自民党税制調査会の宮沢洋一会長は、朝日新聞のインタビューに答え、「一番時間をとって議論するのは所得税の改革」であるとし、所得税の「控除」見直しによる増税の方向を表明した。その内容は次の三点である。
人的控除に変えて、所得にかかわらず負担軽減が同じとなる「税額控除方式」の導入
多様化する働き方に合わせ、給与所得者に手厚い「給与所得控除」の縮小
高額な年金をもらっていたり、働いていたりする高齢者の控除の縮小
所得税法では、課税所得を計算するにあたり基礎控除・扶養控除などの人的控除を差し引く。生活費に課税しないためである。人間は生きていくために、衣・食・住を賄わねばならない。生活資料を購入し、消費する。お金は支出され、手元には残らない。生活費には担税力はない。生活費に課税することは憲法25条に反する。
人的控除は生存権を保障する制度である。基礎控除は38万円(一日1,041円)である。95年以来、同額のままである。大阪府の最低賃金は、この10月から一時間909円。一日8時間、月20日働くと145,440円。年間で1,745,280円となる。最低賃金が憲法25条の生存権を根拠とするものと考えれば、生活費控除たる基礎控除の38万円は、余りにも低すぎるといえる。基礎控除を最低賃金に連動させ、引き上げることが必要と考える。人的控除は、税額控除よりも所得控除方式の方が適切で分かりよい。
給与所得控除の縮小理由を二つあげている。 国際的にはかなり高い水準。 同じ仕事をしても個人請負の場合は給与所得控除が受けられなく、会社員とは「格差」がある。従来より、政府税制調査会は給与所得控除について 概算経費控除、 勤労控除、 把握控除、 利子控除の要素をあげている。その根拠は、戦後の「シャープ勧告」にあると考える。現在の給与所得控除について、「勧告」は労働者である給与所得者に対する勤労所得控除としている。その理由として四点あげている。
勤労控除は、個人の勤労年数の消耗に対する一種の減価償却費をあらわす。
勤労控除は、勤労による努力及び余暇の犠牲に対する報酬である。
勤労控除は、普通にかかる生活費以上にかかる経費に対する概算的な控除。
給与・賃金はその他の所得に比べて相対的により正確な税法の適用を受けるので、勤労控除はそれを相殺する作用をもっている。
以上四つの理由のうち、 については「税法を立案する際の基礎として考えることは妥当ではない」と注意をうながしている。
元々、給与所得控除は労働者に対する勤労所得控除として出発したものであり、「勧告」においてその根拠づけが明確にされた。資産や資本を所有することにより得る所得と、自らの労働力を売る以外に収入を得る手段のない労働者の勤労による所得とでは、質的に異なる。この勤労所得に対し軽課税とする制度が、「給与所得控除」制度である。「勤労所得控除」との名称の方が、その意味内容を正しく反映していると考える。宮沢会長は、請負で働いている人は同じ仕事をしても「給与所得控除」が受けられず、給与所得者との間に「格差」があるとして、控除の縮小を主張する。align="absmiddle"> 給与・賃金はその他の所得に比べて相対的により正確な税法の適用を受けるので、勤労控除はそれを相殺する作用をもっている。
しかし、これは誤った議論である。請負で働く人は事業所得者となる。収入から必要経費を差し引いて所得を計算する。資産や資本を持つこともなく、自らの労働によって収入を得ている事業所得者もある。むしろ、勤労性の大きい事業所得者に対しては勤労所得控除を認めるべきである。その事が正しい議論と考える。
公的年金等は、今は雑所得であるが、従前は給与所得とされていた。現役時代の給与の後払いとして退職後受け取るものとして、給与所得控除も適用されていた。
年金生活者の多くが働いているのは、「年金」だけでは食べていけないからである。公的年金等控除と給与所得控除とがあり、高齢者の控除は縮小との議論は本末転倒である。安心して暮らしていける「年金制度」にすることが必要なのである。
「控除」の縮小による所得税の庶民増税が狙われている。直接税中心の総合累進課税、最低生活費非課税、勤労所得軽課税の税制に転換することが、今求められる所得税改革と考える。 |