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時潮

総合窓口での文書提出に受付票??
〜法的根拠のない「指示」を強要〜
東京会 佐伯 和雅
I. はじめに
先日、都内K税務署に法人税及び消費税の申告書を提出しに行ったところ、総合窓口で「受付票を書かないと収受できません」と言われた。毎年、異動後と確定申告開始時には「お願い」をよく受ける窓口での「受付票」の記入であるが、「収受できない」と明確に言われたのは初めてであった。
毎年同じことが繰り返される中、現在の税務行政の実態を知る一つの手がかりになると考え、早速、東京国税局に情報公開請求をし、「総合窓口における行政文書管理の徹底について(指示)」を入手した。税務行政に携わる者、つまり公務員は「主人たる国民に仕え忠実にサービスする義務がある (1)」ことに鑑みれば、総合窓口での違法かつ高圧的な「お願い」については是正させる必要がある。
II. 事案の過程及び顛末
(1) この間の経緯

「収受できない」といわれ、総務課へ向かい、総務課長補佐と面談した。総務課長補佐は「お願いはしている」「なんとか書いていただけないか」とか、「控えを持ってきてもらえれば収受印を押して受付票の控えを渡すことも可能です (2)」などと述べていた。筆者としては「法令に規定されていない」ことやなぜ税務署内で管理される受付票を納税者に書かせるのかなど幾つか質問したが、回答は「お願いしたい」との一点張りであった。その場では次回からお願いしますということで収受された。
8月29日に東京国税局宛に行政文書開示請求を行った。これに対して9月21日付で開示決定がなされ、開示日の一つとして指定された10月3日に文書収受を受けた。

(2) 開示文書の内容
傑作である。税務行政の内部通達(「指示」という文章なので通達未満である)が、これほどまで自分本位であり、一般人には理解不能な指示を与えているとは想像していなかったため、とてつもない衝撃を受けた。
文書の趣旨として以下の記載があった。
「社会保障・税番号制度の本格化を見据え、個人番号等、重要な情報が記載された文書を直接取り扱う機会が多い管理運営部門においては、これまで窓口等における行政文書の取扱いを見直し、行政文書の一層の管理徹底を行う必要があることから、その具体的な取扱いを指示するものである」。

会社や個人の所得金額や税額は個人番号よりも情報の重要性としては低いとも取れる言いまわしてあるが、個人情報や機微情報の記載がある申告書を徹底的に管理してもらうことは当然であるから、今までどれだけ杜撰に管理していたのかはさておき、ここまではよい。問題はその取扱い方法である。

公開した行政文書の中に「申告書等提出票」処理マニュアルがあった。その中に、「総合窓口で申告書・届出書等を提出しようとする納税者等に申告書等提出票の作成を依頼する」とある。税理士等の場合も同様であり、書式は任意書式でも構わない旨の指示がされている。明らかにおかしい。自分たちが管理するための提出票とやらをなぜ納税者に書かせるのか。提出票という名前にごまかされてはならない。内部資料を「協力」の名の下作成を強要させられていることにほかならない。

この背景には「電子申告の推進」がある。電子申告をする場合あるいは郵送で提出する場合には「提出票」なるものは作成しない。窓口へ提出することが煩わしい課税当局が窓口での提出は「手間」だと納税者側に認識させ、電子申告を勧めるといった単純な狙いが見て取れる。ますます電子申告を行う意欲が失せるといわざるを得ない。

公開された資料の中に想定問答があったものを添付したので参照されたい。ここには「重要な書類なので記載にご協力をお願いします」ということしか書いてない。争点ずらし話法(安倍話法ともいえるが)に他ならず、質問には答えず、自身の主張を繰り返し述べているだけである。現在ではこのようはスタイルが行政のトレンドなのであろうか。

(3) 顛末
「はじめに」で書いたように、異動後や確定申告の開始当初は同じ問答が繰り返される。当事務所では「収受できない」あるいは2回以上お願いされた場合 (3)は、提出せずに戻ってきなさいと指導しているが、今後は「収受できない旨」を一筆書いてもらうように変更する予定である。遠方の税務署へは出向けないが、近隣の税務署には必ず窓口提出をするように、今後一層徹底するつもりである。
III. 税務行政の納税者に対する基本的スタンス
税務運営方針が現在も健在であることは広く知られている。第一章総論に「納税者に対して親切な態度で接し、不便を掛けないように努めるとともに、納税者の苦情あるいは不満は積極的に解決するように努めなければならない。また、納税者の主張に耳を傾け、いやしくも一方的であるという批判を受けることがないよう、最新の注意を払わなければならない」とある。これが税務行政の基本的なスタンスである。

税務当局に限らず、一般企業でも同様であるが、とかく数値があるものが注目され、手続については軽んじられる傾向がある。本件の総合窓口での取扱いでいえば法律上の規定はなく、税務当局内部の都合をお願いと称して納税者側の手続きとして不要な書類作成を強要している。「収受できない」ということが実際に言われているとすれば、違法行為である (4)。法の手続きと内部取り扱いを混同しているのであろう。仮に税務署の総合窓口に「受付票を書いてもらわなければ収受できない」などと発言をする税務職員がいたとすれば、適正に税務申告書を提出しようとする納税者に対して手続き違反であるし、適正な期限内申告を妨げる可能性すらあることを考えれば、国税当局内部の規定にも触れることになるであろう。

税務署内部でも困った話として、「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)のうち、報告と連絡は業務に必要であり義務化されているものもあるからいいのだが、相談がない、という嘆き節を聞いたことがある。窓口での取扱いについて一向に改善されないのは、何かあれば報告・連絡はするが、特に立場の近い人間に相談ができない環境が税務署内部にあるのではないかと不安になる。税務運営指針にある納税者に対する基本的スタンスを逸脱することがないよう、注視していくことは重要である。
IV. おわりに
新人会の会員の皆様は窓口で税務職員のいいなりとなり、特に法的根拠も考えず「受付票」を書いている方はいないと思われるが、行政手続きにおける法的根拠等を考える、あるいは実践する場面において「面倒だから」という思考はタブーである。筆者は税務署の手抜きに付き合う必要はなく、むしろ税務署にしっかり精査させ手間をかけるようにするべきであると指導されてきた。電子申告も結構であるが、税理士が税務署に赴くことが億劫でいいのであろうか。文書提出というのは、申告をする際に課税当局の最初の接点となる。せっかく税務署とニュートラルな状態で接触できるのだから、負担のない範囲での窓口提出をお勧めする。

(さえき・かずまさ)
(1) 浦野広明『納税者の権利と法』(新日本出版,1998年9月)43ページ.
(2) 情報公開請求で分かったことであるが、控えは渡してはいけないとの指示があるので、控えを渡した場合には指示違反となる
(3) 特に行政からのお願いは1回まで。同じことについて2回以上のお願いはお願いではなく命令となる。これは行政指導の場合にも当てはまる。
(4) 渡辺洋三東京大学名誉教授は、代表的な著書『法とは何か』で「法とは何か、という問いに対して、それは手続きである、ということがしばしばいわれる。それくらい法にとって手続は重要な要素である。」と指摘されている。(岩波新書,1998年2月)49頁.
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