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時潮

時潮
2018年税制改正の問題点
副理事長 米澤 達治
2018年の税制改正では、所得税における合計所得金額2400万円超の個人について基礎控除を逓減して2500万円超の個人については基礎控除を0円とするなど税法の基本的な考え方を覆すような改正が行われている。このような税法の基本的考え方(バックボーン)をなし崩し的に「改正」して、税法自体を変質させるようなことは看過できない問題である。

それと同時に、2018年税制改正で大きな問題として私が考えているのは、特定法人(資本金が1 億円以上の法人、相互会社、投資法人、特定目的会社)に対する電子申告(e-Tax) の義務化と個人の青色申告特別控除の差別化である。

まず、特定法人のe-Taxの義務化である。e-Taxは、2004年に運用が開始して、その後利用率は徐々に上がり2015年には法人税申告で75.4%、所得税申告で52.1%となっている。しかし、大規模法人については同年で52.1%にとどまっている。これは、大企業が自社で独自のシステムを有していてそれがe-Taxにマッチングしないことが主な理由であると言われている。その大企業に対しe-Taxを強制することは、その企業に対し新たな負担を押し付けることになり疑問を感じざるを得ない。

さらに、「税務手続の電子化に向けた具体的取り組み」(税制調査会資料)では「将来的に、ICT環境等を勘案しつつ、中小法人にも電子申告を義務化し、電子申告利用率100%を目指す。」と明記されている。そもそも納税申告は「各税法の定めるところによりすでに租税要件論的に客観的に定まっている課税標準および税額を納税者が具体的に確認しその結果を課税庁に通知する、私人の公法行為」(北野博久著 税法学原論)である。そして、納税申告により納税者の第一義的な納税義務が確定するのだ。

この納税申告をどのような形で行うかは個々の納税者の裁量の範囲であり、課税庁が納税申告の形を義務化することは許されない。(憲法13条)さらに、法人税法等では、e-Taxによる申告が困難であり税務署長の承認を受けた場合を除き、たとえ期限内であっても紙ベースの申告は無申告とみなして無申告加算税を課されるのである。もし、e-Taxの利用率を高めたいのであれば、法律でそれを義務化するのではなく、広報活動を通じてe-Taxの利便性等を宣伝して納税者が自主的にe-Taxを利用するようにしていくのが筋なのではないだろうか。

次に、個人の青色申告特別控除の差別化の問題である。改正前は、不動産所得の金額又は事業所得の金額に係る一切の取引の内容を正規の簿記の原則に従い、整然と、かつ、明瞭に記載している場合、65万円と不動産所得の金額と事業所得の金額の合計額のいずれか低い金額を青色申告特別控除としてこれらの金額から控除することができた。ところが、改正後は、同様の要件で55万円控除となり、控除額が10万円下がった。

その上で、e-Taxによる電子申告を行っている場合には改正前と同様65万円の控除を受けられるのだ。これは、申告のやり方により納税者を不利益に扱うという意味で重大な問題である。確かに、所得税法では白色申告と青色申告があり青色申告の方が納税者にとっては有利となっている。しかし、これは記帳して帳簿書類を作成することにより、より適正な申告納税が可能になるというところに着目して記帳の努力に対する恩恵的な意味での優遇措置であって、青色申告特別控除前の所得金額が一緒なのに、単に紙ベースの申告とe-Taxによる電子申告という申告方法の違いで10万円の差をつけることとは全く次元の異なる問題である。(憲法14条1項)

さらに、世の中には様々な人がいて、パソコンが得意の人もいるし不得手の人もいてe-Taxによる電子申告ができない人もいるのだ。実際、「国税電子申告・納税システム(e-Tax)の利用に関するアンケートの実施結果について(2017年8月)」によると、e-Taxを利用していない理由として ICカードリーダーの取得に費用や手間がかかるから34.1%、電子証明書の取得(更新)に費用や手間がかかるから32.2% セキュリティに不安がありインターネットを利用したオンライン申請に抵抗があるから 7.4% 添付書類の一部について、別途、提出する必要があるから 4.6% 税務署で申告の内容を確認したいから 4.6% などとなっている。

先にも述べたように所得税の申告では、約2人に1人が電子申告をしていない。e-Taxによる電子申告は、費用や手間がかかり、また、セキュリティに不安があるなどの問題があり納税者がもろ手を挙げて行う段階まで達していないし、同時に、納税者は紙ベースの申告にそれ程不便を感じていないのである。それをe-Taxによる電子申告とそれ以外の申告で10万円の差をつけることを法律に定めることは全く姑息としか言いようがない。また、公平、中立、簡素という税の三原則にももとるものである。

この改正は、法人は2020年4月1日以後に終了する事業年度から、個人は2020年分の所得税から適用される。まだ、時間はある。2019年の税制改正に向けて、憲法違反と考えられる、特定法人に対するe-Taxの義務化、所得税における青色申告特別控除の差別化が撤回されるよう呼び掛けていきたい。

(よねざわ・たつじ:東京会)

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