論文

ー 特集税務支援 ー
「税務支援」に「公共性」はあるのか?
―その根底にあるイデオロギーの詐称性を問う―
千葉会伊藤

はじめに・・・・・税務援助の「事績」

税理士は、毎年所得税の確定申告が行われる2月から3月にかけて、所属する税理士会支部から割り当てられた1日乃至数日を、税務署や市役所、その他公衆の集まりやすい指定の場所に出向いて、訪れてくる納税者の申告相談の応対や申告書類の作成を行っています。日本税理士会連合会(以下「日税連」)税務支援対策部長の発表した平成16年度税務支援等事績(「税理士界」1211号)によると、この確定申告相談において指導した納税者数は約826,000人、これに従事した税理士の延べ日数は、約57,600日となっています。かりに税理士一人の従事した日数を1日とした場合、約57,600人の税理士が、その1日に一人で約14人の納税者の申告にかかわったことになります。

小規模事業者に対する税務援助の経緯

そもそもこの申告援助事業は、零細商工業者が民主商工会(以下「民商」)に流れることを恐れた国税庁、また民商の増強が政治的革新勢力の伸張に預って力のあることを嫌った政府与党である保守勢力が、民商の拡大を抑えるため、国税庁を介して、国税庁、日税連及び全国青色申告会総連合会の三者間で1963(昭和38)年に結ばれた「小企業納税者に対する税務指導に関する了解事項」所謂「三者協定」に基づいて、税理士会と青色申告会とが協力してそれら零細業者の税務相談等を無償で行ってきたものです。

もっともこれに必要な会場等の設営は一切官署側が行ない、また従事した税理士には財務省の外郭団体である日本税務協会から日当が支払われていましたから、これらの費用は間接的にではありますが国家財政から支出されていたことになります。

この税務援助に対して会員の間から「これは税務署の下請仕事ではないか」「この忙しい時期に駈り出されることはやりきれない」などという批判があり、これに対して会の執行部は、「これは無償独占とされている税理士業務の公共性に基づき会が自主的に行う事業である」と説いて会員の協力を求め、また「税理士会がこれをやらなければ、税務当局は青色申告会などの協力団体を臨税として税務援助をやらせるから、そうすれば税理士の無償独占が失われる恐れがある」などと脅してまで会員の不満を抑え込んできた経緯があります。

その後、1980(昭和55)年に税務当局の意向に基づいて税理士法が改正された際、その改正の一環として、「委嘱者の経済的理由により無償又は著しく低い報酬で行う税理士業務に関する規定」(税理士法49条の2、第2項9号)を会則に盛り込むことが規定され、これに基づいて各税理士会の会則に、会の行なう事業の一つとして「小規模零細納税者に対する税理士の業務に関する諸施策を実施すること」が新設され、小規模事業者に対する税務援助が税理士法上の公的な税理士の義務とされ今日にいたりました。

「小さな政府」と大衆課税の甚だしい矛盾

さらに現在「小さな政府」、「官から民へ」を掲げて公務員の削減を図ろうとする新自由主義的構造改革と、膨張する赤字財政を大企業や高額所得者に対する課税を避け「広く薄い」大衆課税によってその打開を目論む税制改革との矛盾が、納税人口の増加に対する税務職員の相対的な減少をもたらし、それが実調率の低下や滞納の増加を招き、このことが税務行政にとって深刻な問題となっています。

そうした人員不足打開の途として豊富な人材をかかえる税理士会の協力に期待することは、税務当局と日税連の濃密じっ懇な関係からみて当然の成り行きといえるでしょう。

特に、平成15年度の消費税法の改正によって免税業者の範囲が課税売上高1,000万円以下の小規模事業者に縮小されたため、平成18年2月に始まる確定申告期からは新たに消費税課税事業者が約150万人増えると見込まれ、これが税務行政にとって差迫った最も頭の痛い問題となってきました。

早速得たりかしこしとばかりこれに応えて日税連は2005(平成17)年4月の臨時総会で、税務援助関連事業の抜本的改革を図り時代の要請に応え得る税務支援体制を整備するとして、事業の名称を税務支援と改め、従来の税務援助に加えて、税務指導と銘打った事業をあらたに加える会則の一部変更を行い、私の所属する千葉県税理士会を含め全国の税理士会も、一斉に上記にならって会則の変更を行ないました。

税務支援の理念・イデオロギーは「公共性」

日税連は、上記臨時総会に先立つ2004(平成16)年12月の理事会に、この税務支援の必要性を説いた「新時代における税務支援のあり方」(「税理士界」1204号掲載)を提案し承認可決されています。その「税務支援のあり方」では次のように述べています。

「『新時代における税務支援』は、納税者の要請に応えるため、すべての税理士が税務支援に従事することを明記し、『税理士の社会公共性(税務援助事業)』と『税理士の社会貢献(税務指導事業)』の二つの事業を基軸として新たに構築するものである」と。

またその新たに付加される税理士の社会貢献(税務指導事業)の意義については、「税理士は、特に国民の義務の履行にかかわる租税を扱うことから、社会性及び公共性の非常に高い職業専門家である。また、税理士法において税理士は、独立公正を強く求められているとともに、税理士業務は数ある他の職業法と異なり、有償業務のみならず無償業務までも独占業務とされている。それ故、税理士等以外の者が税理士業務を行うことのできない現行制度のもとでは、国民が求める業務のすべては、いずれかの税理士等によって処理されなければならないことになり、これをわれわれ税理士は制度の負う社会的・公共的使命と認識しているのである」とも述べています。

これらの説明を要約すれば、従来の小規模事業に対する税務援助は、国家(税務行政)の要請に基づき、公法というべき税理士法によって義務付けられた「社会公共性」のある事業ではあるが、国庫から何らかの財政的裏付けもあるという点でも完全に自主的なものとは言いがたい、これに対し今後追加する税務指導は、税理士会が税理士業務の無償独占という税理士制度の持つ「社会的・公共的使命」に基づき、国家からの財政的支援を受けることなく自前で、自主的に行う事業であること、つまり他からの要請による受動的なものでなく税理士制度の「公共的使命」を果たすために自から積極的に行うものであるということ、この自主性を特に強調し、会員の同意を強く求めていることが注目されます。

国家(税務行政)の要請に基づくものであれ、社会貢献として自腹を切って自主的に行うものであれ、税務援助事業も税務指導業務もいずれもその事業の根底にある理念というか、イデオロギーは、上記の言説のなかでしばしば繰返される「公共性」という言葉にあると考えて間違いはないでしょう。

「公共性」の帰着点は「納税義務の適正な実現」

私は税理士になって、税理士になれば当然税理士会の会員になるわけですが、税理士会の会合で、民商対策としての税務援助以来、役員からしばしば聞かされたのが、税理士制度又は税理士業務の「公共性」という言葉です。

私は千葉県税理士会に所属していますが、その税理士会の毎事業年度の事業計画の基本方針の最初に掲げられているのは、「税理士制度の公共性にかんがみ、地域社会へ積極的に貢献し、社会に信頼される税理士像の確立に努める」というフレーズです。この美辞麗句を連ねた基本方針は、会創立の当初から一貫し、これまで一字一句変わることがありません。

昨年6月に行われた千葉県税理士会定期総会において、私はこの基本方針にある「税理士制度の公共性」に含意されるものは何か、ということについて質問いたしました。

用意されていた回答は、税理士法1条でした。同条は、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」と規定しています。端的にいえば、税理士は「納税義務の適正な実現を図るという極めて公共的な使命を担っているので、高い公共性を有すると考えられる」というものです。

これを聞いたとき、どこかで同じような言葉を聞いた覚えのあることを思い出しましたが、それはこの総会の1月前、ある税理士団体の開催した講演会の席上、大武健一郎氏(当時国税庁長官)がこの税理士法1条を引き合いに出されて、「独立した公正な立場において、・・・納税義務の適正な実現を図ること」を、公共的使命を有する税理士の役割として強調していたことでした。

このように、「公共的使命を有する税理士」、「税理士の公共性」、「税理士業務の公共性」あるいは「税理士制度の公共性」、またそれらの「社会的公共性」など、使われ方によって若干のニュアンスの違いはあるかもしれませんが、結局それらの「公共性」はすべて税理士法1条の「納税義務の適正な実現」に帰着するものと思われます。
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