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時潮

時潮
「共謀罪」の成立を阻止しよう!

副理事長 米澤 達治
昨年来、日本の民主主義を脅かす焦眉の問題が生じている。「共謀罪」の問題である。2015年(平成27年)11月13日のパリ同時多発テロを受け、同年11月17日に自民党の谷垣禎一幹事長は、「来年、主要国首脳会議『伊勢志摩サミット』が開かれるので、テロ対策には意を用いていかなくてはならず、そうした法整備は前から必要だと思っている」と述べ、また、同日、町村同党副総裁も「(テロの)資金源対策を含む国際条約ができているにもかかわらず、日本は国内法の整備がされない」と発言し、両氏とも「共謀罪」の新設の必要性を強調した。さらに、2017年(平成29年)1月20日には第193回通常国会の冒頭での安倍首相の施政方針演説で同氏は「三年後に迫ったオリンピック・パラリンピックを必ず成功させる、サイバーセキュリティー対策、テロなど組織犯罪への対策を強化します」とやはり「共謀罪」への意欲を示した。

しかし、そもそも「共謀罪」は、2004年(平成16年)から2007年(平成19年)にかけて3回法案が提出され、そのすべてが廃案になっている。特に、2005年(平成17年)には郵政解散があり、自公政権はその後の総選挙で327議席と3分の2の議席を占めたにもかかわらず「共謀罪」は廃案となったのである。これは、多くの国民の反対とそれを受けた野党の奮闘によるものである。にもかかわらず、今回、またオリンピックなどを口実に持ち出してきたのである。そして、その当時から政府与党が一貫して口実としているのは、現行国内法では、2000年12月に採択された「国連国際的組織犯罪防止条約」(パレルモ条約 以下、条約という)第5条(組織的な犯罪集団への参加の犯罪化)、つまり条約で言う「共謀罪」には対応できないので、国内でも「共謀罪」を新設して対応できるようにする、というものである。

しかし、現行法のもとで、刑法では内乱(78条)、外患(88条)、私戦(93条)、放火(113条)、殺人(201条)、強盗(237条)の6つの予備罪があり、その他特別法では組織的犯罪処罰法の組織的な殺人など38の予備罪の罪名がある。また、日本は、テロ対策関連条約を13本締結しており、これについても国内においてそれぞれの条約を担保する法律を制定しているのである。つまり、現行法体系において、条約批准の条件はほぼ整っていると言えるのだ。

もし、この条約を批准するために現行法で対応できない条項があれば、特別法を作って対応するようにすれば足りるのだ。さらに重大なことは、「共謀罪」の適用を受ける犯罪の数を一挙に676としていることである。(これについては、その後見直しを行って277になったとも言われているが、今のところ明確になっていない)これは、条約第2条(b)に「『重大な犯罪』とは、長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう」という部分から来ているものと思われる。そうすると、既遂罪に対して未遂罪もない比較的軽微な犯罪についても共謀罪だけは適用されてしまうのである。何ともでたらめな話で、こんな法案が通ったら現行法との整合性が取れなくなってしまうのではないだろうか。

では、「共謀罪」の問題点は、どこにあるのだろうか。

第一に、現行国内法の原則を否定し、刑罰の範囲を無限に広げていく可能性があると言うことである。「国内法の原則は、『既遂』の処罰を原則とし、『未遂』は例外的、更に『予備』はさらに例外的、『共謀』に至っては極めて特別な重大な法益侵害に関するものに限って罰則するというもの」(日本弁護士連合会「日弁連は共謀罪に反対します」)である。だからこそ、現行刑法では、陰謀 3件、予備 6件、未遂 20件に限定しているのだ。しかし、先にも述べてきたように、未遂罪、予備罪等の対象とならない罪についても「共謀罪」の対象となったら「国民が何をやったら処罰され、何をやったら大丈夫なのか、そのラインが見えなくなってしまう」(民進党 山尾志桜里議員 1月26日衆院法務委員会)のではないだろうか。

第二に、政府は、対象となる団体を組織的犯罪集団に限るとしているが、その範囲が拡大していく危険性の問題である。先にも述べたように「共謀罪」の適用を受ける犯罪の数を676としているが、たとえば、1966年(昭和41年)の最高裁判決で労働組合の幹部が組合員らと闘争手段として会社の壁や窓に要求事項を記載したビラを多数貼り付けたところ、その幹部は建造物損壊罪で有罪判決を受けた事例があるが、「共謀罪」ができれば組合員も共謀したとして罰せられることもありうるのである。建造物損壊罪は、5年以下の懲役なのだ。このように労働組合や市民団体、政党が行政に対して何らかの運動をしている時に恣意的に犯罪を作りだして、その構成員を検挙することも可能になるのである。

第三に、1999年(昭和11年)8月に「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」が成立したが、「共謀罪」を立件するためという口実で室内傍受による捜査ーつまり盗聴ーも合法化されかねない危険性の問題である。そもそも、現行法では盗聴それ自体を罰する法律はない。したがって、盗聴に対しては住居不法侵入で対応するしかないのが現実である。だから、「共謀罪」ができてしまえば警察等による違法捜査もはびこるだろうし、これを法制化しようという動きも出てくるだろう。

以上、見てきたように、「共謀罪」は、「テロ等準備罪」という名称を使い、あたかもテロ対策の法律を装っているが、実際には「テロと関係ないたくさんの共謀を、予備以前に処罰しようとしている」(社民党 福島みずほ 2月15日参院法務委員会)ものであり、マイナンバー法の施行ともあいまって、日本を民主主義社会から国民監視社会に変質させる恐ろしいものである。

最後に、2月6日に金田勝年法務大臣は、マスコミ各社に『共謀罪』の問題について、「予算委員会における『テロ等準備罪』に関する質疑について(中略)成案を得た後に、専門的知識を有し、法案作成の責任者でもある政府参考人(刑事局長)も加わって充実した議論を行うことが、審議の実を高め、国民の利益にも叶うものである。」との文書を配布した。7日に野党の反発を受け、この文書を撤回して謝罪したが、このような文書は、行政府が立法府の議論の仕方について口を出すという三権分立を逸脱したものであり、これも民主主義の危機を感じさせる重要な問題である。

この法案については、本誌の発行前の3月21日に閣議決定されたが、私たちは、このような民主主義を破壊する法律について、学習し、その不当性を理解して、その成立を絶対阻止していかなければならない。

(よねざわ・たつじ:東京会)

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