論文

> 社会保障と税の一体改革に関する公述
「一体改革」と大企業の負担
内部留保課税の提案
埼玉会 菅  隆徳
はじめに

日本で消費税が導入されてから今年で23年です。その累計額は地方分もあわせて238兆円にもなりました。しかしその同じ時期に法人三税(法人税、法人住民税、法人事業税)は、最高時と比べて累計で220兆円も減ってしまいました。その全部が減税というわけではなく、景気悪化による税収減も含まれています税経新報12.03・04.598号が、いずれにせよ、消費税のほとんどが減った法人三税の穴埋めに使われてしまったことは間違いありません。「社会保障と税の一体改革」「消費税の社会保障目的税化」で、大企業のさらなる法人税減税と社会保障負担の軽減がねらわれています。(1) 一方大企業には大企業減税による266兆円(2010年度)の内部留保が景気後退の中でも累増されています。(図


社会保障も税制改革も、庶民の負担増ではなく、大企業の、能力に応じた公平な負担が求められています。

昨年成立した震災増税では、復興特別所得税の増税(2013年1月から25年間、税率2.1%上乗せ)、個人住民税均等割りの増税(2014年6月から10年間、年1000円増額)が決まっています。全体で8.1兆円の庶民増税です。

一方で復興特別法人税は、法人実効税率を5%下げるので、法人税は実質減税。3年経過後は毎年7800億円、20年で15兆6000億円もの減税が続きます。大企業減税、庶民増税、この納得のいかない矛盾を国民はいつまでも許さないでしょう。本稿では、社会保障と大企業負担の関係、大企業減税の歴史的経過について解明します。つづいて庶民増税の一方で累増する大企業の内部留保について、増加要因の歴史的分析と課税のあり方を検討し、大企業内部留保課税の提案を行います。
(1)消費税が社会保障を支えているわけではない

野田政権は消費税をいったん「社会保障目的税」に衣替えし、その上で15年10月には消費税率を10%に引き上げるとしています。消費税の社会保障目的税化とは、社会保障に必要な公金の全額を主に消費税からまかなうことを意味します。そうすると二つのことが同時に起こります。一つは、消費税の財源はもっぱら社会保障に使用され、他の予算にはまわされないことです。もう一つは、このことの裏返しとして、社会保障には他の財源(所得税や法人税等)は使われないということです。消費税がもっぱら社会保障に使われるということは、国民を消費税増税の容認に誘導する効果があります。

なぜなら、現代日本には、社会保障を支えるためであれば消費税増税もやむをえないと思う人たちがかなり多くいるからです。しかし、消費税の社会保障目的税化には、消費税以外の他の所得税等はもはや社会保障には使われなくなると言う、第二の側面があることを忘れてはなりません。社会保障目的税化には、社会保障と消費税とをあたかも二人三脚の関係にするように、固く結びつける役割があります。ここでは、大企業や富裕層から吸い上げた税金が社会保障にまわされる回路が断たれてしまいます。(二宮厚美「社会保障の充実と財源・税制のあり方」『学習の友』2012春闘別冊95頁)財界が「社会保障と税の一体改革」を推進する理由がここにあります。

ところで各国の社会保障財源はどうなっているのでしょうか。(図)は大門実紀史氏がOECD資料から計算したものです。ここから次のことがわかります。ヨーロッパは消費税率が高いから社会保障が充実しているといいますが、消費税が財源に占める割合は1割程度で社会保障の主要な財源になっているわけではありません。日本の特徴は、本人保険料が高く、事業主負担、消費税以外の税が低いことです。ヨーロッパの社会保障が充実しているのは、消費税が高いからではなく、企業がきちんと社会保障の財源を負担しているからです。(2)日本では企業の負担がかなり低いのです。社会保障のためといって消費税を増税し、法人税を減税すれば、大企業の負担が減り、庶民増税になるということは明らかです。このような実態から考えると「消費税だけで社会保障を支えていく」という「一体改革」「社会保障目的税化」の考えが、大企業の負担軽減、庶民増税のための方便であることがよくわかります。
(2)大企業の内部留保と大企業減税

利益があがっても法人税収が増えない
野田首相は消費税を安定した財源といいながら、一方で大企業に減税をして、それが莫大な財政の減収をもたらしていることに触れません。1989年の消費税導入以来、日本では個人所得税では最高税率の引下げをはじめとする累進性の緩和(フラット化)、法人税では減税、金融資産所得では優遇措置がすすめられ、少々の経済成長では税収は伸びないという構造がつくられてきました。(図 )は政府税制調査会の資料です。法人税の税率は89年の税制抜本改革の一環として、当時の40%から37.5%に引き下げられましたが、その後、98年、99年の改正によって34.5%、30.%へと連続的に引き下げられ、今日に至っています。(2012年4月以降25.5%)その結果、税率引き下げ前の80年代に20兆円近くあった法人税の税収は、最近では6兆円から7兆円のレベルに落ち込んでいます。これは10兆円台に乗せた消費税の税収をも下回る状況です。

法人税収は景気に左右され、好況時には企業の収益とともに税収も上がる一方、不況時には収益とともに税収も下がるという循環があります。ところが2000年以降は企業がかなり高収益を上げた時期も、税収はそれほど上がらず、企業収益が下がると税収が極端に下がるという傾向が表れています。
たとえば1989年には企業利潤(税引き前当期純利益)が38.9兆円であったのに対して、19.0兆円の法人税収がありましたが、2006年には企業利潤49.0兆円に対して、法人税収はわずか14.9兆円です。一方1993年には企業利潤が18.3兆円に下落したときでも、12.1兆円の法人税収がありましたが、企業利潤が22.6兆円に下落した2008年には、法人税収は6.4兆円と急減少しています。法人税率の大幅引下げと大企業優遇税制がその原因です。(合田寛『格差社会と大増税』2011年 学習の友社 67頁)

法人税収は下がっても内部留保は増加
法人税収の大幅な落ち込みの一方、大企業の内部留保は景気後退でも増加しています。
(図 )筆者は先に、1998年から2008年に100兆円増加した大企業(資本金10億円以上)の内部留保のうち、51兆円は、この時期の大企業減税(優遇税制と法人税率引下げ)によるものであると指摘しました。(菅隆徳「税制改正大綱と大企業減税」『税制研究』第59号2011年)法人税の減税によって企業の負担が軽減することになっても、それによって生まれた余裕資金が設備投資に向けられ、生産と雇用の拡大につながるのであれば、まったく無意味なことではありません。しかし、余裕資金が企業に溜め込まれるだけで、投資にも雇用にもつながらないとなると、法人税減税は無意味であるばかりか、日本経済の再生にとっても有害と言わなければなりません。大企業には法人税減税ではなく、支払能力に応じた、応分の税負担を要求すべきです。(3)そこで、大企業の内部留保について、ここで、立ち入って検討をすすめます。
(3)内部留保とは何か?

まず内部留保とは何かということです。内部留保とは企業が稼得した純利益を企業内部に蓄積することをいいます。またそれ以外にも、引当金計上による利益の費用化部分や、株式発行による資本プレミアム、そして保有資産の含み益などの隠れた利益留保も含んでいます。

一般に内部留保は、利益のうち、配当や役員賞与などで流出せずに、企業に留保した部分の累計額です。具体的には、貸借対照表上の「純資産の部」にある「利益剰余金」(利益準備金+その他利益剰余金)をいいます。これは、公表された財務諸表に示されていることから、公表内部留保とも呼ばれ、もっとも限定した内部留保であることから「狭義の内部留保」といわれます。

しかし内部留保は「狭義の内部留保」にとどまるものではなく隠れた利益留保も含んでいます。この実質内部留保には「引当金」「特別法上の準備金」「資本剰余金」(4) があります。これらを含めて「広義の内部留保」といわれます。
「引当金」や「特別法上の準備金」は将来の支出に備えるものとして計上されますが、費用として計上されても現金では支出されないので、実際には資金の留保になっています。「資本準備金」は株式発行によって得た株主からの出資金のうち、資本金にしなかった残りの部分です。(株式払い込み剰余金など資本プレミアム)「その他資本剰余金」は会社法で定める資本準備金以外の剰余金で、資本金の減資差益や自己株式の処分をした場合等に生じる差益などです。「資本準備金」も「その他資本剰余金」も、その稼得にあたって、法人税は課税されません。

大企業の内部留保が266兆円にも達したといわれるときの内部留保は、この広義の内部留保をいっています。(財務省の「法人企業統計」資本金10億円以上の金融・保険を除く全企業約5000社)なお、「広義の内部留保」には、減価償却費の過大償却部分や株や土地の含み益も含まれますが、これらは具体的な金額を計算することが難しいことから、内部留保の金額からはずしています。
(4)内部留保はどのようにしてため込まれたのか

コスト削減
日本企業は、儲けた利益を、内部留保として企業内にため込んできましたが、1998年度をターニングポイントとして、急激に内部留保を積み増しするようになりました。1998年以前の10年間は、1年間の内部留保平均積み増し額は5兆円でした。(財務省「法人企業統計」)ところが1998年以後の11年間では、1年間に21兆円も増えたのです。4倍以上のペースで内部留保が積み増しされたのです。

このような内部留保の異常な積み増しはどうして可能になったのでしょうか。売上高を伸ばして、それにともなって利益を増やして、内部留保をためたのでしょうか。そうではありません。日本企業の売上高は、1998年度は1381兆円でしたが、2009年度は1368兆円でしかありません。売上高は減少傾向にあり、2009年度は98年度より13兆円も減らしているのです。(図 は労働運動総合研究所が財務省「法人企業統計」から作成したものです。
売上高も増えていないのに、高利益をあげ、内部留保を増やすことができたのはなぜでしょうか。その最大の要因は、コスト削減です。賃金の切り下げや派遣労働者など非正規労働者の大量雇用と解雇など労働者の犠牲、下請け単価の切り下げなどによる中小企業への犠牲転嫁の上に、積み増しされてきたのです。(図)「大企業における内部留保増大の経緯と賃金の増減」を見れば明らかです。

賃金は1998年の222兆円から2009年には192兆円へと30兆円も減っています。これに加えて、非正規労働者の大量活用は、コスト削減の大きな要因となりました。非正規労働者は、1998年の1173万人から2009年には1721万人と548万人も増加しました。雇用者に占める非正規労働者の割合は、31.5%にもなっています。1998年は21.9%だったから10ポイント近くも増えたことになります。非正規労働者の賃金は正規労働者のほぼ5から6割ですから、正規労働者に代替して非正規労働者を活用すれば、それだけで企業は“ 濡れ手に粟” の大もうけをすることができます。1998年に改悪された労働者派遣法は、そうした非正規労働者を大量に活用する道を国の制度として開いたのです。日本の企業にとって、それが、売上が伸びなくても高利益を上げる大きな力になりました。

下請企業に対しても一方的単価切捨てを迫ってきました。たとえば、トヨタは関連企業に対して、半期に1回のペースで部品の購買価額の改定(平均1.5%程度の引下げ)を強要しています。日本企業はこのようにして、売上高が伸びなくても、コスト削減によって高利益を上げることができる体制をつくりあげたのです。(藤田宏「内部留保をめぐるいくつかの議論」労働運動総合研究所・労働者状態統計分析研究部会、2011年6月8日論文より)
大企業減税
(i)内部留保の増加要因の第二は、消費税導入以降の法人税率の引下げと大企業優遇税制によって、大企業の税金が大幅に減り、資金の社外流出を防止して、社内に蓄積されたことです。

法人税率は消費税導入前の42%から30%まで、大幅に引き下げられています。またさまざまな大企業優遇税制によって、大企業の税負担は、法人実効税率40%(表面税率)の時代でも、実質30%程度となっていました。不公平な税制が大企業の内部留保を激増させているのです。
(図 )は、資本金10億円以上の大企業の内部留保金額の推移を表にしたものです。これによれば、1998年から2008年の10年間で大企業の内部留保は98兆円増加したことがわかります。その内訳は資本剰余金41兆円、利益剰余金53兆円、引当金等4兆円でした。資本剰余金は、株式払い込み剰余金などですから、その全額が、法人税は課税されていません。利益剰余金に関して、筆者は前述のように、この期間の大企業減税額の計算を行いました。この結果、この10年間の大企業減税の内訳は以下の通りでした。

 1)税率引き下げによるもの
    31兆円(法人税率42%→ 30%)
 2)受取配当益金不算入
    12兆円   31兆円(法人税率42‰ → 30‰)
 3)研究開発費減税
    2兆円
 4)連結納税減税
    3兆円
 5)外国税額控除
    2兆円
 合計 50兆円
(引当金、準備金の減税額、資本剰余金のプレミアムの非課税は除く)

ここで明らかなことは、利益剰余金の増加要因のほとんどは、大企業減税による社外流出の防止による蓄積だということです。

(ii)トヨタなどの内部留保増とその原因
個別の大企業の内部留保増と大企業減税との関係はどうなっているのでしょうか。筆者はキャノン、トヨタ、三菱商事の3社について、各社の有価証券報告書から、直近5年間の状況を分析しました。(図 参照)
各社の法人実効税率は、表面税率40%にもかかわらず、キャノン(33.6%)、トヨタ(29.2%)、三菱商事(13.3%)といずれも各種の大企業優遇税制によって、大幅に低下しています。大企業の実際の税負担は表面税率よりもずっと低いのです。「日本は世界一法人税が高い」といって、法人税減税を強行した、財界や民主党、自民党のごまかしは明らかです。

大企業優遇税制とあわせて、消費税導入後の法人税率の大幅引下げが、各社に莫大な減税をもたらしています。税率引き下げによりキャノンは5年間で2388億円、トヨタは7249億円の税金の社外流出を防ぎ、内部留保してきたのです。

大企業優遇税制と法人税率引下げが大企業。
減税の総額になるのですが、その金額は5年間の利益剰余金(狭義の内部留保)の増額の50%をはるかに超え、3社の単純平均では、91.1%に達しています。内部留保増の大半は、大企業減税によるものといえます。

大企業減税により企業は資金の社外流出を防ぎ、税金を支払った後に残った利益の中から株主に配当金を払い、それでも社内に残ったお金が利益剰余金です。資本金10億円以上の金融・保険業を除く全産業の大企業の利益剰余金は141兆円に達します(2010年)。2011年度の国の当初予算が92.4兆円ですから、いかに大きな金額かわかります。ここでも明らかなことは、利益剰余金の増加要因のほとんどは、大企業減税による社外流出の防止による蓄積だということです。
(5)大企業の財産課税について

北野弘久教授は大企業優遇税制(法人税が累進税率になっていない、配当をめぐる負担調整措置、租税特別措置法による隠れた補助金など)の現状を踏まえて、次のように指摘されています。

「現代社会における立法過程、行政過程及び司法過程における多様な租税回避現象をふまえて、たとえば筆者の法人財産課税論が構築・展開されている。すなわちとりわけ大企業については「所得」に表現されない担税力は結局「財産」に表現される。現代における企業の担税力を構造的に公正にとらえるためには、法人税等を補完するものとして法人財産税が重要な意味を持つことになる。このように現代企業課税論における応能負担原則の具体化のためには、税法学的にはとりわけて大企業について「所得」課税と「財産」課税とがセットにして論ぜられる必要があるわけである。」(北野弘久『現代企業税法論』1994年 岩波書店 14頁)

すなわち、大企業優遇税制を通じて「所得」に表現されない担税力が大企業に蓄積されており、これに課税することが、大企業に対する課税の公正さを担保することになると述べられているのです。

「内部留保はどのようにため込まれたのか」の項で分析したように、大企業減税と内部留保増の関係を見ると、まさに、大企業課税の公正さを担保するために、大企業に内部留保課税を行うことが必要だと言えるのではないでしょうか。

大企業減税は日本の財政に大穴を空けてきました。日本の財政危機をつくりだした要因のひとつです。不公平な大企業優遇税制により、税金としての国庫収入が減り、その分企業内部に蓄積されたのです。日本の財政危機打開のためには、税金の大原則である、応能負担原則を大企業に適用し、応分の負担を求めることが強く要請されます。それはきわめて今日的課題といえるのではないでしょうか。

同族会社の留保金課税との関係

中小企業に同族会社の留保金課税があるように、大企業の留保金にも課税すべきだという意見があります。筆者は同族会社の留保金課税と大企業の内部留保課税はまったく別のものだと考えています。同族会社の留保金課税は、法人擬制説の立場に立って、法人が所得を配当せずに内部に留保するということは、株主である個人に対する所得税の課税が延期される、そのため、その延期に対応して利子に相当する課税が必要というものです。しかし大企業は、「個人株主の集合体」という実態はなく、法人は個人とは別個の存在であることから、同族会社の留保金課税を行う余地はありません。大企業の内部留保課税は、大企業優遇税制による課税漏れを補う財産課税と考えています。大企業の配当の実際についても、(図 )に見るように、相当の配当が行われているのが実態です。
(6)大企業の内部留保への課税の提案

「財産課税」として大企業の内部留保に課税する
大企業に構造的に存在する「かくれた担税力」に課税するものとします。課税による社外流出を防ぎ、社内に蓄積された内部留保に担税力を見出し、応能負担原則により、大企業に応分の負担を求めることとします。「所得課税」でとらえきれない担税力について「財産課税」として、内部留保に課税します。

具体的な課税
資本金10億円以上の大企業について
(資本剰余金+利益剰余金)の1%を毎年課税する。
2010年度で計算すると(5)
(93兆円+ 141兆円)×1%= 2兆3400億円となります。
*「法人企業統計」の金融・保険業を除く約5000社の場合です。

国税庁の「会社標本調査」(2009年度)によれば、資本金10億円以上の法人数は7064社であり、それは全法人の、0.3%に該当します。

大企業の課税金額 主な大企業の内部留保金額と内部留保税額は、(図 )のようになります。

「二重課税ではないか」という疑問について
大企業の内部留保に課税すべきだと言うと、「法人税を支払った後の大企業の内部留保に課税するのは二重課税ではないですか」という反論があります。その点について検討しましょう。まず資本剰余金です。これは「利益を資本化したもの」(小栗崇資、谷江武士編著『内部留保の経営分析』2010年学習の友社 101頁)で、本来法人税を課税すべきものと考えますが、法人税法上は「資本取引」として非課税になっています。北野弘久教授によれば、税法学的には「租税優遇をもたらす租税特別措置」すなわち大企業優遇税制による非課税のものです。従って、資本剰余金は1円も課税されずに蓄積されたものです。次に利益剰余金です。これはすでに分析したように、その増加要因は、法人税率引下げと大企業優遇税制による減税がほとんどです。ゆきすぎた減税額が蓄積されたものですから、単純に課税済みとは言い切れません。「所得」に表現されない担税力がこのように大企業に蓄積されているわけですから、それに対して、法人税を補完するものとして、低率の財産課税を行うことは、課税の公正さを確保する上で、ぜひとも必要なことではないでしょうか。

おわりに、 2012年度からの新たな法人税減税を中止すること  研究開発減税、連結納税制度など、大企業向けの優遇税制を見直すこととあわせて、 法人税にも超過累進税率を適用すること  大企業の内部留保課税の実施を強く求めるものです。

(1)垣内亮「社会保障を口実として庶民大増税」(「前衛」2012年2月号 46頁)。垣内氏は次のように述べています。2007年の1月に経団連が「希望の国、日本」と題した提言を出しました。(「御手洗ビジョン」)この提言には「消費税の増税」と「法人税の減税」が両方とも提案されていました。べつに両者は結び付けて書かれてはいなかったが、御手洗会長(当時)は記者会見で法人税減税の財源を聞かれて、「消費税をあげると明確に書いてある」と答えました。いくら「社会保障のため」とごまかしても、消費税増税の本当の狙いが、大企業減税にあることは明確です。

(2)日本の財界は以前から企業の社会保障負担の軽減を要求しています。「活力と魅力溢れる日本を目指して」(奥田ビジョン2003年)では、「公的年金の基礎年金部分、高齢者医療・介護の財源については、能力に応じて公正・公平な負担を求められる消費税を活用することが望ましい」と述べた上で、「サラリーマンの社会保険料(特に厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険)は、本人と雇用主とのマッチング拠出が前提となっている。これは本来、個人が全額負担するところを事業主が肩代わりするものであり (中略)  企業の従業員についても、自営業者と同様、保険料を全額本人が負担する方法に改めることが考えられる。」としています。経団連は「平成24年度税制改正に関する提言」で、消費税増税を主張する理由として「増え続ける社会保障給付費を企業や現役世代が負担する社会保険料の引き上げで手当てすることには限界がある」として、つまり、自分たちの保険料負担を増やさないために、消費税を増税せよとしています。

(3)山家悠紀夫氏(暮らしと経済研究室)は「大企業では利益剰余金が増え、それは証券投資にまわっている」として、次のように述べています。最近10年余りの大企業の貸借対照表を見ると、著しく増えているのが内部留保(利益剰余金等)です。1997年度末に100兆円そこそこであったものが2009年度末には200兆円超に100兆円以上も増えています。人件費を抑えるなどして利益が膨らんだ上に、減税の恩恵を受けて税負担が軽くなったからです。その増えた内部留保はどこに向かっているのでしょうか。流動資産は変わらず、土地、設備などの固定資産も増えていません。著しく増えているのが「証券等への投資」です。1997年から12年間で140兆円近くも増えています。この12年間、内部留保が著しく増えたけれども、その増えた資金の使い道がなかった。とりあえずは証券運用して、お金でお金を稼がせている・・・

この100兆円あまりの資金が賃金引上げに向かっていたら、その資金は家計の助けとなり、消費を増やして国内の景気を良くし、回りまわって企業経営にもいい結果をもたらしたであろうと思います。あるいは、大企業が取引先の中小企業との関係を見直し、取引条件の改善を進めていたら、と思います。もしくは、この資金を政府が税金として吸い上げていたら、社会保障制度の拡充や、財政赤字の縮小などにも利用できただろう、と思います。そうしたさまざまに活用でき、人々の暮らしの改善や経済の活性化に役立っていたであろう資金が、むなしく大企業の懐に眠っている。そこに日本経済の大きな問題があると言えます。・・・・・最近10年間の企業の蓄積ぶりを国民所得統計で見ますと、国全体や家計は資産を減少させているのに、企業だけは富を蓄積しています。十分余裕がある大企業に減税しても、経済的には何の効果もありません。大企業の法人税は減税ではなく、むしろ増税すべきです。(山家悠紀夫、井上伸『消費税増税の大ウソ 財政破綻論の真実』2012年 大月書店 33頁、46頁)

(4)資本準備金について北野弘久教授は次のように述べています。「株式発行差金は、本来、資本市場メカニズムを通じて得られたものであって、資本ではない」(北野弘久『納税者の権利』1981年 岩波新書 132頁)「株式発行差金は、大企業の「現代的利潤」の一つの「投影」であり、一つの「変形」である。税法学的には株式発行差金も大企業の現代的担税力の指標であって、同差金への非課税は租税優遇をもたらす租税特別措置を構成する。」(北野弘久『現代企業税法論』1994年 岩波書店25頁)同じく資本準備金について、駒澤大学の小栗崇資教授は次のように述べています。「資本準備金は企業の財務活動を通じて証券市場から収奪したプレミアム的利益部分が積み立てられる法定準備金です。この資本準備金には株式払い込み剰余金や合併差益、株式交換差益、会社分割差益などがあります。資本準備金の中でももっとも大きな部分を占める株式払い込み剰余金は、株主の払込金額のうち資本金に組み入れられなかった部分です。これは財務活動を通じて実現した利益であり、この利益を資本化したものです。これは株主の払込金額のうち株主が権利行使できない部分であり、利益の内部留保と考えることができます。(小栗崇資、谷江武士編著 『内部留保の経営分析』2010年 学習の友社 101頁)

(5)財務省「法人企業統計」による2010年度の内部留保の金額は次の通りです。
(資本金10億円以上の金融・保険業を除く約5000社の場合)
資本剰余金 93兆4453億円
  資本準備金 73兆7302億円
  その他資本準備金 19兆7152億円
利益剰余金 141兆2956億円
  利益準備金 5兆2860億円
  その他利益準備金 136兆0096億円
引当金等 31兆5427億円
  流動負債引当金 5兆5261億円
  固定負債引当金 25兆8530億円
  特別法上の準備金 1636億円
  合計 266兆2836億円

(すが・たかのり)
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