の仕組を採用していないが、「認定研修」では研修前の書面認定申請の要件を課している一方、「その他研修」には課されていない。研修主催者の違いによる事前書面認定申請制度を採用の有無に関する要件のメルクマールは何なのかは不明である。「会が行う研修」は、税理士個人では研修することができない研修を税理士会が行い税理士に研修の機会を提供するという意味にとらえるべきであり、「会が行う研修」を税理士会が認めるもの以外は研修ではないがごとき理解は、税理士法の解釈を歪曲しているといわざるを得ない。

また、税理士は税理士会の構成員であり、税理士会構成員でない税理士協同組合が主催する研修会を「研修」の範囲としているのであるから、構成員である税理士が主催する自己研修が研修の範囲に含まれないのは論理矛盾であろう。

さらに、日税連は、事業本部を設置し、税務等の図書類の監修、編集、刊行及び推薦に関する事業を実施している。文字による図書類を会員等に普及し、資質の向上を図ろうとする施策であると理解している。しかし、「会が行う研修」は、会場参加方式とインターネット配信方式が中心であって、書籍による研修は対象外としている。日税連は書籍によってその資質向上を事業として推進する一方、研修事業ではそれを認めない方針を採用していることも首尾一貫していない事業方針といえよう。

日税連等が提供しているインターネット研修は

税理士会、日税連のインターネットによる研修は、画面を先送りして研修終了が容易にできるシステムとなっている。そのシステムは、本来、その研修を会場にいかなくてもパソコン等の前で会場での研修と同じように受講できるように設計されたものと理解している。つまり、インターネット研修は会場参加方式と同一の効果を得られように設計されている。しかし、現実には、先送りして、要求されたデータを返信しさえすれば、研修受講時間が税理士会等から付与されることとなっている。また、パソコンの前に税理士以外のものが操作して受講したことを許容するシステムともなっている。資質の向上のための研修を受けるツールだけであれば、このような欠陥のあるシステムであっても良いのである。

しかし、インターネット研修は単なる研修ツールではなく研修受講義務違反を測定する手段としての機能をはたすものであるので、大変公平性に欠けるシステムであるいえよう。このような欠陥システムを提供している税理士会、日税連が、会員の受講時間を満たさない会員に対して不利益処分を課すことが果してできるのか、はなはだ疑問である。このようなインターネット研修と自己学習とを比較すると、遙かに、自己学習が資質の向上に資するものといえよう。

問題の本質は

今回の税理士法改正に研修義務化が盛り込まれなかったため、日税連会則等で、研修の受講義務化に会則変更し、それが未達成であれば、未達成である事実を第三者に公知させるとする不利益処分を課すことが、税理士法の根拠なくして、日税連、税理士会は、できるのかが問題の本質である。そこで、このことを解明すべく、Q&Aを真似て、一問一答形式で、述べることとする。
II. 問題点

1.審査基準、不利益処分の基準として、「税理士会則」、「研修規則」、「研修細則」での研修に関するルールは、適法か。

税理士会の「研修規則」では、第2条で「研修とは、税理士の業務の改善進歩及びその資質の向上を図ることを目的として、本会及び日本税理士会連合会(以下「連合会」という。)が行う研修会、講演会、討論会その他これらに準ずるものをいう。」と研修の定義を定めている。研修が「税理士の業務の改善進歩」と「その資質の向上を図ること」との2つの目的を図るものが「研修」だとしているが、税理士法39条の2では、税理士会等がおこなう研修の目的・内容・形式について、それを具体的に定めておらず、かえって無限定である。しかし、せいぜい「その資質の向上を図ること」が研修の目的としているといえるだけである。ところが、「研修規則」2条では、研修の目的に「税理士の業務の改善進歩」を追加している。このことは、税理士法が求めている「研修」を超えて、違法に研修の目的ないし目標を限定した「研修規則」としたものになっている。また、税理士会会則58条(会員の研修)の条文には、研修の内容に関する規則への委任規定がないのに「研修規則」でそれを定め、さらに、「研修細則」は、「研修規則」の11条の委任規定を受けて制定されているが、「研修細則」が「研修規則」を超えて、研修の範囲を拡大したり、制限したりしている。例えば、規則3条で本会が実施する研修については、その条件が付されていないが、細則2条では、その研修を具体的な条件を付している。上位規定で委任条項がなければ下位の規則で「研修」に条件を付すことはできない。

日税連会則65条の3、税理士会標準会則58条の3では、「研修に関し必要な事項は、規則で定める。」と定め、日税連研修規則11条、税理士会研修規則11条で、細則への委任が定められている。この委任規定は、研修についての手続等を委任したものに過ぎない。定義された「研修」を受講し、その受講時間を満たさなければ税理士に不利益処分を課すことの基準として、「研修」の範囲が位置づけられているため、これらの定めがあるからといって、下位規定で、上位規定の研修内容について制限ができるとする根拠にはならず、下位規定は、上位規定の範囲を超えての定めはできず、それを超えた部分の規定は無効と解するのが相当といえよう。

それ故、税理士会会則、研修規則、研修細則の一連の規定は、研修申請に対する審査基準となり得るための基準の体系をなしていないものと考えざるを得ない。税理士法違反ないし会則違反とする基準を税理士法、会則などの上位規範に定めず、また下位の規則等へその要件も委任しないで、研修規則、研修細則で処分基準を定めることは、申請に対する審査基準及び不利益処分の基準としては違法であると考える。

2.税理士法39条の2の規定により、36時間の研修義務を税理士に課すことは可能か。

税理士法39条の2では、研修することの努力義務が定められているが、36時間の受講時間を満たさなければ、会則違反に問われることを定めた規定とはなっていない。36時間の受講義務を満たさなければ会則違反で不利益処分を課すことは無効と解される。また、税理士法では研修が努力義務であるのに、規則では「義務」規定となり会則違反とされるのでは、違法な規則制定といわざるを得ない。

3.日税連、税理士会は、団体自治の権能として、その構成員(税理士会会員)に、独自の義務を課すことが可能か。

税理士会は、その支部及び会員たる税理士及び税理士法人の指導、連絡、監督に関する事務を行うことを目的として設立された法人である。日税連は、税理士会およびその構成員に対する指導、連絡、監督と税理士の登録に関する事務を行うことを目的とする団体である(新税理士法4訂版233頁)。日税連の会則では、絶対的記載事項として、「会員の研修に関する規定」を定めることとされ、財務大臣の認可を受けなければならないものとされている。しかし、94条1項7号の「研修の受講時間及び研修の受講義務の免除に関する記録(前年分)は、会の自主性に委ねられており変更認可を要さないものとされている。

税理士は、開業するためには税理士会への入会を義務づけられ、税理士会から、その指導、連絡、監督を受ける。税理士会は、公益法人であって、その構成員である会員は、その会員としての権利を有し、義務を負う。会員としての権利義務には差がない。そのため、会員は税理士会が主催する研修会に、他の会員と同等に差別されることなしに同一の待遇で参加することができる権利を有し、義務を負う。

税理士会等は、団体自治の権能を有し、構成員である税理士に義務を課すことができるが、税理士法に定めがある事項は、税理士法を超えてすることはできないものと考える。なぜなら、それらは税理士法に基づき作られた法人であって、それに拘束されるからである。

そのため、日税連会則65条は「税理士は、その資質の向上を図るため、本会及び所属する税理士会が行う研修を受けなければならない。」と定め、この規定は研修受講義務規定と日税連等から説明されている。しかし、この定めは、税理士法39条の2の規定を受けたものであるので、研修の努力義務を定めたものと解すべきである。なぜなら、日税連等の実施する研修全てを受講しないと会則違反に問われるかというと、そのようなことはない。現実には、税理士の資質の向上を図るために日税連等の実施する研修を税理士が受講するものであると解されているに過ぎない。

日税連等の実施する研修を全ての会員が全て受講すべきとする規定と解するのであれば、研修受講義務規定と解すべきであるが、そのように解することは、税理士法との関係上不可能である。

仮に、日税連会則65条が日税連のQ&Aが述べるように、研修受講義務を定めたものだとしても、税理士法の研修の規定と会則の研修規定とが同一のものでなく、税理士法の定めより会則の定めの方が会員に義務という負担を新たに課した場合には、どちらの適用が優先すべきかは、自明の理として、税理士法の規定である。

4.受講時間及び免除の情報等の公表は、不利益処分となるか。

不利益処分とは、法令に基づき、特定の者を名宛人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう(行政手続法2条4号)とされている。

そこで、36時間以上の研修を受講できなかった場合の取扱について、「研修諸規則Q&A」のQ 32によると、次のように説明されている。

「A 32. 一事業年度36時間以上の研修を受講できなかった場合、原則的には会則遵守義務違反となります。

法第39条の2において「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け、その資質の向上を図るように努めなければならない。」また、連合会会則第65条及び標準会則第58条で「税理士会員は、その資質の向上を図るため、本会及び連合会が行う研修を受けなければならない。」さらに、連合会規則第5条及び規則第5条においても「税理士は、第2条に規定する研修を、一事業年度に36時間以上受けなければならない。」と規定されています。

法39条、連合会会則第60条、標準会則第42条及び綱紀規則第2条において、税理士に関する法令、会則等を遵守しなければならない旨の規定があることから、研修受講義務を達成していないことは会則等に違反していることとなります。」

そして、受講に関する情報が「会員の受講時間その他の研修受講義務の履行等に関する情報を公表すること」とされ、具体的には、連合会のホームページ(税理士情報検索サイト)に掲載することになっている。

そこで、受講時間及び免除の情報等の公表は、不利益処分となるのかを検討する。
会員の受講時間の公表は、もし、1事業年度内に36時間以上の義務研修時間を履修していなければ、会則違反であることを対外的に公表されることになる。そのことが公表されることにより、依頼者が税理士を選択するときの情報として利用されるよう期待しているものと考えられる。依頼者が研修時間を満たしていない税理士に依頼することはリスクがあることを事前に知らせ、なるべくリスクのない税理士を選択するよう促す意図ではないかと推定する。

このようなことを意図した公表は、36時間の研修を受講しなかった者は会則違反であるとの烙印を押しての公表である。そのことは、税理士の営業の自由に対する一定の制限であることは間違いない。つまり、自由の制限は不利益処分である「権利の制限」に該当するものといえなくもない。だからこそ、「研修諸規則」の公表に周知期間を定めて公表しているのである(行政手続法12条)。

ところで、研修受講時間の記録の公表だけでなしに、「受講義務の免除に関する記録」も公表するとしている。税理士本人の疾病、介護、けが等により研修受講ができないため、受講免除の申請をして、免除をされることも含んでいる。

本来、病気等による研修受講の免除の効果は、研修受講と同一の効果が付与されなければならない。そうでなければ、わざわざ免除制度を創設した意味がない。その免除記録を公表されてしまったら、本人が病気等で研修や税理士業務が十分にできないことを、税理士会を通して公にすることとなる。これを不利益な取扱(差別的取扱)と言わずしてなんと言おうか。免除申請した事実を税理士法の根拠なしに会則を根拠にして、本人の了解なしに公表することができるのか。会員権の差別的取扱になるのではないかと考える。

5.「その他研修」等の申請に対する処分は、不利益処分に該当し、行政手続法に基づく、弁明の機会の付与(行手続法13条)が与えられるか。処分理由を研修細則の該当条項違反の理由で、その却下の理由提示とたり得るか。

当然、行政手続法が適用され、弁明の機会の付与等の手続きが適用される。

6.「その他研修」等の申請に対する不利益処分に対する権利救済は、行政不服審査法により、審査請求することができると考えるが、審査機関は、新法(2016年4月から)では、最上級庁であるので、国税庁となるのかそれとも日税連となるのか。

検討を要する。なお、日税連が審査機関となって審理員を選出する場合、どの部署の役員が担当したとしても、研修規則等の制定で理事会決議に加わり、その規則に拘束されているので、研修規則等に利害関係を持つ者である。日税連では、審理員を選出することは不可能ではないかと考える。

7.審査請求の対象物は、処分理由の違法性および研修規則、研修細則の審査基準の違法性を考えられるが、果たして、それだけか。

行政不服審査法の適用となるのは、申請に対する処分だけでなく、法令に基づく行為のうち、公権力性を有するもの、国民の法的地位を直接・具体的に変動させるものも審査請求の対象となる。研修の範囲・実態、研修規則の制定の仕方も審査請求の対象となるものと考える。

8.審査請求の代理人として他の税理士はできるか。

税理士の業務範囲は、税理士法上に定められている。税理士は税務代理に限定されている。そこで、みなし行政機関に対する審査請求の代理人となり得るのは「特定行政書士」(16年4月以降)と弁護士のみである。

9.税理士会の定める研修規定等が審査基準等の基準として、整合性のとれないものとなっている理由は。

研修細則等の規定は、税理士会等が研修を実施するための運用基準ないしルールとして整備されてきた経緯がある。しかし、近時の税理士法改正により、研修の努力義務が規定されたことを奇貨として、研修義務化すなわち会則義務違反にシフトするために、それらを審査基準等として転用したことから、審査基準等として整合性のとれない規定となってしまったのではないかと考える。

(かすや・ゆきお)

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