論文

> ウォール街の金融危機と世界大不況
格差が広がり貧困層の増大の中で消費税の税率アップとは
  東京会  久保田  幸夫  

iii  年収200万円以下が22.8%、1,000万人を超す
平成19年の民間給与実態統計調査結果が国税庁から発表された。これによると給与所得者数は5,377万人で、民間給与者数は4,543万人、平均給与額は437万円(男性は542万円、女性は271万円)だ。年収100万円以下が男女合わせて366万人、100万円超200万円以下が666万人、計1,032万人となって、全体の22.8%を占める。平成15年では900万人で全体に占める割合も20.2%だからこの階層は着実に増えていることになる。(図4)
図4
もちろん雇用形態が多種多様になってきており、自ら望んで正常な勤務条件とは異なる条件で働いている人もいる。また主たる稼ぎ手でではない人もいるから、200万円以下をすべて貧困層というつもりはない。しかし本人が望む条件では適当な職種が見つからず、やむをえず、派遣、期間、パート、臨時といった非正規社員になった方も多かろう。これらの人の待遇は良い訳はない。年収200万円以下では扶養家族がいてはまさにワーキングプアだろうし、単身で高校を卒業して地方から都会に出てきた人なども厳しい生活といえるだろう。子を持って離婚した女性が、「働いても働いても満足な生活ができない」と嘆いている話しを聞いたが、深刻な事態だ。それにしても女性は年200万円以下が768万人も(女性全体の43.7%を占める)おり、平均収入の低いことにも考えさせられてしまった。これでは男女平等にほど遠い。
iv  生活保護世帯
高齢者世帯、障害者、傷病者世帯、母子世帯そのほか、働けず収入のない世帯が受ける生活保護世帯も年々増加している。昭和30年代、40年代は60万台だったが50年代から70万台になり、平成のはじめに少し下がったものの、平成13年、14年に80万台15年に90万を越え、17年、18年で100万世帯にもなってしまった。地方自治体は財政難から、生活保護には厳しい歯止めをかけており、現場でのトラブルは絶えない。それにもかかわらず、保護を受けなければならない世帯が増え続けるのは、高齢化に伴って収入の道を閉ざされた人や複雑化する社会生活についていけない人々が増加しているからだ。(図5)
図5
v  自殺者数  9年連続3万人を超す
自殺者が平成10年以来3万人を下らない。複雑さを増している現代社会では自殺の動機もさまざまだ。病気、健康問題、人間関係の悩み、家族、家庭、学校、進路などに悩んで自殺した人もあるが、中には経済的理由も見逃せない。家庭に責任を持つ年齢の男性が経済的理由で7,500人(平成19年)近くも自殺している。人事ではない。(図6)

図6推移

図6原因

vi  その他
雑誌『世界』が2008年1月号で "貧困とたたかう" という特集を組んだ。そのリード文は次のように書く。

「格差が拡大し、中流が解体して貧困層が激増した。若い世代に非正規雇用が急増し、困窮した人びとを支えるはずの社会保障もきりそげられている。その結果、働いても食べていけない層=ワーキングプアが増大した。貧困層は家族を持てず、子どもを育てられない。貧困の固定化しかない」。政治家と官僚に真剣に読んでほしい一文だ。その特集のなかの都留文科大の後藤道夫教授の「戦後日本における貧困問題の展開」によると2002年の貧困世帯総数は1,105万世帯(全体の22.3%)であり、そのうちワーキング世帯数は656万世帯であった。この5年間で349万世帯も増加していた。現在では世帯総数の25%前後が貧困層と考えられる、としている。まさにおそるべき経済格差といえる。

若者や女性の非正規雇用の増加も著しい。次のようなデータを見てほしい。

  正規労働者 非正規労働者
1995年 3,779万人 1,001万人
2005年 3,374万人 1,633万人

この10年で正規労働者は405万人も減ったが、非正規労働者は632万人も増加したことになる。いまや若者の非正規割合は2人に1人だ。当然ながら労働条件も悪いし、給料も低い。企業の利潤追求には役立つかも知れないが、若者を「使い捨て」にする極めて手前勝手な論理だ。これでは若者が希望を失い、日本の未来が危うくなるのは当然だ。こんな法律を(労働派遣法の改正)認めた国会と議員の責任を追及せざるを得ない。

消費者金融(サラ金)問題も経済格差の落とし子といっていいだろう。大門美紀史(参議院議員)の「新自由主義の犯罪」(新日本出版社)によれば2005年のサラ金利用者は1,585万人とあります(全国信用情報センター調べ)。1人当たり約100万円の借入額であり、4社以上利用しているのが357 万人にもなる。国民生活センターの調べでは29.2%が年収200万円以下の人であり、400万円以下の人とあわせると全体の74%になるといいます。すべてが多重債務者とは言いませんが、予備軍と言えるでしょう。生活費、収入不足、失業、倒産といったことが原因でサラ金に手を出す人が多いという。

結論  この現状でも税率アップか

格差が開き、生活で言えば底辺が増大して、貧困にあえいでいる人がたくさんいることのいくつかのデータを示した。この格差が開いている現状を無視して消費税の税率アップがさも当たり前のように議論されていることに私は無性に腹が立つのである。

消費税をなくす全国の会が9月28日に19回目の総会を開き「消費税ノー」の意思を確認しあったが、そのパンフレットには次のようにある。
花子   暮らしが本当に大変な人にとって消費税は、生活を圧迫するだけでなく、命を削るものだよ。
 誠 今、格差と貧困がいっそうひどいだろ。こんな国民いじめの税金を社会保障財源になんて一番してはいけないことだよ。私もまったく同感だ。
もうひとつ、身近で深刻な事例を紹介すると、私の住む東京のある区の共産党の都議事務所が、生活のアンケートをおこなった。回答は人には語れず悩んでおられる方が予想以上に多いことを物語っていた。

もう節約するものがありません。おかずを一品減らしました。
とびきり暑い夏でしたが、クーラー代節約のため、絶対かけませんでした。
寒い冬が来ないことを祈っています。

生きることの厳しさをひしひしと感じさせる「返書」である。
図1   消費税は所得が低い世帯ほど負担が重い(庶民大増税  日本共産党  庶民大増税より)
図2 格差社会  橘木俊証(岩波新書)朝日新聞
図3 家計調査年報、貯蓄負債編(総務省統計局)
図4 民間給与実態統計調査  平成19年分(国税庁長官官房企画課)
図5 社会福祉行政業務報告  平成18年度(厚生労働省大臣官房統計情報部編)
図6 警察庁統計資料(ホームページより)
(くぼた・ゆきお)

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