政府は消費税実施から21年目となる09年度税制改定法案を09年1月23日、国会に提出した。法案提出までには次の経過をたどった。
|
(1)政府税調09年度答申
政府税制調査会(政府税調)の「09年度の税制改正に関する答申」(08年11月28日)は、税制抜本改革の方向性について、「当調査会としては、昨年 <2007年11月> の答申に示した各税目の中期的な改革の考え方は、その後の大きな情勢変化の中でも、揺るぎなく堅持すべきと考える。『中期プログラム』で示される税制抜本改革の全体像において、当調査会の提言内容が十分に反映されるよう、政府に要請したい」と述べた。
09年度答申が堅持すべきという政府税調の「07年11月答申」の大要は次のようなっている。
|
|
個人所得課税・・・・・・超過累進税率を緩和する。配偶者控除・扶養控除の廃止を含む所得控除を縮減する。給与所得控除を縮減する。事業所得における低所得者の必要経費を認めない。公的年金等控除額を縮減する。個人住民税の均等割部分を増税する。地方公共団体対する寄付金税制を勧める。
|
|
法人課税・・・・・・法人実効税率のさらなる引き下げを行う。地方法人課税における外形標準課税の割合や対象法人を拡大する。事業税における社会保険診療に係る課税の特例措置を撤廃する。国際的な資金循環や企業活動に対し税制が阻害要因とならないことが重要である。公益法人税制を改変する。
|
|
消費課税・・・・・・消費税は税制における社会保障財源の中核を担うにふさわしい。
|
|
資産課税・・・・・・相続税の負担水準をこのまま放置することは適当でない。
|
|
金融所得課税・・・・・・損益通算の範囲を拡大する。上場株式等の配当や譲渡益の軽減税率(10%)は妥当である。
|
|
固定資産税・・・・・・負担水準の低い土地が存在するので適正化を促進する。
|
|
納税環境整備・・・・・・納税者番号制度を導入する。罰則を強化する。広報・租税教育を強化する。
以上のように07 年答申は未曽有の大企業・高所得者減税、庶民大増税計画であり、その「堅持」は国民を奈落の底に導くものとなっている。 |
|
(2)自公税制「改正」大綱と中期プログラム
自公税制「改正」大綱(08年12月12日)は、税制抜本改革の道筋として、「消費税を含む税制抜本改革を経済状況の好転後に速やかに実施し、2010年代半ばまでに持続可能な財政構造を確立する。」として次の8項目を掲げた。
|
|
個人所得税・・・・・・「各種控除や税率構造を見直す」
|
|
法人課税・・・・・・「社会保険料を含む企業の実質的な負担に留意しつつ、課税ベース <土台、基礎、基本> の拡大とともに、法人実効税率の引下げを検討する」
|
|
消費課税・・・・・・「消費税の全額がいわゆる確立・制度化された年金・医療・介護の社会保障給付と少子化対策に充てられることを予算・決算において明確化した上で、消費税の税率を検討する。その際、歳出面も合わせた視点に立って複数税率の検討等総合的な取り組みを行うことにより低所得者の配慮について検討する」
|
|
自動車関係諸税・・・・・・「負担の軽減を検討する」
|
|
資産課税・・・・・・「相続税の課税ベースや税率構造等を見直し、負担の適正化を検討する」
|
|
納税者番号制度の導入
|
|
地方税制・・・・・・「地方消費税の充実を検討するとともに、地方法人課税の在り方を見直す」
|
|
税制全体のグリーン化(環境税という超大型間接税導入の布石)
自公内閣はこの前記大綱の8項目をそのまま受け継いだ「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた『中期プログラム』」を閣議決定した(08年12月24日)。
中期プログラムは、税制抜本改革の道筋として「消費税を含む税制抜本改革を2011年度より実施できるよう、必要な法制上の措置をあらかじめ講じ、2010 年代半ばまでに段階的に行って持続可能な財政構造を確立する」としている。 |
|
(3)平成21 年度・所得税法等の一部を「改正」する法律の附則
09年1月23日に国会提出がなされた「所得税法等の一部を改正する法律」の附則第104条(税制の抜本的な改革に係る措置)は次の内容となっている。
|
|
政府は基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げのための財源措置並びに年金、医療及び介護の社会保障給付金並びに少子化に対処するための施策に要する費用の見通しを踏まえつつ、平成20年度を含む3年以内の景気回復に向けた集中的な取組みにより経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成23 年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする。この場合において、当該改革は、2010年代の半ばまでに持続可能な財政構造を確立することを旨とするものとする。
|
|
上記(1)の改革を具体的に実施するための施行期日等を法制上定めるに当たっては、景気回復過程の状況、国際経済の動向等を見極め、予期せざる経済変動にも柔軟に対応できる仕組みとするものとし、当該改革は、不断に行政改革を推進することに一段と注力して行われるものとする。
|
|
上記(1)の措置は、次に定める基本的方向性により検討を加え、その結果に基づいて講じられるものとする。
|
i |
個人所得課税については、格差の是正及び所得再分配機能の回復の観点から、各種控除及び税率構造を見直し、最高税率及び税率構造を給与所得控除の上限の調整等により高所得者の税負担を引き上げるとともに、給付付き税額控除の検討を含む歳出面も合わせた総合的な取組みの中で子育て等に配慮して中低所得者の負担の軽減を検討すること並びに金融所得課税の一体化を更に推進すること。
|
ii |
法人課税については、国際的整合性の確保及び国際競争力の強化の観点から、社会保険料を含む企業の実質的な負担に留意しつつ、課税ベースの拡大とともに、法人の実効税率の引下げを検討すること。
|
iii |
消費課税については、その負担が確実に国民に還元されることを明らかにする観点から、消費税の全額が制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する費用に充てられることが予算及び決算において明確化されることを前提に、消費税の税率を検討すること。その際、歳出面も合わせた観点に立って複数税率の検討等の総合的な取組みを行うことにより低所得者への配慮について検討すること。
|
iv |
自動車関係諸税については、簡素化を図るとともに、厳しい財政状況、環境に与える影響を踏まえつつ、税制の在り方及び暫定税率を含む税率の在り方を総合的に見直し、負担の軽減を検討すること。
|
v |
資産課税については、格差の固定化の防止、老後における扶養の社会化の進展への対処等の観点から、相続税の課税ベース、税率構造を見直し、負担の適正化を図ること。
|
vi |
納税者番号制度の導入の準備を含め、納税者の利便の向上及び課税の適正化を図ること。
|
vii |
地方税制については、地方分権の推進及び国と地方を通じた社会保障制度の安定財源の確保の観点から、地方消費税の充実を検討するとともに、地方法人課税の在り方を見直すことにより、税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系の構築を進めること。
|
viii |
低炭素化を促進する観点から、税制全体のグリーン化を推進すること。
法律は本則と附則から成る。附則はその法律の主要な事項以外の付随的事項を定める部分の名称である。その法律の主要な部分は「本則」という。附則はその法律の施行期日に関する規定が代表例だが、その他、既存の法律の改廃に関する規定などがある。
今次の附則104条は悪税制の推進プログラムである。国民の信を問わず消費税導入などの悪税制推進を既成事実化しようという策略である。 |