論文

【特集】税理士の代理権
税理士の代理権
日本大学名誉教授・法学博士北野弘久

3.現行税理士法1条「独立した公正な立場」の法的意味

税理士が関与する租税法律関係は課税庁と納税者との間の関係である。この関係では、当該事案における事実は何であるか、具体的にその「事実認定」をどのように行うべきであるか、また事実が確定した場合にどのような法を適用すべきか、その法の規範的意味をどのようにとらえるべきか、が問題となる。

後者の法の解釈は、それ自体、科学(science)ではなく論者の法学的価値観にもとづく実践的意欲作用である。それゆえ、法の解釈のあり方も究極的にはその者の価値判断によって決まる。また、前者の事実認定問題もつぎのように本質論的には価値判断作用といえる。「税法的事実」は通例、民事法的評価と税法的評価との2段階の法的評価を伴った「法的事実」(legal facts)である。それゆえ、事実認定といっても「裸の事実」の認定ではなく、法的価値判断が伴うからである。

税理士制度は公的な社会制度であるので、税理士は「中正な立場」、「公正な立場」に立つべきであることは当然である。税理士法1条の「公正な立場」は法理論的には右のような一般的な立場を意味するものではない。租税法律関係における争いは、「事実認定」にしろ「法の解釈」にしろ、上に明らかにされたように、それらは共に法的価値判断作用であるので、最終的には「課税する立場」に立つか、「納税者の立場」に立つか、によって決まる。つまり租税法律関係における争いの限界状況では「中正な立場」、「公正な立場」なるものは論理上存在し得ず、それらは問題解決の尺度にはならない。

現行税理士法1条は「税理士の使命」としてつぎのように規定する。「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」。
同条の法的意味は、税法学的につぎのように解すべきであろう(拙著『税法学原論・5版』青林書院455頁以下)。

納税申告は、租税国家における主権者である納税者の主権的権利行使の1つである。申告納税制度のもとでは主権者である納税者は、自己の納税義務額について第1次的に確定権をもつ。課税庁は、そのような納税者による納税申告を待って、それを第2次的に是正する補完的な地位をもつにすぎない。税理士法1条は、このような「申告納税制度の理念」の実現を税理士の使命として確認しているわけである。

同条の「独立した公正な立場」をどのように解すべきであろうか。先に分析した租税法律関係における「事実認定」、「法の解釈」の法的価値判断作用という特性に鑑み、つぎのように解すべきである。いわゆる限界状況において課税庁と納税者との間に論理的に「中正な立場」、「公正な立場」なるものは存立し得ない。この点は、社会科学的視角から分析しても真実である。

このような点をふまえて税理士法1条を法実践論的にとらえることが大切である。「独立した公正な立場」の法的意味は、課税庁とは距離を置いて、かつ、納税者の代理人としての職業専門家の立場であると解すべきである。税理士は、納税者の代理人として課税庁の誤った通達や行政指導等を批判しなければならない。税理士は法律家として問題の租税法令が憲法に適合するかどうかについても冷静に検討しなければならない。

仮に直ちに「法令違憲」を主張し得ない場合にはどのような税法の解釈・適用の仕方が少しでも憲法の趣旨に適合することになるかについて検討する必要がある。つまり憲法適合的な税法解釈論の展開である。そのためには、ときに「法令違憲」ではなく「適用違憲」、「運用違憲」、「事情判決」(行政事件訴訟法31条)を主張しなければならないこともあろう。

英米法には「判例拘束の法理」が存在するが、日本国憲法のもとでは存在し得ない。最高裁判決といえどもそれが税法学的に誤りであれば、変更されねばならない。法律家である税理士は、最高裁判決を含めて判例等を批判的に検討しなければならない。その場合のよるべき基準は、税法学という学問しか存在しない。

税理士は、このように納税者の専門家代理人として税法学的に誤った判例、通達、行政指導等を批判しなければならない。さらに税理士は税法学的に誤った立法を批判し、その法律改正のために努力しなければならない。税理士のこのような納税者の専門家代理人としての立場は、いたずらに課税庁と対決するということを意味しない。税理士は納税者の要望に「隷従」すべきではない。税理士はまさに職業専門家(professional)としての独自の見識に立ってクライアントである納税者の諸権利を擁護し、そして援助するという職責をになうこととなる。これが税理士法1条にいう「独立した公正な立場」、「税務に関する専門家」の法的意味である。

4.税理士の代理権の展開

(1) 税理士は、上に述べた税理士のあるべき使命の立場にたって、税務代理、税務書類の作成、税務相談等の税理士業務を行うべきである。本稿の主題である税理士代理権、換言すれば税理士法にいう「税務代理」を税理士が具体的に発揮できる業務として、納税申告、税務調査の「立会い」、行政上の不服申立て、訴訟補佐人としての活動等があげられよう。以上のほかに、税理士は予防法学的に種々の対応をすることが大切である。たとえば、税務調査などの段階で課税庁側の意向などを知った場合には課税処分等がなされる前に、税理士は当該意向などが違法の疑いがあるときは憲法16条および請願法(昭和22年法律13条)に基づいて文書で「当該意向などがいかに違法であるか」を関係資料とともに課税庁に告知したほうがよい。そうすれば、違法な課税処分等が行われるのを阻止しうるかも知れない。

また、更正の請求とか、異議申立てや審査請求などの権利救済の申立て期間を経過している場合であっても、税理士は、問題の税務行政が違法であることを発見した場合には、当該違法の事実を憲法16条および請願法に基づいて文書で課税庁に告知すべきである。課税庁は常に法の規定に基づいて税務行政を行うべき職務上の義務を負っている。納税者側が権利救済期間を経過している場合であっても、課税庁は、右告知により税務行政に違法の疑いのある事実を知った場合には、職権でもって調査し当該違法の疑いのある税務行政の違法性を確認しそれを是正すべき職務上の義務を負っている。

さらに、税理士は、クライアントからは明示的に具体的に依頼されていなくても、一定の手続をつくすことによって税法上有利な取扱いを受けうる場合には、クライアントにそのことを説明し、クライアントの法的利益のために税法上有利な方法を積極的に選択し所定の行為を行うことも専門家としての税理士の職務上の義務である。税理士に要求される善管注意義務(民法644条参照)とは、一般人のそれではなく、右の例で知られる専門家としての高度の注意義務が要求されることを銘記すべきである。
(2) あるべき税理士代理権からいえば、現行法の規定は、つぎのように改められるべきである。

税理士法34条は、納税者に対して税務調査について事前通知をした場合には関与税理士にも通知しなければならない、と規定している。代理権の本質論からいえば、代理人である税理士自身への事前通知こそが原則とされるべきである。また、税理士法33条4項は納税申告書等の税理士の署名押印の有無はその書類の効力に影響がないと規定している。しかし、税務代理をした税理士の署名押印こそが不可欠とされるべきであって、むしろ納税者の署名押印は法的にはなくてもよいとされるべきである。

さらに、税理士法35条1項は、同法33条の2に規定する計算事項等を記載した税理士による書面が添付されている申告書に対して税務調査の事前通知をする場合には、その通知の前に関与税理士に意見を述べる機会を与えねばならないと規定している。同条2項は、課税庁が前出計算事項等を記載した税理士による書面が添付されている申告書に対して、更正処分をする場合には同条第1項と同じように関与税理士に意見を述べる機会を与えねばならないと規定している。

さらに、同条3項は、行政不服申立てについて調査する場合には、担当審判官等は関与税理士に意見を述べる機会を与えねばならないと規定している。しかし、同条4項は、これらの場合に意見を聞く機会を与えなかったとしても、当該処分等の効力に影響を及ぼさないと規定している。税理士代理権を尊重する立場からは税理士に意見を述べる機会を与えなかった場合には、手続的に当該処分等は違法になると改められるべきである。

代理人としての税理士の立場を重視して、現行税理士法2条の2の訴訟補佐人の規定は事実上つぎのように運用されるべきである。すなわち、同条の「陳述」には「尋問」を含むものとして運用されるべきであろう。同条は、租税刑事事件には文理解釈上は適用されないと解されているが、税理士を実質的には「自動的」に「特別弁護人」にする運用が行われるべきであろう。もとより、これらのことを立法論的に明文で整備すべきである。

将来の立法論的課題として、訴訟代理人である弁護士がいない場合でも、単独で訴訟補佐人になれるように改められるべきであろう。また、自己が関与した課税処分等の取消し訴訟については税理士が単独で訴訟代理人になれるように改められるべきであろう。さらに、租税刑事事件一般については弁護士である弁護人と一緒に特別弁護人ではなく正規の弁護人として弁論できるように改められるべきであろう。
(3) 目下、会社法のなかに「会計参与」制度の導入が論議されている。「会計参与は、取締役・執行役と共同して、計算書類を作成するものとする」とされるもののようである。この会計参与として公認会計士のほかに税理士も予定されている。

税理士は会計専門家の側面を有することは否定し得ないが、税理士の本質は、すでに明らかにされたように、会計学・経営学等に精通した租税問題の法律家・弁護士である。税理士の行う会計業務は、税務代理・税務書類の作成・税務相談等の税理士の本来業務を行う場合の付随業務としてである(税理士法2条2項参照)。会計参与の仕事はこの付随業務の枠を超える。加えて、会計参与は外部専門家としてではなく取締役等と同じ会社の執行機関として位置づけられている(小池幸造「『会計参与』とその責任」本誌519号など)。

予定されている会計参与は、理論的には租税問題の法律家・弁護士である税理士の本質、本稿の主題である税理士代理権とは基底的に抵触し、あるべき税理士制度の変質・崩壊をもたらす。
(注) その後、本稿でもふれた本坊美通税理士に よる損害賠償請求事件の控訴審判決が示された。
大阪高裁2005年3月29日判決は、本坊税理士の控訴を棄却した。

文責・きたのひろひさ
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