リンクバナー
時潮

時潮
平成30年度税制改正大綱〜理念なき改正で、超格差社会に対応できるのか?〜

相良博史 副理事長
与党の平成30年度税制改正大綱(以下、大綱という)が発表された。
大綱は「基本的考え方」から始まっている。その中で、「少子高齢化の克服に向けて、『生産性革命』と『人づくり革命』を断行する」と述べている。「革命」という何とも仰々しい表現が目を引くが、人は得てして、物事がうまくいっていないときほど大げさな表現を好むものである。少子高齢化克服の自信の無さの裏返しのように思われる。

今回の大綱で一番注目すべきは、個人所得課税の見直し、特に給与所得控除の減額(大綱では基礎控除への振替と表現)である。年収850万円以下の給与所得控除額を10万円減らし、850万円を超える人の給与所得控除額を195万円で頭打ちにするとともに基礎控除を同額引き上げるというものである。給与所得控除について、「様々な形で働く人をあまねく応援し、「働き方改革」を後押しする観点から・・・見直しを図りつつ、一部を基礎控除に振り替える」というこじつけで減額が行われた。給与所得控除については、昨年の税経新報11月号(660号)の時潮において、佐飛副理事長が意見を述べられている。

佐飛副理事長は、宮沢会長の、請負で働いている人と給与所得者の間で給与所得控除の適用の有無による格差があるという主張に対する誤りを指摘し、勤労性の大きい事業所得者に対する勤労所得控除を認めるべきと主張されているが、私もこの考え方に賛成である。大綱では「様々な形で働く人をあまねく応援する」と甘言を弄しているが、働き方ではなく、その内容に着目し、勤労性が大きいのであれば、既存の制度(給与所得控除)を準用すべきであろう。仮に独自の制度を設計するとしても、現に医業における措置法第26条があることを考えると可能であると思われる。

また、同一性を主張するのであれば、申告方法について、給与所得者についても、所得税を源泉徴収し年末調整で完結するという現在の方法を改め、確定申告を原則とすべきである。それにより、個人の税への意識が高まることを期待する。

もはや、給与所得控除に問題を矮小化している場合ではないであろう。国税庁による平成28年分民間給与実態統計調査結果によると、1年を通じて勤務した給与所得者の年間の平均給与は422万円である。男女別では男性521万円、女性280万円。正規、非正規では、正規487万円、非正規172万円。また、東洋経済ONLINE(2017年6月29日付)には「年収1億円超」の上場企業役員のリストが掲載されている。それによると、2015年5月〜 2016年4月に本決算を迎え、有価証券報告書で開示された上場企業のデータにおける基本報酬+賞与+業績による報酬合計の最高額は45億9,100万円である。秋のシンポジウム西ブロックの講師伊藤周平氏が、数字が大きくなると実態が見えなくなり思考停止になってしまうという話をされていた。確かに45億円という数字を聞いてもすぐには理解できない。

4,591,000,000円
4,220,000円

平均給与と並べて二段で表示すると違いを理解していただけたであろうか。両者の差は1087倍である。役員報酬が職務執行に対する対価、給与が労働に対する対価という違いはあるものの、役員報酬の超高額部分については、もはや職務執行に対する対価というだけでは説明ができないように思われる。超高額部分に対しては、既存の考え方でなく、別の考え方で課税を行う必要があるのではないか。例えば、超高額部分について、分離課税で独自の税率で課税を行うのも一つの方法と考える。このようなところにこそ「新しい判断」が必要であろう。

今後、人工知能の進展等デジタル革命(これこそ革命である)により、著しい格差社会の到来が予想される。上記の「1087倍」が一層大きくなる可能性が高い。そのような超格差社会においては、今以上に所得の再分配が求められ、それに対応する税制の構築が必要である。

(さがら・ひろし:神戸会)

▲上に戻る