論文

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行政不服審査法案の問題点
ー国会審議に向けて活発な論議をー
  東京会  関本  秀治

継続審査となった行政不服審査法案

本誌昨年11月号(549号)で、「行政不服審査法改正作業と国税不服審判所の問題点」と題する小論を書かせていただきました。それは、昨年(07年)7月に総務省の行政不服審査制度検討会が、最終報告を発表した段階で、この最終報告に対する問題提起として書いたものです。最終報告では、法案にする段階で政府が決定してもらいたいとしたいくつか未決定の部分がありましたが、政府は、今年の4月に行政不服審査法を全文改正する法律案を国会に上程しました。

この法案は、衆議院の総務委員会に付託されましたが、後期高齢者医療制度などをめぐる重要な政治課題などに影響されて、全く審議されないまま、第169回通常国会の閉会に伴って、継続審査扱いとなり、国会での論議は次の国会へと先送りされました。

そこで本稿では、最終報告と法律案を対比しながら、今後の論議の参考にしていただくために問題点を指摘しておきたいと思いペンをとりました。

なお、最初に指摘しておきたいのは、今回の行政不服審査法案は現行法の一部改正という形をとらず、現行の行政不服審査法を廃止して、全文改正による新しい法律とすることを予定していることです。その理由は必ずしも明らかではありませんが、新しく行政不服審査会を設置するとか、審査庁に新たに審理員の制度を設けて、その審理員が国税不服審判所の担当審判官のように審査請求の手続きを行うこととするなど、かなり条文的には大幅な改正となるので、枝番のついた複雑な条文構成になることを避けて全文改正の形式を採用したのではないかと思われます。

ただし、私の全体的な感想としては、審査請求の手続きなど実体的な構造については、四十数年ぶりの「大改正」というほど大袈裟なものではなく、これによって国民の権利利益の救済に大きな前進がもたらされるわけではなく、基本的にはほとんど変わらず、むしろ後退する部分も出てくるのではないかという危惧を抱いています。

不服申立ての審査請求への一元化

現行の行政不服審査法においては、不服申立ては、処分庁に対する異議申立てと処分庁の上級庁に対する審査請求のほか、審査請求についての裁決が出た後に行う再審査請求という三つの形が定められています。もっとも、個別法にこれと異る不服申立ての制度が定められている場合は、その定めによることになっており、国税通則法でいう国税不服審判所に対する審査請求などはその例です。

今回の法案では、異議申立て、審査請求、再審査請求という不服申立ての種類を、わかりやすく、一律に審査請求に一元化することが提案理由となっています。だからといって、すべて審査請求に一元化されるのかといえば、そうではなく、現行の「異議申立て」を「再調査の請求」と名称を変えて残すとか、特別法で行政不服審査法と異る定めをした場合はそれに従う(第7条)など、一元化は建て前だけに終っているといえます。

ただ、一元化という点でいえば、従来、処分庁に対する不服申立ては、原則として異議申立てといわれていたものを、処分庁に上級庁がない場合など、主任の大臣や外局の庁の長官が処分庁となっている場合でも、不服申立ては、審査請求に名称が統一されることになります。また、それに伴って、再審査請求という用語は法律から消えることになります。

その一方で、現行の行政不服審査法(以下特に断わらない場合は「審査法」といいます。)20条の「異議申立ての前置」と同趣旨の「再調査の請求の前置」(法案5条)が法定され、審査請求ができる場合でも、「処分庁に対する再調査の請求をすることができる旨の定めがあるときは、当該再調査の請求についての決定を経た後でなければ、審査請求をすることができない」と、原則として処分庁に対する再調査の請求を強制する建て前をとっています。

さらに問題と思われるのは、「再調査の請求」という用語です。課税処分に異議がある場合は、原則として処分庁に対して異議申立てをし(通則法75条1項)、その決定に不服があるときは、国税不服審判所に審査請求をする(通則法75条3項)規定になっていますが、異議申立てが審査法の制定に伴う整備法によって、異議申立ては、すべて再調査の請求に変更されます。

異議申立ては、課税処分等に対して、「異議あり」と不服申立てをするという趣旨に沿ったものですが、「再調査の請求」という用語になると、「もう一度調査し直してください」という響きを持つことになります。何よりも昭和45 年の国税不服審判所の創設を含む通則法の改正前には、各税法に不服申立ての規定があり、更正処分等に対する不服申立ては、「再調査の請求」と規定されていたことです(旧所得税法48条等)。

これでは、「不服申立てなどしたら、もう一度改めて厳しい調査をし直すぞ」という、脅しをかけられているように聞こえます。しかも、この異議申立てに対する調査については、各税法に定められている罰則付きの質問検査権の行使ができるというのが国税庁の見解ですから、納税者にとっては異議申立てや審査請求をすること自体かなり勇気のいることだと思います。

この点については、昭和45年に国税不服審判所の創設を含む通則法の改正に際しての国会審議で激しい論議が行われ、結局、衆参両院において、異議申立てや審査請求は、権利救済のための制度であるから、新たな課税処分にわたることがないように、納税者が安心して不服申立てができるよう争点主義的な運用をはかるべきであるという趣旨の附帯決議がつけられました(衆院大蔵委員会昭和45年3月4日・参院大蔵委員会昭和45年3月24日)。

不服申立てを審査請求に一元化するといっても、個別法に再調査の請求ができる旨の規定がある場合は、再調査の請求についての決定が出た後でなければ審査請求はできないことになっています(改正法5条)。

通則法も、これにならって、課税庁に対する再調査の請求を行い、その決定があった後でなければ国税不服審判所に対する審査請求はできないことになります(通則法80条1項、改正法5条)。

この点について、日弁連意見書は、検討会の最終報告をふまえて、「税務については、例外として『再調査請求』をすることができる旨の規定を置くべきである」としながらも、「その前置主義を採らなければならない必要性は存しない。納税者が例外的な手続とされる再調査請求により救済を図りたいとするか、直ちに原則たる審査請求を申し立てるかは、納税者の選択に委ねればよいことであって、再調査請求を強制しなければならない理由は全く存しない。不服申立てが納税者の権利救済の手続に他ならないからである」(日弁連平成19年11月5日、「行政不服審査法改正に伴う国税不服審査制度改革についての意見書」)と述べていますが、これが再調査の請求についての正論だと思います。

もっとも、再調査の請求があってから2月を経過しても決定がない場合は、再調査の決定を経ないで審査請求ができる(法案75条5項)ことになります。この場合、処分庁は、再調査決定を経ないで審査請求ができる旨を請求人に文書で教示しなければならないことになっています(法案111条5項)。

このほか、不服申立ての審査請求への一元化ということで処分庁に上級庁がない場合(主任の大臣または外局の庁の長官など)の処分に対する不服申立ても、審査請求と呼ばれることになりました。不作為庁に対する不服申立てについても同様です。国税に関する処分で、国税庁長官の処分、または、国税庁職員の調査に基づく処分などがこれに当たりますが、実務上はほとんど事例がありませんので検討を省略します。

不作為についての不服申立ては、再調査の請求の前置が義務づけられません(法案3条、再調査の請求の前置を規定した法案5条は不作為についての審査請求には適用されないため)。

審理員制度の創設

法案では、審査請求の審理を担当するために、審査庁に新たに審理員の制度を設けることにします(法案8条1項)。

審理員は、省や庁などに設けられた審議会や委員会の議を経て行われた処分など特定の処分を除いて、処分庁が最上級庁である場合でも、原則として審査庁としての処分庁に置かれることになります。この場合、審理員は、審査庁の職員で、処分に関与していない者の中から指名されることになっており、審査庁は、予め審理員をきめ、その名簿を関係省庁やその下部機関で公示することになっています。この場合、処分庁が審査庁となる例外的な場合には、その行政機関は、処分庁と審査庁という二つの顔を持つことになりますが、この二つの顔をうまく使いこなせるかどうかは甚だ疑問です。

審理員は、現行の審査法にきめられている審理手続、たとえば弁明書の提出、これに対する反論書の提出、証拠書類等の提出、鑑定、処分庁等に対する書類等の提出要求、検証、処分庁や審査請求人への審尋、処分庁から提出された書類等や審理員が職権で収集した書類等の閲覧などの手続を担当しますが、審理に当たっては、審査請求人の申立てがあったときは、処分庁や参加人のすべてを招集して口頭意見陳述をさせること、その際、審査請求人等は、処分庁に対して質問をすること(質問権)ができるなど新しい手続きも設けられる予定です(法案30条5項)。

この手続きが確実に行われるとすれば、裁判における対審構造と同様に、審理員の前で審査請求人と処分庁が互いの主張を出し合って議論できるような対審的な構造になる筈です。最終報告は、そのような運用を予定していたようです。

実は、この処分庁への質問権が問題です。最終報告には、「回答することを原則とする」と明記されていましたが、法案には、処分庁の回答義務については全く触れられていません。「聞きおく」程度の取扱いで終ってしまう危険性があります。法律にきちんと処分庁の回答義務を法定すべきです。

審理手続でもう一つ重要なのは、処分庁から提出された書類等の閲覧請求権についての規定です。現行法にも、国税通則法の審理手続についての規定にも、閲覧についての規定はありますが、謄写についての規定がありません。

最終意見書では、「証拠書類等の謄写も認めるべきであるとの強い意見もあったところであり、立法時までに検討の上、可能であれば必要な措置が講じられることが望まれる」とされていましたが、立法は遂に見送られてしまいました。情報公開法においては、情報の公開は、「閲覧又は写しの交付により」行うことが法定されており、閲覧が可能であるなら、謄写も何ら不都合はありません。手書きで写させるというような前近代的な対応をすべきではありません。謄写を禁止する明文の規定がないかぎり、現行法の運用でも可能ですが、謄写の「規定がないから出来ない」というような対応を許さないためにも、閲覧だけでなく謄写も法定すべきです。

このほかにも、審理手続の計画的進行(法案27条、36条、通則法97条の2)などの規定が新設されようとしていますが、いずれも審理員や担当審判官の審理の早期終結のための審理指揮権の強化につながりかねない規定です。審査請求人の権利が現行制度よりも多少なりとも後退させられないよう慎重な取扱いが必要な条項です。現在、裁判でも、国民の公正な裁判を受ける権利が不当に制限されるような強引な訴訟指揮が行われる場合がありますので、理由の如何にかかわらず、審査請求人が時間がかかっても慎重な審理と裁決を希望しているような場合、その意思が十分審理に反映されるよう、不服審査の本来の趣旨にそった運営がされる手当てが必要です。「計画的進行」とか、「計画的遂行」という条項の中に、その危険性を感じないわけにはいきません。

審理員による審理手続でもう一つ問題だと思われるのは次の点です。審査庁は、原則として最上級庁ですから、国の行政機関による処分については、審査庁はすべて本省や本庁ということになります。審理員は、本省や本庁に居て、審理手続は文書や電話によって行う場合以外は本省や本庁で行うということになれば、地方在住の人は、東京まで出向いて文書の閲覧や口頭意見陳述をしなければならないことになります。もっとも、通則法では、従来どおり国税不服審判所の支部や支所ということで従来と変わりありません。

簡易迅速な権利救済制度として運用するためには、審理員は、地方に出向いて、審査請求人等に無用な負担をかけないような審理手続を行うべきです。これは、審査庁を、一律に最上級庁としたことに伴う審理手続の運用の問題として、そのような、審査請求人の利便をはかる何らかの規定を、審理手続規定の中に設けることを考えるべきでしょう。そうしないと、審査庁を最上級庁として、審理の公平性や第三者性を高めようとする審査法の改正趣旨を生かすことができません。

審理員は、審理手続が終了したときは、審理員意見書を審査庁に提出することになります(法案41条)。そして、その意見が、審査請求の全部を認容するものでない場合は、審査庁は、審理員意見書を添付して審査会に諮問しなければならないことになります(42条)。この場合、審査庁は、審理員意見書を審査請求人等に送付します(42条3項)。

行政不服審査会の創設と諮問、答申

審査庁が、審査請求についての裁決をする場合、その裁決が審査請求人の主張の全部を認容するものでない場合は、特定の場合を除いて、全国に一つだけ設けられる行政不服審査会に審理員の意見書を添付して諮問しなければなりません(法案42条)。その答申を受けた後、審査庁は遅滞なく裁決をすることになります。審査会の答申は、裁決を拘束するものであるのかどうかについては規定がありません。もっとも、審査会が答申を出す事案は、重要な行政先例となるようなものにかぎられ、「先例となる答申が存在し、調査審議しても明らかに同じ結果になるものなど、処分の類型や審査請求の趣旨及び理由等に照らし、審査会等の関与を要しないと認めるもの」については、意見を述べないというような運用を予定していることが最終報告から読みとれます(最終報告34〜37頁)。

したがって、行政不服審査会が今回の行政不服審査法の全文改正の目玉だという派手な宣伝にかかわらず、この審査会が実際に果たす役割はそれほど大きなものではないように思われます。

それにもかかわらず、審査会の組織や運営、調査審議手続などについては、法案第四章「行政不服審査会」にこと細かに規定されています。その概要を示すと次のとおりです。
(1) 審査会は、総務省に置かれ、情報公開法、個人情報保護法に規定された情報公開・個人情報保護審査会の権限を引きつぐ(法案60条)。
(2) 審査会は、会長1名、委員23名で構成され、うち7名は常勤とする(法案61条)。
(3) 会長及び委員は両院の同意を得て総務大臣が任命、任期は3年とする(62条)。
(4) 必要に応じて総務大臣は専門委員を任命することができる(63条)。
(5) 個別事案を処理するため委員3名による合議体を作るが、重要事案については委員全員で審議する(64条)。
(6) 審査会は、「必要があると認められる場合」は審査請求事件について、審査請求人、参加人、審査庁に書面の提出を求め、陳述、鑑定等必要な調査をする(66条)。
(7) 審査会は、審査関係人(審査請求人、参加人、審査庁)から申立てがあった場合には、口頭で意見を述べる機会を与えなければならないが、審査会がその必要がないと認めるときはこの限りでない(67条)。
(8) 審査関係人は、審査会に提出された書面等の閲覧を求めることができる(70条)。
(9) 審査会は、諮問に答申をした時は、答申書の写しを審査請求人、参加人に送付し、かつ、その内容を公表する。
以上の概要でわかるように、審査請求人の申立てがあった場合は、すべて口頭意見陳述や書類等の閲覧請求が認められるというわけではないと解されます。

国税不服審判所の審理手続は改善されるか

行政不服審査法の制定に伴い、関係法律の整備等に関する法律で、345本の法律の関連部分が改正されます。その一つが、国税通則法の改正です。その内容については、それぞれの関連部分で必要に応じて触れておきましたが、通則法の改正に関する部分について重複になることを承知で、もう一度、以下で検討しておきたいと思います。

第1点は、異議申立てが、再調査の請求に名称が変更されることです。この名称変更は、審査法による不服申立ての類型と名称を一致させる趣旨によるものですが、異議申立てと再調査の請求では、その言葉の意味内容が全く異なる点が改めて強調されなければなりません。特に、課税処分のような侵害行政においては重要な問題です。

「異議申立て」は、その言葉の意味から、処分に「異議あり」という意思表示であることが明確ですが、「再調査の請求」となると全く意味内容が違ってきます。どう解釈してみても、「もう一度調査し直してください」という課税庁に対する「お願い」という感触を拭い去ることができません。少なくとも通則法については異議申立ての用語に手をつけるべきではありません。

昭和45年に、国税通則法が改正されて、同法に不服審査に関する規定が包括的に定められるまでは、例えば、所得税法では48条に、更正処分等に異議のある者は、税務署長に対して「再調査の請求をなすことができる」、法人税法にも34条に同文の規定がありました。その決定になお異議のある者は、国税局長に対して「審査の請求をなすことができる」と規定されていました。審査請求に対する裁決をする場合は、国税局長は「協議団の議を経なければならない」とされていました。この協議団は、執行部門から独立はしていましたが、主管部(執行部門)の意向に反した裁決案を作ることができず、主管部のOKが出るまで何度も裁決案の書き直しをしなければならないという実情にあり、「同じ穴のムジナ」と批判されていました。

このような批判に応えるために設けられたのが昭和45年の国税通則法の改正による国税不服審判所です。国税不服審判所は、一応執行部門から独立した国税庁長官の附属機関とされていますが、長官の附属機関であるために、長官通達には拘束されます。審判所が通達と異なる法令解釈により裁決をする場合は、長官の指示を求めなければならないことになっています(通則法99条)。この規定については全く手をつけようとしていません。この点については、前にも紹介したように、自民党の司法制度調査会の意見書でさえ、「国税通則法99 条の国税庁長官の指示は、きわめて特異な制度であり、その存在意義を根本的に見直すべきである」と述べるとともに、審判官の国税庁職員等との人事ローテーションからの切り離しなどと一緒に「行政不服審査法の改正の中で改革が求められる」と述べているところです。いずれも、今回の改正法案では全く触れられていません。

第2点として、不服申立ての期間が、始審的な不服申立て(通常の再調査の請求と青色申告者の再調査の請求を経ないで行う国税不服審判所に対する審査請求)は、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内とされることです。行政事件訴訟法は、「処分又は裁決があったことを知った日から6箇月を経過したときは、提起することができない(行政事件訴訟法14条1項)」とし、さらに、原則として、「処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない(同8条1項)」と規定されているので、不服申立前置を強制していない処分については、処分を受けてから6か月の期間、権利救済の道が開かれていることになります。

これに対し、行政上の権利救済は3か月と期間が半分に短縮されているのはいささか均衡を失することになります。したがって、行政事件訴訟法の出訴期間に合わせて、原則6か月とすべきです。この点は、更正処分が通常3年、無申告等5年、脱税等の場合7年間の除斥期間を設けていること(通則法70条各項)、更正の請求が1年間であることなどと比較しても短すぎることは明らかです。現行の2か月に比べると1か月は延長されますから、多少の改善といえますが、これは審査法の改正に伴うものであり、特筆すべきことでもありません。

第3点として、通則法に、審査法に合わせた「審理手続の計画的進行」(92条の2)、「審理手続の計画的遂行」(97条の2)の規定が新設されることが注目されます。92条の2では、審査請求人、参加人及び処分庁、担当審判官は「簡易迅速かつ公正な審理の実現のため」相互に協力し、審理手続の計画的な進行を図るべきことと定め、97条の2では、「審理手続の計画的遂行」として担当審判官が「審理手続を計画的に遂行する必要があると認める場合には、期日及び場所を指定して、審理関係人(審査請求人、参加人および処分庁ーー関本注)を招集し、あらかじめ、これらの審理手続の申立てに関する意見の聴取を行うことができる」と規定しています。92条の2は、一般的な協力義務規定ですが、97条の2は、担当審判官が、審査請求の内容についての争点整理とか審理日程(口頭意見陳述期日の決定や、反論書、証拠書類の提出、閲覧請求などの日程)などを協議の上決定する権限を認めたものと読むことができます。さらに同条3項は、担当審判官はこれらの手続が終了したときは審理手続の終結の予定時期を決定し、審理関係人に通知することになっています。

審査請求における口頭意見陳述(95条の2第1項)、処分庁に対する質問(95条2項)等、審査法に規定される審査手続については、審査法とほぼ同趣旨、同文で通則法の担当審判官の審理手続として新たに規定されます。審査法同様、処分庁に対する質問について回答すべき義務は全く見当たりません。審査請求における国税不服審判所の審理手続については、口頭意見陳述期日に処分庁に質問を発することができるという規定が新設されたこと以外は、実質的にほぼ現行どおりで、むしろ、担当審判官の審理指揮権ともいうべき権限が強化されたように読めます。

また、従来も規定がありましたが、証拠書類の提出とか、反論書の提出など、担当審判官が期日を指定した場合、その期日までに提出がないとか、期日に出頭しないなどの場合、それを理由にして審理を終結する旨の規定が新たに設けられたこと(97条の4)も注意すべき点です。これら審査法における審理員、通則法における担当審判官の権限の強化とも解釈される審理手続規定は、実際の不服審査の過程で、運用如何によっては、現行の審査法や通則法よりも権利救済制度としてはマイナスに作用する危険もありえないことではないように思われます。

更正・決定の理由付記

今回の法改正では全く議論されていませんが、青色申告以外の申告に対する更正や決定処分については、法律に理由を附記についての規定がないことを理由として一切理由が附記されていません。国民が権利を侵害される行政処分について全く理由が知らされないということは、通常の法治国家においては常識的にはありえないことです。

不服審査との関係でいうなら、その処分理由をめぐって行政庁と国民の間で争っていくことになるわけですから、処分についての理由附記は、不服審査とは切っても切れない関係にあります。

現行法でも、結局は異議決定の段階までには最終的に処分の理由が開示されることになっているのですから、それまで出し惜しみする理由はない筈です。

不服審査制度の改正を機に、あらゆる不利益処分についての理由附記についても、この際、改めて検討すべきだと思います。

おわりに

以上、行政不審査法案、整備法による通則法の改正案について、覚え書き的に問題点をあげましたが、法案は、秋の臨時国会以降に本格的な審議にはいるものと思われます。また、整備法が多岐にわたっているため、委員会審査は連合審査も予定されているようです。

TCフォーラムが、納税者権利憲章の制定を求める100万人署名運動を展開しています。税務上の不服審査制度は、納税者憲章の内容としてその重要な一部をなすものです。したがって、以上にあげた納税者の不服審査制度の欠陥は、今後とも系統的に取り組んでいく必要があります。

さらに附け加えるならば、行政手続法の適用も税務行政についてはほとんど除外されている現状も不正常であるといえます。わが国の税務行政は、先進諸国に比較しても、また、他の行政分野に比較しても格段におくれているといわなければなりません。

権利保障にとって重要なことは、何よりも適正手続がきちんと守られることです。そういう点で、わが国では、税務行政の分野における立後れが特に目立ちます。その背後には税務官僚の中に、税制や税務行政がわが国の財政の基幹を支えているので、他の行政分野に比べて特殊な優越的地位を認めるべきであるという根強い意識があるように思われます。それが、行政段階だけではなく、国家権力に対して国民の権利を守る役割を担うべき司法の分野にまで深く滲透しているというのが残念ながら実情です。このことを念頭において、国民の権利救済制度の確立のための論議を進めていくことが重要であると思います。

本稿が、行政不服審査法改正をめぐる論議に多少なりとも参考になれば幸いです。
(せきもと・ひではる)

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