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時潮

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特別徴収と個人番号

研究部長 櫻木 敦子
5月以降、事業主の元に「給与所得者等に係る市町村民税・道府県民税 特別徴収税額の決定・変更通知書(以下「通知書」という)」が送付されています。近年、自治体が特別徴収を徹底する方針を打ち出していることに加え、今年度は通知書にマイナンバー欄が追加されています。

特別徴収の徹底
首都圏では、今年度より九都県市(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市)で特別徴収を徹底することとしており、電車内でのトレインチャンネル、事業主に対するリーフレットの送付、特設サイトの創設などにより周知を徹底しています。

地方税法321条の3では、「支給期間が1月を超える期間により定められている給与のみの支払を受けていることその他これに類する理由があることにより、特別徴収の方法によって徴収することが著しく困難であると認められる者」、「当該市町村内に給与所得者が少ないことその他特別の事情により特別徴収を行うことが適当でないと認められる市町村」について、普通徴収を認めています。

東京都主税局の「特別徴収Q&A」によると、事業所の総従業員数が2人以下、他の事業所で特別徴収、給与が少なく税額が引けない、給与の支払が不定期、事業専従者、退職者又は5月末日までの退職予定者、の要件に該当する場合に普通徴収とすることができるとされています。

地方税法321条の3に明確な形式基準がなく、法律や条例に定めがないまま運用されているのが実情です。

事務負担の増大
これまで特別徴収を行ってこなかった中小零細事業者にとって、特別徴収の事務負担は多大なものとなります。毎月の従業員の給与から天引きした住民税は、源泉所得税とは異なり各自治体に納付する必要があります。また、従業員が退職する場合には、一括徴収または普通徴収への切替えの手続き、「給与所得者異動届出書」の提出などの手間が増大します。

特別徴収義務者が通知書に記載された税額を滞納した場合には、地方税法331条の滞納処分の対象となります。また、「納入すべき個人の市町村民税に係る納入金の全部又は一部を納入しなかった特別徴収義務者は、10年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(地方税法324条3項)こととされています。

プライバシーに関する問題
通知書(納税義務者用)には、事業主や事務担当者に知られたくない個人情報が含まれています。給与以外の所得情報(不動産所得、利子・配当所得、一時所得等)や控除情報(障害者、寡婦、寄附)などプライバシー保護上問題があると考えられます。総務省行政評価局がある県の市町村から複数を抽出し、通知書の記載内容が第三者に見られないよう秘匿措置がとられているかを確認したところ、12市町村中9市町村が2016年度までに圧着式または保護シール貼付方式により秘匿措置を実施または実施を予定していました。その一方、予算の確保が困難であるなどの理由で対応できない自治体があります。

マイナンバーの記載
今年度からは第三号様式、通知書( 特別徴収義務者用)に個人番号欄が追加されました。従業員が年末調整の際にマイナンバーを提出していない場合にも通知書に従業員の個人番号が記載されます。

市区町村や事業主にとっては、特別徴収事務はこれまで行われてきており、マイナンバーは必要ありません。総務省が3月6日に各自治体あてに出したQ&A では、個人番号欄を設けないことや個人番号を不記載とすることを認めていませんが、一部の自治体では番号の一部または全部を記載しないこととしています。日本弁護士連合会は4月13日に「特別徴収義務者宛の通知書から個人番号記載欄を除去すること等を求める意見書」を出しています。

完全な安全管理措置をとることができない事業所や、コストをかけてマイナンバーの管理を外部委託していた事業主にとっては、番号欄を塗りつぶす、番号が記載された通知書を送り返す、などの対策が必要です。普通郵便で送付された場合の危険性、正当な理由なく特定個人情報を提供したときの罰則規定などについて、顧問先や国民に周知し、危険性を知ってもらうことが大切です。

(さくらぎ・あつこ:東京会)

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