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時潮

時潮
震災と消費税増税と「軽減」税率導入

研究部長櫻木 敦子
4月14日に九州をおそった熊本地震とその後の地震活動により大きな被害がありました。税経新人会の会員の方々も事務所や自宅が被害にあったと聞いております。被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。熊本は初めて全国研究集会の分科会で発表した思い入れのある地です。一日も早い被災地の復興をお祈りします。

安倍首相は、来年4 月にもくろんでいる消費税率10%への引き上げについて、18 日の衆議院特別委員会での災害対策を進めるために消費税率の引き上げを延期すべきだ、との指摘に対し、「リーマン・ショック級、大震災級の事態にならない限り、予定通り引き上げていく」という基本的な考え方に変わりがない旨を強調しました。また、菅官房長官は今回の地震が東日本大震災級かと問われ、「そうした状況ではない」と答えています。しかし、熊本地震ではトヨタ自動車の工場の生産停止など、経済への影響も懸念されています。

政府は国際金融経済分析会合で海外の有識者を招いて消費税増税の是非について意見交換をすすめています。この中で、スティグリッツ米コロンビア大教授は、世界経済の低迷を理由に消費税増税を延期するよう提言したとされています。また、グルーグマン米プリンストン大教授も増税は今やるべき事ではない、と述べています。一方でジョルゲンソン米ハーバード大教授は税負担を法人税から消費税へシフトしていくべきだと述べたうえで、時期についての判断は時期尚早だとしています。

増税の時期について不透明となる一方で、低所得者への配慮という名目で導入される「軽減」税率制度については、国税庁消費税軽減税率制度対応室が早々に「消費税の軽減税率制度に関するQ&A」を発表しました。複数税率についてはヨーロッパ各国で適用されていますが、デンマーク、ルーマニアなど、食料品について軽減税率の適用がない国からイギリスやアイルランドのように食料品をゼロにしている国まで様々です(『第29 回税制調査会資料』より)。政府は、軽減税率の導入で1 兆円の減収を見込んでいますが、その財源をどのように捻出するかについては結論を先送りしています。

これまであいまいな部分が多かった8%と10%の線引きについては、改正法附則や通達、Q&Aが出たことにより明確になってきました。テイクアウトが軽減税率の適用対象となっていることはマスコミを通じて周知されていますが、ファーストフード店やコーヒーショップなどにおいて、テイクアウトかどうかは相手方に意思確認をすることにより判定するようです。私はよくコーヒーショップに行くのですが、店内で飲食する場合でもマグカップか持ち帰り用のコップかを選べます。「持ち帰りで、紙コップで」と言えば、そのまま店内で飲食しても8%が適用されてしまいます。

これはモラルの問題になります。フードコートでの飲食は10%、公園のベンチでの飲食は8%、出前は8%、ケータリングは10%、有料老人ホームでの食事の提供は1 食640 円以下であるもののうち1 日の累計が1,920 円までのものは8%・・・。知れば知るほど複雑な複数税率制度、請求書や領収書を発行する側も、原則課税で仕入控除を受ける側も、課税事業者の事務負担の増加ははかり知れません。実施後に混乱が起こると思われる複数税率制度、中小企業の事務負担の増大に加え、さらなる増税への布石とされることが懸念されます。

(さくらぎ・あつこ:東京会)

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