(4)内部留保はどのようにしてため込まれたのか
コスト削減
日本企業は、儲けた利益を、内部留保として企業内にため込んできましたが、1998年度をターニングポイントとして、急激に内部留保を積み増しするようになりました。1998年以前の10年間は、1年間の内部留保平均積み増し額は5兆円でした。(財務省「法人企業統計」)ところが1998年以後の11年間では、1年間に21兆円も増えたのです。4倍以上のペースで内部留保が積み増しされたのです。
このような内部留保の異常な積み増しはどうして可能になったのでしょうか。売上高を伸ばして、それにともなって利益を増やして、内部留保をためたのでしょうか。そうではありません。日本企業の売上高は、1998年度は1381兆円でしたが、2009年度は1368兆円でしかありません。売上高は減少傾向にあり、2009年度は98年度より13兆円も減らしているのです。(図 は労働運動総合研究所が財務省「法人企業統計」から作成したものです。 |
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売上高も増えていないのに、高利益をあげ、内部留保を増やすことができたのはなぜでしょうか。その最大の要因は、コスト削減です。賃金の切り下げや派遣労働者など非正規労働者の大量雇用と解雇など労働者の犠牲、下請け単価の切り下げなどによる中小企業への犠牲転嫁の上に、積み増しされてきたのです。(図)「大企業における内部留保増大の経緯と賃金の増減」を見れば明らかです。
賃金は1998年の222兆円から2009年には192兆円へと30兆円も減っています。これに加えて、非正規労働者の大量活用は、コスト削減の大きな要因となりました。非正規労働者は、1998年の1173万人から2009年には1721万人と548万人も増加しました。雇用者に占める非正規労働者の割合は、31.5%にもなっています。1998年は21.9%だったから10ポイント近くも増えたことになります。非正規労働者の賃金は正規労働者のほぼ5から6割ですから、正規労働者に代替して非正規労働者を活用すれば、それだけで企業は“ 濡れ手に粟” の大もうけをすることができます。1998年に改悪された労働者派遣法は、そうした非正規労働者を大量に活用する道を国の制度として開いたのです。日本の企業にとって、それが、売上が伸びなくても高利益を上げる大きな力になりました。
下請企業に対しても一方的単価切捨てを迫ってきました。たとえば、トヨタは関連企業に対して、半期に1回のペースで部品の購買価額の改定(平均1.5%程度の引下げ)を強要しています。日本企業はこのようにして、売上高が伸びなくても、コスト削減によって高利益を上げることができる体制をつくりあげたのです。(藤田宏「内部留保をめぐるいくつかの議論」労働運動総合研究所・労働者状態統計分析研究部会、2011年6月8日論文より) |
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大企業減税
(i)内部留保の増加要因の第二は、消費税導入以降の法人税率の引下げと大企業優遇税制によって、大企業の税金が大幅に減り、資金の社外流出を防止して、社内に蓄積されたことです。
法人税率は消費税導入前の42%から30%まで、大幅に引き下げられています。またさまざまな大企業優遇税制によって、大企業の税負担は、法人実効税率40%(表面税率)の時代でも、実質30%程度となっていました。不公平な税制が大企業の内部留保を激増させているのです。 |
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(図 )は、資本金10億円以上の大企業の内部留保金額の推移を表にしたものです。これによれば、1998年から2008年の10年間で大企業の内部留保は98兆円増加したことがわかります。その内訳は資本剰余金41兆円、利益剰余金53兆円、引当金等4兆円でした。資本剰余金は、株式払い込み剰余金などですから、その全額が、法人税は課税されていません。利益剰余金に関して、筆者は前述のように、この期間の大企業減税額の計算を行いました。この結果、この10年間の大企業減税の内訳は以下の通りでした。
1)税率引き下げによるもの
31兆円(法人税率42%→ 30%)
2)受取配当益金不算入
12兆円 31兆円(法人税率42‰ → 30‰)
3)研究開発費減税
2兆円
4)連結納税減税
3兆円
5)外国税額控除
2兆円
合計 50兆円
(引当金、準備金の減税額、資本剰余金のプレミアムの非課税は除く)
ここで明らかなことは、利益剰余金の増加要因のほとんどは、大企業減税による社外流出の防止による蓄積だということです。
(ii)トヨタなどの内部留保増とその原因
個別の大企業の内部留保増と大企業減税との関係はどうなっているのでしょうか。筆者はキャノン、トヨタ、三菱商事の3社について、各社の有価証券報告書から、直近5年間の状況を分析しました。(図 参照)
各社の法人実効税率は、表面税率40%にもかかわらず、キャノン(33.6%)、トヨタ(29.2%)、三菱商事(13.3%)といずれも各種の大企業優遇税制によって、大幅に低下しています。大企業の実際の税負担は表面税率よりもずっと低いのです。「日本は世界一法人税が高い」といって、法人税減税を強行した、財界や民主党、自民党のごまかしは明らかです。
大企業優遇税制とあわせて、消費税導入後の法人税率の大幅引下げが、各社に莫大な減税をもたらしています。税率引き下げによりキャノンは5年間で2388億円、トヨタは7249億円の税金の社外流出を防ぎ、内部留保してきたのです。
大企業優遇税制と法人税率引下げが大企業。 |
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減税の総額になるのですが、その金額は5年間の利益剰余金(狭義の内部留保)の増額の50%をはるかに超え、3社の単純平均では、91.1%に達しています。内部留保増の大半は、大企業減税によるものといえます。
大企業減税により企業は資金の社外流出を防ぎ、税金を支払った後に残った利益の中から株主に配当金を払い、それでも社内に残ったお金が利益剰余金です。資本金10億円以上の金融・保険業を除く全産業の大企業の利益剰余金は141兆円に達します(2010年)。2011年度の国の当初予算が92.4兆円ですから、いかに大きな金額かわかります。ここでも明らかなことは、利益剰余金の増加要因のほとんどは、大企業減税による社外流出の防止による蓄積だということです。 |
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