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2011年5月24日
内閣総理大臣 菅 直人様
税経新人会全国協議会
理事長 清家 裕
「社会保障・税に関わる番号制度」に関する意見書
現在、政府においては「社会保障・税に関わる番号制度」(以下、「共通番号制度」)を導入するために、今年の秋に関連法案を国会に提出することを目標に検討が進められています。しかし、この「共通番号制度」は国民にとって利便性より弊害が大変多く、またこのような「共通番号制度」が無くても、社会保障・税に関する行政を遂行する上で支障がないと考えます。したがって、私たちは以下の理由で「共通番号制度」をわが国に導入することに反対します。
1.税務面における「共通番号制度」

昨年12月16日に閣議決定された「平成23年度税制改正大綱」によれば、「番号は、少なくとも、 国民一人一人に一つの番号が付与されていること、 納税者が取引の相手方に告知できるよう、民ー民ー官の関係で利用でき、また、目で見て確認できること、 常に最新の住所情報と関連付けられていること」という条件を前提に、「税務面に於いて番号制度を活用するには、 各種の取引に際して、納税者が取引の相手方に番号を「告知」すること、 取引の相手方が税務当局に提出する法定調書及び納税者が税務当局に提出する納税申告書に番号を「記載」すること、が必要になります。これにより税務当局は、法定調書と納税申告書の情報を、番号をキーとして名寄せ・突合することが可能」として、「共通番号制度」導入の理由にしています。しかし、「共通番号制度」は「番号を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界がある」として、番号制度の限界も明記しています。

「共通番号制度」は「給付付き税額控除制度」を導入する上で必要だと言われていますが、「給付付き税額控除制度」が果たして公平な制度なのかどうか疑問があり、また、よしんば公平な制度構築が出来たとしても、「共通番号制度」なしでやっている国もあります。したがって、「給付付き税額控除制度」は「共通番号制度」導入の理由にはなりません。

税務面での活用に限界のある「共通番号制度」を導入して、可視化された共通番号を使って各種取引を行うことは、下記2に見られるような危険極まりない弊害を惹起します。このことは既に共通番号制度を導入している国々で大問題になっていることからも明らかです。このような「共通番号制度」は税務面で必要ないと考えます。
2.「共通番号制度」の弊害

国民にとって「共通番号制度」には利便性よりも、以下のような大変大きな弊害があります。

(1)膨大な個人情報の漏えい

この「共通番号制度」は社会保障・税の利用から始まり、蓄積されたあらゆる個人情報が行政機関にとどまらず民間企業も自由に活用できるシステムを目指しています。すでにインターネット上などで個人情報の流出事件が多発し、大きな社会問題になっています。「共通番号制度」が導入されると、膨大な個人情報が漏えいする危険性が極端に高まります。平穏な生活が脅かされることになりかねません。

(2)なりすまし犯罪の多発

可視化された番号を使って各種取引を行えば、簡単に他人の番号を手に入れることができます。そのことによって、他人になりすまして他人名義のクレジットカードを作成して買い物をしたり、他人の銀行口座から現金を引き出したりするといったなりすまし犯罪が多発します。番号制度を導入しているアメリカや韓国では、これらの被害が社会問題化しています。経済活動に大きな支障をきたしているのです。

(3)民間活用による国民受難

民間企業はこの「共通番号制度」によって得た個人情報を使って、販売促進、セールス、顧客管理、市場分析、信用情報など、「儲ける」ための道具として活用することができます。このことによって国民は、民間企業の「儲ける」ための餌食にされかねません。

(4)国家による国民管理・国民監視

国家はこの「共通番号制度」によって、国民一人一人の膨大な個人情報をダイレクトに管理することができます。管理することは国家が24時間休みなく国民を監視することであり、憲法13条に規定する個人の尊重、尊厳が損なわれることになります。

(5)導入コストなどが膨大

この「共通番号制度」を導入するために要する初期費用だけでも6,000億円かかるといわれています。そして、その後の保守費用や損害賠償にかかる費用などを考えれば、莫大な税金を投入しなければなりません。「共通番号制度」は大型公共事業と言われる所以です。財政危機の折、社会保障の財源に四苦八苦していることを考えれば、受注企業が潤うだけで、国民はさらに犠牲になります。

(6)徴税強化の道具

最近20数年間の応能負担原則に反する「税制改革」で、生活費への課税が進む一方、証券優遇税制などの分離課税で高額所得者の税負担が軽減され、課税の不公平が拡大しています。そして、負担能力のないところに課税を強化してきた結果、納税者と滞納者が激増しています。今後、消費税の増税や所得税の課税最低限の引き下げが行われれば、一層納税者と滞納者が激増します。激増する納税者と滞納者から徴税を強化するための道具として「共通番号制度」が使われることになります。
(以上)

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