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時潮

時潮
新聞の現状と軽減税率
「民主主義維持」のコストは販売店持ち
理事長 土屋 信行
日本新聞協会HPによれば、2017年の一般紙購読部数は3,876万部。2000年は4,740万部でしたから17年間で864万部減っています。特に2013年からの4年間では436 万部の減(年平均109万部の減)と加速しています。

世帯当たりの購読部数を見ると2000年は1.00部と単純計算で1世帯で1部とっていましたが、2017年は0.69部と少なくとも3 世帯に1 世帯は新聞をとっていない状況です。発行部数の中には、事業所や飲食店などでとっているものも含まれ、「残紙」( 販売店がかかえる配達されない新聞) も含まれると思われます。また2部以上とっている世帯もありますから、新聞をとっていない世帯は半数以上になるのかもしれません。

NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」によれば、10歳以上で平日に新聞(電子版も含む)を読む人の割合は、52%(1995年→44%(2005年)→33%(2015年)と10年ごとに約10%ずつ減って、現在は3人に1人です。ちなみに、土曜に読む人の割合は35%、日曜は33%(いずれも2015 年)と平日と変わりありません。

年代別に1995年と2015年を比較すると、男性で10代14%→4%、20代32%→8%、30代55%→ 10%、40代67%→20%、50代74%→38%、60代77%→53%、70歳以上73%→66%と若い層での激減が目立ちます。女性もほぼ同じ傾向です。

日本新聞協会が2012年に行った全国調査では、「増税時には購読を中止する可能性がある人は約3割」にのぼるとのことです。

そんな中で2019 年10 月から消費税の軽減税率が導入されようとしています。
週2回以上発行される新聞の定期購読には軽減税率(8%) が適用されます。駅の売店やコンビニで販売される新聞には軽減税率は適用されませんが、新聞販売部数の95%は戸別配達(= 定期購読) ですから、新聞販売店の新聞販売のほとんどは軽減税率でしょう。

しかし、各新聞社による新聞販売店への新聞販売は、定期購読用であっても軽減税率が適用されません。したがって、新聞販売店は標準税率(10%) で仕入れて8%で販売することになります。

消費税一般課税の新聞販売店は、読者から集金する購読料金は軽減税率で現在と変わらないものの、新聞社に払う新聞代は10%に増えるため、資金繰りが厳しくなります。申告により清算されますから最終的な収支は変わりませんが、規模が大きくなればなるほど資金繰りの悪化はひびくでしょう。

消費税簡易課税の新聞販売店は、軽減税率ですから新聞販売に関しては申告する消費税額は変わりません。しかし、読者から集金する購読料金は軽減税率で現在と変わらないものの、新聞社に払う新聞代は10%に増えるため、増えた2%分は新聞販売店の負担になります。

消費税免税事業者の新聞販売店も、読者から集金する購読料金は軽減税率で現在と変わらないものの、新聞社に払う新聞代は10%に増えるため、増えた2%分は新聞販売店の負担になります。

日本新聞協会会長の諮問を受けた「新聞の公共性に関する研究会」は「新聞への消費税軽減税率適用に関する意見書」を平成25年9月5日に発表しています。

その中では、「今日の社会における新聞の役割」として「国の内外で日々発生しているニュースや情報を正確かつ迅速に人々に伝達するとともに、多種多様な意見ないし評論の提供を行っていること」をあげつつも「情報の電子化が進行」したことにより「新聞の特性ないし長所は、維持していけるか否か懸念させられる」としています。

一方で、新聞は「民主主義の維持、人の人格形成、真理への到達、さらに社会における変化と均衡の維持」といった「機能」を「発揮する中心的存在」であり「民主主義の維持にとって不可欠」であるとしています。

消費税の増税により、購読部数が減少すれば「日本の誇るべき文化や民主政治を後退させるのではないかとの懸念を生み出し」「零細な新聞販売店」にも影響があるので、「消費税の増税は不可避」であるが「新聞には軽減税率を適用すべき」としています。

日本新聞協会は全国紙をはじめとして130社が加盟(2018年4月1日現在) して いる一般社団法人です。
そこが「消費税の増税は不可避」という点はあっさり認めていますが、これは「真理への到達」の結果なのでしょうか?「新聞には軽減税率を適用すべき」と主張していますが、その負担は新聞販売店がかぶることについてはどうなのでしょうか?

これで「民主主義の維持」「真理への到達」という機能を果たし、「零細な新聞販売店」への影響に配慮していると言われても納得できないのは私だけでしょうか?
新聞には、本来の役割と機能を果たすという王道でぜひ生き残ってほしいと思います。

(つちや・のぶゆき:関信会)

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