論文
> 納税者の権利の憲法的意義と質問検査権(骨子)

「改正」国税通則法と税務調査の変化
東京税財政研究センター理事長 永沢 晃
1.はじめに

2011年11月30日国税通則法の一部改正が成立し、 更正の請求期間の5年への伸長、 すべての処分に理由付記の義務化、 調査手続きの一部明確化等が図られました。さらに、その法令解釈通達「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達」、事務運営指針通達「調査手続きの実施にあたっての基本的な考え方について」が2011年9月12日付で公表されました。これらに基づく実地調査が2013年1月1日から本格実地されます。

課税庁はこの法「改正」について、「調査手続きに関する従来の運用上の取り扱いを法令上明確化するものであり、基本的には従来と比べて大きく変化することはない」と表明するとともに、「通達の運用にあたっては、調査手続きの透明性及び納税者の予見可能性を高め、調査にあたっては納税者の協力を促すことで、より円滑かつ効果的な調査の実施と申告納税制度の一層の充実・・・・・・納税者に対する説明責任を強化する観点から行われたことを踏まえ、法定化された調査手続きを遵守するとともに、調査はその公益的必要性と納税者の私的利益との衡量において社会通念上相当と認められた範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることを十分認識し、その適正な遂行に努められたい。」と職員に指示しています。

通達はあくまでも行政内部機関における指針であり、国民の権利・義務を直接拘束するものでではないとされておりますが、税務職員はその通達に基づき税務調査を実施することになり、結果として国民・納税者に多くの影響を及ぼすことになります。

ここでは、「改正」国税通則法、通達、事務運営指針をもとに税務調査がどう変化するのかを東京税財政研究センターが8月と10月に行ったシンポジウム・公開講座の資料をもとに報告します。
2.「改正」法はどのように運用されるのか

通達、事務運営指針から実地調査を受けるにあたり、私たちが特に重視すべきと思われる点について列記します。

 「調査は、納税者の理解と協力と得て行う。」ことを通達・指針で強調しています。

 納税者に対する行為は、「調査」か「行政指導」かを明示して行う。

 事前通知は、「調査開始日までに相当の時間的余裕をおいて」行う。その場合、事前通知に「先立って」都合を聴取して「調査日程を調整の上、事前通知すべき調査日時を決定する」。

 無予告調査を実施しようとする場合は、「個々の納税者ごとに」「事案の事実関係に即してその適法性を適切に判断する」。

* 解釈通達4-10(1)「調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の範囲に、「事前通知することにより、税務代理人以外の第三者が調査立会いを求め、それにより調査の適正な遂行に支障を及ぼすことが合理的に推認される場合」があげられているが、納税者本人が第三者の立会いを求めることには触れていない。

 無予告調査を行う場合も、「臨場後すみやかに」、日時・場所以外の事前通知事項を通知する。

 代理人や従業員など納税者本人以外に質問検査等を行う場合は、あらかじめ納税者本人の「理解と協力を得る」。

 帳簿書類等の提示・提出を求める場合は、納税者本人の「承諾を得て行う」。

 提示・提出要求に当たっては、医師等の守秘義務規定にも「十分留意する」。

 提出された物件等を留置くに当たっては、「やむを得ず留め置く必要がある場合」や納税者の「負担軽減の観点から留置きが合理的と認められる場合」に、納税者本人の「承諾を得て実施する」。

 留め置かれた帳簿書類等の返還の求めがあった場合は、「特段の支障がない限り速やかに返還する」。なお、「引き続き留め置く必要があり、返還の求めに応じることができない場合には、その旨の理由を説明するとともに、不服申立に係る教示を行う」。

⇒ 「処分」に対しては不服申立ができる(行政不服審査法)。ここでいう処分とは、「公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するものが含まれる」(行政不服審査法2条1項)

11 反面調査は、「その必要性と反面先への事前連絡の適否を十分検討する」。実施に当たっては、「反面調査である旨を取引先等に明示した上で実施する」。

12 実地調査以外の調査の結果、申告是認となる場合には「通知は行わないが」「調査が終了した旨を口頭により当該納税義務者に連絡する」。

13 調査結果の内容説明に当たっては、「原則として口頭により説明する」が、「必要に応じ、非違の項目や金額を整理した資料など参考となる資料を示すなど」する。納付すべき税額、加算税と延滞税についても説明するとともに、「調査結果の内容説明等をもって原則として一連の調査手続きが終了する旨を説明する」。

14 税務代理人に対してのみ調査結果の内容説明等を行う場合は、「納税義務者の同意の有無の確認」を行う。その方法は、「直接同意の意思を確認する方法」か、「書面の提出を求める方法」のいずれかにより行う。なお、実地の調査以外の調査において同意の意思の確認が難しい場合は、税務代理人からの「委嘱されている旨の申立てがあることをもって」説明等を行うことができる。

15 再調査の判定に当たって、実地の調査以外の調査の結果、申告是認となった場合においても、「法改正の趣旨を踏まえ、その必要性を十分検討した上で、実施する」。

16 処分の理由附記に当たっては、「処分の適法性を担保するとともに処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を図るとの理由附記が求められる趣旨が確保されるよう、適切にこれを行う」。
3.先行試行調査に見る実地調査

「改正法」に基づく調査は2013年1月からですが、2012年4月から一部で「先行試行調査」、10月からは全国で「試行調査」が始まっています。
先行試行調査の通達(平24.3.9)では以下のような手続きで実地調査が進められています。

 調査の各段階において克明な「チェックシート」や「各種文書」の作成と統括官・副署長等の確認・決済。(別紙1-1 1-5)
 全調査「審理担当」の決済、重要事項については筆頭統括官、副署長、署長の決済。
 調査準備から調査終了までの各種文書の作成。
(イ)調査手続きチェック表(事前通知用・反面調査用・別紙2-1 2-3)
(ロ)再調査の適否判定(別紙3)
(ハ)無予告調査の適否判定(別紙4-1 4-2)
(ニ)事前通知事項以外の事項の調査記録
(ホ)調査記録書の作成(別紙5)
(ヘ)帳簿書類等の預かり(別紙6)・留め置き手続き書
(ト)争点整理表の作成(別紙7)
(チ)調査結果の説明書(別紙8-1 8-4)
(リ)理由付記した書面の作成

法令解釈通達では現行の調査権限の維持・拡大を狙った部分も見受けられますが、試行による実地調査の流れをみると、 調査手続きチェックシート、再調査・無予告の適否判定、調査経過記録書、争点整理表、調査結果説明書等を作成する。 各段階において統括官の確認と決済。重要事項については審理担当、筆頭統括官、副署長、署長の決済等々、調査官は調査の各段階で克明なチェックシートを作成するなど手続きに「瑕疵」がないよう慎重な取り扱いをしようとしている姿勢がうかがえます。

また、実地要領では 法定化されなかった「反面調査」においてもチェックシートが作成されること。 再調査の対象は主に過去の調査事積が対象であること。 無予告調査の適否判断は「具体性」が必要。 留置きはコピーが前提になっていること。「調査結果の説明書」は作成するが、納税者には交付せず把握した非違事項を説明し、納税者の主張および修正申告の意思確認をする、などとなっています。

課税庁の恣意的判断や「裁量権」をある程度制限しているようにも受け取れます。実地要領を忠実に行えば、調査日数は大幅に増加するものと思われますが、現在行われている調査の計画では、調査件数の削減は行われていないことや所得特官の特別調査で12程度の調査日数の増加しか見込まれていないことなどをみると、「慎重な取り扱い」がどこまで進むか疑問です。

納税者や税理士が「法令順守」のために的確に指摘し、発言していくことがますます重要になってきます。
4.税理士の責任

課税庁は組織を挙げて「改正法」に対する対応を研修・試行していますが、納税者団体や税理士業界では対策をとっている形跡はあまり見られません。

調査着手から終了までの間、「事前通知」「無予告調査への対応」「帳簿書類の提出・留め置き」「調査の争点整理」「調査結果の説明」「修正をするか更正処分かの判断」等々、税理士がしっかり対応しなければ専門家責任を問われる場面が従来よりも多くなりと思われます。クライアントへの指導強化と税理士自身の研修・研究が急務となっています。

(ながさわ・あきら:東京会)

▲上に戻る