このように国税庁のアウトソーシングに、税理士を「受託事業」と称して「税務支援」に動員することは、税理士を課税当局の下請人に仕立てることになる。また、文書による調査省略通知を餌にした「基準」による書面添付制度の推進は、税理士を課税当局の補助者にすることになる。これでは税理士法第1条に規定する「独立した公正な立場」で税理士業務は行えない。
それでは国税庁が進めるアウトソーシングによる税理士の下請化、書面添付の推進による税理士の補助者化に対し、税理士はどう立ち向かえばいいのだろうか。 |
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(1)アウトソーシングは税理士法違反
アウトソーシングは国税庁も日税連も、税理士法違反ではないといっている。国税庁は税理士法第1条に規定する「税理士の独立した公正な立場」に抵触するのではないかとの疑問に対し、「「税理士の独立した公正な立場」とは、(中略)納税義務者あるいは税務当局のいずれにも偏することなく、税法に規定された納税義務の適正な実現を図ることをいう。したがって、税理士が納税者からの委嘱を受けて税理士業務に従事する場合において国のアウトソーシング事業を受注した民間企業の指示を受けるとしても、その指示が税理士業務の内容にかかわるものでなければ、「税理士の独立した公正な立場」が確保されていると言える。」(関東信越会会長清水武信ブログ内「日税連を考える」2007年5月25日清水武信投稿より)として、税理士法第1条に抵触しないとしている。
日税連も「国の税務行政サービスであるアウトソーシング事業を税理士が行うことが、「独立公正な立場」を阻害するかどうかとは、税務当局に対しての独立対等な立場が阻害されないかどうかということに繋がる。(中略)委託業務の内容について税務当局からの指揮監督もされないことから、仕様書に基づく事業が適正に実施されている限り、税務当局の補助的機関としての立場ではなく独立対等な立場が阻害されているとは認められない。」(2008年3月19日「アウトソーシング事業と税理士法(タタキ台)」日税連制度部長斎藤雅昭)と考え、抵触しないとしている。
しかし、本当に税理士法第1条に抵触しないのだろうか。税理士と課税当局との間で税務判断で対立したとき、発注者の課税当局に偏しないで指揮監督にも従わなくていいのだろうか。税理士は「独立した公正な立場」に基づき、自らの判断を最後まで貫き通すことができるのだろうか。課税当局のアウトソーシングである以上、発注者の課税当局に従わざるをえないのが通例であろう。したがって、税理士がアウトソーシングに従事すれば、「独立した公正な立場」は阻害され、税理士法第1条に違反する結果になる。アウトソーシングそのものが税理士法第1条に違反するといわざるをえない。アウトソーシングは中止すべきである。
納税者の税務支援は税理士会独自の事業で実施し、会員の税理士には任意で自覚的に従事することを呼びかけるべきである。 |
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(2)文書による調査省略通知も税理士法違反
昨年7月から国税庁は書面添付制度の運用で、記載内容が良好な添付書面について、意見聴取後、調査省略を行った場合には、文書による調査省略通知を行うことにした。意見聴取後の調査省略および文書による調査省略通知は、税理士法第35条(意見の聴取)に違反するのではないのか。
税理士法第35条では、「税務官公署の当該職員は、第33条の2第1項または第2項に規定する書面(以下この項及び次項において「添付書面」という。)が添付されている申告書を提出した者について、当該申告書にかかる租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、当該租税に関し第30条の規定による書面を提出している税理士があるときは、当該通知をする前に、当該税理士に対し、当該添付書面に記載された事項に関し意見を述べる機会を与えなければならない。」と規定している。
したがって、意見聴取後は調査をしなければならないのである。調査省略をしたり、まして調査省略通知を文書で送付したりすることはできないはずである。
書面添付制度・意見聴取制度をここまで拡大解釈すれば、各税法に規定されている質問検査権の規定と矛盾するのではないだろうか。調査省略を行ったり、調査省略通知を文書で出したりすることは、これも税理士法違反といわなければならない。調査省略や文書による調査省略通知はやめるべきである。 |
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(3)税理士法第1条の改正で下請化・補助者化を阻止
税理士制度は強大な課税当局に相対する弱き納税者のために、納税者の権利を擁護する代理人制度でなければならない。法律で定められた適正な納税を実現するために、税理士は納税者の代理人として課税当局と対等平等の立場でなければならない。決して課税当局の下請人や補助者になってはならないのである。国税庁や日税連が推し進める下請化や補助者化を阻止する究極の対策は、税理士法第1条の改正である。アウトソーシングにしても書面添付制度にしても、現在の税理士法第1条の「独立した公正な立場」からは容認されるとして、ここを根拠に進められている。大武健一郎国税庁長官(当時)はTKCの会報「TKC」(2005年1月号)のインタビュー記事で、「税理士法における書面添付制度は、いわば税理士法第1条の税理士の公共的使命を具現化したものです。」と述べている。
いま日税連は税理士法の「改正」に動き出した。昨年11月に公表された「税理士法改正に関するプロジェクトチームによるタタキ台」には、「税務支援のうち税務援助への従事を義務化」する案、「税理士証票の更新制度の創設」と「税務援助への従事をその更新要件」とする案があり、また「書面添付制度が税理士の権利であることを税理士法上明確化する」「意見聴取制度について、質問検査権との関係などの法的位置付けを明確化する」ことを検討事項に挙げている。そして、この「タタキ台」は現行の税理士法第1条を前提に作られているのである。これではますます税理士の課税当局への下請化・補助者化が促進されることになる。
強大な課税当局と力の弱い納税者とのバランスをとるために、58年前、平田主税局長が目指した税理士の役割を実現しなければならない。そのために、税理士法第1条の「独立した公正な立場」を削除し、「納税者の権利を擁護する代理人」を挿入する改正を目指さなければならないのである。
また、「税務行政の変化」の元にある「広く薄く課税」する間違った税制改革を、憲法の理念にかなった応能負担の原則にもとづく税制改革に転換すべきである。 |
(せいけ・ひろし) |