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税理士は、上に述べた税理士のあるべき使命の立場にたって、税務代理、税務書類の作成、税務相談等の税理士業務を行うべきである。本稿の主題である税理士代理権、換言すれば税理士法にいう「税務代理」を税理士が具体的に発揮できる業務として、納税申告、税務調査の「立会い」、行政上の不服申立て、訴訟補佐人としての活動等があげられよう。以上のほかに、税理士は予防法学的に種々の対応をすることが大切である。たとえば、税務調査などの段階で課税庁側の意向などを知った場合には課税処分等がなされる前に、税理士は当該意向などが違法の疑いがあるときは憲法16条および請願法(昭和22年法律13条)に基づいて文書で「当該意向などがいかに違法であるか」を関係資料とともに課税庁に告知したほうがよい。そうすれば、違法な課税処分等が行われるのを阻止しうるかも知れない。
また、更正の請求とか、異議申立てや審査請求などの権利救済の申立て期間を経過している場合であっても、税理士は、問題の税務行政が違法であることを発見した場合には、当該違法の事実を憲法16条および請願法に基づいて文書で課税庁に告知すべきである。課税庁は常に法の規定に基づいて税務行政を行うべき職務上の義務を負っている。納税者側が権利救済期間を経過している場合であっても、課税庁は、右告知により税務行政に違法の疑いのある事実を知った場合には、職権でもって調査し当該違法の疑いのある税務行政の違法性を確認しそれを是正すべき職務上の義務を負っている。
さらに、税理士は、クライアントからは明示的に具体的に依頼されていなくても、一定の手続をつくすことによって税法上有利な取扱いを受けうる場合には、クライアントにそのことを説明し、クライアントの法的利益のために税法上有利な方法を積極的に選択し所定の行為を行うことも専門家としての税理士の職務上の義務である。税理士に要求される善管注意義務(民法644条参照)とは、一般人のそれではなく、右の例で知られる専門家としての高度の注意義務が要求されることを銘記すべきである。 |
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あるべき税理士代理権からいえば、現行法の規定は、つぎのように改められるべきである。
税理士法34条は、納税者に対して税務調査について事前通知をした場合には関与税理士にも通知しなければならない、と規定している。代理権の本質論からいえば、代理人である税理士自身への事前通知こそが原則とされるべきである。また、税理士法33条4項は納税申告書等の税理士の署名押印の有無はその書類の効力に影響がないと規定している。しかし、税務代理をした税理士の署名押印こそが不可欠とされるべきであって、むしろ納税者の署名押印は法的にはなくてもよいとされるべきである。
さらに、税理士法35条1項は、同法33条の2に規定する計算事項等を記載した税理士による書面が添付されている申告書に対して税務調査の事前通知をする場合には、その通知の前に関与税理士に意見を述べる機会を与えねばならないと規定している。同条2項は、課税庁が前出計算事項等を記載した税理士による書面が添付されている申告書に対して、更正処分をする場合には同条第1項と同じように関与税理士に意見を述べる機会を与えねばならないと規定している。
さらに、同条3項は、行政不服申立てについて調査する場合には、担当審判官等は関与税理士に意見を述べる機会を与えねばならないと規定している。しかし、同条4項は、これらの場合に意見を聞く機会を与えなかったとしても、当該処分等の効力に影響を及ぼさないと規定している。税理士代理権を尊重する立場からは税理士に意見を述べる機会を与えなかった場合には、手続的に当該処分等は違法になると改められるべきである。
代理人としての税理士の立場を重視して、現行税理士法2条の2の訴訟補佐人の規定は事実上つぎのように運用されるべきである。すなわち、同条の「陳述」には「尋問」を含むものとして運用されるべきであろう。同条は、租税刑事事件には文理解釈上は適用されないと解されているが、税理士を実質的には「自動的」に「特別弁護人」にする運用が行われるべきであろう。もとより、これらのことを立法論的に明文で整備すべきである。
将来の立法論的課題として、訴訟代理人である弁護士がいない場合でも、単独で訴訟補佐人になれるように改められるべきであろう。また、自己が関与した課税処分等の取消し訴訟については税理士が単独で訴訟代理人になれるように改められるべきであろう。さらに、租税刑事事件一般については弁護士である弁護人と一緒に特別弁護人ではなく正規の弁護人として弁論できるように改められるべきであろう。 |
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目下、会社法のなかに「会計参与」制度の導入が論議されている。「会計参与は、取締役・執行役と共同して、計算書類を作成するものとする」とされるもののようである。この会計参与として公認会計士のほかに税理士も予定されている。
税理士は会計専門家の側面を有することは否定し得ないが、税理士の本質は、すでに明らかにされたように、会計学・経営学等に精通した租税問題の法律家・弁護士である。税理士の行う会計業務は、税務代理・税務書類の作成・税務相談等の税理士の本来業務を行う場合の付随業務としてである(税理士法2条2項参照)。会計参与の仕事はこの付随業務の枠を超える。加えて、会計参与は外部専門家としてではなく取締役等と同じ会社の執行機関として位置づけられている(小池幸造「『会計参与』とその責任」本誌519号など)。
予定されている会計参与は、理論的には租税問題の法律家・弁護士である税理士の本質、本稿の主題である税理士代理権とは基底的に抵触し、あるべき税理士制度の変質・崩壊をもたらす。 |
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(注) |
その後、本稿でもふれた本坊美通税理士に よる損害賠償請求事件の控訴審判決が示された。
大阪高裁2005年3月29日判決は、本坊税理士の控訴を棄却した。 |