論文

> 憲法と消費税
税務支援の2年間を振り返る
− 強まる当局への下請け的性格 −
大阪会斎藤直樹

「税務支援」とは税理士法に根拠を持つ「税務援助」と任意の「税務指導」を一体化させて会則に定め、義務化したものである。

当局との関係で言うと年金受給者と消費税の免税点の引き下げによる確定申告者数の激増に対処するための措置であり、当局の業務の肩代わりである。

相談体制の変化という面では従来の地区相談会場に国税局主管の還付相談センター、またアウトソーシング方式が加わった。

相談方式の面では巡回指導という方法が増加している。

また支部間応援として従来ほとんど従事していなかった大阪の東支部、北支部、南支部等の大支部の税理士が還付相談センターや他支部の応援に従事するようになった。
【住吉税務署管内で配布された案内】
来所案内はがき(住江区南、港地区以外)(平成18年度分)
住吉税務署
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1.下請け的運営の実態

税務援助が下請け的であることは、従事したものなら誰でも感じていることであるが、ここでは敢えていくつかの証拠を示しながら論じてみたい。
(1)案内はがきは誰が出しているか。
 (i)発信者名は税務署長である。
 →「この文書による行政指導の責任者は税務署長です」とある。
 →どうして税理士会との連名で出せないのか。
(ii)税務署が税理士会の協力を得て開設するとある。

(2)会場は誰が用意しているか。
 →税務署が用意している。

(3)備品類は誰が用意しているか。
 →税務署が用意している。

(4)誤指導があった場合の責任は税理士がとっているのか。
税理士会は「誤指導があったときは税理士の自己責任ですよ。税理士会も税務署も責任を取りませんよ」と説明する。しかし実際に税理士が誤指導の責任を追及されたという話は聞かない。関東地方のある税理士の話では、支部と税務署との申し合わせで、税理士の責任は追及しないこととなっているそうである。

さて、この4つの外形的な基準に照らして税理士会が主体的に取り組んでいると判断できるだろうか。特に納税者はどう判断するだろうか。
【テクスピア会場(2/1-2/15)】


2.署外申告会場で税理士が相談業務に従事

泉大津税務署では、平成17年分の確定申告から、南海本線泉大津駅前のテクスピア大阪というビルの一階に申告会場を設けている。泉大津税務署が手狭なため、このような会場を設けたのだそうである。

問題は、この署外申告会場に税理士が相談業務に従事していることである。会場レイアウト図をご覧いただきたい。

2月1日から2月15日の間は税務署員等に混じって税理士が従事し、2月16日から3月15日までの間は税理士は隣接した部屋で従事している。ただ別の部屋といっても受付が別にあるわけではない。建物の玄関には泉大津税務署申告会場という看板が掲げられていた。従事した税理士によると「税務署員と混じってするのは屈辱的だし、立ちっぱなしの巡回指導なので大変疲れた」とのことであった。

3月28日に近畿税理士会の理事会でこの問題が取り上げられたが、執行部の答弁は

・署外申告会場は12署ある。
・税理士会の腕章を着用する等して紛らわしくないように気をつけたい。

という答弁であった。しかし以下の点で不十分である。
(イ) 泉大津支部でこのようなことがあったかどうかについて事実関係を明らかにすべきである。
(ロ) 泉大津以外の11税務署の署外申告会場において、税務職員に混じって税理士が相談業務に従事するということがあったのかどうか調査をすべきである。
(ハ) 税理士会の腕章を着用するだけでは対策になっていない。

【テクスピア会場(2/26-3/15)】

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3.還付センターとアウトソーシングまた支部間応援

税務支援が始まった平成18年(平成17年分)から相談所の形態として、従来の支部単位で行っている地区相談所以外に、国税局の主催する還付センターとアウトソーシング方式による相談所が加わった。この二つは、公的年金の所得を有するものを対象としているためか、1月下旬から2月15日までの間に行われている。また地区相談も1月下旬から2月15日に繰り上げて行う例が出てきている。

もう一つの特徴は支部間応援の導入である。大阪の東支部、北支部、南支部等の大支部の税理士は従来 確申期の税務相談に従事することがほとんどなかったが、他支部の応援に駆り出されることとなった。このように駆り出された税理士の多くは国税局の主催する還付センターで従事している。支部間応援というより国税局応援になってしまっている。従事した税理士に聞いてみると大抵は巡回指導に従事させられ、「地獄だった」とか「持病の腰痛が出てつらかった」という感想を漏らしている。

付言すると、今回の施策の目的は年金受給者と消費税の免税点の引き下げによる確定申告者数の激増に対処するための措置だったのだが、消費税のほうについては、税理士はほとんど相談に当たっていないという実情にある。

4.巡回指導とリピーターを作らない方針

本年の確定申告期の税務相談では、「リピーターを作らないこと」という言葉がおおっぴらに語られている。今年相談会場に来た人には来年からは自分で申告書を書いてもらうようにするというわけである。その具体的な現われが、使いやすくて評判のいいタッチパネルを減らして使いにくいパソコンに替えるということがおこなわれているということである。もう一つが巡回指導方式の拡大。税理士は立ちっぱなしで腰痛、納税者はほったらかしというあの巡回指導方式の拡大である。

「リピーターを作らないこと」の本当の意味は「不愉快な思いをさせて、二度と来たいと思わせないこと。」なのである。

5.税理士が税務支援に従事する意味(業務独占との関係)

以上をまとめると次のようになる。
(1) 税務相談の実態は外形的に見て限りなく下請け的である。
(2) 署外申告会場での税理士の従事は納税者から見ると税務職員と区別がつかない。
(3) 巡回指導で税理士は腰痛になるが、そんな状態で納税者に満足してもらえる相談ができるはずがない。
(4) 税理士は「不愉快な思いをさせて、二度と来たいと思わせない」ような申告会場に従事させられている。

このような相談業務に従事したくないとは誰しも思うところである。それでは忌避すべきなのか(会則による強制という問題は別途考える必要はあるが)、改善すべきなのかという議論の分かれ目がある。税理士には有償、無償を含めて業務独占権が認められている。この根拠は憲法に求めることができる。

憲法第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

「何人も」とある。憲法は税理士資格の有無を問わず職業選択の自由を認めている。ただ「公共の福祉に反しない限り」とありこの文言の解釈として資格試験等をして一定の知識のあるものに限定して公共の福祉に沿うようにしているのであって、一定の限定の元に独占を認めているのである。経済的理由で税理士にかかることのできないものに対する施策として税理士法に次の定めがある。

第四十九条の二(税理士会の会則)  税理士は、税理士会を設立しようとするときは、会則を定め、その会則について財務大臣の認可を受けなければならない。
2項  税理士会の会則には、次の事項を記載しなければならない。
九号  委嘱者の経済的理由により無償又は著しく低い報酬で行う税理士業務に関する規定


この税理士法の定めはそういう意味で憲法によく適合している。ただ税務支援の実態が行政の下請け的になっていたのでは駄目である。これをいかに改善するかということが必要なのである。いまこういう問題意識からすると少し明るい材料がある。それは支部間応援である。大阪の東支部、北支部、南支部等の大支部の税理士はこれまで 確申期の相談業務にほとんど従事していなかったが2年前から否応なしに従事させられている。しかも巡回指導の腰痛に悩まされながら。これからは全税理士が税務支援に関心を持たざるを得なくなったのである。

(さいとう  なおき)

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