論文

研修義務化に関する審査請求を取り上げない旨の通知に対する意見
東京会 粕谷 幸男
本年2月号で「研修受講努力義務未達成に関する不利益処分について」とする標題の論文を掲載していただいた。この問題に対する具体的行動として、日税連に対して審査請求書を東京税理士会宛に提出した。
そして、この問題に関する税理士会側の考え方がどのようなものであるのかが少しは解明できたので、この誌上をお借りして、報告し、その問題点を論述したい。

この問題の経過
  1. 平成28年4月5日に、日本税理士会連合会神津信一会長宛に、「審査請求書」を東京税理士会経由で提出した。
  2. 平成28年4月18日に、行審法84条に基づく「情報開示要求書」を追加して、提出した。
  3. それに対して、平成28年5月20日に、東京税理士会研修部長臼井淳子氏から不服申立には該当しない旨の通知書が送られてきた。
  4. この通知書では、不服申立に該当しない根拠が不明なので、再度、平成28年5月30日付で、「情報開示請求」をした。
  5. そこで、再度、東京税理士会から、平成28年6月23日付で、再回答書が送付されてきた。
そこで、6月23日の「再回答書」によって、初めて、東京税理士会側のこの問題に関する考え方が明らかになった。そこで、この「再回答書」の理由に対する批判及びその他の論点について、私の意見を述べることとする。
A.「再回答書」で述べている審査請求書を回付しない旨の理由は

再回答書から、その理由を整理すると次のようにいえよう。
  1. 「この点、自己申請研修の受講時間の認定に関し通知を行った本会は公権力の主体である国または公共団体には該当しないから」
  2. 「本会のような同業者団体は法律の規定により委任を受けた場合には委任の範囲内で公権力の行使を行うこともありますが、同業者団体の行為自体を行政処分として取消訴訟や行政不服審査法に基づく不服申立の対象とし得るのは当該事務を委任した法律においてその旨の明文の定めがある場合に限られております。」
  3. 「実質的に考察しても本件通知は自己申請研修の受講時間の認定の可否という同業者団体が行う自治的活動の一環として行われており、国からの委任に基づいて公権力を行使しているものではありません。」
以上の3つの理由でもって、今回の審査請求書を回付しない理由と考えられる。
B.同論拠に対する批判

1.「税理士会は、公権力の行使主体である国または公共団体に該当しない」とする見解への批判。

行審法第1条2項では、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立については、他の法律に特別な定めがある場合を除くのほか、この法律の定めるところによる。」と定められている。

仮に、今回の申請に対する処分通知に対する不服申立がある場合には、税理士法に特別な定めがないときには、この行審法の適用があるとするものである。もし、税理士法に審査請求の定めを置いていれば、一般法である行審法は適用されないが、その定めがない場合には、行審法を適用することを意味する。

そこで、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)の意味について、「行政不服審査法逐条解説」(ぎょうせい、一般財団法人行政管理研究センター編)によると次のように解説されている。

「「行政庁」とは、処分権限を有する者をいい、一般には国又は地方公共団体の機関がこれに該当するが、個々の法令において独立行政法人、特殊法人、認可法人のほか、いわゆる指定法人等に処分権限が与えられている場合もある。ただし、あくまでも「行政」権の行使主体に限られるものであり、立法権の行使主体としての国会及び司法権の行使主体としての裁判所は含まれない。

「処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、行政庁が国民に対する優越的な地位に基づき、人の権利義務を直接変動させ、又はその範囲を確定する効果を法律上認められている行為など人の権利義務に直接具体的な効果を及ぼす行為をいう。これには、事実上の行為も含まれる。」と述べている(同書16頁)。

税理士会が研修の認定に関し、会員からの申請により、会員の研修義務の履行を一定の認定基準(研修細則等)に基づき許諾ないし拒否を通知する行為は、会員がその義務を履行したかどうかに関わる権利義務に直接具体的な効果を及ぼす行為であるので、「処分」に該当する。研修の認定申請行為は、それが認定されれば、研修義務の履行を果たしたこととなり、拒否処分となれば、その義務の履行を果たしたことにならない。すなわち、研修の認定申請の許諾行為は義務の履行をしたものとされるのかされないのかの効果を及ぼす行為をいう。

それ故、この「処分」は、一般的には、行審法の不服審査の対象となるものである。

2.同業者団体が法律により委任された事項の処分のみが行審法の対象とする見解に対する批判。

この見解は、弁護士会の規則に基づく国選弁護人の推薦停止決定の判決で述べられた見解を援用し、それを根拠としているものと考える。この見解の詳細は、「条解弁護士法」日本弁護士連合会調査室編著の法43条の15(行政手続法の適用除外)で述べられているので、それを紹介し、私の見解を述べることとする。

(1)弁護士会の処分及び税理士会の研修義務化と行政手続法等による救済
(a)弁護士法に基づく弁護士会の処分
行政手続法の適用除外とされているが、行政手続法、行審法等の手続規定と同様の規定を弁護士法に整備したため適用除外とされるが、それと同等の手続が、弁護士会の処分に適用される。

(b)弁護士法に基づかない弁護士会の処分
「弁護士会が会則等により弁護士法に基づかない何らかの処分を定める場合は、行政手続法の適用があることになる。

この点について、弁護士会が会則会規等により弁護士に対し何らかの処分を行う場合、右の処分が法33条2項各号(会則)のいずれかに該当することを理由として、あるいは右の処分が法31条に規定された指導連絡監督権に基づくものであることを理由として、右処分も「弁護士法に基づいて行う処分」であって行政手続法の適用除外の対象となると解することができるかどうかが問題となる。

行政手続法の本来の立法趣旨は、行政庁の処分等の審査や処理の基準を明確にすること等により、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資するというものであるが、そもそも弁護士会が弁護士法に基づいて行う処分について行政手続法の適用除外が認められたのも、ただ単に弁護士自治の観点だけからではなく、前述したように各処分の特質を右の立法趣旨に照らして十分検討したうえでなされたものである。

従って、弁護士会が会則等により行う各種の処分について、法33条2項各号のいずれかに該当すること、あるいは、法31条1項に基づくものであることを理由として、その審査や処理の基準に関し行政手続法が定めるのと同程度の手続保障がなされているかどうかを問わず、一律に行政手続法の適用除外の対象となると解するのは相当ではない。」(条解弁護士法第二版日本弁護士連合会調査室編著 弘文堂 333頁以下)

会則に基づく処分の全てが行審法の対象とならないとはいえず、ケースによって、行審法の適用になる場合があることを確認的に解説している。

(c)弁護士法を根拠としない処分としての弁護士会の規則に基づく国選弁護人の推薦停止決定での判決理由。

「他方、特定の職業について、法律により、一定の資格要件を備えた者のみに従事することを認めるために許可制を採用し、その資格にふさわしい業務をおこなうよう種々の義務を課すとともに、これに違反した者には業務を停止させるなどの措置を採るとの制度が設けられることがあるが、このような制度は、当該職業の性質を考慮して公益を保護するために採用されるものであり、この制度に基づく許可、監督及び制裁は、いずれも公権力の発動としての性質を有するものであって、本来は国の機関である行政庁が行うべき事務であるが、法律により、その全部又は一部を当該職業についての同業者団体に委任することも可能である。このようにして委任を受けた同業者団体は、公共組合とは異なり、上記のように本来は公権力の主体ではないのであるから、その行為が当然に行政処分となるわけでなく、これに不服のある者は、委任庁に対して監督権の発動を求め、これに対する委任庁の裁決等になお不服がある場合にのみ当該裁決等の取消しを求めて出訴し得るとの制度がとられるのが通常であり、同業者団体の行為自体を行政処分として取消訴訟の対象とし得るのは、当該事務を委任した法律において、その旨の明文の定めがある場合に限られると解すべきである。
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その上、同決定については、国の機関に対する監督権の発動を求める途もないことや、同決定が法律上の根拠に基づくものでないことによれば、同決定自体、同業者団体一般が行う自治的活動の一環として行われているものと解するのが相当であり、国からの委任に基づいて公権力を行使しているものではないと解すべきである。
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このように解した場合、国選弁護人推薦決定を受けた者は、これを取消訴訟において争うことはできないが、仮に、それによって法的な不利益が生じるならば、その者は、民事訴訟においてそのような不利益が生じていない法的地位の確認を求めたり、損害賠償請求訴訟を提起することができると解されるのであって、推薦停止決定を受けた者の保護に欠けることはない。」(同掲書374頁〜 375頁)

(d)弁護士会の規則に基づく国選弁護人の推薦停止決定と税理士会の研修義務化制度との違い

国選弁護人推薦停止決定の効果は、国選弁護人として推薦基準に当てはまらない弁護士は国選弁護人になれないとする不利益処分を弁護士が受けるものである。国選弁護人は、弁護士業務の活動の一分野に過ぎず、その推薦停止を受けた弁護士は国選弁護人としての活動から生まれる業務成果を得る機会が逸してしまうが、しかし、国選弁護人として携わらない時間は、他の弁護士業務を実行することができ、国選弁護人として活動できなかった機会損失を他の弁護士活動で補填出来る種類のものである。また、その機会損失から発生する損失を損害賠償請求等の民事訴訟として訴える手段があるから、あえて、行審法による不服審査の対象とすることで、弁護士の権利救済を果たす必要はないとするものである。

税理士の場合にも、税理士会が担う税務支援の業務に、税理士が一定の条件に該当しないためその担当に選任されないケースが考えられるが、選任されないことの不利益処分について、審査請求の対象とすべことを要求しているわけではない。なぜなら、選出されない機会利益の損失は、他の税理士業務で代替することが可能であるので、判決の趣旨は理解できる。

研修の義務化は、税理士会会則58条、税理士会研修規則5条により「税理士会員は、第2条に規定する研修を、一事業年度に36時間以上受けなければならない。」とし、さらに、その会則等の遵守義務を課し、それを守らない者は会則違反として、日税連のホームページにその受講時間を公表するとするものである。

日税連の研修義務化は、一個人税理士の利害に限定しての問題ではなく、全ての税理士にあまねく「義務」として及ぶものである。この研修の義務化に関し、会則、規則等に基づく制度化が、税理士の資質の向上を、公平に促し、税理士の人権、営業の自由を侵すものでないのであれば、同業者団体の自治の範囲内のものとして、個々の研修制度に関し異論があったとしても、従うべきものとする見解を肯定するものである。しかしながら、税理士会の研修義務化はそのような制度構築とはなっておらず、それを是正する手段を行審法の対象とする不服審査ないし行政事件訴訟法の対象として救済されるものとならなければ、どんな法的救済措置があるといえようか。
C.研修義務化による「処分」が行審法の審査請求の対象とすべき理由

1.税理士会の研修義務化制度には、その人権尊重の欠如・知的専門職としての職業の自由の軽視等の欠陥を内包している制度で、行審法に基づく審査請求による方法でしか、是正措置及び権利救済が図れない。

(a)税理士法の39条の2は研修の努力義務規定である。一方、日税連会則、税理士会会則では研修の義務化を定めている。税理士会等の会則では、税理士法の義務規定よりも重い義務規定を定めた。このような規則制定は、無効なものと解されるので、行審法の審査請求の対象となり得るものである。

また、行審法1条1項では、「違法又は不当な処分」が対象となり、「抗告訴訟においては、処分の適法性が審理され、裁量の逸脱濫用の場合には処分が違法になるため、裁量の逸脱濫用の有無は審査できるが、裁量の逸脱濫用とまでいえない場合に、裁量権行使の妥当性を審査すること、すなわち当不当の審査をすることはできない。これに対し、行政不服審査は、行政の自己統制としての性格を持つため、当不当の問題を審査しても、権力分立原則に反することはない。」(行政不服審査法の逐条解説 宇賀克也著 有斐閣12頁)とされている。研修義務化の会則制定が自治活動の範囲内と許されるとした場合には、税理士会の規則制定及びその実施することが、税理士会の権能の裁量の範囲内である場合には、すなわち、会則等による研修認定不許可通知処分が不当な処分として審査請求の対象として争うことも可能であることも意味する。その処分の当不当も審査請求の対象となることを意味している。

(b)研修細則等の定める研修が、果たして、個々の税理士の資質の向上を果たすための公平なものとなっているのか。

私が、税理士会に認定研修を求めたものは、「国税徴収法」、「国税通則法」の改正を受けて、新たな「納税緩和制度」についての税理士向けの解説論文である。東京税理士会、日税連が提供するインターネット研修には、原稿執筆時点では、その実施は皆無である。また、新行政不服審査法が4月から施行されているが、その研修を受けたくとも、そのような研修が各地で実施されているという記憶もない。また、商科大学の非常勤講師として、日常的に、税務会計学を書籍によって勉学していても、研修細則等では、研修時間に認定されない。税理士法上の研修の努力義務を果たしていても、税理士会の基準の研修には該当せず、36時間を満たしていないこととなっている。この結果、税理士会の会則を遵守していない会員となってしまう。現行の細則等の制定の結果、会則違反の会員となってしまうのである。

果たして、私の例をあげるまでもなく、研修細則の制定は、税理士の資質向上を促すための公平な実施基準しての基準を満たしているのであろうか。聞くところによると、税理士会の研修部の役員が、管理可能なものをその基準として細則を制定しているといわれている。細則等の基準は、個々の税理士の研修の実情に沿ったものではなく、研修部役員の職務管理の都合に合わせた規則制定がされているといっても過言ではない。

このような規則制定は、公平なもの、すなわち、当不当の判定がなされなければならない。つまり、審査請求の対象とならなければ、権利救済ができないものと考える。
D.結論

私のした「審査請求」は、税理士会等が研修義務を推進する会務の基礎となる規則等の問題を是正するよう「審査請求」の方法で求めたものである。税理士会等が、会則等の問題点を見直し、会員の実情にそった研修制度を構築することを望んでいるものである。このまま、見直しがされず、平成30年度分の研修から受講時間等が公表されていくのであれば、次のステップとして、新たな判例構築のために、その歩を進めざるを得ないものと考える。

なお、研修受講時間の公表制度は、損害賠償等の民事訴訟法の対象となるものと考える。その公表については、会則の改正によってその根拠としているが、その公表は税理士法による授権がなく、本人の了解を得ないものであって、個々の税理士のプライバシー権の侵害につながりかねないものと考えられる。それ故、この問題は、人権問題に係るものと考えられるので、行審法による審査請求の対象とはしていない。

(2016.7.4 かすや・ゆきお)

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