論文

【特集】消費税・税制改正検証
庶民増税でなく経済的能力に応じた税制へ
― 小泉税制改革を攻勢的に闘う3つのポイント ―
大阪会佐飛淳一

4.<第2のポイント>大企業は、消費税を1円も負担していない!

大企業は、消費税を1円も負担していない。輸出大企業に至っては、消費税を1円も納税していない。マスコミは、この事も一言も語りません。
【消費税の仕組みと転嫁】

消費税は、売上代金に上乗せされて販売・集金されます。例えば、100万円の車ですと、本体価格100万円、消費税5万円、合計105万円で販売します。車の仕入が80万円。話を簡単にするため経費は何もかからなかったとします。仕入については、本体価格80万円、消費税4万円、合計84万円の支払となります。

事業の利益は、売上100万円、仕入80万円、差引20万円の利益となります。消費税の申告は、売上で消費税5万円集金、仕入で消費税4万円支払、差引1万円の申告・納税となります。(資料 12

1 消費税導入前
売上 100万円
仕入 80万円
利益 20万円
2 消費税5%
(利益) (消費税)
売上 100万円+ 5万円= 105万円
仕入 80万円+ 4万円= 84万円
20万円+ 1万円= 21万円

売上代金105万円には、仕入で支払った消費税4万円と、税務署へ申告・納税する消費税1万円が上乗せされています。これを転嫁といいます。
【転嫁できれば消費者の負担】

企業は、消費税を売上代金に上乗せできれば、消費税の為の損得はゼロです。理屈上は、企業は消費税を1円も負担することはないのです。

企業は、消費税の申告・納税はしますが、売上に転嫁しますので、消費税を負担することはないのです。

消費者は、消費税がなければ100万円で買えた車を、105万円で買うことになります。消費税分値段の高い車を買うことで、消費税を負担することになるのです。
【消費税は値段の一部】

消費税は、売上代金に上乗せされますが、法律は、このことを強制し義務づけていません。買い手が車の代金105万円を支払うか否かは、売り手と買い手の力関係によるのです。売り手と買い手が合意すれば、買い手は100万円の支払で済ますこともできます。法律違反ではありません。消費税は値段の一部に過ぎないのです。
【利益を削って消費税の負担】

100万円で販売した場合、売り手の申告・納税はどううなるか?法律は、100万円が消費税込みの価格とみなします。100万円÷1.05=952,380円が車の本体価格、100万円−952,380円=47,620円が売上で集金した消費税とみます。

事業の利益は、売上952,380円−仕入80万円=152,380円。申告・納税する消費税は、売上で集金した消費税47,620円−仕入で支払った消費税4万円=7,620円。
以前20万円あった利益は、152,380円となり、47,620円減ってしまいます。消費税を転嫁できない企業は、その分、利益を削ることになります。利益を削って消費税を負担したことになるのです。
(資料 3
3 消費税を転嫁できない(課税事業者)
(利益) (消費税)
売上 952,380円+ 47,620円= 100万円
仕入 800,000円+ 40,000円= 84万円
152,380円 7,620円= 16万円
【零細な事業者に申告・納税の押し付け】

03年の税制改正で、消費税の事業者免税点が売上3000万円以下から、1000万円以下に引き下げられました。これによって、個人・法人合わせて約200万件の事業者が、新たに消費税の申告・納税をすることになりました。これまで、申告・納税している事業者は約230万件です。消費税の申告・納税する事業者はほぼ倍化します。政府は、免税点の引き下げで6000億円の増税を見込んでいます。1事業者平均30万円の増税となります。年間売上1000万円とはどんな事業者でしょうか?1日にすれば3万円前後の売上(利益ではありません!)です。文字通り、夫婦2人が切り盛りする生業とも言える事業者です。
【益税はあるの?】

免税の事業者は、消費税を申告・納税していません。もらった消費税を申告・納税していないとの「益税」攻撃を受けています。事業者免税点が1000万円に引き下げられたのもこの理由からです。しかし、「益税」はあるのでしょうか?

免税事業者は、消費税込みで利益計算をします。車の例でみると、売上105万円−仕入84万円=利益21万円。

利益は20万から21万円になります。この21万円に法人税や所得税が課されることになります。免税事業者は、理屈上は利益が増えます。しかし、増えた利益には消費税ではなく、法人税や所得税が課税されます。「益税」として税を逃れることはないのです。

「益税」は、売上に5%分上乗せできての話です。現実の商売は売り手・買い手の力関係により変化します。(資料 4
4 免税事業者
(利益)
売上 100万円+ 5万円= 105万円
仕入 80万円+ 4万円= 84万円
21万円

売上の消費税分をもらえないとすると、売上100万円−仕入84万円=利益16万となります。利益は減ります。20万円の利益を確保するには、仕入の消費税分は、売上に上乗せしないといけません。車の例でいえば、104万円で販売しなければ、損をすることになります。しかし、消費税を転嫁するのは、中小零細事業者には大変困難なことです。(資料 5
02年の経済産業省の調査では、売上1000万円前後の事業者で、消費税を「ほぼすべて転嫁」しているのは30%です。70%の事業者が「すべては転嫁できないない」状況です。
5 免税事業者で転嫁できない
(利益)
売上 100万円+ 0万円= 100万円
仕入 80万円+ 4万円= 84万円
16万円
【非課税事業も消費税負担】

非課税売上の場合も、同様になります。医業などの社会保険診療収入は、消費税が非課税です。事業者からみると、法律上、収入に消費税を転嫁できない制度になっているのです。
医療・介護・福祉・教育などの非課税事業の場合、収入100、仕入80+消費税4の84としますと、所得(利益)は、100−84=16です。消費税がなければ、100−80=20です。非課税事業者の場合、消費税の申告・納税はありません。仕入に係る消費税分だけ、所得が減少することになります。非課税事業者は、仕入にかかる消費税を負担させられているのです。
【輸出大企業は1円も納税していない】

トヨタ・松下など自動車・弱電関係の輸出大企業は、消費税を1円も納めていません。むしろ、国から消費税をもらっている(還付)のです。

消費税は、国内取引にかかる税金です。輸出事業者は、相手国の事業者に消費税を請求しません。車の例で言えば、100万円請求・集金します。売上に係る消費税は0円です。

非課税事業者と似ていますが、輸出事業者は、消費税の申告を行います。売上で集金した消費税は0円。仕入で支払った消費税4万円。差引で4万円消費税を払い過ぎているので、4万円返して下さいとの申告をするのです。消費税の還付申告です。(資料 6

湖東京至氏の試算では、03年分でトヨタなど輸出大企業上位10社は、総額6840億円、税務署から消費税の還付を受けています。
6 輸出事業者(課税事業者)
(利益) (消費税)
売上 100万円+ 0万円= 100万円
仕入 80万円+ 4万円= 84万円
20万円+ ▲4万円還付
【身銭を削って払った消費税が還付!】

消費税は、値段の一部であり、売手・買手間では、支払うかどうかは取引の力関係で決まります。

例えば、下請代金が80万円とします。下請企業は、80万円+消費税4万円、合計84万円の請求を行います。しかし、親企業からは80万円しか集金できない場合、消費税法は80万円が消費税込みの金額とみなします。下請企業は本体価額800,000円÷1.05=761,905円、消費税38,095円との申告を行います。下請企業は38,095円利益を削って消費税を納めます。親企業は、下請代金は761,905円となり、38,095円以前より得をします。又、消費税の申告では、38,095円を支払った消費税として申告します。輸出企業であれば、仕入で払った消費税の還付を受けることになります。下請が身銭を削って支払った消費税が、輸出大企業に還付されているのです。

輸出企業に対する消費税還付の制度は、廃止すべきです。
輸出大企業10社への消費税還付6,840億円を廃止すれば、事業者免税点の引下げ(6,000億円の増税)などしなくても良いのです。
【最大に不公平な税金】

「広く公平に負担を分かち合う」。政府税制調査会の謳い文句です。消費税については、「あらゆる世代が広く公平に負担を分かち合う」重要な税と位置づけています。しかし、大企業は、消費税を1円も負担していません。消費税は、力の強い大企業は1円も負担しなくても良い仕組みとなっている税金です。「税の負担論」から見ると、経済力のある大企業は消費税を1円も負担していないこと。消費者は生活費を削って消費税を負担していること。中小零細な事業者は利益を削って消費税を負担していること。このことが、消費税のもつ最大の不公平さであるといえます。
【財界が肩入れする理由】

こうしてみると、消費税は、消費者又は、弱小な事業者の負担となる税金と言えます。転嫁できる大企業などは、消費税は1円も負担しなくてよいのです。

日本経団連が、消費税率引き上げの先頭に立っているのは、こう言う理由からです。法人税・所得税は利益からの負担となり、「もうけ」を減らすことになりますが、消費税は利益を1円も減少させることはないのです。大企業にとっては、消費税率が5%でも、10%でも「もうけ」には関係ないと言うことです。小売関係の大企業で反対の声がありますが、それは、消費税の引き上げで、消費者の購買力が低下し、不景気となり、結果として自分たちの売上減となっていくことを心配してのことです。
【文字通り弱肉強食の税金】

消費税は、公平な負担の税金と言われますが、力の強い大企業は一円も負担していません。「税の負担論」の視点から見て、大変不公平な税金と言えます。

税負担が力関係で決まる消費税は文字通り、「弱肉強食」の税金と言えます。消費税を転嫁できない中小零細企業にとっては、「営業破壊税」です。消費者には、物価を引き上げ、生活費に食い込む「生活破壊税」と言えます。

労働者の給与には消費税はかかっていません。リストラして外注化すれば、派遣会社へは消費税込みの支払となります。企業は、納める消費税を少なくするには、仕入や経費の消費税が多い方が良いのです。「首切り」「リストラ」で社員を減らし、外注化すれば、納税する消費税は少なくてすみます。労働者には、消費税は「首切り・リストラ税」「雇用破壊税」なのです。
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