5月29日、最高裁判所第三小法廷(林景一裁判長)が、倉敷民商の小原さん・須磨さんの税理士法違反の裁判で、二人の無罪の訴えを退け上告棄却しました。(最近の税経新報での事件紹介は、2018年2月号湖東京至会員寄稿参照)
一方、2日後の31日、大阪地検特捜部は「森友学園」への国有地売却に関する決 裁文書改ざんで、当時の理財局長、佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官など 38人を不起訴として捜査を終了すると発表しました。このなんと対照的なこと。零細事業者の側に立ってきた者にたいして、検察は不必要な184日(禰屋さんは428日) もの勾留を請求し、裁判所は追認してきました。また、最高裁も真実と向き合うこ となく、検察に追随した判断を下しました。
日本の司法も、ひどさにおいて底が抜 けてしまった感があります。検察は、権力を守る組織です。記憶にまだ新しいのは自民党の小渕優子元経産相(政治資金の不正流用・証拠隠滅)、甘利明元経済再生相(金銭授受・贈収賄嫌疑)など政権中枢の政治家にたいしては、それぞれドリルで証 拠隠滅されても、音声の証拠をだされても、起訴しない。「正義の特捜部」などとい う言葉は、一連の対応ですでに死語です。「森友」「加計」問題、さらに今後の権力 者の疑惑について、検察が解明の存在感を示すことは無いでしょう。
しかし逆の存在感は強まります。6月1日から日本版司法取引が始まります。他人の犯罪を供述することで、自らの罪の起訴猶予や軽い刑などの見返りを求めるこ とができる制度です。元裁判官や弁護士は、自分の刑の軽減のためうその自白をする、その結果冤罪を生む恐れがあると警告しています。倉敷民商事件は、まさにその通りです。主犯も脅迫され供述しています。今後、共謀罪、国税通則法の扇動罪、さらに日本版司法取引で、第二・第三の倉敷民商事件が起こる危険が増しています。
佐川前国税庁長官が起訴されれば、佐川氏が本当に自らの意思のみでしたことなのか、まだ解明のチャンスが残ります。政治・行政組織の犯罪は、実行者に罰を求め ることのみが目的でなく、真の指示した者、事件の真相、事件発生の背景を解明す ることが目的です。一人の官僚が文書改ざんに悩み自死したにもかかわらず、検察 は証拠不十分として事件の解明を放棄しました。殺人事件に匹敵する事件でもです。 政権と検察は協議したか、あるいは検察が忖度して事件の幕引きをはかろうとしています。
与党議員からは、「他に重要法案はある、いつまで「森友」「加計」問題を国会でやっているのか」といった発言がなされています。しかし原因は首相自身です。首相は、4月17日、訪米前に、相次ぐ官庁の不祥事に「行政のトップである私が責 任を持って全容を解明し、うみを出し切る決意だ」と言いましたがまるで他人事です。 愛媛県の文書で安倍首相と加計理事長が、首相の証言よりはるか以前に会って「いいね」と了解していたということが明らかになりました。首相その事実を認めていません。その後も関係者には、「国民にはとうてい納得いかない証言」を強いています。
その節操・誠実のなさ、回りの人間を自分の都合いいように巻き込み、場合によっ ては使い捨てにする自己中心さ、およそ国政の最高責任者として失格の人間が居座る。 これをまったく問題なしと仰いで、もう事件は終わった、「重要法案」「憲法改正」の 議論を進めるべきという与党(自公)と一部野党(維新)などの議員は、立憲主義も 理解せず、首相は王様のようにふるまってもいいのだと言っているようなものです。
現在、秘密保護法などで政府の情報が国民に目隠しにされているのです。さらに、文書の内容そのものについて、総理大臣やそのとりまきなどが指示・圧力を加え、 行政文書を隠ぺい・改ざんする。発覚しても、起訴はされないからと官僚に罪をか ぶせる。権力の都合のいいようにやり、チェックも働かない。政権に居座る。
NHK「チコちゃんに叱られる !」というクイズ番組があります。司会は、おかっぱ 頭の5歳の女の子。顔の表情は CG、身体は着ぐるみです。質問は、生きていくうえで困らない雑学に関するものなのですが、答えられないと、チコちゃんの決め台詞 (ぜりふ)がとびます。「ボーっと生きてんじゃねぇよ!」私の心に突き刺ささります。そして私も誰彼に叫びたくなるのです。 |