論文
【特集 税制改正】
> 税制改正大綱の批判的検討

2013年度税制改定批判と消費増税中止法
立正大学法学部客員教授 浦野 広明
2013年度税制「改正」大綱は2013年1月24日に閣議決定された。2012年度税制改正大綱の閣議決定は2011年12月10日だったから大幅に遅れている。

2013年度大綱は与党である自公が2013年度以降の税制をどうするかをまとめたものであり、政府は大綱にしたがって通常国会に税制改定法案を提出する。大綱は自公のまとめという形式をとっているが、実質は事務局を担当する財務官僚による財界の意向をくんだ作文である。

2012年度税制改定法案が国会に提出されたのは2012年1月27日であった。2013年税制改定法案が国会に提出されたのは、これまた大幅に遅れて2013年3月1日となった(参院に提出)。こんなやりかたでは国会での審議時間がほとんどなくなる。

国の収入および支出は、毎年、予算という形式で国会に提出され、審議をして議決することになっている。予算は、一会計年度における国の財政行為のよりどころとなる規則であり、これに従って、国の財政活動が行われる。国の会計年度は財政法11条が「国の会計年度は、毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終るものとする。」と定める。

憲法86条は予算について、「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。」と定めている。

予算は単に歳入歳出について、「おおよその見積表」ではなく、政府の財政運用の基準である。毎年度の予算が成立すると、さまざまな税法にもとづき課税・徴収がなされる。
内閣は、予算を作成して国会に提出しなければならない(憲法73条5号)。

税制改定法案を国会に提出するのを大幅に遅らせても、いつでも3党の密室談合で税制を決めようという姿勢の下には、もはや憲法が規定する予算の単年度主義をまもる気などまったくない。
事実、自公民3党は、2012年11月、密室談合でむこう3年間、特例公債を自由に発行できる公債特例法を成立させ、予算の単年度主義を定めた憲法ならびに財政法に違反する前科がある。
I 2013年度税制改定の方向

2013年度大綱および税制改定法案は、参院選挙(2013年7月)で与党が支持を得るため、消費増税を目立たないように装いながらおおむね次のように述べる。

1. 個人所得課税

(1) 富裕層への優遇税率温存
所得税の最高税率(課税所得4千万円超)を5%引き上げ45%にする。これをもって富裕層への課税強化だというが、そのようなことはない。所得税の税率は1974年には、10、12、14、16、18、21、24、27、30、34、38、42、46、50、55、60、65、70、75の各%だった。改定案は課税所得4千万円超の人はいくら所得があっても45%以上の課税をしないというもので富裕層優遇措置の延長にすぎない。

1974年当時のように億万長者に応分の負担を求める累進税率(課税対象額が増えるにともない高い税率を適用する)の強化が筋である。

2006年度税制改定により、国から地方への税源移譲名目で住民税の3段階の超過累進税率(課税所得200万円以下5%、同700万円以下10%、同700万円超13%)が廃止され一律10%(フラット化)になった。フラット化は負担能力に応じた租税を具体化する累進税率(高い所得者には高い税負担、低い所得者には低い税負担となり所得の再分配機能に適す)を止めて単一税率にすることである。

フラット化と同時に2006年度税制改定は所得税の税率を従来の4段階の累進税率(10% 37%)から6段階の累進税率(5% 40%)に変えた。政府や自治体は、この所得税の税率構造の改定を根拠に「住民税が一律10%になっても、所得税が減るから、所得税と住民税を合わせた負担額は変わらない」と説明した。住民税は前年の所得をもとに、その年(課税年)の6月 翌年5月の徴収額が決まる。多くの給与所得者は、住民税の一律10%化と住民税でも定率減税が全廃され、1 5月の負担減に比べ負担額は大きく増えた。さらに住民税の増税は住民税にもとづき算出される国民健康保険料(税)、介護保険料、保育料などの負担増をもたらす。

フラット化の先鞭を切ったのは東京都税制調査会であった。

東京都税制調査会(会長・神野直彦東大教授)は、住民税の税率を一律10%にせよと石原慎太郎知事に答申したのである(2004年11月16日)。この答申は、国から地方への「基幹税の税源移譲」を進めるとして、個人住民税(都道府県民税・市町村民税)の3段階税率を一律10%にするという内容であった。税率のフラット化が簡素な税制でよいことだなどという言葉にだまされてはいけない。フラット化とは富者大減税の一方で国民の60%を占める低所得者は一挙に2倍の負担となることをあざむくための表現として使われている。

(2)投資家優遇税制
財務省は日本版ISAの創設だと説明する。ISAだといわれても何のことか分からないが、イギリスのISA(Individual Savings Accounts)をまねたもので、日本における実態は、利子、配当、株式譲渡益にほとんど課税しない「投資家超優遇税制」である。

日本国憲法が施行された当時は利子、配当、株式譲渡益は総合課税の対象だった。総合課税はいくつかの所得があったら、それらの各種所得を一つに合算して課税する方式のことである。総合課税に反するのが分離課税。分離課税は特定の所得について他の所得と合算せずに分離して課税する。

小泉純一郎内閣の下における2003年度税制改定によって上場株式の配当や売却益所得については、他の所得と切り離して、いくら所得があっても所得税7%、住民税3%となった。

「プレジデント」誌が自社株配当長者ランキングを報じている(2007年12月3日号)。上位5人は次の各氏である(1億円未満四捨五入)。 山内溥(任天堂相談役)98億円、、柳井正(ファーストリテイリング会長)63億円、 福田吉孝(アイフル社長)60億円、 毒島邦雄(SANKYO <パチンコ機メーカー> 会長)40億円、 松井道夫(松井証券社長)34億円。

仮に山内溥氏の配当98億円を1974年当時の総合課税で計算すると所得税・住民税は91億円(98億円× 93%。実際には超過累進税率の適用となるので若干下回る)となる。それが現行分離課税の下では9億8,000万円(配当額の10%)であるから81億を超える減税である。

上場株式などの配当や売却益にかかる税率は、2013年12月31日まで10%の軽減税率が適用される。この軽減税率を2014年1月1日から20%に引き上げるとしているが、同日から新たな投資家超優遇税制を開始するとしている。投資家優遇は変わらない。なすべきは総合課税である。

(3)給与所得者大増税
所得税の累進税率区分は1974年当時19段階あった。所得税と住民税の合計最高税率は93%であった。現在の合計最高税率は50%まで落ち込んでいる。上場株式売却益や配当益に至っては分離課税で合計税率は所得の有無に関係なく10%である。法案は所得税の累進税率の回復には見向きもせず、課税所得が5,000万円を超える者について、微小な税負担を負わす子供だましをしていたが先の3党合意で削除した。

危険なのは、2013年度税制改正大綱が、給与所得控除額の大幅縮小(年収の6%)を前年度税制改正大綱に続いて強調している点である。給与所得の金額は、給与年収から給与所得控除額を差し引いて算定する。給与所得控除額は給与年収が100万円であれば65万円(65%)、500万円なら154万円(約30%)である。

給与所得控除額が給与収入の6%になると、年収500万円の場合、現行の給与所得控除額154万円から30万円(500万円×6%)に減らされる。その結果、所得は124万円(154万円ー30万円)増える。所得税・住民税の適用税率が30%の人の場合、37万円以上の増税となる。給与所得控除額の大幅縮小は給与所得者にとんでもない増税を押しつける。

給与所得控除額は、労働力商品所有者である労働者の労働力の価値を配慮したものである。労働力の価値は、 労働力の支出による消耗を補充するための労働者自身の維持費、 労働者の次世代後継者を養育することで、労働力を永続的に再生産するために要する労働者の家族の維持費、労働力の養成や教育に必要な養成費、から成る。勤労性控除額は、生存権を保障する立場からすれば、増額すべきものである。

2.資産課税

相続税は庶民増税と資産家減税を次のように進めようとしている。

(1)相続税の庶民増税
小規模宅地の評価減特例の対象を最大240?(約73坪)から最大330?(約100坪)に引き上げる。住宅地などの小規模宅地について生存権を保障するために、一定の評価減をする制度を採用している(租税特別措置法69条の4)。2010年度税制はこの小規模宅地特例の適用範囲を縮小した。売買価額そのもので宅地を評価する方向への布石であった。相続税の課税最低限である基礎控除は、現在(5千万円+ 1千万円×法定相続人数)であるが、これを(3千万円+ 600万円×法定相続人数)に縮小する。小規模宅地特例があっても都市部の路線価は高い。基礎控除の引下げは多くの都市住民の生存を脅かす。

(2)富裕層への優遇税率温存
相続税の最高税率を50%から55%にする(課税価格6億円超)。相続税の最高税率は、2002年まで10%、15%、20%、25%から出発して、各相続人の法定相続分が5千万円超 1億円以下= 30%、1億円超 2億円以下= 40%、2億円超 4億円以下= 50%、4億円超 20億円以下= 60%、20億円超 = 70%だった。

相続税の税率は、2003年からは10%からはじまり、5千万円超 1億円以下= 30%、1億円超 3億円以下= 40%、3億円超=50%となった。20億円超の相続税率が70%から50%へと20%もの巨額減税をしたのである。最高税率の引き上げといっても所得税の引き上げと同様に富裕層優遇は変わらない。

(3)贈与税の減税
贈与税がなければ生前贈与によって相続税を免れることができる。それを防ぐための税が贈与税である。この贈与税の目的をないがしろにする資産家優遇の贈与税減税を進める。

1,500万円の教育資金の一括贈与非課税
親や祖父母などが30歳未満の子や孫の教育資金に充てるために金融機関に信託等をした場合には、信託受益権の価格又は拠出された金銭等の額のうち贈与をうける者1人あたりにつき1,500万円までは贈与税を非課税とする。

親や祖父母に資力があれば教育が受けられる。だがもう一方ではA さんのような例がある。鳥取県の県立高校生A さんは、親が貧しいため、高校の授業料は免除された。しかし、学校徴収金は払えないままだった。高校側はA さんに働いて払えと迫り、コンビニでアルバイトを始めたA さんの貯金通帳とカードを強制的にとりあげた。そしてバイト代が振り込まれると、預金を預かったカードから引き出し未納徴収金に充てた。

東京大学小林雅之教授は「スウェーデンでは、高等教育を公財政で支えるという理念が貫徹している点に深い感銘を受けた。14の国立大学だけでなく、3つの私立大学も含めて、大学の授業料は無償であり、いかなる追加の学費も徴収されない」と述べる(日本私立大学協会『アルカディア学報』No. 273)。

憲法は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」とうたう(26条1項)。この権利は人が生存するための基本的人権(文化的生存権)である。教育を受けて、働く機会を得ることは健康で文化的な生活を営む前提条件である。

相続時精算課税制度の拡大
相続時精算課税制度は、65歳以上の親から20歳以上の子への生前贈与について利用できる制度で、2,500万円までの贈与には贈与税をかけない。その後相続時にその贈与財産とその他の相続財産を合計した価額を基に計算した相続税額から、既に支払った贈与税額を精算する。改定では贈与する親の年齢を65歳から60歳に引下げるとしている。

3.法人課税

次のように大企業には手厚い優遇策をとる。

(1)住宅・自動車産業「救援」
消費増税法が施行されたら、消費税は2014年4月に8%、2015年10月に10%へ引き上げられる。増税による住宅産業の売上減に備えて、2013年末に終了予定の個人の住宅ローン減税を4年延長し、一般住宅の最高減税額を年20万円から年40万円に引上げる。減税額に及ばない人には現金を配ることを2013年夏までに決める。住宅産業救済策である。

自動車産業の売上減には自動車取得税を2014年4月に減税し、2015年10月に廃止して対応する。

(2)大企業向の大減税
次の大企業向減税を行う。 機械などの生産設備を10%増やすと、その取得価額の30%の特別償却か3%の税額控除をする。 雇用・賃上げにより人件費を5%以上増やせば、増やした額の10%を法人税額から差し引く。 試験研究を行った場合の法人税額の割引を20%から30%に引き上げる。

法人税率は、1984年当時は43.3%であったが、年々下がり、2011年度税制改定では25.5%まで下げられている。

日本の法人税は25.5%の比例税率(中小法人は800万円までの所得について軽減)を採用しており累進構造となっていない。比例税率は所得の大小に関係なく一律の税率が適用となる。法人税の課税所得が1億円でも25.5%、100億円の課税所得でも25.5%であり負担能力を考えていない。比例税率(単一税率)に加え巨大企業は数多くの企業優遇制度(引当金制度、準備金制度、連結納税制度、外国税額控除など)によって、実際の税負担は表面的な税率を大幅に下回っている。負担能力に応じた法人税率は少なくとも、所得税と同様5%から45%までの7段階程度の累進税率にすべきである。

税率の引き下げは中小企業が要求すべきものであって、巨額所得については現行より高い超過累進税率にすべきである。アメリカでは、35%の基本税率の下で15%、25%、34%の軽減税率を有する超過累進構造を採用し中小法人の税負担の軽減をしている。

4.デフレ脱却

安倍内閣はデフレ対策に全力で取り組むとしている。インフレを招く超金融緩和政策は国民政策に多大な影響を与える。

給料は1997年を100%とすると2012年には85%にまで落ち込んでいる。消費税が10%になれれば、消費税負担は25兆円になる。消費増税の強行は内需を壊して全体の税収をも減らし、財政はますます悪化する。消費税が3%から5%に上がった1997年度は、その後の景気悪化と大企業減税などで全体の税収は増税前よりも減った。

消費増税のさらなる追い討ちは、安倍内閣のインフレ政策(物価上昇率2%)である。

日本の年間家計消費支出は284兆円(2007年度、内閣府の国民生活白書)、個人金融資産(貯蓄)は1439兆円(2009年9月末現在、日本銀行発表)である。物価が2%上がれば、消費支出負担が約5兆7,000億円増え、貯蓄の価値が約28兆8,000億円低下する。合わせて約35兆円の国民負担をもたらす。この35兆円は消費税14%分にあたる。これがアベノミクス(安倍内閣の経済政策)の一端である安倍インフレ政策の実態である。

財政政策において欠かせないのが、「所得と富の再分配」である。所得の多い人ほど高率の税金を納める累進課税制度を採用して、分配の平等化をはかる。また、所得分配が不平等となる原因の一つは、利子・配当・地代のような所得を生む財産が不平等に所有されていることにある。そこで、相続税を課すことによって不平等を是正するのである。

5.番号法案の提出

個人識別番号法案(正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」が、税制改定関連法案として、国会に提出された(2013年3月1日)。

日本経済新聞は同法案のポイントとして次の事項を掲げている(2013年3月2日)。

「〇住民票コードから国民一人ひとりに番号をつける 〇番号を本人に知らせたうえ、番号情報を入れた顔写真付きのICカードを配る 〇納税や年金の給付申請など当面は行政手続きに利用 〇2015年に番号を通知。16年1月から利用開始 〇17年1月から国税庁や日本年金機構などの間で個人データを交換 〇17年7月から地方自治体も情報交換に参加 〇番号を扱う行政機関を監視監督する『特定個人情報保護委員会』を設置 〇法施行後3年後をめどに番号の利用範囲の拡大を検討」

同日付の日本経済新聞は、「共通番号は、消費増税時の低所得者対策の一つとして検討されている給付付き税額控除に欠かせない仕組みだ」と述べる。すでに同紙は、給付つき税額控除について、「政府・民主党は25日、2014年4月に消費税率を8%に引上げる際に、低所得者層を中心に現金を支給する検討に入った。金額は1人当たり年1万円とする案が有力だ。低所得者ほど負担増とされる『逆進性』に配慮する姿勢を示し、税率引き上げへの反発を和らげる狙いだ」と報じている(2012年1月26日)。年間に1万円の給付で何十倍もの増税を図るというのである。
II 消費税率の引上の中止

消費税の税率引き上げをねらう「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」(消費増税法)をはじめとする「社会保障と税一体関連法案」(一体関連法)が2012年8月10日、成立した。
改定消費税法と改定地方税法の実施を許せば、5%の消費税率(消費税4%+地方消費税1%)は、2014年4月1日から8%、2015年10月1日から10%へと段階的に上がることになる。
消費税反対闘争の歴史に学び、新たな運動を構築する時を迎えている。

1.わが国における消費税闘争

わが国における消費税(一般消費税)はつぎのような歴史をたどっている。

 1937年に戦費調達を目的に案出された取引高税は議会に上程されることなく消滅。

 1948年に米軍占領下で導入された取引高税(各取引段階で1%の税率)は、小売段階での転嫁が難しく商工業者から猛反発を受け、49年の総選挙で廃止を求めた日本共産党が4議席から35議席に躍進し1年4か月で廃止。

 1950年のシャウプ税制において、一般消費税ではないが、企業税として事業税に代わる「付加価値税」が府県税として法制化されたが、一度も実施されないで、54年に法律から削除。

 1968年から71年にかけて政府税調は、EC型付加価値税を検討したが国民の猛反対によって国会提出を断念。

 大平正芳内閣は1979年度税制改正大綱で一般消費税の導入を決定し、総選挙(同年10月)で「一般消費税導入」をとなえた。総選挙の結果、自民党が惨敗し、一方で日本共産党・革新共同が41議席に躍進し、導入を断念。

 1986年7月の衆参同時選挙において自民党中曾根内閣は「大型間接税はやらない」と公約したが、同年12月「売上税」導入を決めた。反発は大きく87年4月の統一地方選挙で自民党が敗北、5月に廃案。

このように現行の消費税を除けば、導入・定着に失敗し続けているのが消費税である。
憲法が要請する応能負担原則と税の使途に関する理解が深まるなら、増税勢力の野望は断たれる。それが消費税反対運動の示す歴史の教訓である。

2.5%への増税は本来無効

1989年に導入された消費税は、1997年4月1日から5%に引き上げられた(内1%は地方消費税)。消費税率の引き上げは、村山富市内閣(自民、社会、さきがけ3党連立)が、「消費税改定法」を1994年11月末に成立させたことが発端となった。この消費税改定法の附則25条は、「消費税の税率については・・・平成8年(1996年)9月30日までに所要の措置を講ずるものとする」と規定していた。附則25条は消費税率を「引き上げる」とは一言もいっていなかったのである。橋本龍太郎内閣が実施した1997年4月1日からの税率引き上げは、「総合的に勘案して検討」するとした法的義務を尽くしておらず、憲法の租税法律主義(84条、30条)や適正手続(31条)に反し、本来無効である。したがって、政府には、消費税率を直ちに3%に戻す義務がある。

3.消費税増税論は虚構

消費税増税論者の増税理由はことごとく虚構である。何故ならば、どう言おうとも消費税は逆進性の税であり、応能原則に違反しているからである。

消費税は取引の各段階で課税され、消費者が消費税を負担する。消費者が負担した消費税は事業者(消費税法上の納税義務者)が納税をする。

消費税について政府は、「事業者の売上に対する消費税額分は、販売する物品やサービスの価格に上乗せされて転嫁され、最終的には消費者が負担する」と説明する。しかし現実には、力の強い大企業は消費税転嫁を理由に価格をつり上げ、生産費(賃金、下請単価など)の引き下げを行い、より多くの利潤を確保する。消費税をいくら転嫁しても、法定税率の範囲内でしか消費税はかからない。消費税は大企業にとってはちっとも腹が痛まないどころか、多くの利潤さえ生む。一方で力の弱い小企業は消費税の転嫁などできなく、やがては滞納し倒産・廃業に追いやられる。

また、消費者は諸生活物資・生活手段を買わなければ生きることができない。生活物資・生活手段の多くは大企業の製品である。大企業は生産と販売を独占する地位にあるから、より大きな利潤を得るための価格設定をする。消費者は、独占市場で一方的に高い値段をつけられた生活物資が生活苦から買えなくなれば、たちまち生活に困る。それが高じれば餓死という悲惨な状況さえ生じるのである。

経済の論理にしたがえば、競争市場の勝利者が多くの富を蓄積し、敗北者が貧しいのは「正義」に合致している。経済の論理が生活を保障するどころか、生活を破壊することが明らかになるに伴って、これを制約する社会的正義の観念が一般化し、社会権という考えが登場した。

社会権は、個人が社会の中で生存し、人間らしい生活を維持、発展させるために、自由な社会に特有な弱肉強食の弊害を除去することを国家に対して求める権利の総称である。

憲法の保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(生存権。25条1項)、教育を受ける権利(文化的生存権。26条)、勤労の権利(27条)、労働基本権(28条)などがこれに属する。社会権という場合、生活する諸個人が権利主体であるから、その義務主体は「社会」である。制度的には、社会= 公共を制度上代表する国家に対する権利として法律的に構成されるが、その実質的内容は、公の担い手としての社会となる。個人がその生活保障について、社会=公共に対して福祉・社会保障のサービスを請求する権利を有することが社会権の中心的意義である。

一体改革は、応能原則と社会権を投げ捨てる第2次大戦後最悪の改悪である。改悪をはね返す運動の高まりが増税勢力を追い込んでいる。明るい兆しを感じる。

4.消費増税法附則18条(消費税率の引上げに当たっての措置)

消費増税法附則18条は次のような定めをしている。この規定にのっとり総合的に考えれば増税は停止しなければならない。

 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度〈2011年年度〉から平成32年度(2020年度)までの平均において名目の経済成長率で3パーセント程度かつ実質の経済成長率で2パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

 税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。

 この法律の公布後、消費税の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条及び第3条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

5. 消費税の増税実施中止法

憲法第84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定している。消費税の増税を実施させないためには、法律を作らなければならない。

次の「消費税率の引上げ中止法案」を国会で決めれば増税中止はできるのである。

租税特別措置法第…条(消費税率の引上げの停止)
 平成26年4月1日以後に施行される消費税率の引上げに関する消費税法第2条および第3条については、当分の間、この規定を適用しない。

労働者、小企業者、年金生活者、ワーキングプア層に苦しい生活を強いる消費税の増税や社会保障の切り捨ては、耐え忍ぶだけでは打開できない。勤労者や年金生活者が納税者の権利(応能原則・全ての税が福祉社会保障目的税)を実現するために、自らの階層的利益の代弁者を国会に送り込むために最大限の活動をしなければならないことは自明である。

納税者の権利をつかみとる思想こそが憲法第13条の「幸福追求に対する国民の権利」である。7月に迫った参院選挙の結果は消費増税中止法の成立に大きな影響を与える。

(うらの・ひろあき:東京会)

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