論文

【特集】税理士の代理権
税理士の代理権
日本大学名誉教授・法学博士北野弘久

1.40数年前の「税理士」に対する意識

筆者が、学界へ転じたのは1960年であった。45年前になる。本誌514号(2004年9月)にも紹介した「本坊美通税理士の税理士代理権侵害を理由とする国家賠償請求訴訟」によっても知られるように、今日では、税理士を含む人々の意識も大きく変わっている。税理士は租税問題の法律家(tax lawyer)、弁護士(tax attorney)であり、クライアントである納税者の代理人(taxpayer's representative)として課税庁と対峙しなければならない職業専門家(professional)であるという意識がかなり支配的になりつつある。

しかし、45年前は違っていた。当時は、税理士は、第2級の会計専門家である。つまり、税理士は、税務会計専門家(tax accountant)であって、一般にはいわゆる税務代書人的存在として認識されがちであった。また、納税者の代理人というよりは、現実的には税務行政の補助機関としてとらえられがちであった。

その頃、東京青年税理士連盟、東京税理士会、および日本税理士会連合会から、筆者に税理士制度のあり方を学問的に研究して欲しいという委嘱があった。それを受けて、当時、筆者の提示した理論は、周知のように、つぎのごとくであった。
1 公認会計士と税理士とは異業種である。

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公認会計士は財務証明の会計専門家であって、その立場は検察官ないしは裁判官のようなものである。あるべき税理士の本質は、会計学・経営学等に精通した租税問題の法律家であり、弁護士である。

3
当時、国税庁長官〔現在は財務大臣〕が税理士に対する懲戒権を保持していた。この規定は、税理士制度を税務行政の延長線上に位置づけなければ理論的に説明できない。税理士法における税理士の「税務代理」の規定にもかかわらず、税理士法は実質的に税理士を税務行政の補助機関的なものとして位置づけている。税理士に対する懲戒権は、弁護士と同じように税理士会自身が保持すべきである。このようにして、税理士を名実ともに納税者の代理人として位置づけるべきである。

4
税理士法を税理士に対する取締立法としてとらえるべきではなく、納税者の権利立法の一環として抜本的に見直す必要がある。税理士の使命を弁護士法1条に準じて規定すべきである。弁護士法1条1項は、つぎのように規定している。「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実規することを使命とする。」
(以上の詳細については拙著『税理士制度の研究・増補版』税務経理協会)

2.シャウプ勧告と税理士

昭和26年〔1951〕の現行税理士法の制定に影響を与えた昭和24年〔1949〕(第1次)・25年〔1950〕(第2次)のシャウプ勧告書は、税理士をつぎのようにとらえている(要旨)。

税理士を納税者の代理人としてとらえる。税理士を税務官吏をして法律に従って(in accordance with law)行動させることを助ける専門家として位置づける。つまり、クライアントである納税者が税務官吏に対抗するのに税務官吏と同じ程度の精通度をもってしようとする場合(If they are to meet the tax official at his informed level)の当該納税者を援助する専門家として位置づける。そのためには、税理士の資格試験において税法と会計の完全な知識をためすべきである、と。

以上、要するにシャウプは、税理士を税務行政における「法の支配」(rule of law)の擁護者としてとらえていたとみることができよう。

現行税理士法2条は、税理士の業務として 1 税務代理、2 税務書類の作成、3 税務相談、の3つを規定する。この3つの業務はいずれも憲法およびその下にある税法令等に基づいて行われるものであって、弁護士法3条にいう「法律事務」に該当する。この3つだけが、税理士の資格を必要とする税理士という職業専門家の独占業務である。今日なお税理士事務所において重要な位置を占める一般会計業務は税理士の単なる付随業務(税理士法2条2項)であって、この一般会計業務を行うためには税理士の資格を必要としない。もちろん、公認会計士の資格も必要としない。

以上の税理士業務に関連して弁護士法3条の規定が注意されねばならない。すなわち、「弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる」。

立法論的には弁護士に税理士資格を付与するのが妥当であるかどうかは措くとして、右の規定は税理士業務の本質が「法律事務」であることを示唆していることに注意が向けられるべきである。

以上、現行税理士法のもとでも、税理士の本質は弁護士と基本的に同じように、法律家としてクライアントである納税者の基本的人権の擁護を通じて納税義務の履行に協力する専門家であるべきであるということが銘記されねばならない。2001年税理士法の改正で、税理士が裁判所において当然の補佐人として弁護士である訴訟代理人とともに租税問題について陳述することができることになったことは(税理士法2条の2)、法律家である税理士の本質を実定法的に一段と裏づけるものであるといえよう。

弁護士と税理士との間の相違は、税理士は会計業務等に精通した租税問題の法律家であること、税理士には弁護士とは異なって訴訟代理権が付与されていないこと、にあるにすぎない。現行税理士法のもとでも日常的な税理士業務の本質は、租税問題の法律家であるという点において弁護士業務との間に差異はない。

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