論文
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行政指導と来署依頼・机上調査の法的限界性
東京会 小田川 豊作
1 各局や税務署が行った新施策

表題の法的検討を行うにあたり、課税庁が行った新施策を見ておきたい。実際に行われた4例を簡記する。

 東京国税局が行った個人不動産所得者に対する行政指導
  • 行政指導としての文書=「平成24年分 決算書(収支内訳書)の内容についてのお尋ね」。
  • 目的=(文面から目的が読み取れない。敢えていえば)「申告内容の確認をお願いします」。
  • 指導内容=「下記のチェックのある事項(この事例では修繕費)について確認された内容」の回答を求める。
 東京国税局が行った法人の事業概況に対する行政指導
  • 行政指導としての文書=「法人事業概況等についてのお尋ね」。
  • 目的=「貴法人の事業概況等の確認をさせていただくため」。
  • 指導内容=「次の項目について」回答を求める。(項目の一部)「印章や重要書類等の保管者及びその保管場所」「海外取引の状況等取引形態 ロイヤリティー受取 金額」「勘定科目等のうち前期に比して著しく増減のある事項 科目 理由」「税理士の関与状況 税理士に引き継ぐ帳票類等」。
 関東信越国税局が行った法人の申告内容に対する行政指導
  • 行政指導としての文書=「申告内容等についてのおたずね」。
  • 目的=(〇年度の)「法人税等の申告内容の確認に資するため」。
  • 指導内容=「次の事項について」回答を求める。「役員借入金 左記の勘定科目は前年に比べて(〇〇円)増加していますが、その主な理由。なお、総勘定元帳や明細書等の写しによりご回答いただいても差し支えありません」。
 関東信越国税局が行った個人に対する行政指導とそれに続く呼び出し文書と調査
< 第一段階 >
  • 行政指導としての文書=「平成24年分所得税の確定申告書の見直し・確認について」。
  • 目的=(これもと同様文面から目的が読み取れないが、 と若干異なっているのは手続の必要性を助言していること)「確定申告書について 見直し・確認をお願いします」「結果、納める税金が( 増加は修正申告書の提出、 減少は更正の請求書の提出、 変わらない場合はその旨の連絡)の手続が必要となります」。
  • 指導内容=「生命保険契約等の一時金について計算誤り又は記載もれ等がないか、見直しをお願いします。」
    < 第二段階 >(第一段階に応じなかったところ)
  • 文書=(法的根拠不明の文書)「所得税の申告について」。なお、文書の末尾に「この文書による来署依頼の責任者は、表記の税務署長です。」と記述している。
  • 目的=「所得税の調査をいたしますので、下記の日時に必要な書類等をご持参の上、〇〇部門までおいでいただきますようご案内いたします。」
  • 下記の内容=「日時の指定」「お尋ねしたい事項 給与所得及び生命保険金等の一時所得・雑所得について」「必要な書類等 印章 給与所得の源泉徴収票 生命保険料の支払証明書」
お気づきのように、個人情報や取引の内容や理由など具体的な事項について回答を求め、物件等の持参や提出を求めている。
2 国税庁の新方針

上記の新施策は、国税庁が新方針を立てるための試行として実施された。国税通則法の改正を受けて調査手続が煩雑になったことから、実地調査の件数が減った。通則法の再改正でもない限り、この傾向は続くことになる。国税庁は、接触率が低下すると申告水準や納税意識が低下するという余り根拠のない組織的哲学を表明し、接触率を維持、或いは向上させる方針を模索している(平成25年7月25日、国税庁課税課「中期的な視野に立った課税部事務運営の見直し」)。

そこでは、「深度ある調査を行うことは変わらず重要」であることを基盤としたうえで、「波及・牽制効果を意識した調査企画に取り組む。その際、局署の実情に応じて、実地調査以外の調査や行政指導を効果的に活用した試行にも取り組むこと」を打ち出し、順次、次の取り組みを例示している。

 「多様な手法の例」として、「ハイブリッド調査=調査と行政指導の組み合わせにより、調査による波及・牽制効果を最大化」

 「6 考えうる取組の例( 行政指導による実地調査対象者の厳選、自主修正への誘導)〇申告内容等の分析により是正の必要が見込まれる納税者に対し、書面照会により問題点・疑問点を指摘【目的】対象者の自主的な見直しや以後の適正申告を促すとともに、実地調査対象者の的確な選定を行う。」

字数に制限があるので、開示された文書の一部を紹介したが、当局の狙いは把握できると思う。
3 新方針の法的検討

国税庁の新方針では調査と行政指導を一体のものとして「ハイブリッド調査」と括っている。この括りでは、行政指導も調査に包含する意図を持っているとしか読めない。
法的に調査は行政処分であり(質問および検査はそれぞれが行政処分となる)、行政指導は処分に該当しない行為である。
国税庁は通達で、調査は課税標準を認定する行為であるとしたうえで、調査に該当しない行為を例示している。
(1) 提出された納税申告書の自発的な見直しを要請する行為で、次に掲げるもの。

イ 提出された納税申告書に法令により添付すべきものとされている書類が添付されていない場合において、納税義務者に対して当該書類の自発的な提出を要請する行為。

ロ 当該職員が保有している情報又は提出された納税申告書の検算その他の形式的な審査の結果に照らして、提出された納税申告書に計算誤り、転記誤り又は記載漏れ等があるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為。

(2) 提出された納税申告書の記載事項の審査の結果に照らして、当該記載事項につき税法の適用誤りがあるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して、適用誤りの有無を確認するために必要な基礎的情報の自発的な提供を要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為。

通達は列挙した項目がすべて「要請する行為」とされている。行政手続法に基づいて行政指導の法的限界性を踏まえており、この列挙に従って国税庁が行政指導として行うことに法的問題は認められないように思えるが、果たしてそうであろうか。

しかも、新方針は調査と行政指導を組み合わせて「ハイブリッド調査」と括り、その両手法を使って波及・牽制効果を狙うとする。また、行政指導を実地調査対象者の選考に使うと明言しているので、意味合いは違ってくる。

そこで、新方針の法的限界性を検討してみたい。
(1)申告水準の維持や牽制は任務か

国税庁は、「国税庁レポート」をはじめとして頻繁に「コンプライアンス(申告水準)の維持向上」「波及・牽制効果」なる用語を記述し、それがあたかも国税庁の任務であり所掌事務であるかのようにしているが、財務省設置法にはそのような任務も所掌事務も規定していない。

同法第3条(財務省の任務)は「適正かつ公平な課税の実現」であり、「適正かつ公平な納税の実現」ではない。この第3条を受けて同法第19条(国税庁の任務)では、「国税庁は、内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現を任務とする。」としている。当然ながら、所掌事務も「賦課及び徴収」に連動している。

「課税」は税制までを含む広さを持つが、国税庁の任務は「賦課」としており、「賦課」は行政庁が権限に基づく行政行為や処分を行って課税することをさす。

憲法で国民の納税義務と租税法律主義が規定され、第一義的に納税者が税法に基づいて納税申告し、その申告が税法等に従っていないとき税務署長は調査により更正することができるという仕組みになっている。その点で、税法の構造と組織法の任務・所掌事務規定は辻褄があっており、逆にいえば、納税者の自主申告権に国税庁が介入することをそもそも予定していない。

例えば、修正申告書、更正の請求であるが、これは納税者の自主申告権を補完するものといえる。賦課を任務とする国税庁との関係でいえば、国税庁の賦課という行為があり、更正が予知される場合の修正申告書は自主修正とは認められず加算税が課せられる仕組みからみても、納税者の申告と課税庁の賦課は明確に線引きされている。

また、組織法上、国税庁には「牽制」するという任務も与えていない。警察法では警察の責務として「犯罪の予防」が規定されており、所掌事務もそれに繋がった規定がある。予防には牽制が包含されているといえるので、警察法同様に国税庁の任務として「申告水準低下の予防」が規定されているなら、「牽制効果を最大化」する事務を行っても法的問題はないが、現行では明らかに逸脱している。

国税庁の任務と所掌事務は法律事項であり、現行では納税者の自主申告権に介入したり、牽制することはできないといわざるをえない。

そうすると、行政指導は「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において」しかできないのであるから、行政指導という手法に
(2)行政指導による調査対象者の選定は法的に可能か

前述した「考えうる取組の例」では「行政指導による実地調査対象者の厳選」を掲げている。1で述べた新施策の具体例を見ると、実地調査対象者を選定するために行政指導と銘うった照会文書を利用していることが分かる。照会内容は、申告内容と照合する意図が透けて見えるもので、「調査対象者を選定」するという国税庁の目的を直截的に具現したものとなっている。

国税通則法第24条でいう「その調査により」「更正する」は、税務署長が行う行政処分であるが、その法律的性格は準法律行為的行政行為としての確認行為であるとされている(通説)。「すなわち、その処分の内容をなす課税標準等、納付すべき税額等が既に各税法上の規定により客観的、抽象的に定まっている以上、その処分の実体は、これらの事項の基礎となる要件事実を把握した上、これらの事項の「確認」を行うことを内容とする特殊な処分である」(コンメンタール国税通則法P1506)というものである。

そうすると、更正のための調査の意義が問題となる。国税庁の通達では注として次の文章を掲載している。

*注 一連の行為=「通則法24条(更正)の調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものと解せられ、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念である。そして、右調査の方法、時期などその具体的な手続については、何ら規定されておらず、その点では、課税庁に広範な裁量権が認められているものと解される。」(広島地裁平成4年10月29日判決、上告審最高裁第1小法廷平成9年2月13日判決同旨。また、昭和45年9月22日大阪地裁確定判決に同旨あり。)

この注は下線を判決文としているが、正しくは「その点では、課税庁に広範な裁量権が認められており、課税庁が内部において既に収集した資料を検討して正当な課税標準を認定することも、その裁量権の範囲内であり、本条に規定する調査に含まれる。」である。

国税庁が引合いに出したこの判例からすれば、どの納税者を調査対象とするかは当局の裁量に任されており、場合によっては課税庁が何らかの方法で得た課税要件事実と申告の課税標準が違っていると認定できる場合は、所謂内部の机上調査を経ているので更正することができることになる。しかし一方で、その一連の行為は調査に含まれるのである。

1で述べた新施策の事例をもう一度確認していただきたいが、これらは課税要件の妥当性を判断する材料の提出を要請している。納税者が回答しても回答しなくても課税庁はその反応や得た資料から、新方針でいえば、調査対象者とすべきかを判断することになる。これは正に、調査の一連の行為と言わざるを得ない。そうすると、新施策のお尋ね文書等は調査に含まれるものであり、調査は行政処分であるから、行政指導でこのような行為を行うことはできない。国税庁は「お尋ね文書」を行政指導としているが、法的根拠を示す必要があろう。
(3)個人情報保護法と調査の目的(国税通則法)からみて妥当なのか

税務署が納税者に照会文書を送付して回答を求める行為は、平成17年4月1日から全面施行された「個人情報の保護に関する法律」(基本法)と「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」(行保法)が適用となる。

この法律により、行政機関には5つの義務が課せられた。 個人情報の保有に当たっては利用目的を特定しなければならず、必要な範囲を超えて個人情報を保有してはならない、 保有個人情報は事実と合致するように努めなければならない、 保有個人情報は、原則、利用目的以外に利用・提供してはならない、 本人から直接書面で個人情報を取得するときは、原則、利用目的を明示しなければならない、照会文書等、本人が書面に記載して提出するものは必ず利用目的を記載しなければならない、 職員は、知り得た個人情報を他人に知らせたり不当な目的に利用してはならない、である。

行政機関が個人情報を取得する場合は、「法令の定める所掌事務を遂行するために必要な場合に限り、かつ、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。」(行保法第3条)のであり、「本人から直接書面に記録された当該本人の個人情報を取得するときは、次・・・を除き、・・・本人に・・・その利用目的を明示しなければならない」(行保法第4条)と規定された。これを受けた国税庁は、平成16年当時、国税庁や各局の照会文書等の見直しを行い、「何に基づいて、何に利用するために照会等をしているのかを明示する」として照会文書の文面を訂正した。

一方、仮に利用目的を個別具体的に記載することによって、事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるときは「申告内容の確認に資するため」といった端的な表現を用いる、とした。これは行保法第4条にある「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。」という「利用目的の明示の適用除外」を受けての指示といえる。

主務官庁である総務省は、事務の「適正な遂行に支障」を、利用目的を明示することにより以後の個人情報の収集が困難になる場合、被疑者の逃亡、証拠隠滅につながる場合、適正な判断・評価に支障を及ぼす場合等としている。

そこで、個人情報関連法から国税庁の新方針を検討してみたい。

取得は、所掌事務のために限定されているので、内国税の賦課のための個人情報取得は許される。しかし、申告水準の向上や牽制は所掌事務とはいえないので、それを目的とする個人情報の取得は違法となる。国税庁は所掌事務にない目的のために個人情報を取得したのであり、違法性は免れない。また、目的の明示が規定されているが、国税庁は「調査対象者の選定のため」としているのであるから、そのことを明示すべきであろう。仮に取得が妥当だとしても、目的が虚偽であり、やはり違法性は免れない。

また、事例にある法人の事業概況のお尋ねでは、海外取引でロイヤリティーの有無や金額まで回答するよう求めている。目的を「貴法人の事業概況等の確認」としておきながら、お尋ね内容は個別具体的な課税要件事実についてであるから、目的から明らかに逸脱しており、適法性を欠いている。事例では目的が正確に読み取れないものもあるし、「端的な表現」にとどまっている。おそらく、目的明示の適用除外に該当するということであろうが、では「申告内容の確認に資するため」という目的は妥当であろうか。

国税通則法第74条の9で調査の事前通知が規定された。そこでは「調査の目的」を通知することとされ、同法施行令第30条の4で「調査の目的」の内容として「納税申告書の記載内容の確認」を通知するとしている。「申告内容の確認」が調査の目的であることを法的に規定したのである。「申告内容の確認」と「申告書の記載内容の確認」は同義である。

そこで、前述した調査の一連の行為の判例に立ち戻れば、平成23年に調査手続が法定化される前は課税庁の広範な裁量権の行使として、何らかの手段で個人情報の収集は行いえたといえる。

何らかの手段というのは、目的を示したうえで納税者本人が同意して協力する場合、行政機関は制限を受けないということである。しかし、調査の目的が申告書の記載内容の確認と法律上明記されたのであるから、申告内容を確認する行為は調査に限定される。それは、「申告内容の確認」は申告した課税標準や税額が正しいものかどうかを「確認」する行為でしかなしえないからであり、調査の法律的性格は準法律行為的行政行為としての確認行為であるから、申告内容の確認は正に調査そのものである。

そうすると、質問検査権の行使と実質は同じであるから、個人情報を取得しえたとしても、「行政指導」と銘打った文書でこれを行うことはできない。

次に、目的明示の適用除外にあたるであろうか。これはいかにも間の抜けた話である。

事前通知を要しないで調査をする場合、実務として行われていたことを国税通則法の改正により条件等を法定化し、取扱通達も一応整備した。通則法第74条の10と通達では、申告内容、過去の調査、課税庁が保有する情報や資料等からみて、通知することによって、逃亡、隠匿、改ざん等が合理的に推認される場合は通知を要しないとしている。

課税庁に、合理的に推認できる判断材料と判断力があることを前提にしなければ成り立たない条文である。

そうすると、課税庁内部において絞り込んだ事項のお尋ねで、納税者が逃亡、隠匿、改ざん等を行うと認識するなら、まさに事前通知を行わないで調査すべき対象となるはずである。それを文書照会し、隠匿等の恐れがあるから目的を「端的な表現」にするというのは、判断力がないことを表明するに等しく、課税庁の前提そのものが崩れて事前通知を要しない調査の選定が妥当にできるのか疑わしくなる。

お尋ね文書は表面的には行政指導として行われており、法的には自主点検と自主訂正を「指導、勧告、助言」するものである。それをお尋ねの形式で行っているのであるから、目的を具体的に明示することに何ら問題はなく、目的明示の適用除外に該当しない。

むしろ、適用除外以前の問題がある。「申告内容の確認のため」という端的表現は、「調査対象の選考に利用するため」と明示できないがための方便といえる。真の目的が「調査対象の選考に利用するため」であれば、行政指導としてのお尋ね文書は違法であり、個人情報保護の観点からは違法取得に該当する、法的には極めて根拠薄弱な行為となっている。

総じていえることは、国税庁の思惑だけが先行し、いかにも場当たり的な感がする。

通則法の改正を受けて、国税庁はお尋ね文書について関連法との整合性を改めて検討すべきであったが、事例を見る限り検討のあとが見えず、法的な妥当性を欠いている。
4 呼び出し調査の法的検討
(1)来署を求める調査通知の違法性


冒頭に記述した事例の実際の話は、お尋ね文書に回答しなかったところ、税務署から納税者に調査をするので来署してほしいという文書が届き、呼び出しに応じて印鑑と必要書類を持参して税務署に担当者を訪ねたところ、一時所得の申告もれを指摘され、その場で修正申告書が作成されたので押印して提出し、その後、加算税が賦課されたものである。

納税者を税務署に呼び出して当該職員が机上で調査を行い処分した、という行政処分が行われたわけである。

この場合、「実地の調査」に該当しないことから、調査の事前通知手続は行われていない。

事例の「来署依頼」文面をそのまま記述すると、「調査を行いますので、下記日時に必要な書類を持参の上、当署〇〇部門までおいでいただきますようご案内します。なお、当日ご都合が悪い場合やお尋ねしたい事項等にご不明な点などがある場合は、ご面倒ですが、担当者までご連絡くださいますようお願いします。」とある。

この文書は、「調査を行います」としているので、調査を通知した行政処分となる。したがって、行政指導文書には該当せず、法的には裏づけのないまったく任意の文書であり、電話による調査通知と同質の行為となる。

しかし、文面からは納税者に税務署という特定の場所に出頭を強制するものとなっていて、これは任意調査の限界を超えるとともに、事前通知という法律事項を意図的に回避する脱法行為であり、二重に違法性があると指摘せざるを得ない。

通則法が改正されても、調査を行う時期や場所は法定化されていない。したがって、調査場所は当該職員の裁量に任されることになるが、任意調査の限界があるので、当該職員が調査場所を指定し、それを納税者が無条件に受忍する関係にはなっていない。実地の調査で法定化された事前通知項目に日時と場所があるが、納税者に変更できる手続きを法定化したのは、任意調査の限界があるからに他ならない。

これは実地の調査に限定したものではない。したがって、文書にせよ電話にせよ調査を通知する場合は、当該職員が日時と場所を指定したとしても、納税者の受忍手続きが法的に要請される。

事例の文書は、「当日ご都合が悪い場合」と、日時については極めて不十分ながら納税者に受忍手続を示しているが、場所に関しては一切触れていない。つまり、調査場所を税務署で行うことに対して納税者に受忍手続を示していない。課税庁がいかなる意図をもってこの文書を送付したかは別として、文面から言えることは、調査場所を納税者に強制している調査通知であると認定され、任意調査は強制することはできないのであるから、この文書は違法性があると評価される。

当該職員の違法な行為はその処分も違法と認定される。したがって、調査通知自体が違法となり効力がないことになるので、仮にこの納税者が税務署に出頭することを拒否し、結果としてこの文書による調査を拒否したとしても、最終的には司法判断を待つことになるが、罰則は適用できないと考える。

国税庁の新方針に法的妥当性を欠く時、えてして調査官が行き過ぎて呼び出し調査に関する問題が頻発しかねない。税理士として、法的検討を行い、納税者の権利を守る立場から厳格に対処したいところであるし、国税庁には来署依頼の調査通知に関する法的根拠を示していただきたい。
(2)机上調査の法的検討

次に机上調査だが、この行政行為を法的に検討するにあたり、若干の整理が必要となる。

課税庁は「机上調査」なる用語を使っているが、純然たる内部調査としての机上調査と、事例のように納税者を呼び出して行う机上調査に分かれるので、前者を「内部机上調査」、後者を「呼出机上調査」として区分する。

課税庁は所得税事務において確定申告期限後に申告内容を見直す「事後処理」なる事務を行い、添付もれや単純計算誤り、手持ち資料から見て課税標準を認定する必要のない明らかな申告もれや過少計上が判断されるものを是正する業務を行っている。

筆者としては、行政効率等も視野に置くと、課税標準の認定作業を伴わない単純申告もれや単純過少申告について「内部机上調査」である程度当該職員が確証的に是正を求めうるものは、納税者と電話でやり取りし、修正申告書の提出を求めることでよいと思う。その場合は、加算税を賦課するまでもない。

電話でのやり取りに応じなかったり、是正事項を理解したのに対応しない納税者に対しては、呼び出すまでもなく更正すればよい。これは税法上も判例上も認められ、加算税を賦課してよいと思う。法的には、内部机上調査に基づく更正であるから、納税者に不服があれば、不服申し立ての道も確保される。この場合は、実地の調査ではないから、事前通知の手続は不要でよい。ただし、調査結果の説明は必要である。

事例 のケースなどはこれで処理できるものであり、納税者を呼び出すという法的根拠のない行政行為を行わずとも相当程度は処理できるはずである。筆者が懸念するのは、課税標準の認定作業が必要となるものについてまで、呼出机上調査で処理しようとする国税庁の動きに対してである。事例 の不動産所得申告者に対するお尋ね文書、事例 の法人に対する特定項目のお尋ね文書からは、内部机上調査で更正できるまでの課税要件事実を確認することはできない。ところが国税庁は、納税者からの回答で疑いを強めた場合、調査対象に選定する方針を示している。

国税庁は現在も効率性と牽制効果を狙いワンポイント的調査を事務の中に組み込んでいるので、お尋ね文書とその回答事項に絞ったワンポイント調査を呼出机上調査によって処理しようという意図が感じられる。そこで、仮に課税標準の要件事実を確認する調査を呼出机上調査で行う場合について、法的に検討してみたい。

税務調査において、出頭要請に法的裏づけはない。あくまでも任意なので、納税者が協力すれば行政行為としては呼出机上調査も可能ではあろう。しかし、以下で述べるように税法からみれば、それは否定される。

国税通則法改正により、質問検査権が通則法に集約された。通則法第74条の2では、所得税、法人税、消費税の3税がひとつのグループとなっている。その趣旨は、課税標準の要件や確認が同質であるためである。

その共通点は、抽象的である課税標準が、帳簿書類等の記帳・保存と計算によって認識されるということにある。これは青色申告か白色申告かを問わない。そして、各税法は、帳簿等の記帳と保存を条件としているので、課税標準の要件を確認するためには帳簿書類の確認とともに、保存状態も確認しなければならないことになる。

調査はその時点における最も真実に近い課税標準を認定することであるから、税法を厳格に適用する立場から課税標準の要件事実を認定するためには、当該職員は税法で指定されている保存場所における保存状態を確認する行為なくしてはなしえないのである。

帳簿の記帳・保存の不備により、推計課税が行われる場合といえども、保存場所における不備が確認されなければならない。実額課税であればなおのことである。つまり、結論的には、調査で課税標準を認定するためには、当該職員は納税者の事務所等帳簿の保存場所に出向き、その確認からはじめなければならないのが法で規定していることである。

帳簿が存在する場合の納税者で、帳簿調査を行わずに更正しうるのは、所得税であれば所得税法第155条1項1、2号(明らかな誤り)に該当する場合である(法人税は法人税法第130条に同趣旨、消費税には帳簿調査をしないで更正できる規定はないが、仕入税額については消費税法第30条で保存が条件になっており、保存がなければほぼ無条件に仕入税額を更正できる)。仮に、呼出机上調査で帳簿調査を行い、課税要件事実の認定を行うとしたら、それは手抜き調査といわざるを得ない。

国税庁の任務は「内国税の適正かつ公平な賦課」だが、税法に従わない手抜き調査では適正かつ公平な賦課はできない。お尋ね文書で絞り込んだ不審点を回答させ、そこから調査対象としてワンポイント的な調査を行う場合でも、課税標準を認定するためには実地の調査を行わなければならないのであり、その場合は事前通知の手続が不可欠となる。

なお、事前通知の手続きを経て、調査場所が税務署となる場合もあろう。言うまでもないが、それは合法である。こうして着手された調査において、出頭要請が行われる場合もあろう。それは調査展開であって、任意の要件にかなえば法的に縛られているものではない。事前通知を回避するために、出頭要請して調査に着手することと次元が違う問題である。
5 まとめ

米国内国歳入庁が組織法を改正し、カスタマーサービスとして納税者の適正申告を援助する業務を行っているが、仮にその方向を目指そうというのなら、組織法、行政手続法、個人情報保護法、税法など、関連法を改正・整備し、法的裏づけを持って行う必要がある。

しかし、国税庁が新方針で示している「ハイブリッド調査」は、米国内国歳入庁のカスタマーサービスとは似ても似つかないものである。加えて、実際に試行された新施策をみると、るる私見を述べたが法的妥当性を欠くとともに、違法性を帯びている。

国税庁の新方針はすでに開示されているのであるから、国税庁は新方針の真の狙いや今後の展開について説明するとともに、その法的根拠を明確に示す必要があろう。読者の税理士諸兄には専門家としての立場から、私見に対する率直なご批判をお願いしたい。

(おだがわ・とよさく)

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