論文
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財政状況資料集からみた京都市の財政
東京会 新国 信
財政状況資料集とは

2010年度決算から従来の「決算カード」「財政状況等一覧表」「財政比較分析表」「歳出比率分析表」「財政健全化比率・資金不足比率カード」の作成公表にかえ各表で重複しているデータを整理し、より有用な財政情報を開示するため、以下のように再編成をしたもの(総務省)が財政状況資料集である(なお、決算カードは従来どおり作成・公表されている)。

総括表(1)普通会計の状況(2)各会計、関係団体の財政状況及び健全化判断比率(3)財政比較分析表(普通会計決算)(4)経常経費分析表(普通会計決算)(5)実質収支比率等に係る経年分析(6)連結実質赤字比率に係る赤字・黒字の構成分析(7)実質公債費比率(分子)の構造(8)将来負担比率(分子)の構造、のA 4判10ページ建てである。

本稿では既に公表されている2010年度及び2011年度決算を中心にしている。
資料集の理解のために

上述のように、財政状況資料集は総括表以下10ページ建てで公表されているが今回は総括表と財政比較分析等をとりあげて京都市財政の全体像をみてみたい。地方財政の理解には多くの約束事があるのでそれをある程度理解しておかないと無用の混乱をもたらす恐れがあるので一定の解説をおく必要がある。ちなみに総務省ホームページには用語説明として6ページ、財政比較分析表の見方について2ページの説明をしている。私もそれを参考にして以下の表の理解のために必要と思われる事項について記述する。

普通会計(一般会計等)
地方財政は一般会計と特別会計、それに公営企業会計等いくつかの会計が存在する。
特別会計には法で設置が必要な会計とその自治体で任意に設置したものの2種類がある。
普通会計は、地方財政統計上の概念で、一般会計にその自治体で設置した独自の特別会計を合わせたもので自治体間の比較を可能とするためのものである。
財政健全化指標の一つである実質赤字比率は、この一般会計等の赤字を標準財政規模で除したものである。

普通会計(一般会計等)以外
国保・介護・後期高齢者医療(この3つは全国共通)などの公営事業会計、水道・自動車運送・高速鉄道・公共下水道など公営企業(法適)、土地区画整理・中央卸売市場・地域水道事業等公営企業(法非適)等の特別会計である。
特別会計以外で自治体財政に関係するものとして一部事務組合がある。複数の自治体が共同で事業を行う場合に設置される特別地方公共団体である。また、自治体が全額出資をしている土地開発公社等の公社、全部または一部出資をしている財団法人や社団法人、株式会社などの第三セクターもある。
財政健全化指標の連結実質赤字比率は、一般会計等と企業会計を合わせたものの赤字を、実質公債費比率は一部事務組合等を含めた公債費負担を、将来負担比率は第三セクターをも含めたものを標準財政規模で除したものである。
京都市の概要

京都市は、京都府南部に位置する市で、同府の府庁所在地である。
政令指定都市に指定されており、11の区を置いている。政令指定都市数は昨年4月の熊本市を含め20市となっているが、京都市は面積で5位(827km2)、人口で7位(147万人)、人口密度で13位(1778人)である。ちなみに各指標の一位は面積で浜松市(1558km2)、人口で横浜市(369万人)、人口密度で大阪市(12006人)である。平安京以来国都として栄えた都市で戦災被害が少なかったこともあり名所旧跡が残り日本有数の国際観光文化都市として内外の観光客が訪れている。2008年には門川市長(当時)が市財政の見通しのなかで2011年度には財政再建団体になると言っていたが・・・。
京都市の会計制度

京都市の場合、一般会計に母子寡婦福祉資金貸付事業特別会計、土地取得特別会計、基金特別会計、公債特別会計、雇用対策事業特別会計、市立病院機構病院事業債特別会計の6つの特別会計を含めたものが一般会計等として集約されている。財政健全化指標の一つである実質赤字比率は、この一般会計等の赤字を標準財政規模で除したものである。

上記の他に京都市には2011年度で以下の特別会計がある。
国保・介護・後期高齢者医療(この3つは全国共通)・駐車場の4事業会計、水道・自動車運送・高速鉄道・公共下水道の4公営企業(法適)、土地区画整理・中央卸売市場・地域水道事業等7公営企業(法非適)で計15特別会計である。

一部事務組合としては、後期高齢者医療広域連合や水防組合など4つある。また、京都市には、土地開発公社、住宅供給公社、京都地下鉄整備(株)など5つの株式会社、財団法人等合わせて37法人がある。
2011年度の京都市の財政状況資料集(表 I )

1ページの総括表は、人口(国調・住基台帳)、産業構造、指定団体等の状況の状況を示している。ちなみに京都市は大都市とのイメージがあるが、過疎地域、山村振興地域として指定されている。

歳入総額は、7658億円、歳出総額は7594億円で翌年度に繰り越す財源を控除した実質収支は14億円の黒字となっている。2010度の実質収支は8億円の黒字であった。

基準財政需要額が2512億円で基準財政収入額1891億円を上回り財政力指数は0.75である。このため普通交付税614億円の交付を受けて財源不足を補っている。

市の借金である地方債の年度末残高は、1兆2201億円で前年度より267億円増加している。健全化判断比率は、前年度にあった連結赤字比率が解消されていることを示し、他の比率も一応基準内であることが示されている。ただし、高速鉄道事業と自動車運送事業は資金不足比率については前年度より若干改善されたもののまだ不足状態が続いている。

2ページは、歳入の状況、地方税の状況、歳出の状況(目的別、性質別)が示される。歳入総額の内訳では、 地方税が2486億円(32.5%) 諸収入1414億円(18.5%) 地方債909億円(11.9%) 国庫支出金1176億円(15.4%) 地方交付税639億円(8.4%)で71.3%となっている。なお、地方消費税交付金は159億円(2.1%)である。

地方税の内訳をみると、市民税が1048億円(42.2%)、固定資産税1028億円(41.4%)でこの二税で83.6%となっている。なお、今年度から6千万円余の入湯税が歳入に計上されている。また、市税の現年度徴収率も99%であることもわかる。

歳出の内訳では、目的別にみると民生費が2669億円(35.2%)、商工費1319億円(17.4%)、土木費と公債費が各850億円(各11.2%)、教育費571億円(7.5%)でこの5項目で82.5%を占めている。

また、性質別では人件費1179億円(1.5%)、扶助費1806億円(23.8%)、公債費846億円(11.1%)でこの三費目の義務的経費が全体の50.5%を占めている。その他の支出では、投資・出資・貸付金が1424億円(18.8%)普通建設事業などの投資的経費647億円(8.5%)などとなっている。

3ページ目は、各会計、関係団体の財政状況と財政健全化比率のページとなっている。

ここで各会計の歳入、歳出等が記載されており、例えば国保会計でみると形式収支で36億円の赤字、他会計からの繰入金が147億円などが示されている。また、公債費負担の状況や将来負担の状況が区分ごとに示され、実質公債費比率と将来負担比率の根拠を示している。

4ページ目は、財政比較分析表(普通会計)として財政力、財政構造の弾力性、人件費・物件費等の状況、将来負担の状況、公債費負担の状況、定員管理の状況、給与水準(国との比較)について、当該自治体、類似団体内順位、全国平均、府県平均の各数値が示される。

5ページ目は、経常経費分析(普通決算)で経常収支比率の分析として人件費、扶助費、公債費、物件費、補助費等、その他、公債費以外について当該自治体、類似団体平均、類似団体内順位、全国平均、府県平均の各数値が示される。

6ページでは、経常経費分析表(普通決算)として、人件費及び人件費に準ずる費用の分析、公債費及び公債費に準ずる費用の分析、参考として普通建設事業の分析として5カ年の数値をグラフと使い掲載してある。

7ページは、実質収支比率等に係わる経年分析として、8ページは、連結実質赤字比率に係る赤字の構成分析として一般会計と特別会計のおもなものを経年分析、9ページ目は、実質公債費比率(分子)の構造として実質公債費比率の計算式で示されている項目毎の数字を示している。なお、4ページ以降には、当該自治体としての分析意見を述べている。
財政比較分析表からみえるもの

表IIは、京都市の2010、2011年度の財政比較分析表をまとめたものである。
まず京都市の財政力指数が0.75と類似団体と比較してもかなり低く19団体中14位と下位に位置することが目につく。その分普通会計に占める地方交付税の割合が多くなる。もっとも政令指定都市のすべてが交付税交付団体であることを考えると京都市が異常なわけではない。その他の数字も類似団体の数値を上回っており、特に将来負担比率の数字の高さが目につく。2011年度は目標以上に人員削減を果たしたとしているが今後も人件費、定員管理、給与水準など類似団体平均を上回るものに圧縮を求める財政運営が強められる可能性がある。

表II
経常経費分析表からみえるもの

表IIIは、経常経費分析表をまとめたものである。

類似団体の平均値を上回るのが人件費、扶助費、公債費以外等で、下回るのは公債費、物件費となっているが、類似団体での順位をみると人件費は最下位、扶助費も17位と下位でこのため公債費以外の経常経費の割合が高くなっている原因と思われる。全体として経常経費の割合が増えると経常収支比率(2011年度96.8)が高くなり財政運営の政策的自由度が狭められることになるので財政運営では重視される指標である。

表III
京都市の財政IR活動

昨年10月に京都市は、「京都市の財政状況等について」を発表し、11年度の決算の状況に3ページ、行財政改革の取組に5ページ、京都市債に6ページを使い市民広報をしている。その中で決算状況については、一般会計は2年連続の黒字であったこと、公営企業決算では高速鉄道のみが赤字であったこと、健全化判断比率は連結実質赤費を解消し、健全化基準をすべて下回ったこと、行財政改革では市税や国保料の徴収目標率の達成状況や人件費削減、市債の減少に向けた取組、外郭団体の改革の進捗状況などを報告し、「はばたけ未来へ!京プラン」を作成、当面の数値目標などを掲げ、地下鉄と市バスの経営健全化への取組等を訴え、京都市債の項では格付けの優位性、新年度の市債発行計画や市債管理方針などを示しており、それなりに京都市の財政を知り市の財政運営方針をみるには有用な資料である。問題はこうした資料が市民の間にひろくで共有・議論され住民の生活や権利の向上に有効に活用することが求められている。
おわりに

京都市は「京プラン」で行政の効率化で総人件費の削減し、公共投資の抑制で市債残高を圧縮し、社会福祉関係費の改革の徹底などで「持続可能かつ機動的な財政運営をめざす」としているが経済の停滞・低成長が続く中で厳しい財政運営が続くものと思われる。

地方分権で自治体の事務事業の範囲は広がったもののそれに見合う財源保障が弱く、財政健全化法で中央からの縛りが強まっている現在、自治体の自由度はそれほど拡大してはいない。道州制導入を政策に掲げる政党が国会で大多数を占める状況が生み出されたいま地方自治をめぐる運動は新しい段階に入ろうとしている。

税理士はおもに国税を中心に業務展開をしている関係なのか、地方財政に関心をもつ者は多くはないと思われるが、税経新人会は地域に根ざした団体として地方財政問題にももっと関心を向けて研究すべきではなかろうか。
(にっくに・まこと)

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