論文

> 「三位一体改革」による自治体財政の現状と税源移譲の現実
法人事業税の地方配分問題について
伊藤  幸男(自治労連都庁職東税支部)

3. 自民党の法人事業税の配分見直し案について

(1)見直し案の概要
自民党は「平成20年度税制改正大綱」において、「地方税制については、更なる地方分権の推進とその基盤となる地方税財源の充実を図る中で、地方消費税の充実を図るとともに、併せて地方法人課税のあり方を抜本的に見直すなどにより、偏在性が少なく税収が安定的な地方税体系を構築することを基本に改革を進める。この基本方向に沿って、消費税を含む税体系の抜本的改革において、地方消費税の充実と地方法人課税のあり方の見直しを含む地方税改革の実現に取り組む。」とし、消費税の増税を含めた検討を行う中で、法人二税の地方消費税との税源交換を行う方向を打ち出している。

また、喫緊の政治課題である地域間の税源偏在の是正に早急に対応するため、消費税を含む税体系の抜本的改革が行われるまでの間の暫定措置として、法人事業税の一部(概ね2.6兆円)を分離し、地方法人特別税を創設するともに、その収入額を人口及び従業者数を基準として都道府県に譲与する地方特別譲与税を創設することにより、偏在性の小さい地方税体系の構築を進めるとしている。

総務省が12月25日に発表した2006年度の税収をもとにした試算では、東京都が3,268億円、愛知433億円、大阪222億円など7都府県で税収が減り、減収の総額は4,033億円となっている。残りの40道府県は増収となり、その筆頭は北海道で484億円、埼玉県310億円、千葉県196億円、兵庫県183億円、福岡県182億円となっている。この試算でも明らかなように東京都だけが極めて大きな減収の影響を受けながら、大きな増収となる自治体を見ると大都市圏もあり、必ずしも地方財政が困窮している自治体に配分されるとはいえないものとなっている。
(2)見直しの背景と東京都などの反論
政府・与党は、東京都など都市部に偏っている地方自治体の税収格差を是正するため、5,000億円前後の税収を都市部から地方へ移転させる方向で、2008年度税制改正での実現をめざしていた。税収の移転を検討していたのは、法人事業税と法人都民税の都道府県分の一部で、2006年度決算見込みで、人口一人当たりの税収格差は地方税全体だと3.1倍だが、法人二税では6.1倍の開きがあり、自治体間の税収格差が最も激しいことが上げられていた。また、法人二税の税収が全国平均を超えるのは、東京や愛知など5都府県にとどまり、これらの自治体では必要な行政サービスを行っても余る財源があり、5,000億前後の移転であれば、理解が得られやすいとしていた。

東京都は、政府の「法人二税の税収格差是正策」に対して「都市から地方へ税を再配分する小手先の手法は、国が地方全体の財源を召し上げるもので、都市と地方双方にメリットがない」と反論している。現在の地方財政の困窮は、バブル崩壊後の公共事業の増加が地方の借金を増大させ、地方財政を圧迫していることや「三位一体改革」に名を借りた地方からの3年間で5.1兆円もの削減など財源を奪ってきた結果であることを指摘し、政府の税収格差是正策は、1税制の基本を崩し、地方の活性化にマイナス 2法人二税の実質国税化は、将来にわたり地方の財政自主権を切り崩す 3大都市から奪った財源の多くは国のものとなり、地方にメリットはない とし、これが実施されれば東京都は再建団体に転落するとしている。

東京都は、地方の自立に向けた提案として、国が責任を持って総合的な地域振興策を立案することや分権改革の早期実現、地方交付税の必要かつ十分な原資の確保と削減した交付税の復元などの提起とともに、消費税の税率引き上げにも言及している。

今回の法人事業税の地方配分に対しても、東京都の石原知事は「受益と負担の関係をあいまいにし、地方を真の自立から遠ざける。」と批判し、千葉県の堂本知事も「地方交付税を元に戻すのが大前提」と指摘している。また、経済同友会の桜井代表幹事は「非常に筋の悪い話だ。税の応益原則から見ても違和感がある。」と批判するとともに、法人事業税を配分すれば地域が新規事業を起こしたり、有望な企業を誘致するインセンティブが働かなくなると指摘し、「地域の格差是正はまず地域活性化が必要」と反論している。
(3)見直し案の問題点
今回の見直し案では、法人事業税から2.6兆円程度を分離し、新たに創設される国税としての地方法人特別税に吸い上げられることとなる。地方自治体の独自財源が、約5割弱程度の減収となるもので、課税自主権を侵害し、地方の財政基盤の弱体化にながり、地方分権の推進に逆行するものである。さらに、地方法人特別税の収入額を人口及び従業者数を基準として都道府県に譲与する地方法人特別譲与税は、法人の存在しない都道府県にも配分することとなり、地方自治体で課税する根拠を失い、法人事業税の応益負担の原則を根底から覆すもので、地方税の性格を歪めるものである。これまでの分割基準をめぐる問題でも受益と負担の関係を無視した議論は行われてこなかったことからみても、地方税の性格やあり方の検討もなしに、地域間の財政力格差の是正策としてのみ提起されることは極めて乱暴な提案だと指摘せざるを得ないものである。

今回の地方法人特別税の創設は、国が地方交付税の新たな税財源として徴収しようとするものにほかならず、三位一体改革による地方交付税の削減で、各自治体が財政危機を招いた責任を財政力格差の是正に名を借りて、回避しようとしているものといわざるを得ない。また、国税として創設される地方法人特別税の課税・徴収事務を地方自治体に行わせるのは、国の事務を廃止・縮小しようとする地方分権の考え方や課税・徴収の権限など問題があるのではないか。

4. 地方法人課税のあり方の検討を

自民党の「平成20年度税制改革大綱」では、消費税の増税を含めた検討を行う中で、法人二税の地方消費税との税源交換を行う方向を打ち出している。東京都でも、政府の格差是正策の反論の中で、消費税増税に言及している。地方税の税源として安定的で地方間格差の少ない税金が望ましいとは思うが、消費税増税は、所得の再配分機能をゆがめる最悪の大衆課税を強化・拡大するものであり、容認できるものではない。

自民党の消費税を含む地方税の抜本的改革の方向では、地方税としての「法人二税」は廃止されることとなるが、企業が地方自治体の行政サービスを受けながら事業活動を行う以上、受益に応じた負担を求めるのは当然であり、地方税としての「法人二税」は継続すべきものと考える。

地域間の財政税収格差の是正は、地方交付税で行うのが基本であり、その財源はこれまで減税しすぎた法人税の税率を戻すことや租税特別措置法の見直しによる課税ベースの拡大、高額所得者優遇の所得税率の累進税率見直しや配当割減税の見直しなど抜本的な改革を検討すべきである。

<別表.2> 自民党「平成20年度税制改革大綱」における法人事業税の見直し案

1  法人事業税(所得割及び収入割に限る。)の税率改正
(1)資本金の額又は出資金の額(以下「資本金」という。)1億円超の普通法人の所得割の標準税率
  現  行 改正案
年400万以下の所得 3.8% 1.5%
年400万超、年800万以下の所得 5.5% 2.2%
年800万超の所得及び清算所得 7.2% 2.9%
(2)資本金1億円以下の普通法人等の所得割の標準税率
  年400万以下の所得 5.0% 2.7%
年400万超、年800万以下の所得 7.3% 4.0%
年800万超の所得及び清算所得 9.6% 5.3%
(3)特別法人の所得割の標準税率
  年400万以下の所得 5.0% 2.7%
年400万超の所得及び清算所得 6.6% 3.6%
(4)収入金額課税法人の収入割の標準税率
  電気供給業、ガス供給業及び保険業の収入金額 1.3% 0.7%
(5)適用期日平成20年10月1日以降に開始する事業年度から適用する。
(注) 軽減税率の適用は変更なし
2  地方法人特別税の創設
(1)地方法人特別税の基本的な仕組み
1 納税義務者等
法人事業税(所得割又は収入割)の納税義務者に対して課税する国税とする。
2 課税標準
法人事業税額(標準税率により計算した所得割額又は収入額とする。)
3 税率
  付加価値割額、資本割額及び所得割額の合算額によって
  法人事業税を課税される法人の所得割額に対する税率
148%
  所得割額によって法人事業税を課税される法人の所得割額に対する税率 81%
  収入割額によって法人事業税を課税される法人の収入割額に対する税率 81%
4 申告納付
申告納付は、都道府県に対して、法人事業税と併せて行う。
5 賦課徴収
賦課徴収は、都道府県において、法人事業税と併せて行う。
6 国への払込み
都道府県は、地方法人特別税として納付された額を国に払い込むものとする。
(2)適用期日平成20年10月1日以降に開始する事業年度から適用する。
3  地方法人特別譲与税の創設
  地方法人特別税の収入額を、使途を限定しない一般財源として都道府県へ譲与する地方法人特別譲与税を創設する。
地方法人特別譲与税の譲与の基準は以下のとおりとし、平成21年度から譲与する。
(1) 地方法人特別税の収入額から(2)の額を控除した額を、2分の1を人口で、他の2分の1を従業者数であん分して譲与する。
(2) 前年度の地方交付税の算定における財源超過団体に対しては、今回の改正による減収額として算定した額が財源超過額の2分の1を超える場合、減収額として算定した額の2分の1を限度として、当該超える額を(1)による譲与額に加算する。
4  その他
その他所要の措置を講ずる

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