1 野田内閣と議会主義の形骸化
自公政権に続く民主主導政権の財官界主導の弱者切り捨て政治に対して、「どうして政治家は国民のことを考えてくれないのだろうか」というような嘆きは多い。
憲法前文は、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。」とうたっているのであるが、政治は憲法に逆行している。逆行の原因は議会主義の形骸化である。国政の最高政策は議会における多数で決める。議会は国民が選挙によって選んだ代表者を主体として組織される。
普通選挙は、選挙権・被選挙権を財産・身分などで制限する制限選挙とちがい、国民に等しく選挙権・被選挙権を認める。狭義の普通選挙は、財力(財産または納税額)を選挙の要件としない。
日本では1925年の選挙法改正によって、1928年に初めて普通選挙制が実現し、満25歳以上の男子に選挙権を与え、有権者は4倍に増えた。第2次大戦後の1945年に衆議院選挙法が改正され、婦人参政権が認められ、20歳以上の国民すべてが選挙権を有することになった。
国民主権は、国民が国の政治の主人公となるという民主主義の理念をあらわしたものである。国民が主権者であるといっても、国民の一人ひとりが直接に政治をするわけにいかないから、代表を選び、代表を通じて政治に参加するのが原則である。憲法前文には「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と書かれており、また43条には、議員を選ぶ選挙が「全国民を代表する」ものであると規定されている。
普通選挙による選挙権の拡大によって、資本家階級は議会を独占的に支配することが困難となる。被支配階級の代表を含む国民議会の意思に拘束されながら、しかも資本家階級の支配をしなければならない。この矛盾を処理するために、議会主義の形式(建前)を維持しながら、その実質を骨抜きにすること(形骸化)が、現代資本主義国家の課題となる。
議会主義の形骸化は、法によらない手段としては、教育、マスコミによる世論操作、情報の管理・統制、買収、反対党に対する抑圧などがある。
法による形骸化としては、次の諸点がある。
議会主義を国民主権(一人ひとりが政治の主人公)から切り離す・・・・・・投票行動以外の政治参加を制限する。議会と国民の距離を大きくし、議会に対する国民の関心・監視を弱め、その政治的無関心を助長させる。
議会の最高機関としての性格を弱め、行政権の地位を高める・・・・・・議会は単に立法権限をもつだけでなく、国の最高機関である。反対党を含む議会において、資本家階級の単一的支配が困難となる。現代の独占資本(大企業)は、政府と官僚機構を直接に掌握し、議会をこれに従属させることで、その支配を維持する(独占資本と官僚の癒着)。
議会の役割の後退・・・・・・社会内部の諸私的利益の対立と矛盾に対して、議会の果たす調整機能が後退する。議会に代わり、行政が、膨大な官僚機構を駆使して、調整をする。
権力分立・・・・・・権力分立は、議会の最高機関性を前提に、議会の専制的権力を抑制する法理だったのであるが、現代の行政主導国家の下では、強い政府(行政)が議会や裁判所から介入されない。
議会選挙制度・・・・・・二大政党制、小選挙区制、定数是正、比例代表削減へと進む。
行政権の拡大強化は、 政府提案立法、 議会の委任による政府立法・行政立法、 法の適用に当たり行政庁の裁量と行政解釈が広がる、 法に拘束されない行政の固有の領域・行政権の行使、によって行われる。
野田連立内閣(民主、国民新)が発足した(2011年9月2日)。野田首相は同日の組閣後記者会見で、2012年3月までに消費税増税法案を国会に提出するとした。
野田首相は、組閣前の9月1日、官邸主導の経済政策を行う「会議」の創設を提起し、日本経団連(米倉弘昌会長)に参加を要請した。この要請に米倉会長は「全面的な協力」を約束した。また、9月1日、自民・公明両党首とも会談、税制改定のための協議機関の設置を提案した。翌2日の記者会見で野田首相は、民自公の協議について「3党で問題意識は共有していただいた。」と述べた。野田内閣になったからといって、議会主義の形式を維持しながら、その実質を骨抜きにする路線が代わることはない。 |
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2 経団連の戦略
日本経済団体連合会(経団連)は、「経団連成長戦略2011」(2011年9月16日)において、「わが国の法人実効税率は約40%と、競争相手である韓国などアジア諸国と比べて、15%ポイントも上回る高い水準にある。社会保障大国であるスウェーデンも経済のグローバル化に対応し、26.3%まで引き下げている」といい、「社会保障給付費の財源を現役世代の保険料負担を引き上げることで手当てするならば、わが国経済・企業の活力を削ぎ、雇用創出を阻害する。保険料負担増に伴うコスト増は、可能な限り回避しなければならない」として、企業の社会保険料負担の軽減をねらっている。
成長戦略2011は、短期打開策として、「平成23年度税制改正法案に盛り込まれた法人実効税率の5%引き下げを先行して実現したうえで、以降、早期に法人実効税率を主要国並みの30%まで引き下げるべきである。その後も、アジア近隣諸国と均衡する水準(25%程度)まで速やかに引き下げていくことが求められる」「なお、法人実効税率を引き下げる際は、国税の法人税率の引き下げのみならず、地方の安定財源確保とあわせ、地方法人所得課税についても、大幅な縮減を含む見直しが不可欠であり、まずは、地方法人特別税を廃止すべきである」「現在の保険料に依存した社会保障制度を見直し、歳入改革を通じて財源を確保することにより、税負担割合を拡充する。これにより、将来的には、現役世代だけでなく高齢者も含め国民全体で社会保障制度を支える形へと見直すことが必要である」と、大企業の法人税・社会保険料の大幅負担減を要求する。大企業の法人税・社会保険料の大幅負担減のもう一面は、消費税増税を含む庶民増税の遂行である。
成長戦略2011は、一刻も早くTPPに参加することを求めている。TPPは、貿易自由化を目指す経済的枠組みである。工業製品や農産品、金融サービスなどをはじめとする、加盟国間で取引される全品目について関税を原則的に100%撤廃しようというもの。2015年をめどに関税全廃を実現するべく協議が行われている。そもそも関税は、国家が自国の関税制度を任意でできる権限である(関税自主権)。
TPPが原則とする「例外なき関税撤廃」を実施すれば、日本の食料自給率は13%に激減する。食料自給率の向上という国民の願いに真っ向から反し、農林漁業だけでなく関連産業を含めた地域経済に重大な打撃となるTPP参加は中止すべきである。TPPに日本が参加するなら、事実上の日米FTA(自由貿易協定)となる。アメリカは、コメなどの関税撤廃だけでなく、郵政民営化、牛肉のBSE(牛海綿状脳症)対策、食品添加物の基準など広範な分野の規制の撤廃・緩和を迫ってくる。日本はアメリカの経済戦略にいっそう深く組み込まれることになる。その根源は日米安全保障条約(安保条約)にある(注1)。
TPP (Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)は「環太平洋連携協定」等と訳されているが、「太平洋を股にかけた輸出企業の利益追求戦略協定」というべきである。Strategic は、「戦略上重要な」という意味で、例えば、strategic bombing 戦略爆撃などと使われる。
日本の政府は、経団連やアメリカの戦略を実現させるために以下のような政策を打ち出している。 |
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3 社会保障・税一体改革・共通番号・復興基本方針
政府・与党社会保障改革検討本部は、2011年6月30日、「社会保障・税一体改革成案」および「社会保障・税番号大綱」を決定した。また、政府は7月29日、「東日本大震災からの復興基本方針」を決定した。その内容を概観する。
1)社会保障・税一体改革成案
社会保障・税一体改革成案は、冒頭で「この改革の実現のためには、立場を超えた幅広い議論の上に立った国民の理解と協力が必要であり、本成案をもって野党各党に社会保障改革のための協議を提案し、参加を呼び掛ける」と述べた。
そして、税制抜本改革については、「平成21年度税制改正法附則104条(注2)第3項及び平成22年度・23年度税制改正大綱(閣議決定)で示された改革の方向性に沿って」検討を進めるという。掲げる検討項目の概要は次のようになっている。
(1)個人所得課税・・・ 所得控除の縮小・税率構造の改定(庶民増税)、 国民を番号で管理、金融証券税制の温存(金持ち優遇)に取り組む。
(2)法人課税・・・大企業の国際競争力を維持するため、法人実効税率(法人税、法人住民税、法人事業税)の引下げを行う(大企業優遇)。
(3) 消費課税・・・ 安定財源の確保のため、2010年代半ば(2014年 2016年)までに段階的に消費税率(国・地方)を10%まで引き上げる。
(4)資産課税・・・相続税の増税(庶民増税)。
(5)地方税制・・・ 地方消費税の増税、税収が安定的な地方税体系を構築する。
(6)共通番号制度・国税通則法・・・共通番号制度の導入と国税通則法改定等を行う。
2)社会保障・税番号大綱
大綱は次のように述べている。
(1) 番号の設計
「従来、番号制度は、ともすれば高額所得者に対する所得の捕捉といった観点から議論されることが多かったが、今回導入する番号制度は、主として給付のための『番号』として制度設計する」
(2)共通番号
「番号制度は、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であるということの確認を行うための基盤を提供する」
(3)所得把握
調査に番号を活用する、 税務当局が取得する各種情報・扶養情報は、「番号」や「法人番号」を用いて名寄せ・突き合わせが可能、 申告書・法定調書等については、提出者本人および扶養控除の対象者、給与の受給者、取引先の番号を記載させる、住民の顔写真データを地方公共団体に保有させる、病院は患者を番号で管理する、番号による預貯金の出し入れ管理。
(4)番号制度の3つの仕組み
番号制度には以下の3つの仕組みが必要となる。
<1> 付番・・・・・・ 国民一人ひとりに一つの番号を付ける、 もれなく全員に番号をつける、「民ー民ー官」の関係で利用可能、 目で見て確認できる番号(就職希望者は雇用者が確認できるように番号を示す)、 最新の基本4情報を関連付ける(姓名・生年月日・社会保障給付・課税)。
<2> 情報連携・・・・・・複数の機関において管理している同一人の情報を紐付ける。
<3> 本人確認・・・・・・本人確認証明書の券面に基本4情報および顔写真を記載、番号をICチップに記録し、交付する。
(5)番号制度の活用・・・・・・将来的に幅広い行政分野や、民間のサービス等に活用する。
(6)導入スケジュール・・・・・・ 2011年度秋以降、可能な限り早期番号法案を国会に提出、 2014年6月、個人に「番号」、法人等に「法人番号」を付け、 2015年1月から社会保障分野、税務分野などで利用開始、 2018年度を目途にさらに厳しい番号法を制定する。
3)東日本大震災からの復興基本方針
政府が、2011年7月29日に決定した復興基本方針は、復興のために国債を発行し、基幹税(所得税、法人税、消費税)を増税して国債の返済をするとしている。
政府・民主党は、9月27日、東日本大震災の復興財源とする増税案を三役会議で決定した。この増税案は、 所得税を2013年1月から10年間4%上乗せ課税、個人住民税の均等割を2014年6月から5年間、年500円上乗せ、たばこ税を2012年10月から1本あたり2円増税、などとなっている。
増税案は法人税も対象としているが、実際には法人税は増税どころか減税になる。なぜなら、法人税の現行税率は30%であるが、これを25.5%に引き下げて、法人税に10%の復興付加税を課すというのである。引き下げた後の復興付加税を含めた法人税負担は、25.5%× 1.1= 28.05%である。現行の30%に比べて1.95%(30%ー 28.05%)も減税になる。適用は2014年4月から3年間に限るというのであるから、3年たったら、法人税は4.5%も減税になるのである。しわ寄せは庶民増税をまねく。 |
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4 給付つき税額控除
先に述べたように「社会保障・税番号大綱」は、「今回導入する番号制度は、主として給付のための『番号』として制度設計する」としている。共通番号制度導入の根拠として「給付」を持ち出している。
森信茂樹中央大学法科大学院教授(財務省出身)は、「給付つき税額控除制度のメリットは多い」と述べ、導入への課題について概略次の3点を掲げる(注3)。
児童手当、児童扶養手当、生活保護等の現行社会保障給付、配偶者控除、扶養控除等の各種所得控除、最低賃金制度等を整理統合し、バラマキとならないよう効率的・効果的な制度とする。 不正給付の防止を考える。クロヨンと呼ばれる事業者所得の正確な捕捉が必要。これらの対策として、給付(還付)事務を会社レベルで行うことや、(納税者)番号制度の導入を真剣に検討する。 税務当局と社会保障官庁の整理・統合・協力が課題。国税当局は課税最低限以下の情報を持っていない。制度の適正な執行にあたり、多くの情報とノウハウを持つ地方自治体(市町村)と密接に協力していく。地方自治体は、給与支払報告書、住民税・国民健康保険税の申告を受ける立場にあり、さまざまな人の所得情報を持っている。最終的には、税務官庁がそれらの情報を管理、徴税の一元化が必要となる。
森信教授は、税額控除を評価するとして概要次のように述べる。 所得控除は、累進税率のもとで、高所得者の税負担をより多く軽減する。課税最低限に近い層をターゲットとするには所得控除では減税効果が拡大し、財源上の非効率が生ずる。税額控除は、一定の所得以下の納税者・世帯だけを対象とすることが可能なので、課税ベースの浸食は限定される。所得控除から税額控除への移行は、課税ベースの拡大による水平的公平性の向上になる。 税額控除を、労働による稼得行為と結びつければ、働かなくとも給付が受けられる失業手当につての倫理観の欠如を避けることができる。
鶴光太郎慶応大学大学院特別招聘教授は、給付付税額控除導入のメリットについて、概略次のように森信茂樹教授の主張をなぞっている(注4)。税額控除は一定の所得以下の納税者・世帯を対象とでき課税ベースの浸食が限定される。所得控除は、累進税率のもとでは、高所得者の税負担をより多く軽減し、課税ベースを大きく縮小させる(注5)。課税最低限近くの層を標的にするには、課税ベースの浸食を限定的にする税額控除がよい。税額控除の財源は、各種所得控除、特に、扶養、配偶者控除を縮小させる((『給付つき税額控除』中央経済社)。
政府・与党社会保障改革検討本部事務局長・峰崎直樹内閣官房参与は、「いわゆる『クロヨン』『トーゴーサンピン』とか言われるように、サラリーマンは所得がほぼ完全に捕捉されており、それに応じた税金を納めている。しかし自営業者は5割か6割しか、農業にいたっては3割か4割しか捕捉されていない。所得情報は不正確で不公正という状況に、サラリーマンはすっかり慣らされていますが、そもそも不公正なことです。」と述べる(注6)。(「週刊金曜日」2011年9月23日)。
前記森信教授と同じく「クロヨン」論を持ち出すが、そもそも事業所得(自営業者、農業)と給与所得は、所得の金額の計算方法が異なる。計算方法が異なる両者を比較すること自体間違いである。クロヨンは、「給与所得は9割捕捉され課税されるのに対し、営業所得は6割、農民は4割程度であるという、サラリーマンの重税・不公平感を示す俗語」(岩波書店『広辞苑』)である。過去に国会でも取り上げられたが、国税庁はそのような事実はないと否定している。こんなことを持ち出す意図は、事業所得者(自営業者、農業)と給与所得者(サラリーマン)を離反させ、団結させないことにある。
大綱は、共通番号を採用することで、「低所得で資産も乏しい等、真に手を差し伸べるべき者に対して、給付を充実させるなど、社会保障をよりきめ細かに、かつ、的確に行う」ことができるかのように説明する。
「社会保障をよりきめ細かに」というが、政府の2011年度の社会保障予算は、自公政権が進めた社会保障削減路線を基本的に修復することなく、国民生活に係る補助金・負担金を大幅削減している。
一例をあげれば、国民健康保険料 < 税 >(国保料)の「住民税方式」を廃止し「旧ただし書き方式」に一本化する改定である(2013年度から)。「住民税方式」では適用していた所得控除(扶養・配偶者・障害者・社会保険料控除など)は、「旧ただし書き方式」では適用されない。東京都23区は、2011年4月から、「旧ただし書き方式」に移行。板橋区の試算では、加入世帯の31.9%、2人以上の世帯の68.6%、4人・5人世帯では全部が負担増になるのである。
「給付の充実」と称する政策は、国(現代資本主義国家)が進めるさまざまな政策のうちの一つである。民主党連立政権は、改憲、選挙制度の改悪(定数削減)、司法的コントロールの縮小、消費税・庶民増税、法人諸税の減税・資産家減税、雇用予算削減、国税通則法「改正」・徴税罰則の強化などを進め、また進める算段である。
「給付の充実」は結構だが、社会福祉の名を借りて、消費税を増税するのはいけない、あるいは、国税通則法「改正」には良い点もあるが、悪いところはだめだ、というたぐいの議論があるが、そういう批判にどれだけの根拠があろうか。というのは、もともと「給付の充実」や国税通則法「改正」は、共通番号制などの行政権の拡大強化や徴税強化と不可分一体の関係にあり、構造的に結びついているのだから、この二つを切りはなして一方を認め、他方を認めないというわけにはいかない関係にある。
現代における国民の人権は、福祉の権利・精神的自由・人身の自由を一体とする包括的なものである。これら人権体系の根底には、人権の担い手としての人間の主体性がある。権利主体性の確立なくして人権は語れない。
「社会保障・税一体改革」は、何ら明確な説明もなく、しかも実現性さえ疑わしい「給付」を持ちだしている。もちろん、人間の権利主体性など考慮していない(行政の客体)。これでは、生活保護行政において、要保護者の物質的生活を保障するが、受給者の人間として権利主体性を尊重する考えがないために、資産調査等において、受給者に精神的屈辱を与える行政と同じになろう。
コンピューターによる国民管理政策は電子機器関連産業や情報管理産業に巨額の受注をもたらす。それら巨大産業にとっては喉から手が出るほど欲しいものだ。
共通番号制度という国民の管理支配政策によるプライバシー権(憲法第13条)の侵害は計り知れない。行政がコード、カード、納税者番号によって全国民の個人情報を管理することは、国家が24時間休み無く国民を監視することであって、憲法違反、地方自治法違反である。 |
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5 国税通則法の改定
国税通則法(昭37法66)は、国税徴収法(国税についての強制徴収手続 滞納処分に関する規定)、国税犯則取締法(税務職員による犯則調査 刑事訴訟法の特別法的地位)で規定する以外の基本的・共通事項を定めている。
国税通則法の制定当時(1960年代初頭)において国税通則法は、政治的暴力行為防止法(政暴法)(注7)の税務版だとさわがれ、学会、言論界、中小企業や労働者の団体などから、はげしい批判をうけた。この反対運動にあって、政府も修正を余儀なくされた。「実質課税の原則」「租税回避行為」「行為計算の否認」の名のもとにおける恣意的重課税条項の削除、「記帳義務」や「納税義務に関する調査」の条項の削除が実現したのは、反対運動の成果であった。しかし、「人格のない社団等」の納税義務をはじめ、国税通則法が徴税強化法ならびに民主活動弾圧法として持つ意味は大きかった。
2011年度税制改定法案は、国税通則法という法律名を「国税に係る共通的な手続並びに納税者の権利及び義務に関する法律」)に変える。そして、同法は、目的について次の規定をする(第1条)。
「この法律は、国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め、税法の体系的な構成を整備し、かつ、国税に関する法律関係を明確にするとともに、国税に関する国民の権利利益の保護を図りつつ税務行政の公正な運営を確保し、もつて国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資することを目的とする。」
下記のように行政手続法1条は、「国民の権利利益の保護に資すること」を終局目的としている。ところが、納税者の権利抑圧法1条は、「納税義務」を終局目的とするように、行政手続法の変質を試みている。このように2011年度改定法案は2010年度改定に続き、実体面だけではなく手続面においても国民をないがしろにする内容となっている。 |