論文
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滞納処分の停止をさせた事例
東京会 相田 英男
はじめに

2011年2月に、都内のある建設業者組合から、組合員の個人事業者(以下、「納税者」という)が滞納税金の納税問題で困っていると相談を受けました。
70歳近くの納税者は内装業を営んでおり、所得税の本税は完納していたものの、昭和58年分からの延滞税190万円余を滞納していました。
課税庁はすでに生命保険契約と電話加入権を差し押さえしていました。
納税者は、納税の意思はあるものの、最近では仕事も少なくなり、月々2万円ずつの分割納付もきびしく、体調不良の配偶者は税務署からの督促におびえている様子で、何とかしてほしいとの相談でした。

請願書を提出
筆者は、納税者と相談のうえ、2011年2月に次のような請願書を提出しました。
請 願 書
[請願の理由]

請願人は昭和57年分から平成10年分の申告所得税を滞納し、本税は完納したものの延滞税190万円余が未納となっている。

貴署はすでに生命保険契約と電話加入権を差し押さえしている。

請願人は貴署と相談のうえ、毎月2万円ずつ延滞税を納めているが、建設不況により仕事が少なく、2万円の納税もきつくなっている。仕事は家賃(7万2,000円)程度しかない月もある。

請願人は生活苦と納税問題で夜も眠れず、血圧の数値も高い時は200にもなることがある。

配偶者も生活苦で精神的に不安定になっており体調不良である。

収入は年金が月額約3万5,000円、仕事は不規則であまりない。配偶者は月8万円程度のパートで働いている。生活費は月額18万円程度かかる。

請願人は、本税は完納し納税の誠意を示しているが、このような状況であるから、請願人は自己破産や生活保護受給も視野に入れている生活困窮者であり、第三者納付により納税するほかはなく、延滞税の納付については免除または滞納処分の停止を要請するほかはない。

以上のことから、請願人は下記の事項について請願する。

[請願事項]

1国税徴収法第151条第1項並びに第2項にもとづき換価の猶予決議をおこなうこと。
2猶予担保は差押財産とすること。
3可能な限り、国税通則法第63条の免除規定を活用し延滞税を免除すること。
4延滞税免除未了部分が残る場合には国税徴収法第153条第2項で停止するとともに、同条第3項により差押を解除すること。
5請願人並びにその配偶者は体調不良であり、今後の納税交渉は代理人とおこなうこと。

以上
この請願に対して、課税庁は、財産調査をして資力を確認したいと回答してきました。
しかし、納税者の窓口になっている配偶者は、体調不良により課税庁の臨場と財産調査を受け入れる状況ではなく断ることになりました。
代わりに、現状では月々1万円の分割納付しかできない分割計画書をあらたに作成して提出し、毎月1万円ずつ納付することになりました。2011年4月末のことでした。
滞納処分の停止へ

その後、1年半ほど経った2012年11月になり、課税庁は「滞納国税等徴収のための臨場のお知らせ」を2回、納税者に送ってきました。

驚いた納税者から建設業者組合を通じて筆者に相談があり、配偶者とともに課税庁へ出向き、課税庁の意向を聞きました。 課税庁は、納税者は納税の意思はあり、かつ、今の営業状態では、残りの税金を10年以内に完納できる見込みがないことから、必要な手続きをおこなって、滞納税金の整理をおこないたいとの意向でした。

実は、筆者も、東京税財政研究センター発行の「差押え」に、徴収法第153条第1項第1号要件の充足性を判断する場合の留意事項に、「見込納付能力調査により算出した月平均支払可能資金額により毎月分割納付を継続した場合において、完納に至るまでおおむね10年程度の長期間を要すること」とのいわゆる「停止通達」(「滞納処分の停止取扱要領」、平成12年6月30日国税庁長官通達)を見て、これが使えると考え、意気込んで課税庁へ乗り込んだものでした。

しかし、こちらから言い出す前に、担当官はおそらくこの通達により、滞納処分の停止を遠回しに提案してきたものと思われました。

前記の2011年4月に提出した新たな分割納付計画書では、毎月1万円の納付しかできず、この時点での滞納税金は190万円余でしたから、完納するのに16年近くかかることになってしまったわけです。
ところが、配偶者は体調不良によってか課税庁の臨場をおそれ、なかなか臨場に応じませんでした。
そこで、筆者は担当官に納税者の事情を話し、短時間の臨場と捜索で済ませてもらうことになり、2013年2月に、筆者も立ち会いの上、事情聴取と納税者宅の内覧により「捜索調書」が作成されました。

「捜索調書謄本」には、「経年し老朽陳腐した家財道具のみで換価性のある財産を発見できなかった」と記されました。
同時に、担当官から、今後は税金を納めなくともよい旨が配偶者に言い渡されました。
「滞納処分の停止通知書」の送付をうける

その後、滞納処分の停止の通知が納税者に届いているものと思い、配偶者に連絡したところ、課税庁から書類が届いているが、こわくて開けていないとのことでした。
そこで、5月の連休に書類を持ってきてもらい開封してもらったところ、3月21日付けで、差し押さえられていた生命保険契約と電話加入権の「差押解除通知書」と「滞納処分の停止通知書」が同封されていました。処分を停止された滞納税金は167万円余でした。
この通知書を見て配偶者はやっと安堵したようでした。
おわりに

筆者の扱った事例で滞納処分の停止が実現したのはこれで2例目ですが、今回は、上記にご紹介した「差押え」が大きな力となりました。
特に、「停止通達」はこれまで見たことのない資料で、滞納問題では今後も大いに活用できるものと思います。

この6月に、東京税経新人会の城西ブロック例会で、筆者がこの事例を報告させていただきましたが、参加者でこの「停止通達」を承知していた方はおりませんでした。
この「差押え」は、滞納処分の対処法について非常にていねいに解説しており、また、資料も豊富で、筆者にとって、滞納問題では優れた書として手放せないものとなりました。

「本書は、納税者の側に寄り添って書かれた滞納対策の手引書で、『本邦初』といっても過言ではありません」と「まえがき」は強調しています。
現在、別件の滞納処分問題で公売にかけられようとしている事案も抱えていますが、「差押え」を駆使してたたかっているところです。

滞納問題は、その性質上、ボランティアでおこなうことが多いものですが、納税者のためにも、また、私たち税理士の勉強のためにもなるものと思って取り組んでいます。
筆者のホームページを見て、これまでに5件ほど滞納問題で相談がありました。
消費税が10%になったら滞納問題はもっと多くの納税者にのしかかってくることでしょう。納税者の立場にたってがんばる新人会だからこそ、納められない悪税の増税に反対し、滞納問題にとりくんでいけるのではないでしょうか。

以上
(あいだ・ひでお)

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