2006年4月1日以降開始する事業年度から法人事業概況説明書が「法定化」されたとして、同説明書の未提出の法人に対して、多くの税務署で「申告書添付書類の提出について」なる文書が行政指導と称して送付され、同説明書の提出の督促が行われている。
申告納税制度のもとでは、納税者の行う申告により納税義務が確定するのが原則であり、法人税の申告においては当該申告書と、その所得を確定させる基礎である貸借対照表、損益計算書などの書類を添付することが定められている。
法人事業概況説明書は「法定化」以前は提出任意の書類として国税庁の事務運営方針に基づき作成されていたが、その内訳は事業内容、期末従業員の状況、経理の状況、決算主要科目数値の転記、事業形態、主な設備の状況、帳簿類の備付状況、月別の売上高等の状況などであったが、「法定化」された法人事業概況説明書も同一の内容である。
同説明書の記載事項等は、税務当局において各法人決算書の主要数値をコンピューターに入力するなどし各種の資料として利用されており、提出されなかった法人分については税務署内部において決算書にもとづき一部数値等を入力していたものと思われる。
任意の提出書類として長年取り扱われてきたものを、税務行政の都合により財務省令を変更し、納税者に作成・提出を強制することは、租税法律主義や国民主権の観点からみて許されるものでない。さらに、事業の概況等については課税所得の算出には直接関係はなく、かつ、各企業の営業上の秘密に関する事項でもあり、税務当局に説明を強制されるべきものではない。
法解釈上も法人事業概況説明書の提出を義務化したとされる改正施行規則第35条は法人税法第74条の委任命令の限界を越えており無効である。同法同条は「前項の規定による申告書には、当該事業年度の貸借対照表、損益計算書その他の財務省令で定める書類を添付しなければならない。」と規定されており、財務省令に委任されている書類は、貸借対照表、損益計算書に準ずる書類である。そのことは「その他書類」ではなく「その他の書類」と規定していることからも明らかである。さらに、法人事業概況説明書の書式については国税庁通達で定められており、通達は当該職員を拘束するが納税者を法的に拘束するものではない。
以上のように、法人事業概況説明書の「法定化」は無効であり、提出するか否かは納税者の判断によるべきものである。
私たちは申告納税制度の趣旨に反するような各種の提出書類の拡大に反対するものである。 |