論文

> 平成21年度税制改革の問題点
100年に一度の大不況をどう乗り切るか
企業再生の現場から
埼玉新人会4月例会  2009年4年14日
講師  中小企業診断士  渡辺  正幸  氏

I. 景気の見通しと考え方

電線卸売業の事業再生の業務を進めながら、体験した事例ですが、昨年9月のリーマンショック後売上高は減少を続け昨年対比▲70%から▲80%に減少。底は3月から4月という判断(仕入先、納品先との情報交換の結果)。納品先が輸出関連企業なので、一番正直に影響が出たのではないか。

ただ、今までの不況と違い、時期がくれば回復するという性格ではないことに注意を払う必要がある。V字回復は考えられない、総需要が2-3割減少した状態がしばらく続くと考えて企業経営、資金繰りにあたらなければならない。スーパーからコンビニまで値下げ競争が始まった。減少した需要をお互いに食合う状態がしばらく続く、体力勝負になるだろう。体力のない企業が淘汰され生き残った企業が、需要に見合った売上を確保して存続していく。この4-5年はこんな展開になるのではないでしょうか。

個別企業の再生の仕方について、業績がどの程度まで回復するか、その時間と売上高推移を予測していくことになるのだが、どのように進めたらいいのか。私がやっている事業再生の手法と支援プロセスを紹介していきます。

II. 事業継続、事業再生支援の着眼点

1.資金繰りがどこまでもつかを把握する。
1)まず、資金繰り表(日繰り表)を作成する。
日々の資金繰表を作成していつまで資金がつなげるか検討をする。銀行交渉だけでも2-3ヶ月は時間が掛かる。事業再生を実際に行うには最低でも6ヶ月は必要となる。現状ではどこまで資金が持つかによって、再生の方法が変わってきます。最低3ヶ月の資金繰りがつかないと銀行との交渉を余裕を持ってすることができません。
2)非常時資金繰り対策の基本は、資金の流出をどれだけ圧縮できるかにある。
そもそも資金に詰まって相談にくるわけなので、通常の資金繰り表を作成しても資金ショートがわかるだけです。そこで、別紙の「非常時資金繰り対策における支払優先順位」に基づいて支払い(資金の流失)を極力止める(支払いの繰り延べ)を考えます。

手形は、最優先です。買掛金については、ABCのランク付けをします。Aは支払わないと即営業に影響が出るところ、Bは、もし仕入れができなくても他に代替がきくもの、Cはこの際取引を断っても仕方ない先、Aを優先的に支払い、後は繰り延べをお願いする。経験上説明に伺うと、7割は支払いの繰延に応じてくれます。従業員の給与は買掛けより上の場合もあります。これらを含めて「支払いを止める」ということになりますから、経営者の決断が必要になります。

「非常時資金繰り対策における支払優先順位」
●  支払手形決済資金を先ず確保する。
  ただし、「手持ち」または「取立依頼」の手形の場合には、ジャンプ(繰り延べ)も検討する。
●  買掛金支払、外注費支払いの優先順位を決めて支払必要資金を確保する。
◇  今後引き続き仕入れを行っていくところは最優先。
◇  それ以外の仕入先については、支払いを繰り延べる。
●  給与支払
◇  従業員の給与は最優先。
◇  役員報酬は削減又は支給停止する。
●  公共料金
  特に電気代、水道料金、電話料金
●  その他の経費
  毎日の営業継続にとって支障が生じるもの以外は繰り延べが可能な経費は繰り延べる。
  例えば、支払い保険料、地代家賃、管理諸費等
●  支払利息
●  借入金元本返済
●  社会保険料、源泉所得税、法人税、消費税等租税債務

3)銀行との交渉
3ヶ月の見通しがついたら、銀行への返済額の交渉に入ります。状況によって、利息だけにするのか、期間の繰延による返済額の減額になるのか、状況はさまざまですが、資金繰りの計画書を持って説明に行くことで、銀行に検討の結果を求める立場になります。6か月の資金繰りに見通しをつけて事業再生の検討を行います
2.自社の損益収支と資金収支の見通しをシミュレーションする。
現状の見直しで、減価償却後営業利益がプラスにならないと資金が回らないことになります。プラスになるまで何度も見直して作成することになります。また、「在庫圧縮」「売掛金圧縮」「買掛債務の支払条件の見直し」「遊休資産の処分・活用」「債務圧縮可能額の算定」などを行うことになります。ただ、このような見直しを行うにも小零細企業では限界があります。事業そのものの見直しが必要になります。

III. 収益構造の見直し着眼点

1、事業・製品・顧客等の「選択と集中」を実施する
分析の手法はいくつかあると思いますが、最終的には残す事業と、捨てる事業を決めなければなりません。部門・商品郡・得意先等の区分で検討を行います。
紙面の都合上、実例を掲載します。(編集者  注)

「選択と集中」の考え方

< 青果卸売業の事業価値分析、戦略的事業領域分析、PPM 分析による「選択と集中」事例 >
現状の分析・・全体で3800万円の赤字, チェーン居酒屋・チェーンレストランが赤字の原因

< 事例企業における「選択と集中」戦略の展開 >

<「選択と集中」戦略展開後の事業計画 >
検討の結果、チェーンレストランは残した。
2、どこを改善したら利益が生み出せるか - バリューチェーンの見直し
それぞれの事業のバリューチェーン(直訳すると「価値の連鎖」)収益を生み出す鍵(要諦)がある。それを見直す。製品やサービスが仕入・加工・流通などを経て価値を生み出す仕組みともいえます。その中の鍵となる仕組みを見直すことです。

たとえば、製造業では「原価管理」建設業では「実行予算と工程管理」というふうに、その業種に価値を生み出す仕組みとカギがある。それを一つ一つ見直す。建設業で、実行予算管理をしただけで5%収益がアップした会社もあった。

最後に金融機関との交渉をする際のポイントを整理しましたので参考にしてください。

IV. 金融機関と返済猶予を交渉するときの実務対応ポイント

資金に若干余裕がある場合と全然余裕がない場合とがある。ある場合には、事業計画及び弁済計画を策定して交渉する。ない場合には、とりあえず元本返済を止めてもらうことで交渉し、事業計画・弁済計画をいつまでに提出するかを明確に示す。
定期預金の解約、預金の他の借入債務のない金融機関への移動等についてコンサルタントの中には強行を主張する人もいる。しかし、私の経験からするとこうした方法は金融機関の支援の姿勢を後退させるばかりか、かえって敵対的な対応に出てくる場合が多いのも現実である。ケース・バイ・ケースで判断していくことになる。
金融機関からの資金調達が不可能になってもノンバンク等(商工ローン・消費者金融ではないノンバンク)から売掛債権担保融資等の道もあるのでその企業の資金繰りの実情に沿って対策を具体化する。
このような資金繰り状況になった場合には、該当企業のP/L改善が本当にできるかどうかが問われる。改善が不可能な場合には早期(傷が浅いうち)撤退することも考えなければならない。

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