論文

私にとっての憲法
- 税理士会という団体の中にある一人の税理士として(その二) -
千葉会伊藤

税政連に寄付するため特別会費の徴収

1978(昭和53)年、南九州税理士会(以下「南九会」)において、私たちの間で「牛島税理士訴訟」事件と呼んでいる一つの事件が起こりました。どんな事件であったのか、それを知らない若い方のために、その概略を述べることにします。

この事件の背景には、税理士を規律する法律である税理士法の「改正」を意図する大蔵省(当時 現在財務省)・国税庁及びこれに同調する日本税理士会連合会(以下「日税連」)と、私たち税経新人会全国協議会(以下「新人会」)、全国青年税理士連盟、全国専業税理士協会等の税理士の任意団体との間に、「改正」案をめぐって厳しい意見の対立がありました。

大蔵省・日税連の「改正」案に対する新人会の反対意見の理由は、概ね次のようなものでした。大蔵省はかねてから大型間接税(=一般消費税、これは逆進性の強い庶民いじめの税であり、憲法の応能負担原則に反することから、新人会等はその成立に強く反対)の導入を狙っていましたが、そのため、税理士法を「改正」して税理士の取扱う税目の限定を外し、この新税を税理士に取扱わせることができるようにしようとしたのです。つまりこの「改正」案は大型間接税導入の布石を目的としたものであったことが一つです。

そればかりでなく、従前から私たち税理士は「税理士法改正基本要綱」を掲げて、税理士の代理権や税理士会の自主・自律権の確立を求める運動を続けていたのですが、この「改正」案はこれとは全く逆に、助言義務の新設、使用人に対する監督義務の法制化、その他税理士に対する国の監督規制を強化するなど、税理士をさらに税務行政に従属化させようとするものであったことでした。

しかし、大蔵省・国税庁の意を迎えいれることにのみ汲々としている日税連幹部は、新税によって税理士の仕事が増えることを歓迎するとして、その「改正」案の国会通過に血道をあげ(後に贈収賄事件まで惹起することになるのですが)、傘下の各地税理士会にその国会対策のための資金集めの指示を出します。そして各税理士会は、その会員から集めた資金を、税理士会の政治活動を担当する政治団体=税理士政治連盟(以下「税政連」)に寄付し、税政連はこれを税理士法「改正」に協力してもらうため関係のある政治家に献金するという段取りでした。

南九会も、この日税連の指示に従って、1978年6月の定期総会で、税理士法「改正」の国会対策資金として税政連に寄付するため、会員一人当たり5,000円を、特別会費の名目で徴収することを決議したのです。

税理士会を提訴して最高裁判決まで17年

この「牛島税理士訴訟」の当事者牛島昭三氏(原告、被控訴人、上告人)は、南九会に所属する税理士でしたが、新人会の会員としてこの税理士法「改正」案に反対の先頭に立ってたたかっていて、しかも権力の威圧に対して決して信念を曲げることのない正義感の強い人間でした。

その牛島氏にとって、「改正」案の国会通過を図るための資金拠出などとんでもないことで、しかもそのワイロまがいのカネが、税政連をトンネルにして氏の政治信条とは敵対する政権与党の政治家のフトコロに流れ込むことなど、これは到底許せることではありませんでした。

しかも、南九会は、会の総会決議に反対し特別会費の納入を頑として拒否している氏に対し、会則の規定に遵うとして、会の役員選挙における選挙権及び被選挙権という会員としての極めて重要な権利を停止するという処分に出たのです。

牛島氏が、上記の特別会費徴収の総会決議が無効であることの確認、及びこの無効な決議から生じた権利停止の処分の取消しと損害賠償等を求めて、南九会を熊本地裁に提訴したのが80年1月、これが「牛島税理士訴訟」のその後17年を超える長いたたかいの始まりでした。

訴訟の第1審熊本地裁(簑田孝行裁判官)の判決は、税理士制度の沿革から説き進めて税政連に政治資金を提供することは税理士会の目的の範囲外の行為であり、また会員の思想・信条の自由に反するものであるから、原告牛島氏に特別会費を納付すべき義務はないと判示して、氏の全面勝訴となりました。

しかし、日税連は、南九会に対し多大な訴訟費用の支援を惜しまず、これを叱咤激励して控訴させたため、控訴審福岡高裁に審理がうつりましたが、ここでは後で触れるように氏の逆転敗訴となり、92年2月、氏は最高裁に上告を余儀なくされます。

舞台が最高裁に移ってから、東京、千葉、埼玉、神奈川など首都圏の税理士有志による支援の会が結成され、私もその一員に加わり、朝早く冷たい風のなかを最高裁に急ぐことになりましたが、この支援の会は、上告人牛島氏や弁護団などと共に、早朝の最高裁の門前でのビラ撒き、書記官と面接してこの訴訟の意義を訴えるなどの活動を、判決言渡しの日まで繰り返し行いました。

春先とはいえ薄ら寒く、私たち税理士にとってはまだ申告疲れの残る所得税確定申告の期日が終わって4日目の1996(平成8)年3月19日、その日は、牛島氏にとってはもとより私にとっても生涯忘れることのできない1日となりました。

その日の「牛島税理士訴訟」最高裁第三小法廷(園田逸夫裁判長)は、牛島氏を敗訴させた原判決を破棄、上告人牛島氏に特別会費の納入義務のないことなどを自判し、牛島氏の全面勝訴を告げて幕を閉じたのです。

税政連はどんな団体と信じられてきたか

ところで、税理士会が会員から集めたカネを、税理士会と密接な関係にある税政連に寄付することが、なぜ、これほど大きな問題としてその是非が問われることになるのでしょうか。

ここで、この裁判において、税政連に寄付することについて税理士会はどんな主張をしていたか、を見ることにしたいと思います。最高裁の判決文の中に、原審福岡高裁の判断(それは税理士会の主張を丸呑みしたもの)が出ていますので、それを引用することにいたします。
「被上告人(南九州税理士会、以下同じ・・筆者)が、税理士業務の進歩改善を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法律の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、その目的の範囲内の行為であり、右の目的に沿った活動をする団体が被上告人とは別に存在する場合に、被上告人が右団体に右活動のための資金を寄付し、その活動を助成することは、なお被上告人の目的の範囲内の行為である。」

「南九各県税政は、規正法上の政治団体であるが、被上告人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その政治活動は、税理士の社会的、経済的地位の向上、民主的税理士制度及び租税制度の確立のために必要な活動に限定されていて、右以外の何らかの政治的主義、主張を掲げて活動するものではなく、また、特定の公職の候補者の支持等を本来の目的とする団体でもない。」

本件税政連に金員を寄付するとした総会決議は「特定政党又は特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものとは認められず」、上告人(牛島氏、以下同じ・・筆者)に「その思想及び信条の自由を侵害するもので許されないとするまでの事情はなく」「上告人に要請されるのは5000円の拠出にとどまるもので、本件決議の後においても、上告人が税理士法改正に反対の立場を保持し、その立場に多くの賛同を得るように言論活動を行うことにつき何らかの制約を受けるような状況にもないから、上告人は、本件決議の結果、社会通念上是認することができないような不利益を被るものではない。」
福岡高裁は以上のように述べて、税政連は、税理士業の進歩改善その他税理士会の目的の範囲内の行為を行うことを目的とした団体で、それ以外の政治的主張をもち、特定の候補者を支持する等の政治団体ではない、だからその税政連に寄付することは税理士会の目的の範囲内の行為である、と判断したわけです。

皆さんのなかには、上記の控訴審福岡高裁の判断を聞いて、もっともだと思われる方も少なくないのではないでしょうか。

税理士になり、税理士会々員になると同時に、いつのまにか税政連に入会したことにされていて、それが規約だと信じて疑わなかったとか、税理士会の会費に併せて税政連の会費を一括振込むように促されても、全く不審に思わなかったという支部会員の方も少なくないと聞いています。

税理士会と税政連の幹部が、私たち会員に向かって、税理士会と税政連との関係について何といってきたでしょうか。これまで口癖のように唱えてきた決まり文句を思い出して下さい。

それは、「税政連は、税理士の社会的・経済的地位の向上をはかり、その権益を守るために活動している税理士会の政治部隊であり、税政連と税理士会とは車の両輪、一体の関係にある。」というコトバでした。ですから、福岡高裁の判断に対して、もっともだと思われても何の不思議はないのです。

税政連は特定の政党・政治家を支援する団体

では、税政連は税理士会と一体の団体と認識することに間違いはないのでしょうか。

「牛島税理士訴訟」の最高裁判決を借りて結論を申し上げれば、第一に、税政連は、「政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体」であるということです。

いわれてみれば、なるほど税政連及びその上部団体である日本税理士政治連盟(以下「日税政」)は、特定の政党(自民党など)に政治献金し、国会議員の選挙のたびに特定の候補者(その殆どは自民党所属)を推薦し、その候補者への後援会を組織し、陣中見舞いを含む候補者支援活動を行っている実態を、私たちは知り過ぎるほどよく知っています。それをみれば、税政連が特定の公職の候補者の支持等を目的としないとか、税政連に寄付される特別会費が、特定政党又は特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものでないとかの主張は、忽ちバケの皮が剥がれてしまうではありませんか。

ですから、そのように特定の政党・政治家を支援する税政連に活動資金として「金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題」になるわけで、したがってその税政連に「金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法49条2項(昭和55年改正後の税理士法49条6項・・筆者)所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。」ことになるのです。

会の目的は税理士法で定められていますが、勿論そこには政治献金などあるはずがありません。税理士会が税政連に寄付することは、紛れもない政治献金ですから、目的の範囲外の行為であり、税理士法に違反する行為になるということが、明確にされたわけです。

税政連がそのような特定の政党・政治家を支援する政治団体であること、このことを私たちはハッキリと頭に入れておかなければならないのです。

要請されるのは僅かの5千円!

さらに「牛島税理士訴訟」控訴審福岡高裁判決で驚いたことを、ここで一つ付け加えておきましょう。というのは、上記でご覧になったように、牛島氏に「要請されるのは5,000円の拠出にとどまる」と、僅か5,000円ではないか、それを出し渋るのか、とでもいいたいような口ぶりで述べていることです。

この問題は、金額の大小という矮小な問題ではない、それが500円であれ、50円であれ、人の良心を大きく傷つける人間の尊厳の問題である、そのことがこの福岡高裁の裁判官の頭では理解できなかったのでしょうか。私は、この判決をみたとき、福岡高裁の前庭で、「憲法は、裁判所の門前で立ち止まるのか!」と、歯ぎしりする悔しい思いをしたことを今も忘れることができません。

しかし、嬉しいことに、最高裁は、この福岡高裁の判断には法令の解釈適用を誤った違法があると、キッパリ指摘したのでした。

政治献金にお墨付きを与えた八幡製鉄事件

政治献金で忘れてならないのは、「八幡製鉄政治献金事件」に関する最高裁大法廷判決(昭45.6.24)です。

「八幡製鉄政治献金事件」はご承知のように、税理士会とは異なる団体ですが、今日の日本の社会に最も普及し、この国の経済界を支配している会社という団体の行った政治献金の是非にいついて、争われた裁判です。

この国最高の司法機関である最高裁大法廷は、会社の政治献金を、次のように述べて、社会的に有用な行為であり、会社の目的の範囲内の行為であるとするお墨付きを与えたのです。

会社は「自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他の構成単位たる社会的実在なのであるから」「会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても」「会社による政治資金の寄付は、客観的、抽象的に監察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げない」のであり、「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄付もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄付と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。」と。

以後、この国の大会社はこの最高裁大法廷判決を金科玉条として、汚職と背中あわせの政治献金に対する社会の批判など、全く馬耳東風と聞き流してきているのが、こんにち私たちの眼前に展開されている日常的な政治情景ではないでしょうか。

日本経団連(会長・トヨタ自動車会長奥田碩氏 当時)は、2003年9月には経団連に集う大企業の要望する「優先政策事項」10項目を公表し、政党がこの「優先政策事項」の実現にどれだけ貢献したかを評価し、その評価に応じて献金するよう傘下の企業にフレを回したのです。大資本のカネの威力で政治を買うというに等しいその露骨な宣言、しかもその「優先政策事項」の筆頭に挙げられているのが、法人税など企業の税負担の減少であるとは、税理士ならずとも、いささか驚き呆れてしまいます。

歳入不足を理由にして人権保障に欠かせない福祉予算が大幅に削られている今日の財政事情のもとでも、法人税減税が与党税制改正の最優先項目に挙げられているのは、その献金のご利益(ごりやく)あらたかというべきなのでしょうか。

一般の会社とは法的性格が異なる税理士会

上記のように、「八幡製鉄政治献金事件」に関する最高裁大法廷判決は、会社の政治献金を、「定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げない」としたのですが、これとは逆に「牛島税理士訴訟」最高裁判決は、税理士会の政治献金(税政連に対する寄付)は、会の目的の範囲外の行為である、とする厳しい判断を示したことは、既に述べたところですが、同じ政治献金を、一方(八幡製鉄)は目的の範囲内とし、他の一方(税理士会)は目的の範囲外という、それは何故でしょうか。

それについて「牛島税理士訴訟」最高裁判決は、次のような理由を挙げています。税理士会は、その目的が法律で直接具体的に定められていること、大蔵大臣に総会決議や役員の選任等について報告する義務があり、大蔵大臣が総会決議の取消しや役員の解任等を命ずる権限を有すること、その他税理士会から報告を徴したり、その帳簿書類を検査することができるなどに加えて、税理士会は税理士が加入を強制されている強制加入団体であることから、会社とは法的性格を異にする法人である、従ってその目的の範囲を会社のように広範なものと解すると、法の趣旨を没却する結果となることが明らである、として、税政連への寄付は税理士会の目的の範囲外としたのです。

つまり会社という団体は、その目的を団体の構成する社員が、定款で自由に定め、しかもその目的の範囲の解釈をかなり自由に決めることができます。私的自治の原則ということかもしれません。これに対して、税理士会は、国家があらかじめ法律で公的なその目的を定めて設立を義務付けた団体であり、その行動が目的から外れないよう大蔵大臣が厳格に監督するようになっている、しかも会社の社員は加入脱退が自由であるのに対し、税理士はこの税理士会に強制的に加入させられ脱退の自由がない、このように強いしばりをかけて、その国家的な目的の達成を図っているわけで、判決は、税理士会という団体の、一般の会社とは異なるこのような特異な法的性格から、その目的の範囲を厳格に解すべきとしたものと思われます。
次ページへ
▲上に戻る