論文

特集商法改正・会計参与制度
会計参与(仮称)制度の問題点
東京会阿部徳幸

1はじめに

法務省は会社法制の現代化に関する要綱案を取りまとめた。この要綱案をもとに会社法の改正が予定されている。今回のこの会社法の改正は、会社法制の現代語化を基本方針としている。すなわち、会社に関して規定する商法第2編、有限会社法、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律等について、片仮名の文語体で表記されている規定を平仮名の口語体に改める。同時に、用語の整理を行うとともに、解釈等の明確化の観点から必要に応じ規定の整備を行う。

さらにこれらを一つの法典(会社法(仮称))としてまとめて分かりやすく再編成する(注1)ための改正である。またこの現代語化にあわせ基本方針に基づく実質改正として、会社に係る諸制度間の規律の不均衡の是正等を行うとともに、最近の社会経済情勢の変化に対応するための各種制度の見直し等、「会社法制の現代化」にふさわしい内容の実質的な改正を行う(注2)こととされた。

具体的内容として、株式会社と有限会社の規律の一体化、最低資本金制度の見直し等である。また、この実質的改正に伴い創設されようとしているのが「会計参与」(仮称)(以下単に「会計参与」という。)制度である。

本稿は、この会計参与制度について、特に会計参与の責任問題、税理士業務との両立について若干の検討を行うものである。

2会計参与制度

会計参与制度とはいったいどのような制度なのであろうか。またその創設の理由とはいったい何なのであろうか。今回の会社法制の現代化において、株式会社と有限会社との規律が一体化され、有限責任会社は株式会社のみという会社類型が採用される。有限責任会社という前提に立てば、債権者保護等の観点から、その財務の透明性の確保は当然に必要である。

現在、商法特例法上の大会社に会計監査人の監査が強制(商特法2 )されている理由である。ただしここには、会社が直接金融により市場から資金を調達するという前提がある。銀行からの借入金等による資金調達という間接金融を前提としている会社(一般的には、商法特例法上の中・小会社)には、企業財務の透明性の確保という問題はあまり実感がない。なぜなら、そこでは計算書類に基づく信用ではなく、オーナー株主による無限連帯責任により債権者保護機能が担保されているという実態があるからである。しかし、株式上場方法の多様化等、社会情勢の変化とともに、これら中・小会社においても、直接金融を求めるケースが増加していることも事実である。

このような事実を考えれば、中・小会社の「財務の透明性の確保」の法的手当ても当然に必要となろう。この必要性から現在、中会社においては会計監査人の監査が任意で認められている(商特法2)。しかし、小会社には現状何ら法的手当てがなされていない。これを手当てするための制度のひとつが今回の会計参与制度である。

つまり、会計参与制度とは、有限責任会社における「財務の透明化」を図るため創設される制度である。特に小会社においては、内部統制問題、その他コスト・パフォーマンス等の観点から会計監査人の監査には耐えられない現状などを考慮し、外部監査とは異なるスキーム、すなわち会計に関する専門識見を有する者を利用した「内部機関」としての財務の透明性を担保する制度として創設し、手当てした制度が会計参与制度である。

しかし、会計監査人の監査こそが本来「財務の透明性」を担保する制度であることから、今回の会社法制の現代化に伴い、任意での小会社の外部監査も当然に併存される。つまり、会計参与は、有限責任会社における財務の透明化を図る目的で、また、その必要性の観点から、大・中・小会社すべて会社において任意設置とされた会社の内部機関である。

また、この会計参与の職能(注3)であるが、5項目に限定列挙されている。その1つ目が、「計算書類の作成」である。具体的には、「会計参与は、取締役・執行役と共同して、計算書類を作成する」こととなる。2つ目として、「株主総会における説明義務」が挙げられている。そして、3つ目の職能として、「計算書類の保存」と、さらに4つ目として、「計算書類の開示」がある。現行商法は、計算書類の保存、開示義務を取締役に課している(商法282)。

今回会計参与制度の導入に伴い、計算書類の作成と株主総会における説明義務をその職務とする会計参与にも、取締役同様、その保存・開示義務を課したものといえる。当該会計参与制度は、取締役と共同で計算書類を作成し、彼らとは別に会計参与が計算書類を保存・開示することにより、取締役・執行役による計算書類の虚偽記載や改ざんを抑止し、計算書類の正確さに対する信頼性を高めることができる。つまり、当該会計参与制度の本来的法的存在意義は「共同作成」と、この「保存」と「開示」に見出すことができる。そして最後にその他の職能として、「計算書類の作成等に必要な権限を有する」とされている。

3会計参与の権限と責任

ではこのような職能を執行するに当たって、会計参与はどのような権限を有し、またどのような責任を負うのであろうか。会計参与には、その会社における業務執行権限はない。また取締役会への出席権限もない。上記5項目に限定された職務を遂行するためだけに設置される内部機関であり、その権限は上記の「計算書類の作成等に必要な権限」に留まる。

またその責任は、「会計参与の会社・第三者に対する責任については、社外取締役の場合と同様の規律を適用するものとし、株式会社に対する責任については、株主代表訴訟の対象とする・・・(注4)」と非常に簡潔にその規定がなされるに留まる。社外取締役と同様ということから、善管注意義務はもちろんではあるが、その他具体的な責任として、会社に対しては商法第266条が、第三者に対する責任として同第266条ノ3の規定が準用されることとなる。

そもそも今回の会社法制の現代化は、株主利益の確保及び会社債権者の保護に資する国際的に遜色のない会社法制を実現することを目指し(注5)進められてきた。会計参与制度もこの株主利益の確保及び会社債権者の保護を理由に創設されるのである。商法の基本理念はこの債権者保護である。株式会社の株主の責任は間接有限責任であり、株主は会社債権者に対して出資額を限度にそれ以外なんら責任を負わない。これを担保する制度の一つとして資本金制度があり、最低資本金制度があったはずである。

しかし、平成13年の商法改正では金庫株が解禁され、また今回の要綱では最低資本金制度が廃止(注6)されようとしている。これはこれまでいわれてきた資本充実・資本維持の原則を無視するものである。これら最近の商法改正の動向を考えると、商法が従来掲げてきた債権者保護という基本理念を放棄しようとしているかのようにも思われる。

仮に商法が方向転換を目指し、債権者保護理念を放棄するのであれば、債権者保護を目的に創設される会計参与制度とは一体何なのであろうか。しかし上記のとおり、今回の会社法制の現代化は、株主利益の確保及び会社債権者の保護を掲げており、この会社法制の現代化に伴い創設される新たな制度がこの会計参与制度である。したがって、この会計参与制度も株主利益の確保及び会社債権者の保護を目的に創設されると考えるべきであろう。今回の最低資本金制度廃止に伴い株主の間接有限責任も実質的になくなる。

つまり、会計参与が設置されたとすれば、従来の株主責任は会計参与に、しかも対外的には間接有限責任が直接無限責任とその範囲を広げて移行されることとなる。株主利益の確保とはこの意味での確保なのであろうか。この会計参与制度はその前提からして疑問の残る制度である。

またこの制度の創設理由の一つとして、コンプライアンス体制の整備が掲げられている。確かに現状、特に小会社において、商事基本法である商法及び商法施行規則に基づく計算書類が作成されていないという実態はある。多くの小会社の計算書類は、税法、特に法人税法を基準とした計算書類となっている。「法人税法の逆基準性」といわれる所以である。

では、はたして会計参与が会社内部に設置されたからといって、この意味におけるコンプライアンス体制が整備されるのであろうか。コンプライアンス体制の整備は、あくまでも取締役・執行役の意識の問題である。仮に会計参与が会社内部に設置されたとしても、何故それで会社のコンプライアンス体制の整備がされるのだろうか。会計参与の職能にコンプライアンス体制の整備はない。

確かに会計参与が会社内部に設置されれば、その作成された計算書類はより法律に準拠されたものとなるであろう。しかしそれは会計参与の法的責任に裏付けされたものである。会社の計算書類の適正性の担保は、会計監査人の監査に求めるのが原則である。

今回の要綱案により、任意で小会社における会計監査人の監査も認められる。計算書類の適正性を担保するのであれば、会計監査人の監査で十分なはずである。また任意ということをいうのであれば、会計参与もまた任意設置のはずである。さらにこの任意設置の問題であるが、繰り返すがこの会計参与は任意設置である。

ただここでいう任意というのは、設置してもしなくとも良いという意味ではない。定款において設置する旨を記載するか否かが任意であり、定款において設定する旨を記載した場合は必ず設置しなければならない。このことは会計参与が取締役・執行役と共同して計算書類を作成するに当たり意見が対立した場合、会計参与は後任が決まるまで辞任することすらできないことを意味する。仮に両者の意見が対立したままであれば計算書類は作成できない。

このような状況で計算書類が作成されなければ、会計参与及び取締役・執行役は、任務懈怠で例えば商法第266条等の責任を追及されることとはならないのであろうか。具体的なことを何ら要綱案は示していない。この他にも会計参与の責任問題に対する様々な場面が想定される。

しかし要綱案は、「会計参与の会社・第三者に対する責任については、社外取締役の場合と同様の規律を適用するものとし、株式会社に対する責任については、株主代表訴訟の対象とする・・・(注7)」とするに留まる。そもそも会計参与とは、取締役とは別の会社機関である。

しかし、なぜ別機関であるにもかかわらず責任は社外取締役と同じなのであろうか。要綱案は、会計参与の職能として「取締役・執行役と共同して、計算書類を作成する」としている。この「共同して」とは一体どういうことを意味するのであろうか。商法第266条ノ3第2項は、「書類の虚偽記載」の責任を規定している。この規定は同法1項の一般責任と異なり、軽過失責任となり、挙証責任も転換されることとなる。

ここでいう「書類の虚偽記載」とは何を意味するのかについては、今後の会計参与制度の運用状況を注視しなければならないが、この「書類の虚偽記載」に関する責任については、取締役・執行役と会計参与が共同して無過失の立証をしなければならない。だからこそ、会計専門家としての識見を有する者(公認会計士・税理士等)が就任する会計参与が取締役と共同して計算書類を作成するのである。さらに例えば、会計監査人監査の場合は、その監査証明書に意見を記載することによりその責任を留保できる。

しかし、会計参与の場合、作成者責任でありその責任は会計監査人監査より重いものとはならないのであろうか。なぜなら、公認会計士・税理士といった会計専門家が会計参与に選任されるのであるから、会計参与は、取締役・執行役と共同で作成した計算書類につき、「知らなかった」、「問題がある」とは決して言えないはずである。したがって、会計参与が共同作成した計算書類に問題が生じた場合、その共同作成者である会計参与は常に悪意であり、過失がある。またその過失も、会計専門家であるという理由から常に重過失ということとはならないだろうか。

つまり、この会計参与制度とは、これまで資本金制度等により担保されてきた債権者保護機能を、会計参与就任者に転換させるものとして捉えることができる。また、このような過度な責任リスクを背負うのであれば、その報酬は当然相当高額なものとなることが予想される。

自らの計算書類の適正性を明らかにしようとする者にとって、報酬が高額であるということが同じであるならば、あえてその特例的手続である会計参与制度を採用せず、原則的手段である会計監査人の会計監査を選択することが自然であろう。そして自らの計算書類の適正性を明らかにしようとする者は、会計監査人の監査に耐えうる環境、例えば内部統制システム等を自ら積極的に構築するはずである。何故なら会計監査人の監査を受けることは任意だからである。したがって、任意の制度で計算書類の適正化を図るのであれば、会計監査人監査で十分である。

この会計参与は任意設置の会社内部機関である。そしてその選任は株主総会で行われる。つまり会計参与は株主により選任されることが前提となっている。しかしその実態としては、特に小会社の場合、金融機関・取引先等がオーナー株主である社長等代表者に働きかけ、会計参与の選任を強要することとはならないであろうか。オーナー株主である代表者が自らの意思で選任を求めるであろうか。仮に自らの意思で選任を求めるのであれば、先に見たとおり、会計監査人の監査を選択するのではないであろうか。にもかかわらず金融機関・取引先等が会計参与の選任を求めるのは、その選任された会計参与に実質的債権者保護機能を見出すからであろう。

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