リンクバナー
時潮

> 個人番号制(マイナンバー制度)の現状と問題点
特集 個人番号制度と住民税通知書記載
個人番号制度反対の取り組みと今後の課題
番号制度特別委員会 委員長 奥津 年弘
1.この1年間の取り組み

税経新人会の番号制度特別委員会は、各地域新人会に担当者がいるという委員会ではありませんが、東京会が中心になり情報発信しています。その一年の取り組みを概括的に報告したいと思います。

昨年9月以降、横浜全国研で訴え番号制の反対署名に取り組み、昨年末・今年3月末締め切りで、合計5500筆の署名をマイナンバー反対連絡会通じて国会に提出しました。

また、東京税理士会理事会傍聴で、特別徴収の住民税課税通知書に番号が記載されるという情報を得ると(東京会佐伯和雅会員による)、全国の会員が対応する自治体に問い合わせを開始しました(以下、番号記載問題)。

番号記載問題については、各地に会員が課税通知前に自治体へのアンケートやその集計を行いました。課税通知書が送付後は、番号記載を行った自治体に抗議し所属支部に意見書を送るなどの取り組みがされました。記載ミス・誤配の新聞記事などの情報が全国から寄せられ、また各地の新聞や雑誌に新人会の会員のコメントも掲載されています。

4月6日には、梅村さえこ衆議院議員(日本共産党)紹介で、マイナンバー反対連絡会による総務省・内閣府・厚生労働省の3省に意見を聞く会合を持ち、特に総務省に対し、番号記載をやめるように、区市町村に記載の圧力をかけないように要求しました(総務省交渉はこれ以外にも行った)。この会合には、大阪、千葉など全国から会員が参加して発言・質問しました。このやり取りの中でも、総務省担当者は、番号記載を行うことを地方自治体にも求めていくかたくなな姿勢を崩そうとしませんでした。

4月12日には、衆議院第一議員会館大会議室にて反対の院内集会が開らかれ、戸谷理事長も税経新人会を代表して取り組みを報告しました。

また多くの会員が各地の「マイナンバー違憲訴訟」の傍聴・集会に参加し、証人としても裁判に関わるなどしています。

情報発信として、各会員より情報をいただき、昨年9月以降全国理事・東京会のメーリングリストに「番号×通信」として発信しましたが、5回程度にとどまりました。情報の中には、「税理士事務所、会計士事務所が加入している健保組合から、保険証の書替に被保険者、同扶養親族等の個人番号を提出しないと新証書は交付できないという意味を含んだ通知がきたが、国会議員を通じてその可否を調べてもらい個人番号を提出する義務はないし、保険証の更新はするとの回答を得た」(東京会関本秀治会員提供)もありました。大阪の疋田会員には、チャットワークで 番号問題の情報交換の場を作っていただきました。

番号制反対の一定の役割と成果は得られたと思いますが、今後の課題については、後段で触れたいと思います。
2.番号制の現状と方向性

この一年の情報について簡潔にふれておきます。

(1)番号記載問題

総務省は、2017年3月6日の事務連絡「特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)への個人番号記載に関するQ&Aの送付について」を発し、さらに5月18日において、「地方税法(昭和25年法律第226号)及び地方税法施行規則の規定では、マナンバーを不記載や一部不記載(アスタリスク表示を含む。)とすることは認めてないことから、念のため申し添えます。」とさらに強い内容で完全記載を迫っています。

完全な12桁の番号記載をした自治体は、東京都62の市区町村中、7件(6月30日現在の確認)にとどまっています。全国レベルでは、未集計ですが、全国商工新聞(7月17日)によると、確認できたものでも247の自治体が完全な記載はしておらず、また群馬・埼玉・東京・大阪・奈良・山口の6都道府県では、過半数の自治体が完全記載していません。

課税通知後において、全国97自治体で600人分の誤配送付が発生しています(7月12日しんぶん赤旗が7月6日までに自治体発表や新聞報道を集計したもの)。あくまで表面化したもので実際はもっと多いと思われます。

日本弁護士連合会は、4月13日の時点で政府に対し個人番号欄を除去することを求める意見書をだしています。一方、日本税理士会連合会は、問題が明らかになった後、6月22日付「平成30年度税制改正建議」を会員向け7月15日付「税理士界」に掲載していますが、遅きに失しています。来年に向けて本気度が試されます。

(2)番号カード(マイナンバーカード)の交付状況

2016年5月24日付マイナンバー制度利活用推進ロードマップロードマップでは、政府は最終的に、国民に対し、カードを日常的に携帯させ、あらゆる取引で利用させることを目論んでいます。交付目標を、2017年3月末3000万枚、交付開始(2016年1月)から約3年3か月後の2019年3月末で8700万枚を目標としています(現在のロードマップ案には記載されていない)。

その交付状況について、総務省は、今年3月8日現在の交付枚数1,072万枚(人口に対する交付枚数率8.4%)、5月15日現在での交付枚数1,174万枚(同9.0%)と発表しました。目標に向かって定率増加したと仮定した場合、2017年5月末の交付見込は、3,700万枚ほどに達することになるので、目標の3分の1を下回っています。しかしこの2か月余で75万6千枚交付となっており、徐々に増加率は上がってきています。このロードマップの交付目標は、2019年3月末で8700万枚までしか記載はありませんでしたが、これを東京オリンピックが行われる2020年7月まで引き延ばすと1億2300枚となり国民の97%取得を目標としているとも推測されます。

今後、以下にもふれる通り、持たなければ不利益を受ける、支障をきたすという社会の仕組み作りが行われると予想されます。

(3)情報連携試行運用開始

総務省は、官公庁や健康保険組合が個人情報をやり取りする情報連携システムについて、「7月18日から試行運用を開始し、秋頃からは本格運用の開始を予定しています。」と発表しました。これは当初今年1月から試行、7月から本格運用とされていましたが、不具合、セキュリティー対策などで遅れた結果でした。本格運用がおこなわれれば、事務手続において、これまで提出する必要があった書類(住民票の写し、課税証明書など)が省略できるようになるとしています。

しかし実際は、全国145機関超で今年秋の本格運用開始が遅れ、本格的な連携に目途がたっていない基本的なシステムもあります。

これについては、7月26日会計検査院の随時報告「国の行政機関等における社会保障・税番号制度の導入に係る情報システムの整備等の状況について」において、当初仕様書の不備などが指摘されています(会計監査院HP参照)。導入ありきで急いだ結果なのか、システム自体が複雑のためなのか、いずれにしろ多大な費用を投入しつつ、さらに改修費がかかるといわれています。

(4)マイナポータル利用へ誘導

情報連携が本格稼働すると同時に、マイナポータル利用への誘導が拡大します。情報連携の本格運用が決まっていないにもかかわらず、総務省のHPでは、「認可保育所の入所申請はオンラインで!マイナポータルが秋頃から本格スタート!」とうたっています。

このマイナポータルは、ゆくゆく健康保険組合の保険利用情報も入る予定で、その情報をもとに医療費控除が申告できるとしています。2017年税制「改正」において、当年度確定申告より、領収書提出に代え、1件1件内容を記載した「明細書」の提出となりました(経過措置として、2017年・2018年領収書提出可能)。これは納税者にとって負担が増えることです。実質的に経過措置のなくなる2019年からは、マイナポータル利用が強調され、同時に番号カード取得誘導となります。逆にパソコンが使えない、インターネット環境がない人は、負担が増えていくことが予想されます。

(5)「税務行政の将来像」

国税庁は、2017年6月23日、今後10年ぐらいをイメージした税務行政の在り方を提示しました。検討の背景のなかで「税の執行上の課題を中心に税務行政の透明性の観点から、中長期的に目指すべき将来像について国税当局として考えていることを明らかにし、着実に取り組んでいくことが重要と考えています。そこで、以下のように「税務行政の将来像」として取りまとめました。」と述べています(国税庁HP参照)。

この中で番号制と情報がどのように税務行政内で利用されていくのか詳細は分かりませんが、問題意識となった点について引用してふれてみます(「」は引用、下線は筆者)。

「システムの自動チェック機能により把握された申告内容の疑問点については、マイナポータルのお知らせ機能やe-Tax のメッセージボックスを通じて、個々の納税者に自動的に照会する(申告内容についてのお尋ね)ことで、疑問点の解明を迅速かつ効率的にすることが望ましいと考えています。」

この部分が、単なる計算間違いの指摘でなく、現在書面で行われている「おたずね」と思われ、すなわち税務調査を意味することと推察されます。

「 調査の必要性が高い大口・悪質な不正計算が想定される事案を的確に選定する観点から、過去の接触事績や資料情報のシステム的なチェックに加え、統計分析の手法を活用することにより、納税者ごとの調査必要度の判定を精緻化するとともに、最適な接触方法や調査が必要な項目についても、システム上に的確に提示されるようになることが望ましいと考えています。」

現在も決算数値分析などは、KSKシステムで行われていますが、あえて記載される「統計分析の手法」でという意味が、筆者には決算数値の分析以外の要素で、統計学でいう「犯罪者のパターンを推論するプロファイリング」を連想させます。番号制は目的外利用を禁じていますが、犯則事件による個人情報取得は法的根拠があり(いわゆる番号法第19条14項)、これが濫用されるおそれがないのか監視が必要です。

「 ビッグデータ・AIを活用することにより、個々の納税者についての納付能力を判定するほか、過去の接触や滞納処分の状況等を加味しながら、優先着手事案の選定、最適な接触方法(電話催告、文書催告、徴収官が臨場しての滞納整理等)及び滞納整理方針がシステム上に的確に提示されるようになることが望ましいと考えています。 」

ビッグデータの対象は不明ですが、すでに金融機関に番号で検索する状態で管理することを義務付ており(国税通則法第74条の13の2)、今後番号が任意でも取得された口座から検索対象となっていくと思われます。また一般のインターネット上の個人情報や民間事業者の協力で提供された情報が、事実上番号にひも付管理されることも想定されます。

(6)戸籍法改正について諮問

法務省は、番号制度の利用範囲を戸籍に拡大する方針を固め、9月中旬の法制審議会(法相の諮問機関)総会で戸籍法の改正について諮問するということです。結婚の届け出やパスポート申請、老齢年金請求などの際に行政機関に対して戸籍証明書(謄本や抄本など)の提出が不要になり、手続きが簡素化されるとしています。

これは、現在全国に2つあるバックアップシステムをもとに戸籍データベースを構築して、情報連携システムにより、行政機関がアクセスして情報を確認できるようにするというものです。これから連携が始まり数年の実証も行われていないのに、高度な個人情報を連携することに対し慎重さも見られません。

(7)情報利用料100億円で健保組合が猛反発

2017年4月6日、朝日新聞は、厚生労働省が「協会けんぽ」や「健康保険組合」などに、年約100億円の利用料を求めていることを報じました。上部団体の健康保険組合連合会が「高額にすぎる」と反発しています。この利用料は当然保険料に転嫁されます。厚生労働省は、「システムについて220億円をかけて開発を進め、住民票のデータや家族の収入、年金を受け取っているかどうかなどの情報が取り寄せられる。加入者の扶養家族の確認や、傷病手当金と公的年金を二重で受け取っていないかなどもチェックできる。」として「受益」を強調していますが、そもそも番号制は利用料をとるというシステムだったのか寝耳に水です。

これについて、4月18日吉川元衆院議員(社民党)が、総務委員会において情報連携での利用料負担について質問しています。

吉川議員がまず、運営経費などと負担者についてただしたのに対し、厚生労働相の浜谷浩樹審議官は、システム開発費は約272億円で国庫負担、運営費は7月からの9ヵ月で約75億円(年100億円に相当)で保険者が負担すると答え、これを受け吉川議員は「最終的には被保険者である国民が負担するのか」と質問。浜谷審議官は「基本的には保険料で負担していただく」と答弁し、加入者負担を認めています。

さらに、医療保険者以外でもそれぞれの業務分野で中間サーバーを利用する者は利用料を負担するのかとの質問に対し、内閣府の向井浩紀審議官(マイナンバー担当)は「運営費についてはそれぞれの情報連携を行なう者が負担する」と答弁。吉川議員は、年金や労災・雇用保険についてもそれぞれの保険者、すなわち加入者が負担するのかと確認を求めたが、向井審議官は否定しなかった、としています(社会新報HPより)。

今後、ロードマップに記載のある番号の利用拡大が行われても、その負担は最終的に利用を強いられている者、すなわち国民に転嫁される可能性が高く、コスト削減をうたった「行政の効率化」とは真逆の政府得意の「広く薄く」隠れた増税となります。また民間に利用を拡大でシステム改修、利用料収入など利権を目論んでいることも考えられます。国会で徹底した議論が必要です。
3.今後の課題

政府は、以上のような重大な問題や多くの不備にもかかわらず、番号制の拡大を押しすすめています。そこには、憲法上の人権への慎重な検討や国民の声を聞く姿勢もなく、逆にあらたな負担を持ち込もうとしています。

小選挙区制で民意の反映しない国会議員の構成のもと、財界などの要求に基づいた政治が行われている今日、情報の国家集中は、政権を維持しようとする者の手段となるに過ぎません。また新たな利権も生みます。

特に、森友・加計学園に絡む情報の隠ぺい、防衛省日報問題の幕引を図るなど、適正な情報・個人情報を扱う資格のない政権のもとで進められようとしていることは、偶然ではありません。

政府の情報開示と国民の個人情報保護は、民主主義・人権の根幹ですが、私たちは、真逆の「政府の情報保護(不開示)と国民の個人情報開示(管理)」という状況に立たされています。

個人的な意見ですが、今後の取り組むべき方向についてふれたいと思います。

番号法・特定秘密保護法の制定、盗聴法など含む刑事訴訟法「改正」、「共謀罪法」創設などは、国民管理の立法として一体であり、今後の事件・現象など相互の関係も含めて研究していくことが重要です。

現状では、多くの国民は不安を感じながらも、消極的に番号制に従っているという状況で、番号制の危険性・情報提供を強めていかなければなりません。特に今回番号記載問題で、各地域の保険医協会・民主商工会などと共同の行動や情報交換を行っています。各地域での連携を強めて、市民に広く知らせ利用範囲の拡大を止めていく世論形成を目指します。また、マイナンバー違憲訴訟の傍聴に参加し、内容を市民に広げていきます。

現在の個人情報保護委員会は政府からは独立しているとは言い難く、国民の立場にたった監視システムを求めていく必要があります。特にチェック対象外となっている犯則調査・刑事事件のための番号による情報の取得など例外を廃止する、すくなくとも事後検証可能な法改正を求めていく必要があります。

費用対効果についても、相変わらず説明や情報提供はされておらず説明を求めていく必要があります。特に地方自治体の負担も含め明らかにされるべきです。また新たな国民負担に反対していく必要があります。以上です。

最後に、米国の国内外での違法な情報取集を暴露し亡命中のエドワード・スノーデン氏の発言を引用します。「私たちはみな、自分たちの子供に自分たちが引き継いだ社会よりも自由でリベラルな素晴らしい社会に住まわせたいと願っています。それを実現させる唯一の方法は、常に目を光らせ続けることです。常に民主主義にかかわり続ける必要があります。」(「スノーデン日本への警告」集英社新書82p)

(おくつ・としひろ:東京会)

▲上に戻る