論文

> 米国LLCは法人税法の外国法人にあたるか
政府税調答申批判
立正大学教授・税理士  浦野  広明

2. 法人課税

(1)グローバル化への対応
「経済のグローバル化の進展に伴い・・・法人実効税率のさらなる引き下げが求められている」と述べる。
(2)法人実効税率
「法人実効税率の引き下げについては・・・必要であるとの意見が多かった」と述べている。前述したように日本経済団体連合会は、「今後のわが国税制のあり方と平成20年度税制改正に関する提言」(「提言」07年9月18日)において、法人税改革について、「30%を目途に法人実効税率を引き下げるべきである」としている。07答申は提言をなぞっているだけである。

日本の法人税率は、中小企業の800万円までの所得については22%としているものの、基本的には30%の単一税率である。

法人税率は1984年には43.3%だったが87年から42、40、37.5、34.5%と次々引き下げられ99年には現在の30%になった。応能負担原則の立場からするなら、法人税は単一税率ではなく、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%ぐらいの累進税率にすべきである。税率の引き下げは所得の少ない中小企業が要求すべきものであって、所得の多い大企業にはむしろ現行より高い税率にしなければならない。
(3)経済活性化と政策税制
「経済活性化の観点から・・・研究開発税制をはじめとする政策税制の効果的な活用」を指摘している。
(4)地方法人課税
「外形標準課税の割合や対象法人を拡大していく」と利益計上法人の減税と僅少黒字法人・赤字法人の課税強化を指摘。また「事業税における社会保険診療に係る課税の特例措置については・・・速やかに撤廃すべきである」としている。医療機関の負担は計り知れない。

3. 国際課税

「国際的な資金循環や企業活動に対し税制が阻害要因とならないことが重要である」と述べ、規制が必要な国際的な資金循環には手をつけていない。

4. 公益法人税制

「当調査会では、平成17年6月に基礎問題小委員会・非営利法人課税ワーキンググループにおいて・・・で示された考え方に即して税制上の措置が講じられるべきである」と述べている。

すでに、政府税制調査会(政府税調)は、「公益法人等が対価を得て行う事業については、原則として課税対象とし、一定の要件に該当する事業は課税しないこととするといった見直しなどを行う」と述べている(2000年中期答申)。

一方、「民間法制・税制調査会」と称する団体は、2005年5月、次の提言をしている(起草責任者さわやか福祉財団理事長・弁護士堀田力氏ほか)。

「非営利法人は、利益を分配しない限り、その利益を享受する帰属主体が存在しないのであるから、法人税を課すべきではなく、ただ、非営利法人が営利事業と競合する収益事業によって収益を得た時に限り、営利事業とイコールフッティングを根拠に課税するのが相当である。」

この提言は前記税制調査会の公益法人等や人格のない社団等について原則課税論に道を開くものといえよう。なぜかといえば、これは法律家のよくやる手であるが、原則をいろいろ書いて、最後に〈但し、・・・にあらず〉と例外を書く。そのうちに例外が原則になるからである。

提言でも、はじめに原則非課税を書いて、次に但し、(提言では「ただ」と表現)営利事業とイコールフッティング(同じ立場)の場合課税すると例外を書いている。

政府税調の調査分析部会において財務省の吉田税制第3課長は、公益法人等や人格のない社団等の税制改定は、2008年末までには税制上の措置が必要になると述べている(07年6月15日)。

07年度税制改定では、大企業の法人諸税負担を減らす減価償却制度を変えた。次に出てくるのは法人税率の引き下げと消費税増税である。もう一方では、公益法人等の税制改定につけこんで人格のない社団(任意団体)への法人税などの原則課税導入を図ろうというのである。

人々がつくる自主的な団体や労働組合などは本来営利を目的としていない。このような団体に対して原則課税をするということは、憲法の応能負担原則に反するばかりでなく、集会・結社・表現の自由(憲法21条)、勤労者の団結権(同28条)に対する課税権力の重大な介入をまねくことになる。

5. 消費課税

「消費税は、税制における社会保障財源の中核を担うにふさわしいと考えられる」と述べ、弱者に重い負担を強いる消費税によって、弱者を支える社会保障の財源を確保することをうたっている。消費税の社会保障財源化は法人税減税の口実にすぎない。前述のように07年6月までの1年間の法人申告所得は約57兆円で史上最高である。法人税率を過去にあった43.3%(現在は30%)に戻せば、概算で7兆5810億円の法人税収を確保できるのである〔57兆円×13.3%(43.3%−30%)〕。

<消費税>という名称の国税は89年4月に税率3%で実施された。97年4月から消費税の税率は4%に引き上げられ、同時に<地方消費税>という名称の地方税が創設された。地方消費税の負担は<消費税4%×100分の25=1%>と規定されている。この二つを合わせた税率は5%である。

消費税・地方消費税は、租税分類上<一般消費税>と呼ばれる。一般消費税は、広範囲の財貨・サービスに関する消費に課される。一般消費税の最大の欠陥は、高所得者には軽い負担しか求めず、低所得者に重い負担をさせることである。弱者の生存権を侵害する反社会保障・違憲の税である。

消費に対する課税方法には、一般消費税以外に<個別消費税>と呼ばれる種類がある。個別消費税は特定の商品を課税の対象にするものである。例えば車を課税対象にする場合、高級車には応分の負担、大衆車には低負担など負担能力に応じた課税が可能である。

日本国憲法の要請である応能負担原則の立場からは、<一般消費税を廃止して個別消費税を採用>するという消費課税の改正が肝要となる。

6. 資産課税

(1)相続税
「年間死亡者数のうち相続税の課税が発生する割合が4%程度・・・相続税の負担水準をこのまま放置することは適当でなく・・・適切な負担を求め」るとしている。
政府の狙いは以下のような改定である。
1 基礎控除の引き下げ
相続税の課税対象とならない一定額が基礎控除額(相続税の課税最低限)で(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)となっている。これを縮小する。
2 小規模宅地の評価減を少なくする(生存権的財産への課税強化)
遺産の中に住宅や事業に使われていた宅地等がある場合には、その宅地等の評価額の一定割合を減額する特例があるが、これの縮減を目指している。小規模宅地の評価減が減少されたなら市場の売買価格に基づく路線価そのもので課税されることになる。
3 死亡保険金・死亡退職金の非課税
生命保険金の非課税額は、500万円×法定相続人の数。死亡退職金の非課税額も500万円×法定相続人の数である。税調はこれまでの答申などで、死亡保険金・死亡退職金の非課税規定の廃止を示唆している。
4 農地の納税猶予の特例
農地の特例は、農業を続けていくために農地にかける税金を軽減することができる制度である。この制度の縮小は農業の維持を困難にする。
(2)金融所得課税
金融所得課税につき損益通算の範囲拡大。上場株式等の配当や譲渡益の軽減税率(10%)は妥当と優遇税制の継続をうたっている。
(3)固定資産税
「負担水準の低い土地が存在・・・適正化を促進」と増税を示唆している。

7. 納税環境整備

納税者番号制度の導入。罰則の強化。広報・租税教育の強化を述べている。

毎年11月には日本国中で「税を知る週間」が設けられ、税務署や納税協力団体が多彩な催しをしている。その一つに税金標語の募集がある。例えば、1997年に国税局長賞を受けた中学生の標語の優秀作品は「快適な暮らしのかげにあなたの税」、佳作は「この国に生きるよろこび実る税」、「税金でもらう教科書大切に」、「税金のありがたさしる父のあせ」である。

現在の中学校では、税のあるべき払い方(憲法の応能負担)や税の適切な使い方(憲法に適合した平和、福祉に使う)についての教育はなされていない。まして、憲法に逆行する税の徴収と使途についての現状は知らされていない。子どもは、納税者の権利について教育を受け真実を知る権利を持っている。

憲法は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育はこれを無償とする」(26条)と定めており、1963年から法律(義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律3条)によって教科書は無償配付されている。教科書は税金で国家から恵まれる(「税金でもらう教科書大切に」)ものではない。国家は国民の教育権を実現する義務を負っており、国民は教育を受ける権利を有しているのである。

教科書を大切にするという言葉で国民の教育権をぼかし、納税者の権利に目を向けさせない「標語」の害悪は計り知れない。このような租税教育は「百害あって一理なし」である。
(うらの・ひろあき  東京会)

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