(1)総会に出席し発言することの意義 |
私の所属する税理士会(以下「本会」)は、今年は6月中旬に定期総会を開催しました。本会の会員数は2千数百名ですが、例年総会への出席者はおおむねその10パーセント200名前後というところでしょうか。それには本会や支部の役職者も含みますので、一般会員の参加は非常に少ないのではないかと思われます。
各単位税理士会は本会を含め、基本的には日税連の意向に沿った税務援助その他行政協力の方針をたて、その方針が総会において大した異議もなく承認されて全国の税理士を行政協力に動員するわけですが、どうせ方針通り承認されるのだからあえて総会には出るまでもないと考えるからか、日本人の性向とされる大勢順応主義の現れなのか、出席しても一文のトクにもならないという実利主義からか、とにかく総会への関心の薄さは、総会への参加状況と、仕事に関係の深い研修会などへの参加状況とを比較すると、よくわかります。
まあそれはともかく、私は毎年出席し意見を述べることにしています。総会を、執行部の方針が会員の討議を経て民主的に決定されたものと装うセレモニーに過ぎないと評する会員から見れば、私の発言もまたその毎年のセレモニーの一幕を演じる役を買って出ているということになるのかもしれません。また会務に何らかの不満を持つ者に対しては格好のガス抜きの機会を与える効果を狙ったものとの批判がもしあるとすれば、その批判者からお前もそのガス抜きのクチだろうと陰口を叩かれそうですが、私は以前から、議案に対し意見があれば、その意見を表明し、それが採択されるかされないかにかかわらず(いや採択される希望など全くありませんが)その意見を記録にとどめさせることが、会員としての権利であるだけでなく、この会の民主主義を少しでも前進させるための大切な義務であると考えていますから、どんな些細な場面でも、いかに微力であっても、時にはむなしく馬鹿馬鹿しいと感ずることもしばしばですが、私は総会には必ず出席し、発言することにしています。
執行部では、議場での発言のため議事が紛糾し、予定された時間をオーバーするような事態を避けるために、例年、質問は総会日の10日前くらいの日を厳守して文書で提出してもらうようにしています。執行部としては、出された質問に対し時間配分を考えながら適当な回答を準備しておくためでしょうが、その質問は総会当日印刷して出席者に配布されますので、質問者にとっても、その質問の内容を、すくなくとも総会出席者に周知させることができるという利点があることになります。 |
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(2)会長に促され総会前日にかろうじて質問を提出 |
ところで今回の総会に限って私はほかの仕事に追われていたため、うっかり提出を忘れていました。もちろん文書での提出がなくても、当日会場での発言を制限することはできませんから、当日発言するつもりでいたところ、別の集会で顔をあわせた本会の会長から、期限をかなり過ぎているけれども是非文書で出してもらいたいと促されたため、総会の前日になって急いで2件質問要旨を書き上げ執行部宛に送付しました。
そのうち1件は、アウトソーシングされる国税当局の行政事務の一部を税理士会が請負うという件についてのものですが、これはここでは省略します。いまひとつは税政連に関係した次の問題です。
当日の議案の一つである平成20年度事業計画決定の件で、その事業計画に係る重点施策のなかに本会関連諸機関と一層の連携を図ることがあげられていましたが、その関連諸機関とは、税政連、協同組合、税理士会館の三者を指すことが明らかとされていました。
私は、政治団体として特定の政党・政治家の支援活動を行っている税政連を、協同組合や会館を所有し賃貸する法人である税理士会館など政治的には全く無色の団体といっしょに扱っていることの問題点を指摘しました。
私は、牛島税理士訴訟最高裁判決について若干述べたあと、「特に昨今は、新自由主義的政策により、所得、資産等の格差が拡大し、凶悪犯罪など種々の社会的問題を発生しています。また憲法九条の改廃問題も国民の平和的生存権につながる問題として関心の高いものがあります。また税制についても年金・医療などの社会保障制度の財源とからんで消費税の税率引上げが論議を呼んでいます。これらの政策の利害得失は、国民の政治的意識に反映し、その複雑多様化を必然的なものにせざるを得ません。したがって国民(もちろん税理士を含め)の支持する政党・政治家も一様ではなく、必ずしも税政連の支持する政党・政治家を支持するとは限らないのが、むしろ当然というべきでしょう。このようなとき、税理士会が、特定政党の特定政治家を支持・支援する税政連を友誼団体として肩入れしていることは、税理士会もまたそれらの(税政連の支持・支援する)政党・政治家を支持・支援していることにほかならないことになる。そのことは、(税政連の支持・支援する政党・政治家を支持・支援しない)会員の思想・信条を著しく傷つけることにつながる問題である。」として、このことについて執行部の見解をただしました。 |
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(3)税政連は一般の政治団体とは異なるとの回答 |
私の記憶に誤りがなければ、執行部の回答は概ね次のような趣旨のものであったように思います。
税政連は、通常の政治団体とは全くその性格を異にするもので、税理士会の目的に沿って税理士会の要望を実現するためにのみ活動している団体であり、「事業承継税制」の実現なども皆そうした税政連の活動のお陰である。このように税政連は税理士会のためにのみ活動している団体であるという点で、特定の政党・政治家の支援のために存在するいわゆる政治団体とは違うということを十分ご認識いただきたい。なお、その税政連の活動資金は自前で賄われていて、税理士会が財政上の援助をしていることはないし、また税政連への加入・脱退は税理士個人の自由であり、税理士会が会員に対し税政連への加入を特に勧奨するようなこともしていない。
「税政連と税理士会とは一心同体、車の両輪の関係であるから、税理士は税政連に入会するのが当然である。」と税理士会の幹部に勧められて税政連に加入し、さらに特定政治家の後援会への参加までも勧奨された経験のある皆さんは、この執行部の回答をどのように受け取られるでしょうか。
私は牛島訴訟のなかで、この言葉を耳にタコができるほど聞かされたものです。税理士会の税政連への寄付は、税理士会の目的の範囲内のことであると主張し、その主張を裏付けるために、南九会が繰り返し繰り返し唱えてきたことは、税政連は、税理士会の目的(税理士制度の改善とか民主的な税制の確立とか)を自らの目的として政治活動をしているもので、税理士会とは一心同体であり、通常の政治団体とは全く違うということでした。
しかし、最高裁は、既に述べたところでお解かりいただけるように、税政連の政治活動の実態を分析して、その南九会の主張をキッパリと斥け、一般の政治団体同様、特定の政治家を推薦・後援する政治団体にほかならないとしたのです。ですから私が執行部のその回答を聞いた途端、いささか大人気なかったかもしれませんが、思わず強い口調で「牛島税理士訴訟の最高裁判決をよく読むように」と忠告せずにはおれませんでした。
その後、ひき続いて議長が平成20年度事業計画決定の件での採決に入り、否とする者として挙手している私を含めた会場を見渡し、「否とする者1名、賛成とする者多数、よって本議案は原案通り可決承認」(或いは否とする者1 名、その他否とする者なしといったかもしれません)とする採決の結果を告げました。もちろん事業計画は、この税政連問題だけでなく、国のアウトソーシング事業に対する対応の問題をはじめ、いろいろ必要な事業があるわけで、私も、その事業計画のすべてに反対というわけではありませんから、この税政連問題がなければ、あと少々の不満があっても計画のすべてについてまで否とはいわなかったかもしれません。 |