論文

> 納税者権利憲章と国税通則法
2011年度税制改正大綱の検討、その問題点
- 税務行政の強権化・納税者への義務強要、大企業減税、消費税増税地ならし -
東京会 飯島 健夫

2011年は社会保障のあり方をめぐって国民の暮らしを支える方向か、負担増を強いられる方向かが鋭く問われる年になろう。なぜならば、昨年12月、民主党の「税と社会保障の抜本改革調査会」や「社会保障改革有識者検討会」の方針をもとに政府が閣議決定した「社会保障改革の推進について」では消費税増税が改めて打ち出されており、2011年半ばまでに消費税増税に道筋をつけようとしているからである。

日本経団連米倉会長は日経新聞の新春インタビューで、今年の最優先すべきは税財政・社会保障の一体改革だとして、「安定的な社会保障の基盤を作るには消費税を早期に10%、ゆくゆくは欧州各国並み(1520%)に引き上げるべきだ」(日経1/3)と述べ、経済同友会は1月11日「2020年の日本創生」を発表、その中で「消費税率は13年度に10%、15年度に15%、17年度に17%」と3段階の引き上げを提起し、法人実効税率のさらなる引き下げを求めている。日本商工会議所の岡村会頭も「税制の抜本改正、社会保障制度の構築」を求めている。

また、現在も法的効力を持つ自公政権時代に成立した2009年度税制改正法附則第104条は「段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成23年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする」としている。
さらに、菅首相は年頭の記者会見で消費税を含む税制の抜本改革は「6月ごろまでに1つの方向性を示したい。超党派の議論を開始する。野党にも参加を呼びかけたい。」と述べ、消費税率引き上げの議論に野党を引き込むことを表明した。
昨年12月16日に閣議決定した「平成23年度税制改正大綱」はこのような情勢を背景に決定されたものとみるべきであろう。

大綱は納税者権利憲章の制定に伴う国税通則法の大改正など、膨大なものとなっているが、「権利と義務のバランス」論に立った税務行政の強権化と納税者への義務の強要という重大な問題が盛り込まれている。また、消費税増税に向けて、法律的、行政的に体制を整備してきたともいえるものとなっている。1月末には通常国会が召集され、それに向けた法案が上程される見込みであるが、法案検討の時間がないため、大綱をもとに検討を進めたい。

検討は、大綱の内容が膨大なため、総論方式によらず、内容を記述してお互いに理解と確認をしながら問題点を明らかにする各論方式で行うこととしたい。(罰則強化と地方税は除きました)
[納税環境整備]

  1 国税通則法の見直し

国税通則法第1条の目的規定を、税務行政において納税者の権利利益の保護を図る趣旨を明確にし、法律名も法律の内容をよく表すものに変更する。税務調査の事前手続きなど以下のような規定を集約的に記述する。

(1)税務調査における事前通知
(2)税務職員による質問検査権
(3)税務調査終了後における調査内容の説明
(4)修正申告等の勧奨
(5)税務調査における終了通知
(6)納税者から提出された物件の預かり・返還に関する手続
(7)更正の請求期間の延長
(8)更正の請求における「事実を証明する書類」の添付義務化
(9)虚偽の更正請求に対する処罰規定
(10) 処分の理由付記

昭和37年に国税通則法が制定されて以来49年ぶりの大改正となるわけである。これまで、国税通則法が国税の基本法としての性格を有しているかどうか、不明確であった。納税環境整備にかかわって、国税通則法に事前手続きから事後手続きまでを網羅する規定を設ける「国税基本法」としての性格を有することになるのは、法整備上歓迎したい。しかし、後述するように、納税環境整備の名のもとに、例外規定を設けて、税務行政の強権化を図ったり、納税者に義務の強要を図ることは、およそ国家が関与する行為とは言えず、国家の品格が問われる許しがたいことである。たとえば、法律名が「国税通則と納税者の権利利益保護に関する法律」とでもなった場合、実質的・内容的に納税者の権利利益を反映するものとたり得るのか、疑問である。

※国税通則法一部改正案の題名「国税に係る共通的な手続並びに納税者の権利及び義務に関する法律」
  2 納税者権利憲章の制定

名称を「納税者権利憲章」とし、現在、法律・政省令・告示・通達等に記載されている次の項目を一覧性のある行政文書として国税庁長官が作成して平成24年1月1日に公表する。
(1) 納税者の自発的な申告・納税をサポートするため、納税者に提供される各種サービス
(2) 税務手続きの全体像、個々の税務手続きに係る納税者の権利利益や納税者・国税庁に求められる役割・行動
(3) 国税庁の処分に不服がある場合の救済手続き、税務行政全般に関する苦情等への対応
(4) 国税庁の使命と税務職員の行動規範
納税者権利憲章は長年にわたる納税者運動の悲願であった。OECD加盟30カ国中、日本だけが制定していない。その悲願である納税者権利憲章が策定されようとしているが、それが「行政文書」として格下げされようとしている。その内容も現行の法律等に記載されている文章の羅列が予想され、単なるパンフレットになるのではないかという懸念が出されている。これらについて筆者が所属している東京税財政研究センターが意見書をまとめたので、引用することとし、検討したい。

東京税財政研究センターの意見書(要約)
課税庁の権限強化をあわせて法案化すべきではない
OECDが1990年に公表した「納税者の権利と義務」は、多くの国が納税者に対するサービスの改善に努力しているとの認識のもとで、納税者の権利を保護する法律や規則を強化し、税務当局の権力を小さくする政策に注目して、各国の納税者の権利としての基本的権利を表している。OECD加盟国としての日本は、この水準を下回ることがあってはならない。

< OECDの水準 >
情報提供を受ける権利、支援される権利、知る権利、不服申立の権利、正しい税額のみを支払う権利、予測可能性が確保される権利、プライバシーの権利、納税者情報が守秘される権利等
行政手続の一般法である行政手続法を税務行政に原則適用すること
国税通則法74条の2は行政手続法の多くを適用除外にしている。行政手続法が定める最低限の手続水準を税務行政に適用すべきある。
裁判規範性を持たせること
単なる「行政文書」ではなく、憲章に違反する行政行為が行われた場合、納税者が裁判に訴えることができる裁判規範性を有するものとすべきである。
納税者の権利の観点からの法律制定
権力行政の典型である税務行政においては行政権限行使の限界を明確にすることを通じて納税者がどのような権利を有し、保障されるのかという観点から規定すべきである。
「誠実性推定の原則」の明記
2002年7月に民主党・日本共産党・社民党が共同提案して廃案になった国税通則法一部改正案の「国税当局は、その職務の遂行に当たっては、国民の権利利益の保護に常に配慮するとともに、国民が納税に関して行った手続は、誠実に行われたものとして、これを尊重すること」の趣旨のもとで、納税者は主権者として公平・公正かつ丁重に扱われる権利を明確にすべきである。
以上述べてきたように、今回制定されようとしている「納税者権利憲章」はあまりにも稚拙であるといわなければならない。OECD各国に対して日本の国の品格が問われるといえよう。税務調査手続きについても東京税財政研究センターは意見書を出しているが、税制改正大綱の内容を記述する中で、述べていきたい。
3 税務調査手続(平成24年1月1日以後適用)
(1) 原則として事前通知を行う。
ただし、次に掲げるおそれがあると認める場合は事前通知を行わない。
正確な事実の把握を困難にするおそれ
違法、不当な行為を容易にし、またはその発見を困難にするおそれ
その他国税(条約相手国の租税を含む)に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ
*<参照>別紙税調資料「税務調査の際の事前通知について」事務運営指針(平13.3.27)
上記の例外事由の具体例を通達に記載する
(2) 事前通知の対象者、内容、方法等
対象者
納税者本人、調書提出者、代理人(税理士、税理士登録の弁護士・公認会計士、通知弁護士)、反面先
事前通知の内容

調査の開始日時・場所、調査の目的(例〇年分の所得税の申告内容)、調査対象税目・課税期間、調査の対象となる帳簿書類その他の物件(例 所得税法○○条に規定する帳簿書類)

その他・調査の日時場所の変更の申し出に関する事項・調査状況に応じ、事前通知内容以外の事項の調査対象・調査の相手方の氏名、住所(法人は名称、所在地)・調査を行う主たる担当者の氏名、所属
方法
原則として文書で通知する。
反面先には納税者の名称及び確認対象取引は通知しない。また納税者本人にも通知しない。ただし、相手方の同意があれば例外的に調査当日に文書を交付することができる。
事前通知をしない例外事由の場合は、調査終了時までに日時場所を除いたところの事前通知事項を文書で交付する。
対象となる調査は実地の調査(納税者の事業所、事務所等)
(3) 調査終了時の手続
更正・決定すべき場合
調査結果(非違の内容、金額、理由)、修正申告・期限後申告の場合の不服申立ができないことの説明を税務署長等名の文書(A)を交付。この際、修正申告・期限後申告の勧奨ができる。
修正申告・期限後申告があった場合は調査終了通知書(B)を交付。
更正・決定をする時は調査終了通知書(B)を交付。
前記の通知は、その納税者の同意があれば代理人に行えば足りる。
更正・決定すべきでない場合
「その時点で更正・決定すべきと認められない」旨の通知書(B)を交付。
再調査
終了通知書(B)交付後であっても必要がある時は再調査ができる。
(4) その他関連事項
以下の項目について法令上明確化を図る
物件の預かり・返還の規定<
現行の「質問」「検査」に加え、調査の相手方に対し、帳簿書類その他の物件の「提示」「提出」を求めることができる。
法人税の取引先の調査対象に「帳簿書類以外の物件」を追加する。
(5) 理由付記
平成24年1月よりすべての処分について理由付記を実施。
ただし、個人の白色申告者には記帳・帳簿等保存義務の拡大をあわせて実施。
白色申告者に対する理由付記
「確定申告を行った所得300万円超の申告者」
平成24年1月以後
「上記以外の者」平成25年1月以後
「記帳・帳簿等の保存が十分でない者」その記帳・帳簿等の保存状況に応じて理由を記載する

[検討事項](大綱)
1 白色申告者の必要経費の概算控除のあり方
2 正しい記帳をしない者の必要経費のあり方
3 専従者控除のあり方

東京税財政研究センターの意見書(要約)
事前通知を行わない場合の例外規定は限定的なものとすること
「調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」がある場合は事前通知をしないとしているが例外規定を広範に認める可能性がある。例外事由を具体的に限定列挙して法律に規定すべきである。
事前通知は一定期間を確保して日時指定を行うよう義務付けること
納税者が必要性を判断できる程度の調査理由の開示を義務付けること
大綱には調査理由の開示に関する明確な記述がない。納税者が、調査の合理的必要性と客観的必要性が判断できる程度の告示が必要である。
取引先等への調査は原則として制限すること
第三者に対する調査はより厳格に行われるべきである。課税標準等及び税額等の内容把握困難の場合に限り、かつその限度においてのみ取引先等への調査が可能であるとする明文規定を置くべきである。
調査結果による申告の是正は、更正・決定を前提にすべきであり、「修正申告等の勧奨」を可能とする規定は設けないこと
税務調査が課税庁の権限により行われる以上、更正・決定に代わる手続きとして修正申告や期限後申告という「処分」はあり得ない。納税者の権利保護のシステムに「修正申告等の勧奨」制度の導入は不適切である。納税者の権利の観点とは逆に権利制限に道を開くものである。
当初申告是認の場合は、再調査の規定は設けないこと
大綱は「その時点で」と更正・決定等すべきと認められないことを通知するとしているが、これは再調査を前提とした表現であり、適当ではない。明瞭な表現で「申告是認通知書」を交付すべきである。
  4 更正の請求

税制大綱は「納税者の救済と課税の適正化のバランス」を図る観点から次のようにするとしている。
(1) 更正の請求期間を5年
(2) 増額更正期間を5年(脱税の場合の増額更正期間は現行どおり7年)
(3) 更正の請求に際しては「事実を証明する書類」の添付を義務化する。
(4) 故意に内容虚偽の更正の請求には1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
(5) 期間終了間際の更正の請求の措置更正の請求があった日から6月を経過する日が更正期間の満了する日後に到来する場合は、当該6か月を経過する日まで更正することができる。
(6) 更正の請求の範囲拡大
「当初申告要件」を廃止する。(所法64、70等)
適正に計算された正当額まで当初申告時の控除額を増額できる。(措法25の2等)
(7) 適用関係
平成23年4月1日以後に法定申告期限等が到来する国税
(1)(2)(5)(6)
平成23年6月1日以後に行う更正の請求
(3)(4)
東京税財政研究センターの意見書(要約)
任意調査の遡及年数は原則3年を法定化すること
更正の請求期間5年延長にあわせて更正の期間制限が5年とされたが、その結果「自動的」に調査遡及可能年数が延長されることがないよう、調査遡及年数についての制限規定を設けるべきである。
内容虚偽の更正の請求に対して処罰規定を設けたが、その真意が汲み取りがたく、納税者の権利保護を図ろうとするときに租税刑罰の強化を図るべきでない。
[所得税]

1 給与所得控除の見直し(平成24年分以後の所得税から)
(1) 給与収入1500万円の245万円を上限とする。
(2) 役員給与等の収入2000万円超の場合は次のようにする
2000万円超2500万円以下
 245万円ー2000万円を超える部分の金額×12%
2500万円超3500万円以下
 185万円
3500万円超4000万円以下
 185万円ー3500万円を超える部分の金額×12%
4000万円超
 125万円
*役員等 法人税法第2条15号規定の役員、国会議員・地方議会議員、国家公務員(特別職、指定職)、地方公務員(国家公務員に準ずる者)
給与所得控除の性格については、旧政府税制調査会は1956年の答申で勤務に伴う必要経費の概算控除、資産所得と比べた担税力の低さへの調整、他の所得より正確に捕捉されやすいことへの調整、申告納税より早期納税することへの調整の4点に整理していた。大島サラリーマン訴訟での最高裁判決(1985,3,27)でも税調答申や立法の経過をみて、ほぼ同様の見解を示していた。

しかし、1986年の旧政府税制調査会では「勤務費用の概算控除」と「他の所得との負担調整」とし、2000年には「勤務費用の概算控除」を重視するようになった。今回の大綱でもその考え方を踏襲し、就業者に占める給与所得者割合が9割を占めるとして「他の所得との負担調整」の必要性は薄れてきているという認識を示している。

給与所得控除の控除額無制限制度については高額所得者優遇税制であるとして、筆者たちはその是正を求めてきた経緯がある。筆者が所属していた団体でも給与収入1500万円を限度とすることを主張していた。民主党政権は発足当初マニフェストで租税特別措置の是正など、筆者たちが主張していた不公平税制の是正について、一部ではあるが、その主張を取り入れていた。「労働力の再生産費」という見解もあるが、今回の給与所得控除の青天井解消は歓迎したい。筆者たちの試算(表1)では約1100億円の財源確保ができる。しかし、筆者たちの主張どおり一律に給与収入1500万円にせずに、なぜ、法人の役員を別扱いしたのか。11月25日の税制調査会議事録には、役員の考え方を次のように述べている。「役員と一般従業員との法的地位や給与決定方法の相違を踏まえると他の所得との負担調整部分は過大ではないか。高額な給与の役員については勤務費用の概算控除に限った上限が適当」。つまり、前述した二つの考え方のうち「勤務費用の概算控除」のみに限定している。
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2 特定支出控除の範囲拡大(平成24年分所得税から)
給与所得控除の上限設定とあわせて特定支出の拡大が図られている。弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費である。また、図書費、衣服費、交際費など、職務上の団体経費(勤務必要経費)も特定支出に追加された。給与所得控除の2分の1を特定支出控除の適用判定基準としている。

3 退職所得課税の見直し
勤続年数5年以内の法人役員等の退職所得には「2分の1課税」を廃止。

4 成年扶養控除の見直し(平成24年分所得税から)
特定成年扶養親族(障害者、要介護認定者、就労困難な扶養親族、65歳以上70歳未満)、勤労学生に適用
合計所得金額が400万円以下の扶養者は、被扶養者の事情にかかわらず、引き続き適用
5 配偶者控除
平成24年度税制改正以降、抜本的に見直す。

6 金融証券税制
10%軽減税率は2年延長、平成26年1月から20%本則課税。応能負担原則に反する。総合課税の方向に改めるべきである。
[相続税](平成23年4月1日以後の相続から適用)

1 基礎控除
「3000万円+ 600万円×法定相続人数」へ引き下げ

2 税率
最高税率を55%へ引き上げ
3 死亡保険金
500万円×法定相続人(未成年者、障害者、相続開始直前の生計一の者)
4 未成年者控除
20歳までの1年につき10万円
5 障害者控除
85歳までの1年につき10万円(特別障害者は20万円)
基礎控除の引き下げの理由が不明確である。大衆課税強化であり反対したい。
[贈与税](平成23年1月1日以後の贈与から適用)

1 税率構造を2段階に改正。
(1)20歳以上の者が直系尊属から受けた贈与税の税率
(2)上記以外の贈与税の税率いずれも最高税率は55%であるが、累進構造が異なる。

2 相続時精算課税制度の見直し
(1)受贈者の範囲に20歳以上の孫を追加
(2)贈与者の年齢要件を60歳以上に引き下げる
[法人税]

1 法人税率
法人実効税率を5%( 東京都の場合は5.05%)引き下げ、地方税は維持する。これにより、国税である普通法人の表面税率は25.5%となる。

大綱では、「我が国企業が国内の投資拡大や雇用創出に積極的に取り組み、これらが相まってデフレからの早期脱却につながる」という理由の下に実効税率の引き下げをした。大綱は「国税と地方税を合わせた法人実効税率を5%引き下げ、現行の40.64%が35.64%になる」と説明している。

法人実効税率とは国税と地方税を合わせた実質的な法人の税負担率であるが、法人住民税の課税標準が法人税額であること、法人事業税が損金算入されることから、次のように計算される。

[法人税率×(1+住民税率)+事業税率]÷(1+事業税率)
これを大綱の「40.64%」「35.64%」を東京都の例で検証すると次のようになる。

前提(東京都)
法人税率 改正前30%、改正後25.5%
法人事業税・地方法人特別税(外形標準課税の対象となる資本金1億円超の普通法人の超過税率)7.56%
法人住民税20.7%

<改正前>
[0.3×(1+ 0.207) + 0.0756] ÷(1+0.0756)= 40.69% A

<改正後>
[0.255×(1+ 0.207)+ 0.0756]÷(1+0.0756)= 35.64% B

<引下率>
AーB= 5.05%

資本金10億円以上の大企業は全産業260万社の0.28%の7,400社である。その0.28%の大企業が貯め込んだ内部留保は240兆円に及び、全産業の内部留保の56.2%を占めている(表2)。
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実効税率5%の法人税率引き下げで、1兆5000億円の減税という試算も示されている。消費税導入以来数次にわたって、法人税率が引き下げられてきたが、「あるところから取る」という税制が貫かれていない。11月4日の税制調査会へ提出された資料でも、「法人税率を引き下げた場合、社員への還元、設備投資の増強、人員の増強といった投資・雇用への充当よりも、内部留保や借入金の返済に充当することを考えている企業が多い」(別紙税調資料)。実効税率を引き下げても、大企業の懐を肥大化させるにすぎない。これらの内部留保は賃金引き上げや税金として社会的に還元されるべきものであろう。

2 減価償却制度
平成23年4月1日以後取得の減価償却資産について定率法の償却率は定額法の償却率(1/耐用年数)を2.0倍にした数(現行2.5倍にした数)とする。(所得税も同様)

3 欠損金の繰越控除制度(平成23年4月1日以後に開始する事業年度)
繰越控除前所得金額の100分の80相当額とする。
中小法人等(資本金1億円以下、公益法人、協同組合、人格のない社団)については現行の控除限度額を存置する。
4 貸倒引当金制度
銀行、保険会社その他これらに類する法人及び中小法人等に限定する。

5 中小企業税制
軽減税率を15%(現行18%)に引き下げ、平成23年4月1日から平成26年3月31日までに開始する事業年度に適用する。本則税率を19%(現行22%)に引き下げる。
[消費税]

1 事業者免税点制度の見直し(平成24年10月1日以後適用)
事業者免税点制度の適用を受ける事業者のうち、次に掲げる課税売上高が1000万円を超える事業者は事業者免税点制度を適用しない。
(1)前年1月1日から6月30日までの課税売上高1000万円超の個人事業者
(2)前事業年度開始の日から6月間の課税売上高1000万円超の法人
(3)以上の適用に当たっては課税売上高の金額に代わって給与等の支払金額を用いることができる。

2 還付申告書
「仕入税額控除に関する明細書」の添付義務付け。(平成24年4月1日以後提出分)
税制調査会専門家委員会では昨年11月1日の会議で「消費税免税制度の廃止でほぼ一致」という議論がされている。前年6カ月間の売り上げを基準にし、かつ、前年6ヶ月間の給与の支払額を売上金額に代えるなど、暦年課税の原則を崩し、露骨な税収確保策を講ずることは福祉国家における税制として、このようなことが許されるのであろうか。

納税者権利憲章の制定にかこつけて、白色申告者の記帳義務や記録保存義務を法定化し、税務行政の強権化を図ってきたことを見れば、これらは「消費税を含む税制の抜本改革」に向けて、行政的、法律的にその地ならしをしてきたものと見なくてはならないだろう。

納税者権利憲章はそのような方向に利用されていいのだろうか。この平成23年度税制改正大綱は大きな問題を投げかけてきた。

(いいじま・たけお)

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