論文
>「一体改革」と大企業の負担
社会保障と税の一体改革に関する公述
立正大学法学部客員教授 浦野 広明
衆議院予算委員会(中井洽委員長)は、2012年3月2日、中央公聴会を開いた。筆者はこの公聴会の公述人として意見を述べる機会を得た。

中央公聴会は国がその権限を行使するにあたって、一般国民または学識経験者などの意見を聞く会である。国会の予算委員会は、総予算および重要な歳入法案については公聴会を開かなければならないことになっている。

国の予算は国家活動の中心をなしており、予算について憲法は、次の規定をし、内閣にのみ予算提案権を認め、審議および議決について衆議院を優先するとしている。

「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。」(86条)

「予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取った後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。」(60条)

国会法は公聴会について、「委員会は、一般的関心及び目的を有する重要な案件について、公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験者等から意見を聴くことができる。 総予算及び重要な歳入法案については、前項の公聴会を開かなければならない。但し、すでに公聴会を開いた案件と同一の内容のものについては、この限りでない。」と規定している(51条)。

次は衆議院予算委員会の委員諸氏(50人)に公聴会において配布した資料である。
【衆議院予算委員会公聴会配布資料(2012年3月2日)】

1.1997年の消費税引上げと「一体改革」

1997年4月1日から消費税が5%に引き上げられた(内1%は地方消費税)。消費税率の引き上げは、村山内閣(自民、社会、さきがけ3党連立)が、「消費税増税関連法案」(「消費税関連法」)を1994年11月末に成立させたことが発端となった。

消費税関連法附則25条は、「消費税の税率については、社会保障等に要する費用の財源を確保する観点、行政及び財政の改革の進捗状況、租税特別措置等及び消費税に係る課税の適正化の状況、財政状況などを総合的に勘案して検討を加え、必要があると認めるときは、平成8年(1996年)9月30日までに所要の措置を講ずるものとする」としていた。法令は、その実質的規定を定める「本則」と、その本則に付随して法令の必要事項を定める「附則」によって、その全体が構成される。消費税関連法附則25条は消費税率を「引き上げる」とは一言もいっていなかった。もちろん、消費税法の変更は「法律又は法律の定める条件」によらねばならない(憲法84条)。1997年4月1日からの税率引き上げは、「総合的に勘案して検討」の法的義務を尽くしておらず、憲法の租税法律主義(84条、30条)や適正手続(31条)に反していた。

社会保障・税一体改革大綱は、「消費税引上げ実施前に…経済状況等を総合的に勘案した上で、引上げの停止を含め所要の措置を講ずるものとする規定を法案に盛り込む」としており、村山、橋本両内閣による引上げ手法を援用しているが、橋本内閣が行わなかった「総合的に勘案して検討」の法的義務をまず行うべきである。
2.課税のあり方

(1)憲法の応能負担原則
憲法は一国の法秩序の頂点にある根本法であるから、法をめぐる一切の問題は理論的にも、実践的にも憲法問題の中に集約される。税金についても、当然憲法から出発し、憲法に戻ることになる。
日本国憲法(憲法)に「税」という熟語が出てくるのは次の2条文であり、これら条文が税金を支払う根拠となる。

「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」(30条)、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」(84条)。

国が法律に基づいて課税権を行使することになったのは、近代市民社会の成立と密接な関わりがある。近代市民社会の成立前においては、封建領主や国王が、国民の自由や財産に対して勝手に干渉していた。このような封建的支配関係を含む封建社会をうち倒したのが市民革命(たとえば1789年のフランス革命)である。

市民革命の出発点は、旧封建的権力が行っていた一方的な課税をはじめとする権力行使を制約することであった。市民革命の結果、租税の賦課・徴収は、必ず国民を代表する議会の決めた法律に基づき行わなければならないという近代税制の基本原則(租税法律主義)が生まれた。

憲法が考えている納税原則は応能負担原則(応能原則)である。納税は負担能力に応じて行うものだとする考えである。この原則の根拠となる主な憲法規定は、13条(個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重)、14条(法の下の平等)、25条(生存権、国の生存権保障義務)、29条(財産権の保障)などである。

税制に関しては、いろいろな発言がなされるが、そのほとんどが憲法の観点を欠いている。国民が幸せになる租税原則は、憲法の考えを生かすことしかないといっても過言でない。憲法の考えからすると、国税、地方税、社会保険料(限定目的税)などは、すべて応能原則にかなったものにしなければならない。応能原則は、たとえば、所得税や住民税の場合、 高所得者には高い負担を低所得者には低い負担を求める総合・累進課税の採用、 同じ所得であっても、原則として、給与など勤労所得は税の負担能力が低いから軽く、利子・配当・不動産などの資産所得は負担能力が高いから重い負担とする。 最低生活費・生存権的財産には課税をしない、などと考える。

(2)応能原則と消費税
消費税は所得額または財産額が少なくなるに伴い、これに対する租税の割合が次第に増える(逆進性)。生活必需品に対する消費税を考えると、所得額100万円の者も500万円の者も大体同一量を消費し、支払消費税の額も同一となる。この場合、仮に支払消費税を2万円と仮定すれば、前者に対する消費税は2%、後者は0.4%となり、逆進税の作用がはたらき、応能原則に反することになる。

消費税は、製造、卸、小売、サービスなどの取引の各段階で課税される。消費税を負担するのは消費者である。消費者が負担した消費税は事業者(消費税法上の納税義務者)が納税をする。消費税について課税庁は、「事業者の売上に対する消費税額分は、販売する物品やサービスの価格に上乗せされて転嫁され、最終的には消費者が負担する」と説明する。

しかし現実には、力の強い大企業は消費税転嫁を理由に価格をつり上げ、生産費(賃金、下請単価など)を縮小するなどを行い、より多くの利潤を確保する。消費税をいくら転嫁しても、法定税率の範囲内でしか消費税はかからない。消費税は大企業にとってはちっとも腹が痛まないどころか、多くの利潤さえ生むのである。一方で力の弱い小企業は消費税の転嫁などできなく、やがては滞納し倒産・廃業に追いやられる。

国民・消費者は諸生活物資・生活手段を買わなければ生きることができない。生活物資・生活手段の多くは大企業の製品である。大企業は生産と販売を独占する地位にあるから、より大きな利潤を得るための価格設定をする。消費者は、独占市場で一方的に高い値段をつけられた生活物資が生活苦から買えなくなれば、たちまち生活に困る。それが高じれば餓死という悲惨な状況さえ生じるのである。

消費税率を上げれば、消費税を1円も負担していないどころか、多額の還付金(輸出戻し税)を受け取っている輸出製造業の還付額はさらに増える。湖東京至元静岡大学教授の試算によれば、5%の消費税率で2010年分のトヨタ自動車の消費税還付額は2,246億円である。10%消費税になれば還付額は倍増する。

それだけではない。さらに還付額を増やすのがTPPである。TPPは関税・非関税障壁を撤廃させる協定であるから、輸出製造業の輸出を増やす。

そもそも関税は、輸入貨物に対し関税法および関税定率法等に基づく国税で消費税の一種に分類される。国家が自国の関税制度を任意でできる権限が関税自主権である。

TPPには、TPPに参加する各国政府の主権を侵害する制度がある。多国籍企業が各国を自由に訴える制度(ISDS 条項)である。投資家対国家の紛争解決 (Investor State Dispute Settlement、「ISDS 条項」) とは、当該条項により保護される投資家に対し、国際法上の自らの権利として外国政府を相手方とする紛争解決の手続を開始する権利を与えるために、国際取引に関する条約に置かれる条項である。ISD 条項と略される場合もある。仲裁機関は世界銀行傘下の国際投資紛争解決センター(ICSID)である。仲裁には次の例がある。

2009年スウェーデンのバッテンフォール社は、独ハンブルク市が火力発電所に対する規制強化に対して損害賠償請求、ICSID は14億ユーロ(1456億円)の支払い命令、2010年、独政府が和解金を払う、バッテンフォール社は独の原発廃止についても仲裁請求の予定、米国に本社があるフィリップモリス社は、豪政府のたばこの包装規制について仲裁請求の予定。この審理は非公開、不服があっても上訴はできないし、地方自治体の規制も、仲裁の対象となる。

消費税の税率は5%(消費税4%+地方消費税1%)で低いといわれるが、それは正しくない。日本の消費税は標準税率が17.5%であるイギリスより国税収入に占める割合が高い。イギリスでは、非課税・・・土地の譲渡・賃貸、建物の譲渡・賃貸、金融・保険、医、教育、郵便、福祉など、ゼロ税率・・・食料品、水道水、新聞、雑誌書籍、国内旅客運送、薬品、居住用建物の建築、障害者用機器など、となっている。

日本の消費税は見せ掛けの緩和措置しかなく、すべての消費に消費税を均一に課すから世界最高水準になっている。フランスは食料品、医薬品、書籍が低税率、ドイツは食料品、近距離旅費、書籍、新聞が低税率である。
応能原則にかなう消費税は、個別消費税を負担能力に応じたものにすることで実現する。
日本とイギリスの品目別消費税率
売上品目 日本 イギリス
食料品、上下水道、書籍、障がい者・視力障がい者用具、住宅建設、旅客運賃、医薬品、子供服 5% 0%

国税収入に占める消費税
消費税率 日本   5% イギリス 17.5% イタリア 20.0%
国税収入比率 26.0% 21.5% 29.0%
消費税率 ドイツ 19.0% フランス 19.5% アメリカ  0%
国税収入比率 35.7% 50.0% 0%
新川浩嗣編著『図説日本の税制』【平成21年版】財経詳報社、2009年8月を参照し、日本は2010年度一般会計予算について地方消費税も国税収入に含めて浦野が計算.

(3)応能原則と所得税
2012年度税制改正大綱は、給与所得控除額の大幅縮小(年収の6%)を前年度税制改正大綱に続いて強調している。給与所得の金額は、給与年収から給与所得控除額を差し引いて算定する。給与所得控除は給与年収が100万円であれば65万円(65%)、500万円なら154万円(約30%)である。その一方、2011年度税制改定で法人税は30%から25.5%に引下げられ、個人の株式譲渡益や配当益は10%(所得税7%、住民税3%)の超低率課税を維持している。一体改革の行く先では次のような所得税の増税が待ち受ける。

1.給与所得
給与所得の金額は、[ 給与年収ー給与所得控除額] で算出する。給与所得控除が給与収入の約6%となると、年収500万円の場合、現行の給与所得控除額は154万円であるが、給与収入の6%なら30万円(500万円×6%)に減るから、所得は124万円(154万円ー30万円)増える。所得税・住民税の適用税率が30%の人の場合、37万円以上の増税となる。給与所得控除額の大幅縮小は給与所得者にとんでもない増税を押しつける。

給与所得控除額は必要経費だけではない。給与所得控除制度は、「概算経費控除分、 利子控除分、勤労性控除分、および把握控除分、の四要素から構成」されている(北野弘久「給与所得控除制度」北野編『現代税法事典』中央経済社39頁)。

給与所得者の大半を占める労働者は自らの肉体と結びつく労働力という商品を売ることでしか生存を確保できない。給与所得控除は、労働力が商品化している資本主義社会において、商品所有者である労働者の財産権を保障するものである。労働者は、生きる権利を実現する手段として労働力商品を売らざるを得ないから、労働者においては財産権と生存権(人間として生きる権利)が結びつく。

勤労性控除は労働力の価値を指す。労働力の価値は、労働力の支出による消耗を補充するための労働者自身の維持費、労働者の次世代後継者を養育することで、労働力を永続的に再生産をするために要する労働者の家族の維持費、労働力の養成や教育に必要な養成費、から成る。勤労性控除額は、生存権を保障する立場からすれば、本人と家族のそれぞれについて、年間120万円(月額10万円)程度にすべきものである。

2.個人所得課税の論点整理(税制調査会 2005年6月21日)
(1)配偶者特別控除の原則廃止
政府税調(一橋大学名誉教授石弘光会長)は、2005年6月21日「個人所得課税に関する論点整理」(「論点整理」)を発表している。個人所得課税とは所得税(国税)や個人住民税(地方税)のことである。

論点整理は、近年において、配偶者特別控除(上乗せ部分)の廃止、年金課税の改定、定率減税縮減など「あるべき税制」に向けての「改正」をした。その結果生じた歪み、不公正を是正するために、収入をできる限り課税対象にして税収増を図るという。

税収の工面ができなくなったのは、納税者全般に対する減税であるかのように述べているがこれは誤りである。所得税の減収の原因は所得税率を引き下げて高額所得者の大減税を行ったことにある。消費税法が成立した1988年当時、所得税は12段階の超過累進の税率区分であった。現在はわずか6段階である。

1969年から1983年までの超過累進の税率区分は、16段階(10%、14%、18%、22%、26%、30%、34%、38%、42%、46%、50%、55%、60%、65%、70%、75%)だった。

論点整理が「改正」と評価している項目は大半の国民にとっては負担増である。

所得税・住民税の所得控除の一種である配偶者特別控除が2004年分以後原則として廃止された。2003年分までの配偶者特別控除は、年間所得1000万円(給与収入約1231万円)以下で配偶者の所得が一定額以下の人に適用されていた。

(2)公的年金控除
政府税調は、「公的年金等控除については、社会保険料控除がある以上、本来不要と考えられる」とまで述べていた(2002年基本方針)。2004年度税制改定で65歳以上の公的年金控除額の引き下げと老年者控除の廃止がなされた(2005年から実施)。公的年金等控除が「不要」(ゼロ)となれば、収入金額がそのまま所得になる。それだけではない。配偶者控除や扶養控除などの所得控除は、現在、控除対象配偶者や扶養親族の合計所得金額が38万円以下でなければ適用されない。公的年金等控除が廃止・縮減されれば、今まで扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除などの対象になっていた年金受給者が控除の対象から外れることの影響も少なくない。給与所得者は所得控除が減るだけではなく、扶養手当が減らされるケースもでた。

(3)老年者控除
老年者控除は、65歳以上で合計所得が1,000万円以下の場合に適用される所得控除であった。つまり、合計所得が1,000万円を超えると老年者控除の適用はない。65歳以上で合計所得が1,000万円を超えるのはごく一部の人である。老年者控除の廃止で被害を受けるのは、圧倒的多数の国民であった。

夫の年金収入が年間約260万円(妻は無年金)の場合、年金控除額の縮小と老年者控除の廃止でゼロだった所得税・住民税を約62,000円負担することになった。連動して国民健康保険税も年間16,000円増えた。

(4)定率減税
定率減税は、1999年から導入された所得税(20%・最高25万円)・住民税(15%・最高4万円)の税額控除である。この制度は恒久減税といわれた。しかし、経済状況の好転を理由に2005年度改定で半減され、(実施は2006年度)。2007年度に廃止された。

(5)退職所得
退職金の課税のありかたを見直すべきだとした。現在、退職所得の金額は(収入金額ー退職所得控除額)× 50%で求める。退職所得控除額は勤続年数20年以下= 40万円×勤続年数(20年超は70万円)である。狙いは退職所得控除額の縮減と2分の1課税の改定である。退職者にとっては大幅な所得税、住民税増となる。

(6)事業所得
事業所得の金額は、(収入金額ー必要経費)で求める。「一般の給与所得者にとって・・・日常生活において目にする事業所得者の行動に納得しがたい思いを抱く」と給与所得者と個人事業者の対立を煽っている(両者が反目すれば税制改定が容易に行われる)。そして、実額での必要経費は正しい記帳に基づく場合のみ認める。そうでなければ実際の必要経費は認めず、一定の「概算〈経費〉控除」のみにすることも考えられようとしていた。事業所得等に係る所得が300万円以下には記帳義務は課されていない、「概算控除制度」を導入すれば、記帳水準が向上するとしていた。

所得税の各種控除は、国民の人権を保障する規定である。現代における国民の人権は、福祉の権利・精神的自由・人身の自由の三位一体となった包括的な人権である。

同じ所得がある者の中でも、家族構成の大小、健康状態の良し悪し、住宅その他生活条件の差異によって、現実の社会における生活水準はいちじるしく異なる。これら経済外のさまざまな社会的要因によって構成される生活の保障にとっては、経済の論理を制約する社会的な公正の原理を導入することが不可欠である。

(3)応能原則と相続税の増税
現在、相続税の基礎控除(課税最低限)は、[5千万円+ 1千万円×法定相続人数] であるが、[3千万円+ 600万円×法定相続人数] に縮小しようとしたのが2011年度改定法案であった。租税特別措置法は、住宅地などの小規模宅地について生存権を保障するために、一定の評価減をする制度を採用している(69条の4)。2010年度税制改定は、この評価減制度について居住・保有継続の制限を設ける等の縮小をした。売買価格そのもので宅地評価をする方向への布石である。宅地の時価評価および基礎控除額の引下げは、多くの都市住民の居住継続を困難とする。

国民の有する一定面積以下の住宅地等は生存権的財産(憲法25条の生存権を原点とする憲法29条の財産権。人権としての財産)である。この財産は売却をするわけではないから、売買価格を前提に課税標準を計算することは不要である。担税力が低いこの種の財産は、非課税にするか、課税するにしても利用価格(収益還元価格)を課税標準とすべきである。

相続税の税率は、2002年まで10%、15%、20%、25%から出発して、各相続人の法定相続分が5千万円超 1億円以下=30%、1億円超 2億円以下= 40%、2億円超 4億円以下= 50%、4億円超 20億円以下= 60%、20億円超= 70%だった。相続税の税率は、2003年から10%、15%、20%から出発して、各相続人の法定相続分が5千万円超 1億円以下= 30%、1億円超 3億円以下= 40%、3億円超= 50%となった。法定相続分20億円超の相続税率を70%から50%へと20%もの巨額減税をしている。

(4) 応能負担原則による税制
応能負担の税制の中心は所得課税(所得税・法人税)が中心となる。法人税を含めた総合累進課税の充実が必要である。

1990年度と2011年度の所得税・法人税の収入額比較
税目 1990年度決算 2011年度政府予算案 増減(
所得税 26兆0000億円 13兆4,900億円 ▲ 12兆5,100億円
法人税 18兆4000億円 7兆7,920億円 ▲ 10兆6,080億円
合計 44兆4000億円 21兆2,820億円 ▲ 23兆1,180億円

3.税の使途

(1)すべての税が福祉社会保障目的税
税の使途について考える場合にも憲法を根拠としなければならない。憲法前文は、全世界の国民が「ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認している。そして、憲法25条は社会保障の権利(社会保障権)を明らかにしている。憲法は平和と社会保障を重視しており、国民が「納税の義務を負う」のは、払った税金が平和に生存するために使われることを前提にしている。つまり、憲法上は、「すべての税が福祉社会保障目的税」となる。

(2) 社会権の中心的意義
経済の論理にしたがえば、競争市場の勝利者が多くの富を蓄積し、敗北者が貧しいのは「正義」に合致している。経済の論理が生活を保障するどころか、生活を破壊することが明らかになるに伴って、これを制約する社会的正義の観念が一般化し、社会権という法理が登場する。社会権は、個人が社会の中で生存し、人間らしい生活を維持、発展させるために、経済の論理に特有な弱肉強食の弊害を除去することを国家に求める権利である。

社会権という場合、生活する諸個人が権利主体であるから、その義務主体は「社会」である。それは制度的には、社会= 公共を制度上代表する国家に対する権利として法律的に構成されるが、その実質的内容は、公の担い手としての社会となる。個人がその生活保障について、社会=公共に対して福祉・社会保障のサービスを請求する権利を有することが社会権の中心的意義である。

(3)集団的自助
社会が個人の自助を社会の責任において維持することが集団的自助の基本である。社会が集団としてその責任を果たさなければならないのは、それが社会の中の特定の階層・階級の人々にかかわる部分的問題でなく、すべての人々にかかわる。

高齢者福祉の切り下げは、経済の論理である。しかし、社会は続いているのであり、過去から現在にわたって蓄積されてきた社会全体の富や文化的遺産等の共有財産は、高齢者の勤労の成果として獲得され、非高齢者である若者がこれを現に享受している。この社会的財産を、その形成に寄与した高齢者の生活保障に分配することは、社会の当然の責任である。高齢者は、若い時代にきずいた社会的富を、高齢者になってからもどしてもらう、という形で集団的自助の権利が保障される。

高齢者福祉は、厄介な「お荷物」どころか、社会的発展の不可欠な一環であり、この保障は、社会的発展の原動力である。非高齢者がこれに冷淡であったり、政治がこれをきりつめようとするのは、個人の勤労の成果が自分個人の力の上にのみ成り立つような利己主義的発想であり、その成果がほかならぬ過去の人たちのきずいた社会的遺産の上にのみ可能であるという社会的視点を欠落させている。

集団的自助の観点からすれば、児童は社会の再生産を維持し、次代の社会を担う者であり、児童の健全な成長・発育なくして社会が未来に向けて発展しうることはありえない。社会的世代と社会的富の再生産と分配をくり返すことによって、社会そのものが成り立っている。

(4) 社会保障の改定
一体改革では次のように社会保障の改定を予定している。

年金 支給額を減らす・支給年齢先延ばし 3年程度で2.5%減。その後毎年減らす。現行の60歳→65歳への引上げ前倒し。その後68歳 70歳に引き上げ。
医療 患者負担増・病院追い出し強化 外来受診のたびに定額負担を上乗せ初診、再診を100円から順次上げる。70歳 74歳の医療費負担を1割→2割に倍増。長期入院者の診療報酬を引下げ。
介護 サービスとりあげ・施設建設の抑制 「重点化」を理由に給付を削減・サービスが薄い「高齢者住宅」に施策の重点を移す。
年収320万円もしくは383万円以上の高齢者の介護利用料を1割 → 2割に倍増。介護保険施設 < 特養ホーム > の大幅利用者負担増。要支援と認定された者の利用料引上げ。ケアプラン < 介護計画 > 作成を無料→有料。要介護12の負担を増やし施設から閉め出す。40歳 64歳の労働者が加入している健康保険組合の介護保険料支払い額引上げ。
生活保護 改定示唆 医療費自己負担・ボランティアと職業訓練義務付け・保護水準引き下げ
保育 公的責任の放棄 国や自治体の保育実施義務をなくす・市場化や営利化促進

(5) 病院の窓口負担
病院の窓口負担が通院・入院とも3割の国は主要な資本主義国で日本だけである。OECD(経済協力開発機構)加盟30ヵ国中15ヵ国は窓口負担が原則無料である。フランスでは生活苦で公的医療保険に加入できない人のために「普遍的医療給付」の制度があり、これによって無料で医療を受けることができる。ドイツの外来は約1400円の初診料と、低額の薬代を払うだけである。入院も少額の食費を払うだけで、診療代、手術代、ベッド代負担はない。18歳未満は無料、失業者や生活困窮者の保険料は政府が負担、年金の受給資格は5年以上の保険料支払者、大学などの在学期間と育児期間は、保険料を納めなくても加入期間に加算される。

窓口負担ゼロの国 窓口負担有
フランス・スイス・オーストリア・ドイツ・カナダ・ベルギー・オランダ・ポルトガル・ニュージーランド・デンマーク・ギリシャ・スエーデン・アイスランド・イタリア・スペイン・アイルランド・英国・オーストラリア・ノルウェー・フインランド・スロバキア・ハンガリー・ルクセンブルク・チェコ・ポーランド 米国・日本
出所:ゼロの会(事務局団体・神奈川県保険医協会)

(6)消費税増税によらない増収
ゆるやかな応能原則の実現で、消費税増税に頼らない社会保障財源が生まれる。
税制改正による増収試算
【国 税】 増収額
1.法人税
(1)株式発行差金の非課税廃止
(2)受取配当金の益金不算入廃止
(3)各種引当金・準備金の廃止
返品調整引当金、 海外投資損失準備金、 保険会社等の異常危険準備金、
探鉱・海外探鉱準備金、 使用済燃料再処理準備金、
原子力発電施設解体準備金、 新幹線鉄道大規模改修準備金、
特別修繕準備金、 外国税額控除の廃止ほか
(4)特別償却、割増償却の廃止
(5)試験研究費の税額控除廃止
(6)新鉱床探鉱費等特別控除の廃止
(7)間接およびみなし外国税額控除の廃止
(8)公益法人課税の適正化
(9)連結納税制度の廃止
2.所得税
是正:(1)利子所得課税、(2)配当所得の総合課税、(3)配当税額控除、
(4) 給与所得控除の上限、(5) 土地譲渡の分離課税、
(6) 有価証券譲渡益課税の申告分離廃止 (7) その他
3.税率配分の適正化
(1)大企業の法人税の税率改定
(2)高額所得者の所得税率改定

3兆559億円
3兆1,721億円
1兆4,539億円




301億円
1,137億円
31億円
3,891億円
297億円
1,924億円
2兆4,584億円




4 兆9,778 億円
8,546 億円
国税計 16 兆7,308 億円
【地方税】 増収額
1. 法人税特例廃止による事業税・住民税
2. 所得税特例廃止による住民税
3. 地方税独自特例廃止
4. 地方法人特別税への反映
5. 納税補助金廃止
6. 地方交付税への反映
7. 法人住民税の税率配分適正化
2 兆1,463 億円
1,396 億円
3 兆1,260 億円
1 兆2,692 億円
371 億円
3 兆6,586 億円
1 兆32 億円
地方税計 11 兆3,800 億円
国税・地方税合計 28 兆1,108 億円
不公平な税制をただす会『福祉とぜいきん』(2011 年4 月30 日)

(うらの・ひろあき:東京会)

▲上に戻る