論文

> 「税務行政の変化」に如何に立ち向かうか
税務署の機構改革と税務調査の動向
- 平成21事務年度の税務行政の特徴をさぐる -
東京会  小田川  豊作  

I はじめに

税務行政が大きく転換しようとしている。不断の事務見直しを行い、税務調査や滞納整理を強化しようという動きである。

準備を進めてきた機構改革が実施され、調査事務運営についてより具体的な指示が発せられている。民主党が政権につき、税制と税務行政の両面で、更なる転換となる方向性も出てきた。

納税者の権利を守り、税務行政のあり方を変える視点を定め、国民の側から不断の見直しを求めていくことを共通認識とするため、国税庁の機構改革と今年度の事務運営指針を検討する。

II 国税庁の動向

< 機構改革 >

(1)内部事務の一元化

税務署にいくと受付が様変わりし、執務室内への立入りが制限されるようになった。
平成21年7月10日から、「内部事務の一元化」と称する機構改革を実施し、小規模な税務署を除いて「管理運営部門」という新しい名称の部門を税務署に新設し、受付窓口を一本化(ワンストップサービス)したためである。

国税庁の行政は、「賦課及び徴収」と規定されているが、今回の機構改革は、税務署では各課税部門の内部事務の大半を管理・徴収部門に移管するという改革である。新設の管理運営部門には全国で7,400人が配置され(旧管理部門は約3,000人)、国税庁(局)の徴収部の下におかれた。

管理運営部門が担当する業務は、申告書管理(申告書の受付とコンピュータへの入力事務)、納税者管理(転出入等)、国税の債権管理(収納や督促)、窓口業務(収受や交付、納税証明書の発行、国税の納付、一般相談など)となっている。

これまで各課税部門が行っていた内部事務と総務課が行っていた受付事務を、債権管理が主業務であった管理部門に統合し、量的にも膨大な事務量を抱える部門を設置したことになる。

一方、課税部門にも引き続き内部担当部門が残っており、「内部事務の一元化」という合理化目的からすれば不徹底は否めず、直ちに内部事務要員の削減効果が生まれ状況にもなっていない。

(2)相談事務の見直し

「内部事務の一元化」と並行して進められたのが、相談事務の見直しである。局と署にあった税務相談室を全廃し、相談官をテレホン相談センターに集中配置し、電話相談にあたらせている。

税務署の窓口における相談も、「一般相談」「申告書等の作成指導」と「個別照会」にわけ、来署者の一般相談と作成指導は管理運営部門で、個別照会は原則予約制で課税内部担当が対応することとしている。

資産税部門は職員数が少ないこともあり、個別照会は曜日特定(曜日非公開)による予約制としている。

税理士からの相談については税理士会内部での「自己解決」を求め、税理士が税務署で面接相談できるのは、「納税者からの委任を受けた税理士から個別照会があった場合」で「所轄署において住所・氏名を確認し、原則として予約を受け付けた上で」の面接相談に限るとしている。この個別照会とは、「相談内容が申告又は納税に直結しており、複雑で具体的書類や事実関係を確認する必要があるなど、電話での応対が困難なもので、権限ある当局が責任を持って回答すべきもの」とされている。

税理士が電話にせよ面接にせよ、気軽に税務官署に相談する道が事実上遮断されたに等しい。税務代理を論拠に、税理士への応答拒否は納税者への応答拒否になり、納税者サービスの拡充に逆行しているという批判も当然である。
<機構改革の狙い>

今回の機構改革は機能的再編というよりは、国税事務の内外分離、あるいは執行権行使業務と一般行政業務の区分けという考えが土台にあり、今後の展開をにらんだとき、大きな機構改革と位置づけられる。

(1)調査事務量の確保

国税庁の国民に対する「公約」ともいえる「国税庁が達成すべき目標」において、「調査にかかる事務量を可能な限り確保するよう努め」るとして、20年度は総稼働日数の50%以上を調査関係事務日数に充てる目標を立て、実績値は55.9%であったと評価している。

調査件数を直接の目標にしているわけではないが、調査件数の増加を狙っていることは明らかであろう。その背景には、納税者数の増大に見合う調査件数の確保ができない税務行政があり、結果としての調査割合漸減がある。

19事務年度において税務調査を実施した割合(全納税者を分母に、調査件数を分子とした割合=実調率)は、所得税で0.7%、法人税で4.9%であり、個人事業者は142年に一度、法人は20年に一度の調査頻度となる。

国税庁は、適正申告の実現は調査が担保されてのことという哲学を一貫してもっている。数字上の話ではあるが、このような調査頻度では、納税者に対するけん制効果が低まり適正申告を維持できないと、国税庁の危機感は強い。

(2)「大武ドクトリン」

コンピュータとネットワーク技術の飛躍的向上を資源として、公務員数の削減と納税者数・申告書件数の増加を与件としたときの税務行政をどのようにしたらよいのか……財務省・国税庁当局は、税務行政の「最適化計画」を立案し、大転換を図る道筋をつけた。
その本筋は「大武ドクトリン(教義)」ともいえる中期方針である。

「国税庁もその時代変化の中で『調査・徴収』の本来業務に戻らなければならない。税務相談は国税庁の本来業務ではない。書面添付している納税者の申告に関しては皆さんにお任せをし、税務当局は脱税志向の強い納税者や複雑な国際課税事案等を抱える企業の調査に特化していくしかない。そのために、皆さんと役割分担を明確にする必要がある」という大武健一郎元国税庁長官の講演録を「TKC」08.02号は掲載したが、これこそ税務行政の道筋を如実に語るものであり、機構改革の狙いを表明するものである。税理士を税務行政の補助機関化する思惑も語られている。
「大武ドクトリン」を現実化するため、次の施策が実施されてきた。

内部事務を一元化する機構改革で、内部担当の要員減(正規職員を調査・徴収に振り向け、内部事務の大半をアルバイトや派遣社員で)
個人・法人とも短日調査を大幅増(実調率の引上げ)
KSKシステムやLANの高度化、高度利用(調査や尻タタキ=リアルタイムの事績報告、登記簿のネット確認、納税者番号制度にも対応)
税務相談の集中化と相談窓口の縮小(事実上の縮小による相談担当職員の調査・徴収への振り向け)
e-Tax の推進(来署者を減らすことで内部処理日数を減らし調査事務日数を増やす)
税理士の活用による適正申告の推進(書面添付制度を推進し、税務支援をさせ、税務職員は真に調査が必要な納税者の調査に集中させる)
職員の意識改革と調査能力の向上(新人事制度の活用による能力主義管理と、調査能力・滞納整理能力低下を食い止め、引き上げるため育成や研修を強化する)

個々にみると「適正申告」につながる施策かもしれないが、「全体値のパラドックス」に陥る怖れを抱えており、一連の動きに対して、適切な批判と対案の提示が不可欠の情勢といえる。

III 民主党政権が描く税務行政

一方、「大武ドクトリン」を吹き飛ばしかねない時代の変化が、政権交代という形で招来した。執行体制と税務行政に関する民主党の「アクションプラン」が動きだす。
概要は次のとおり。

< 執行体制 >
・社会保障給付と納税の双方に利用できる番号制度の早急な導入
・社会保険庁を廃止し、国税庁に統合して「歳入庁」とする
・徴税当局が把握した所得に基づき、税・保険を徴収
・歳入庁は自治体が希望すれば、地方税の徴収事務も受託する
・「納税者権利憲章」の制定と更正期間制限の見直し
・国税不服審判の基本的見直し

< 21年度改正の税務行政に関して >
・新規滞納に対する徴税の適正化
・罰則の強化と重加算税割合の引上げ
・消費税還付に係わる調査機能の充実

民主化を期待できるプランがあり、確実に実行させたい。一方、歳入庁と納税者番号制・「給付型税額控除」・インボイス導入が将来の税務行政を大転換させるのも疑いない。

「給付型税額控除」の導入は、数百万人の申告納税者を生み出し、今のままでは税務行政が機能不全となる。国民の生活と暮らし、事業者の経営に直結する巨大官庁の出現が必然化する。そこに徴税・罰則強化を織り込むプランは、行政の不安定化と強権化を懸念させる。

*国税庁5万6千人、社保庁1万2千人(年金機構移行後は1万人)、地方税約10万人。民主党の工程表に歳入庁は盛り込まれておらず、当面、常任委員会として「歳入委員会」を設置するとしている。

IV 国税庁長官「特留」の構成と影響力

国税庁長官は、21年6月26日、例年のとおりいわゆる「特留」通達を3本発遣した。
3本の表題は次のとおり。
「平成21年事務年度における事務運営に当たり特に留意すべき各事務系統に共通する事項について(指示)」
5万6千人の全職員が特に留意すべき事項で、税務職員が職場生活をどのような意識ですごさなければならないかを指示したもの。4ページ建。
「平成21年事務年度における課税部(部門)の事務運営に当たり特に留意すべき事項について(指示)」
調査を主任務とする課税部署に関するもの。職員構成比約60%、3万5千人の職員がこの指示の下で動く。27ページ建。
「平成21年事務年度における管理運営事務及び徴収事務の運営に当たり特に留意すべき事項について(指示)」
新たな内担部署となった管理運営部門と滞納整理を主任務とする徴収に関するもので、職員構成比約25%、1万3千人がこの指示の下で動く。6ページ建。

V 各「特留」の特徴とポイント

以下、「特留」と年度当初における当局幹部の発言等を参考にして、21事務年度の税務行政がどのように展開されるのかをさぐってみたい。税務行政のありようは、税務調査という行政行為のなかで顕著に表現されるので、特に、課税関係の調査に重点を置いた。
1 各事務系統共通の「特留」について

例年、組織運営上の重点を簡潔に取り上げている。すべて内向きであり、納税者との関係は基本的に取り上げていない。税務職員がどのような状態におかれながら仕事をしているのかをこの「特留」でおさえたい。

(1)職員の非行防止、事務処理手順の遵守、文書・情報の管理徹底が冒頭に強調されている。当局にとって頭の痛い事態がなくならない。今事務年度でも、S署で法人税申告書が紛失している。事故は遅滞なく局に報告し、申告書の紛失等がその職員に起因していることが判明した場合、署長注意、勤勉手当の低率支給などの処分が課せられている。

(2)内部事務一元化は21年度が初年度であり、円滑に行くよう指示。また、「新人事評価制度」も21年10月から実施で、能力・実績主義の人事管理の基礎となるツールと位置づけている。内部事務一元化の機構改革は失敗が許されない。新人事評価では目標設定と目標到達度を評価するという初めての運営になり、その影響が職員の仕事ぶりにどのような変化をもたらすのか注目していく必要がある。21事務年度は、これらの新規施策のスタートの1年となる。

(3)e-Tax の利用拡大については、税理士への利用勧奨、確定申告に向けた利用拡大策を協調。あわせて、e-Tax の普及を踏まえ、データによる事務処理の徹底を求めている。

e-Tax が、納税者情報の管理と活用に直結していくことは容易に想定されるが、具体的にどのような現れ方をするのかを納税者側からチェックしていく体制が必要となる。

一般職員と中間管理者のあり方を規制するこの「特留」を口語訳すると……「悪事はやめろ、ミスはするな、勤務時間は厳密にみっちり働け、普段の生活も律しろ、言われたとおりマニュアルどおりやれ、目標管理・自己責任・管理者責任を厳しく問う、上は厳しくチェックしているぞ」となる。

公務員全体にかけられている攻撃であるが、国税庁の職員管理は輪をかけて厳しく締め付けており、職員が自己保身に走らざるを得ない組織運営となる。

締め付けの強化は、税務職員に内的変化を起こし、納税者にとっては人間味のある、話のわかる税務職員がいなくなるということである。
2 課税部(部門)の「特留」について

課税関係「特留」は、基本、共通・重要、個人課税、資産課税、法人課税、源泉所得税、間接諸税、酒税という構成になっている。見出しを追いながら、必要と思われる特徴点を探っていきたい。

I 基本的な考え方
国税庁の使命を引用。

1 適正な申告納税の推進と源泉徴収制度の運営

納税環境の整備は例年と同じ。納税者の予測可能性を高めるため、文書回答などの事前照会に適切に対応するとしているが、これまでの文書回答をみると取引等の複雑化における課税上の問題に関するものであり、一般納税者が気軽に利用したり、活用できるものではない。
源泉徴収制度について、「現在の徴収制度の大きな柱」と位置づけを明確にしたのが特徴である。間接税をおいて、広範な納税者から比較的容易に徴税する方法の最良のものは源泉徴収方式であり、実際にこの方式を確実に拡大させている。課税庁は事務運営上の重点において、確実な課税と徴収に向かうことになる。

2 適正な調査の実施

大口・悪質に対する深度ある調査と、中低階級に対する簡易な接触という2区分したメリハリのある調査体制を柱にしている。この考え方は国税庁の一貫した思想でもある。
時代変化に対応するため、情報収集の充実、調査手法や調査体制の見直し、重要課題への積極的取組みを指示し、次の「共通関係・重要事項」で具体化している。
II 共通関係・重要事項

1 調査事務の充実等

(1)事案に応じたメリハリのある事務運営

メインの調査事務は、納税者管理を徹底し、関係する資料・情報を集め、事案に応じたメリハリのある調査を行うとしている。メリハリは漢字では「減り張り」と書き、本来の意味は弦をゆるめたりピンと張ることをいう。

課税当局は頻繁にメリハリを用いるが、年間計画の事務打ち合わせで個人課税の局幹部は調査事務に関して、「キーワードは『メリハリ』にある。限られた事務量を署の施策にいかに振り分けるかということだが、そこでは署の戦略が重要になる。」と説明し、以下の方向性を示したという。

個人特官所掌に関していえば、貧富拡大の社会状況をにらみ、非事業性の高額所得者、富裕層にターゲットを絞るということが重要。この層に国税のメスが入っているかが問われる。高額悪質重点では、継続管理1を厳選し管理対象を減らす。
継続2管理事案の対象は、大口資産家、関係個人、関係法人の3つ。加えて、資産課税部門の超大口資産家を継続2に統合。資産特官との対応関係を整理し、その上で『相続税課税も視野に入れた効果的管理』をめざす。
今後は個人調査時点で相続課税を前提に財産を把握していく。
継続2は7年一巡の循環接触。これには庁が作成する財産債務明細表の文書照会も接触と位置づけ毎年4〜 6月に実施。財産債務明細表記載不良、記載内容要確認者を調査選定対象にする。
一定の高額所得者に対する無申告事案把握の試行、事業所得等を中心とした無申告事案への対応も試行する。
着眼調査は、消費税無申告、消費税還付を優先実施できたが、着眼から特調や一般調査への振替は原則なし。単に金額が出ただけでの振替は効率性に反するため。
個人納税者の管理と調査体系の全体像が示されたといえる。
(2)大口・悪質な不正・無申告事案等への取組
大口・悪質な不正事案等への取組
いわゆる「ハリ」の調査に関して具体的指示を出している。
常習的に不正を繰り返す業種・業態など調査困難かつ悪質な事案
課税上の問題が伏在していると想定される事案
この事案に対しては的確な選定と組織的な対応で調査せよと指示し、各事項の調査体系を示した。
(イ) 局資料調査課等における調査
先端的・潜在的事案→資料調査課が情報を集積し、料調が優先調査。

(ロ) 情報収集機能の充実・強化
課税上の問題が伏在していると想定される事案→課税総括課が管理分析し、料調・署総合特官へ引継ぎ調査。

(ハ) 他部課を含む関係部署との連携強化
処理困難と見込まれる事案、波及効果の高い重要事案→調査部、査察含む部署の連携強化および適切な調査体制の編成による調査。

(ニ) 適切な調査体制の編成等
署のみでは調査が困難と認められる事案→課税総括課が担当部署確定など調整し、適切な調査体制の編成による調査。

ロ 無申告事案への取組 無申告事案は所得税、法人税のみならず消費税や源泉所得税の観点からも選定し、無申告個人・稼働無申告法人は資料の活用や組織的対応で調査を充実するとしている。

前述の個人課税局幹部は無申告に対する取組みを次のように説明したという。

従来、過少申告と無申告のどちらが悪いのかといった議論があったが、経済悪化の中では、国税が無申告を放置していていいのかという問題から

一定の高額所得者に対する無申告事案の把握を試行する。この場合の無申告とは、各種所得のうち一部の所得を申告していない者を含む。

とは別に、中低階級の無申告対策として、事業所得等を中心とした無申告事案への対応としての試行を行う。個人課税全体事務量の10%程度を目安として事務量を投下。

(3)国際化・高度情報化に対する積極的な取組

イ 国際的租税回避スキームなど国際化への対応
海外取引、海外資産保有の納税者に対する積極的調査。国際的租税回避スキームに係る情報は「連絡せん」作成の徹底。

ロ 高度情報化への対応
電子商取引、業務の高度情報化・ネットワーク化の顕著な納税者への適切な調査。高度なIT調査の展開と、調査手法の開発。

(4)消費税課税事業者への取組
消費税は主要な税目と位置づけ。新規課税事業者の把握、不正還付対応を含め調査・指導、還付処理を適切に実施。

(5)源泉所得税事案への取組
預り金の性格を有する源泉所得税と性格付け。未納の早期処理、過年分納付遅延者に対する計画的処理、未納整理処理困難事案に対しては調査による処理を指示。
国際源泉課税などに対して、重点的かつ深度ある調査。

(6)資産運用が多様化・国際化する富裕層への対応
富裕層に対する課税上の問題点を整理し、所得(フロー)の把握とあわせ、相続税の適正課税をにらみ、相続財産(ストック)を確実に把握する調査等の充実を打出した。前述のとおり試行や深度ある調査が展開される。

(7)広域展開する法人グループ等への対応

(8)公益法人等への対応

(9)好況業種等への対応 例年と変わりがない。

(10)署調査部門の運営

イ リード役を中心とした部門運営の推進 特定の上席調査官を部門のリード役に指名し、統括官を補佐して選定に従事するほか、コミュニケーションの中心的な役割を担わせることを目的として実施。

ロ 署特別国税調査官のマネジメントの着実な実施
署長・副署長のマネジメントの下で、単独調査(特官一人)の実施、集中配置・グループ運営による調査体制の構築。
III 個人課税関係

「特留」を受けた具体的指示は次のようなものといわれている。
  1. 消費税の還付申告者、無申告者に対する着眼調査を優先的に実施。
  2. 実地調査の留意事項として、記帳記録保存状態を的確に把握。青色申告者、記帳制度適用者に対し、記帳と書類保存を指導。青色申告特別控除のチェック。
    *「帳簿書類の提示」に関しては、課税庁内部では「3回ルール」といわれるガイドラインがあり、3回求めても提示がない場合は「取消し理由」に該当するとしている。
  3. 選定のポイント1
  4. 選定のポイント2
  5. 事業用資産の譲渡がある者について、課税事業者の場合は課税売上の内容を検討し、的確に処理。免税事業者の場合、課税売上が1千万円を超えないか的確に審査。
  6. 高額所得者・無申告者対策
  7. 特定団体への調査
  8. 重点調査化の対象
  9. 局指定重点調査業種
  10. 注目業種
IV 資産課税関係

特徴は次のとおりといわれている。
  1. 相続税中心の実地調査
  2. 譲渡事案への取組み
    個人課税部門との一体的運営に配慮し、継続2管理事案、不正が見込まれる事案、無申告事案を中心に事務量確保。
  3. 海外資産関連事案に対して、局署の国際税務専門官主導の下、海外資産の把握、海外取引の実態解明、資料情報の収集を図る。
  4. 今事務年度の優先施策として、 効果的・効率的な実地調査への取組み、 特色ある調査体制等による実地調査への取り組み、 未処理事案への集中的な処理方策、 納税猶予事案等の継続管理事案の効果的・効率的な処理方策。
V 法人課税関係

大要は「特留」のとおりだが、東京局の具体的な運営は次のようになると伝わっている。
  1. 内部事務一元化後の課税部門の事務運営として次の施策が提起されている。< 課税1統会の設置 >……(課税部門共通)
    課税1統会の中から管理運営部門の窓口担当を一人指名。
    事務系統横断的な事務運営の調整、運営、企画に対応。
    署内連携にかかる調査企画については、オーナー企業等への事務系統横断的な事案に積極的に取り組む観点から、課税1統会が調整。
    法定監査、資料源開発などの外部事務は、広域運営中心署の開発調査特官、資料情報部門が広域運営で実施。

  2. 調査企画担当特官を設置する。

  3. 実地調査については、消費税の不正還付事案をはじめとする消費税固有の不正事案が増加しており、手口も巧妙化していることから、消費税固有の不正計算が想定される法人を積極的に選定。
    KSKシステムの選定機能(調査選定システム、調査簿分析システム等)、資料情報会議、選定会議を有効に活用して的確に抽出。
    進行管理は「準備調査表兼調査経過報告書」「法人課税集計システム」等、各種事務管理システムを効果的に活用して進行管理を図る。

  4. 無所得申告法人も、業種・業態、売上規模、代表者報酬等から疑義のある法人は積極的に選定。

  5. 調査保留法人で疑義のあるものには書面照会、来署依頼、臨場を積極的に実施し、実地調査の要否を判定。

  6. 同時調査は、不正見込み、赤字仮装、消費税固有の法人に対して組織力・機動力を生かした深度ある調査を実施。統括官自らが参加した組調査を実施して若手職員の育成も。

  7. 重点項目調査は、 法人税、消費税、源泉所得税の観点から確認を要する法人、 無所得法人または長期未接触法人等で申告水準の維持向上を図る観点から接触する必要のある法人について選定するとしている。
    重点項目調査の進行管理は、調査項目、方法、手順等を具体的に示し、展開が望めない事案、不正が見込まれない事案等は早期に調査の打切りの指示を行う。
    * 東京局における調査官一人当たりの同時調査と重点項目調査の割合は、20事務年度は50対50で、年間調査件数は平均36件であったが、21年度は45対55とし40件とする署もでてきた。短日調査割合の増加は調査件数の増加となる。

  8. 課税処理にあたっての具体的指示
    課税処理にあたっては、次の事項に留意するとしている。
    重加算税の賦課に当たっては、仮装・隠蔽の事実内容の確認および証拠書類の収集を確実に行うとともに、納税者に対して重加算税の賦課理由を十分に説明する。
    高額・悪質な不正計算を行っている法人を把握した場合は、過去からの不正計算の状況、規模、除外資金の使途等の実態を十分に解明するとともに、6・7年目に遡及すべき事案については、確実に是正する。
    法人税の過少申告にかかる増額更正を行う場合の更正可能期間は、申告期限を迎えた最終事業年度を含めて5期であることから、確実に是正する。
    (注)消費税については3期であることに留意する。
    期限後の還付申告書の審査に当たっては、還付金の請求期限(課税期間終了の日の翌日から起算して5年以内)までに提出されたものであるかを必ず確認する。
    青色申告の承認を受けている法人が承認の取消事由のいずれかに該当する場合は、承認の取消しを確実に実施する。
    同族会社特有の恣意的な経理によって不当に税負担の軽減等を図っていると認められる場合は、確実に是正する。
    使途秘匿金課税の要否判定を要する支出を把握した場合は、事実関係の的確な把握に努め、使途秘匿金に対する追加課税が必要と認められる場合は、確実に是正する。

  9. 局指定重点調査業種目

  10. 注目業種目等
    < 好況と認められる業種目等 >
    <不正が潜在している業種目 >

  11. 納税地変更の著しい法人(3年間で3回以上納税地変更を行っている法人)について深度ある調査を実施。忌避法人に対しては納税地指定を行って調査。

  12. 源泉所得税事務の集中化(未納整理と非課税貯蓄限度額管理事務)を、サテライト方式により全署に拡大し、削減が見込まれる日数を過年分未納・超大口未納等の処理に充てる。
    * 調査以外の課税関係事務、管理運営事務及び徴収事務については、「特留」から読み取っていただきたい。

VI おわりに

例年、大量の定型処理をしているかの税務行政も、様々な模索をしながら事務を運営している。

21事務年度も大筋は変わらないが、調査重視が更に強調されてきた。

源泉所得税を重視する姿勢が新たに示されているが、税務行政の基幹は申告納税方式にあり、その担保は税務調査だとする思想は一貫している。そこは税務行政上で最もトラブルの絶えないところである。

トラブルは、納税者の脱税、事実認定の食い違い、税法解釈の食い違い、税務当局の行き過ぎによって生じる。特に、課税庁が大量に処理しなければならないのは中小所得者、中小法人であり、トラブルはその層に集中する。

問題なのは税務当局の行き過ぎである。見てきた「特留」とその具体化の指示は管理者や担当者に過剰反応を起こさせる要素をはらんでいる。

加えて職員に対する業務の厳格化がのしかかり、納税者との関係にも影響する職場状況がつくられている。

税務当局が実施しようとする21事務年度の事務運営の特徴をよく分析し、納税者の権利を擁護し、税務行政の民主化を求める運動をいっそう強めていかなければならない。

(おだがわ・とよさく)

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