論文

> 福島原発事故の被害実態と賠償金の課税問題
「行為・計算の否認」の適用で判断分かれる(上)
特定役員の一人二役を活用したヤフーは敗訴
適格外しを活用したIDCFは敗訴
みなし配当の平成13年改正を活用したIBM持株会社は勝訴
東京会船 繁夫

○法132条の2(組織再編成に係る行為・計算の否認)が適用されたもの
(1)被合併法人の欠損金額の引継ぎを否認されたヤフー事件
東京地裁平成26年3月18日 敗訴
東京高裁平成26年11月5日 敗訴(上告中)
(2)分割の適格外しによる資産調整勘定の計上を否認されたIDCF事件
東京地裁平成26年3月18日 敗訴 
東京高裁平成27年1月15日 敗訴(上告中)

○法132条(同族会社等の行為・計算の否認)が適用されたもの
(3)自己株式の取得による株主の譲渡損失が認められたIBM持株会社事件
東京地裁平成26年5月9日 勝訴
東京高裁平成27年3月25日 勝訴(上告中)
[1] ヤフー事件
(1) 事件の概要
法132条の2が初めて適用された事件として注目されている。
平成17年2月にソフトバンクはイギリスのケーブルアンドワイヤレスグループからIDCS株式(欠損金が300億円以上あった)を取得した。IDCSは買収の翌年の18年3月期に366億円の赤字となり、欠損金は増え続けた。19年3月期に黒字とはなったが、その後の年度でも利益は20億円程度であり、欠損金の全額を7年以内に処理することは困難な状況にあった。
ソフトバンクの孫氏は税務室長(税理士)にIDCS株式をヤフーに売却し吸収合併することについて相談した。それに対し税務室長は未処理欠損金額を有効利用する方法を検討して次のスキームを孫氏に提案した。

「分割」
IDCSは新設分割でIDCFを設立する。
「IDCF株式の譲渡」
IDCSは で取得したIDCF株式をヤフーに譲渡する。
目的は の分割を非適格分割とするため。
(株式継続保有要件を欠く)これにより、IDCFは資産調整勘定を計上し、その後60ヵ月で償却し損金計上できる。
IDCSは株式譲渡益を未処理欠損金と相殺できる。
「IDCS株式の譲渡」(=特定資本関係が成立)
ソフトバンクはIDCS株式をヤフーに譲渡する。
目的は次の の合併を適格合併とするために、ヤフーとIDCSの完全支配関係を築くことにある。
「合併」
ヤフーはIDCSを吸収合併する。
ただし、IDCSの未処理欠損金をヤフーが引継ぐためには、 の期間が5年以内のため、次の「みなし共同事業要件」を満たす必要がある。(57条3項)
1号:事業関連性→満たしている
5号:特定役員引継ぎ→IDCSの特定役員を引継ぐ予定はないので、ヤフーの役員をIDCSの特定役員に兼務させ(=一人二役)
この要件を満たすこととする。
その後、この提案通りに実行された。

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注)その内容はIDCSの未処理欠損金額の引継ぎが、税務当局により否認された場合、ヤフーが支払う金額の全額をソフトバンクがヤフーに支払うこと。
(これは の譲渡対価450億円の内に未処理欠損金額の税金相当分の200億円以上が含まれているため)
ヤフーの下図の542億円の損金算入が否認されたのがヤフー事件である。

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IDCSの未処理欠損金額666億円は次のように処理された

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(2) 当事者の主張
1 国の主張
原告がIDCSの未処理欠損金額を引継ぐためには適格合併でかつみなし共同事業要件を満たさなければならない。
令112条7項(現行令112条3項)
1号:合併法人と被合併法人の事業の関連性
2号:合併法人と被合併法人の事業規模が5倍以内
3号:被合併法人の事業の同等規模継続
4号:合併法人の事業の同等規模継続
5号:被合併法人の特定役員(常務取締役以上の者)のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが合併後の合併法人の特定役員となることが、見込まれていること。

みなし共同事業要件は次のいずれかである。
A型:1号、2号、3号、4号を満たす
B型:1号、5号を満たす。

原告は2号を充足しないのでB型をとり、5号を充足するために原告のA社長をIDCSの副社長に就任させた。(一人二役)
2号は大会社が小会社を飲み込むような合併は共同で事業を営むことを目的とするとは考えられないために設けている。
5号は大会社が小会社を飲み込むような合併でも、小会社の特定役員が合併法人の特定役員として残れば小会社の独自の強みを発揮でき共同で事業を営むことを目的とすると考えられるので設けている。
したがって、5号の被合併法人の特定役員は相当程度の期間、経営に係る重要な地位に就いて、事業の強みを体現しており、合併後もその事業を推進できる者を想定したものであると捉えなければならない。

なお、原告はソフトバンクと米国ヤフーに共同所有されているため、ソフトバンクと米国ヤフーとの役員比率を維持しなければならいという事情もあり、IDCSの特定役員を合併後に原告の特定役員に就任させると米国ヤフーからも、原告の特定役員に就任させることが必要になるので、これを回避するため本件合併によってIDCSの特定役員を合併後に原告の特定役員に就任させることはできなかった。そこで、原告の特定役員を増員させない方法で、形式的であるにせよ5号の要件を充足させる必要があった。その結果、原告のA社長が被合併法人IDCSの副社長に就任し「一人二役」を兼ねることになった。

もっとも、「一人二役」であれば常に5号の要件を充足し得ないというものではなく、たまたま一人の者が複数の法人の特定役員を兼任しており、それぞれの法人の事業を体現するような立場にあると認められるような場合には、両者が合併するに当たって5号を充足すると考えても、みなし共同事業要件を設けた立法趣旨に合致すると考えられる場合はあり得る。しかしながら、本件副社長就任のように特定資本関係が生じる(平成21年2月24日)直前の時期(平成20年12月26日)に合併法人の特定役員を被合併法人の特定役員に兼任させておきさえすれば、5号の要件を充足できるとするのは、「ためにする要件作り」であり、5号が想定するものではなく、むしろ5号の盲点を突くような形で、立法趣旨を逸脱して要件を満たす外形を作出したというべきである。

これらの点に鑑みると、IDCSの副社長のA氏が本件合併の時点において、同社の事業を体現するような者になっていたとは到底いえない。
しかも、IDCSの当初取締役は、本件合併に伴い全員退任しており、5号の趣旨に照らして考えれば、被合併法人の特定役員が全員退任するような適格合併と実質的に何ら変わりがないと評価される。
したがって、A氏がIDCSの副社長に就任したことを法132条の2により否認し、その結果、5号の要件を充足しないので原告はIDCSの未処理欠損金額を引継げず、これを損金に算入することはできない。

2:原告(ヤフー)の主張
5号の要件を充足する事実が存在するにもかかわらず、法132条の2の解釈適用上「不当」と評価して5号の要件の充足を否認することが許されるのは、特定役員への選任が私法上適法有効にされているものの、特定役員として職務執行する意思もなければ職務執行の客観的事実もおよそ一切存在しないようないわば「形だけ」にすぎない場合のみと解すべきである。

IDCSのA副社長は非常勤とはいえ、中期経営計画の策定、設備投資計画の指示等の職務を遂行しており、「形だけ」の就任には当たらない。
また5号の文言は、役員の就任期間中役員が被合併法人の事業と関わっていることは一切要求していない。
(3) 裁判所の判断
1 地裁
法132条の2が定める「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは 法132条と同様に、取引が経済的取引として不合理・不自然である場合のほか 組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが組織再編成税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものを含むと解するのが相当である。

みなし共同事業要件の5号の趣旨は2号から4号までの要件が充足されない場合であっても、一般に、合併法人のみならず被合併法人の特定役員が合併後において特定役員に就任するのであれば、合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続していると評価することが可能であって、合併後も共同で事業が営まれているということができ、特定資本関係発生時から5年以内に行われる適格合併であっても、課税上弊害が少ないということができることから、未処理欠損金額の引継ぎを認めることとしたものと解される。

しかしながら、共同事業を営むための適格合併の要件に関連して、立法担当者らは「短期間だけ役員にするといった不自然、不合理なものを別して・・・」と回答していたこと等を勘案すれば、5号の要件が組織再編成に係る他の具体的な事情( 特定資本関係発生以前の時期における当該役員の任期、 当該役員の職務の内容、 合併後における当該役員以外の役員の去就、 合併後における事業の継続性や従業員の継続性の有無、 合併後に引き継がれる事業自体の価値と未処理欠損金額との多寡、 被合併法人と合併法人の事業規模の違いなどの事情)を一切問わずに、未処理欠損金額の引継ぎを認めたとはいえない。

上記の具体的事情を本件についてみると
A副社長の任期はわずか2ヵ月と短い。
A副社長の職務内容はIDCF株式のヤフーへの売却やヤフーとの合併といった提案に沿ったものであり、IDCSの固有業務であるデータセンター事業に関与していたとは認められない。
IDCSの経営を担ってきた他の役員は全員退任した。
以上の点からすると、本件においては5号が設けられた趣旨に全く反する状態となっている。
IDCSは分割により、従業員の全員、営業・開発部門をIDCFに承継させており欠損金が生じる原因となったデータセンター事業が事業として承継されたとみることは困難である。
IDCSの買収対価450億円の内、200億円は未処理欠損金の価値とされ、事業自体の価値は約半分にすぎない。
原告とIDCSでは資本金で70倍以上、営業利益で50億円以上、売上高で20倍以上の格差があり、2号の規模要件を満たしていない状況である。

以上の点からすると、本件合併は、その実質において、共同で事業を営むためのものとはいえず、単なる資産の売買にとどまるものと評価することが妥当である。

これらの諸事情を総合勘案すると、本件副社長就任は5号要件を形式的に充足するものではあるものの、それによる税負担減少効果を容認することは、5号が設けられた趣旨・目的に反するし又、本件副社長就任を含む組織再編成行為全体をみても、法57条3項が設けられた趣旨・目的に反することは明らかである。したがって、本件副社長就任は、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当する。

2:高裁
地裁は法132条の2は法132条とは異なる解釈が可能であるとして結論を導いたが、高裁は地裁の解釈を認めた上で、次のように法132条と同じ解釈の下でも地裁と同じ結論を出している。

(1)「A氏の副社長就任に事業上の必要性がないこと」
A氏は本件合併の相手方であるヤフーの代表取締役の地位にある。また、IDCSはソフトバンクの完全子会社で、本件提案やA氏の副社長就任が、ソフトバンクの孫氏の意向に基づくものであり、IDCSが孫氏の意向に反対し、本件合併の取引条件の交渉を回避することは困難な立場にあった。したがって、A氏はIDCSの副社長就任の有無を問わず、本件合併の準備等や合併後の事業に関して十分な影響力を行使することが可能であったことが認められる。

(2)「A氏の副社長就任の主たる目的はヤフーの法人税の負担を減少させること」
ソフトバンクは平成15年12月30日に平成27年満期の社債を発行していたところ、本件社債は、所持人がソフトバンクに対し平成21年3月31日に一定の要件を満たせば、繰上償還することを請求する権利を有するものであり、その場合投資家から最大500億円の請求を受ける可能性があった。平成20年10月27日の株価水準はこの一定の要件に当てはまるものであり、翌日のソフトバンクの取締役会でこのことが報告された。

このことを含め、ソフトバンクは1000億円の資金需要があることから、平成21年3月末までにIDCS株式をヤフーに500億円で譲渡する必要があり、仮に未処理欠損金額の税務上の効果200億円が発生しないとすると、ヤフーが450億円でIDCS株式を買い取ることは困難であり、ソフトバンクがIDCS株式を同価格で売却できなかった可能性を否定できない。

また、本件提案は最初から、IDCSの未処理欠損金を全て処理することを目的としており、平成14年3月期に発生した124億円は平成21年3月末までに処理する必要があった。

(3)ヤフーのIDCS株式の買取りとIDCSの合併に関してのソフトバンクやヤフーの担当者間のメールの内容からすると、本件副社長就任はIDCS及びヤフーのいずれにとっても、ヤフーの法人税の負担を減少させるという税務上の効果を発生させること以外に、事業上の必要があるとは認められず、経済行動としていかにも不自然・不合理なものと認めざるを得ない。

仮に、上記目的以外の事業上の目的が全くないとはいえないものであったとしても、その主たる目的が5号の要件を満たして、未処理欠損金額を引継ぐことでヤフーの法人税の負担を減少させるという税務上の効果を発生させることにあったことは明らかであり、合併法人の社長のA氏が被合併法人の副社長に就任をしたことをもって、被合併法人と合併法人の双方の経営者が共同して合併後の事業に参画しており、運営の面からみて、合併後も共同で事業が営まれていると評価することはできない。
(4) 検討
1 共同事業要件とみなし共同事業要件の関係
被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎのためのみなし共同事業と適格合併となるための共同事業には共に特定役員引継ぎが要件のひとつとなっている。
本件の問題の始まりは、特定役員が一人二役になることはグループ外では容易ではないが、グループ内では容易であるということを見落として同じ内容の特定役員引継ぎ要件を設けたということである。

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グループ外の企業間の合併では、被合併法人の特定役員が合併法人の特定役員を合併前に兼ねることは通常想定されず、被合併法人の特定役員が合併後の合併法人に特定役員として残れば、移転した被合併法人の事業にその経験を生かして参画するという前提で共同事業要件は作られている。一人二役のIDCSのA副社長もこのグループ外の共同事業要件の観点から職務内容を見る必要がある。

単純に考えると、一人二役の場合は各々の業務に関与することにより、職務時間は分散化するので、業務に精通するための就任期間は一人二役でない場合より長い期間が必要になると思われる。これを本件についてみると、A副社長の合併前の就任期間は2ヵ月にすぎず、かつ非常勤であり、また無報酬である。A副社長がIDCSの行う事業に精通したとはとてもいえない状況である。つまり、一人二役でないところの被合併法人の特定役員が合併後の合併法人の特定役員に就任した場合、その特定役員は移転した事業について被合併法人の観点から参画するので共同で事業を行なうという要件は満たされている。しかし、本件のように一人二役の場合でその当人が被合併法人の事業に精通しておらず、かつ精通している他の特定役員が合併後の合併法人の特定役員に就任していないとなると、その当人は合併法人の観点から参画する可能性が高いので、結局被合併法人の観点から参画する人はおらず、共同で事業を行なうという要件は満たされないこととなる。

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