上記のようなインターネット取引は、企業間取引だけではなく企業と消費者間の取引においても急速に普及し、市場は拡大の一途を辿っている。現在のようなインターネットの社会への浸透は一時的な現象ではなく、核家族化が進むこれからの社会にとってますますその利便性は高まり、拡大していくことは間違いない。経済社会へのインターネット取引の急速な拡大は、同時に、取引に必然的に伴う「決済」の領域に大きな変化をもたらしている。
従来の決済は、サービス利用者が銀行の窓口やATMへ行き、現金化することが必要であったが、インターネットの普及により、利用者の持つコンピューターやスマホを使って簡単に決済ができるようになった。インターネットを利用した決済システムの登場により、決済ビジネスのコストは著しく低下し、コスト削減や利便性を追求する企業に急速にその利用も広まっている。また利用する企業も決済まで決定できるため、今まで金融機関に頼りがちだった資金繰りも自ら計画することができ、その重要性はますます増してきている。
IT技術の発展に伴う売買取引と決済の結びつきや、インターネットを利用した金融取引の拡大によって、典型的な従来型の決済方法である紙ベースの小切手決済は、規模的に減少する傾向にあり、それに替わって、電子手形などの電子的な手段が用いられてきている。
金融機関が大幅なリストラを断行しているのももちろんマイナス金利の影響もあるが、金融市場自体が銀行決済から離れ, ネットを経由した新たなマーケットが広がっているため銀行決済が急激に萎んでしまった結果でもある。
その他にいろいろと話題となっている仮想通貨もICTのさらなる発展によって、社会や決済手段に大きな影響を与えそうだ。本来、仮想通貨は「通貨」であり、改正資金決済法によって決済手段として法律でも認められている。普段から利用しているお金と同じように、様々な手段で活用することを目的として作られたもので、一部商店ではすでに使われ始めている。これが本格的な決済手段として利用されてくると、国が発行する通貨以外の新たな決済手段が登場する時代が到来することになる。
(2)ICT化の中の税務調査
現金決済や金融機関を経由した決済が縮小している決済社会の中で税務調査はどのように変化するのかを考察すれば、従来の現金出納帳や当座出納帳を中心とした帳簿や通帳の検査だけでは、取引の全容がつかめない状況になってきている。言葉を換えればインターネットを介在したネットデータの中に踏み込まない限り、調査の核心部分にたどり着けない時代になってきている。 これからの税務調査は、時間的なずれはあるにせよいずれ従来のような紙ベースの調査対象物件から、必然的にデータ調査へ移行する時代になる。そのための準備を財務省もしている。 |
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5. 煽動罪とICT調査
(1)煽動罪とは
今年の4月1日から施行された煽動罪との関係ではどうなるのであろうか。この法律は、納税者に申告をしないこと、虚偽の申告をすること、税金を納付しないことを煽動した者に罰則を設けた規定となっている。一般の業務の中で修正申告をすべき事案について、その必要がないのではとの意見が事実関係をよく理解しないままでのアドバイスなのか、本人の本来申告しようとしていた気持ちを煽動し、無申告に導いたのかは判然としない。煽動罪は納税者が虚偽の申告をした場合に、その決断するきっかけの一つとして第三者の「煽り立て」があったかどうか、という心のうちの動機を捉えることになるが、煽動されたかどうかという心の内面に踏み込んだ判断は、結局調査当局に任せられることになってくる。この内面の動機の変化は第三者には分からないので外形的な事実関係で立証するしかない。あるいは煽動された当事者の証言をもとに立証することになる。
(2)新たな冤罪へ
煽動という内面の心象を外部の行為や状況から決める決定的な証拠となるものは、納税者と「煽動者」との通話履歴やメール履歴の具体的な文言ということになる。その中に踏み込まなければ煽動罪について裁判所などの第三者が納得しうる状況証拠は集まらない。CIT調査が通常の税務調査にも適用されるようなことになれば、煽動罪での立件は増えてくるのではないかと予測される。
税理士として申告をしないことを法令解釈して、納税者にアドバイスを行った場合に、それが間違っていた場合は申告をしない煽動をしたということで、この規定が働く可能性もある。煽動したかどうかの判断は調査当局の捉え方によることになるが、調査を主導的にリードしたい当局が暴走すれば、これはまた新たな冤罪に繋がってくることになる。 |
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参考文献
お金2.0(佐藤航陽)
決済システムの電子化と決済法理の変容 −(杉浦 宣彦)
税務調査から犯則調査への資料の流用について(漆 さき)
国税犯則取締法の犯則事件の範囲について(千地雅巳)
国税犯則調査の見直しについて 政府税制調査会議事録国民税制研究(石村耕治)
犯則調査手続の改正(平成29年3月)について(佐藤英明)
インターネットの日本経済への貢献に関する調査研究[2014版]野村総合研究所
財務省 政府税調説明資料(経済活動のICT化・働き方の多様化)平成29年9月
財務省におけるデジタル・ガバメントの取り組み 平成29年11月
内閣府 ICTの普及が経済の発展と格差に及ぼすグローバルな影響の分析 平成23年
通産省 キャッシュレスの現状と推進 平成29年8月 |