論文
> マイナス金利政策とアベノミクスの暴走
軽減税率財源に外為特会の活用?
(外為特会は打ち出の小槌だけではない)
神戸会 國岡 清
消費税の軽減税率導入にあたり、財源が不足する年間6千億円を外国為替資金特別会計の積立金を活用する案が浮上したと報じていた(日経新聞2016年1月14日)。
この会計はどのような役割を果たす特別会計か、その資金使途等について紹介する。
1 外国為替資金特別会計(以下、外為特会と略す)とは

特別会計に関する法律第71条では、「外為特会は、政府の行う外国為替等の売買等(為替介入とか円売り介入と言われるもの)を円滑にするために外国為替資金を置き、その運営に関する経理を明確にすることを目的とする」会計とされている。この会計の前身は1949年(昭和24)外貨管理権がGHQ からわが国に移譲されたことに伴って創設された外国為替特別会計であり、1951年に外為特会に名称と仕組みが改められている。

「外国為替等」とは、外国通貨、外貨建て証券、外貨で受ける預金などであるが、政府がこうした外国為替等の売買により対外支払いを行う際、外貨が必要となった場合にその外貨調達がスムーズにできるように前もってある程度の外貨を「外国為替資金」として保有している。この前もって保有することを「外貨準備」というが、外貨準備は為替レートの安定を確保するために活用されるものである。

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表1のとおり1991(平成3)年度から2011(平23)年度までの20年間における為替市場介入額の総額は85.8兆円である。その内訳は、米ドル売り円買いが4.8兆円、円売り米ドル買いが79.8兆円、円売りユーロ買い等が1.1兆円である。明らかに円を売って米ドルを購入している額が圧倒的である。とりわけ2002・2003年度にかけて小泉元首相・竹中元金融大臣時代に39兆円余りという大規模介入が行われたが、以後の自民党政権では介入が行われていない。

また2010・11年度の民主党政権では16.4兆円の大規模介入の実績があるが、以後日本では表面的には為替市場の介入(財務省の用語で外国為替平衡操作という)が行われた(財務大臣が決定し、日銀がその実務を取り扱う)という報告がない。外為特会の本来の役割である為替介入機能がほぼ停止しているにもかかわらず、外貨準備高は肥大化の一途をたどっている。これだけの膨大な資金を別途に保有する必要性があるのか?と疑念が出てくる。
2 必要な外貨準備高はどのくらいか

2014年の世界銀行発表によれば、外貨準備高が最も多い国が中国の3.90兆ドル、2位が日本の1.26兆ドル、3位以降がサウジアラビア0.74兆ドル、スイス0.54兆ドル、台湾0.45兆ドル、米国0.43兆ドル、ロシア0.38兆ドルと続く。ドイツが14位の0.19兆ドル、フランス17位0.14兆ドル、22位英国0.10兆ドルである。日本の外貨準備高は2015年3月末で1兆2453億ドル(1ドル= 120.38円として149兆9092億円)であり、日本の米国債保有高は15年2月末で1兆2244億ドル(1ドル= 118.86円として145兆5321億円)である。外貨準備高のほぼ全額を米国債で保有しており、日本の一般会計予算の約1.5倍の巨額に達している。

日本の外貨準備高はアメリカやイギリスと比較しても、せいぜい20兆円もあれば十分であろう。だとすれば100兆円以上は政府短期証券という日本国債を償還することができ、それだけ日本の負債が縮小できるのである。日本の財政状態が悪いと宣伝している時に、このような巨額な外貨準備高を保持する必要はない。早期に外為特会の規模を大幅に縮小して日本政府の借金を減らすべきである。
3 外為特会の膨大な資金規模は米国債購入が原因である

1971(昭46)年の外為特会の資産合計は2兆円弱だったが、1988(昭63)年には26.6兆円と13倍に膨れ、2000(平12)年58.4兆円、2004(平16)年112.9兆円、2014(平26)年には158.8兆円にまで一般会計予算の1.5倍以上に膨れ上がった(表2 17参照)。

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これは純資産額が増えたのではなく、資産の外貨証券(表2)が増えたが、外国為替資金に充てるために発行した外国為替資金証券から政府短期証券(同表18)に名称を変えた資金証券残高を負債に計上する両建て経理をした結果であり、1971年に1兆円足らずの短期証券残高が、2014年には117.9兆円にまで(同18)膨れ上がっているのである。つまり、負債である政府短期証券を発行して資産である外貨証券、とりわけ米国債に投資したのが原因である。

何故、これだけの膨大な資金を準備する必要性があったか?一般会計から直接、米国に資金提供すれば日本の独立性が問われるが、特別会計という隠れ会計から米国を支えるために米国債及び米国政府機関債への投資と称して資金提供をするいびつな「日本政府のパートナーシップ姿勢」にある。外貨証券といえば聞こえがよいが、この米国債は一旦購入すれば引き出せず、市場で換金できないという台帳方式の投資額であり、2014年度決算における米国債への投資額が102.5兆円余り(同)に膨れている。台帳方式とは、米国債(米国財務省証券)は本券を発行せず、帳簿記載方式で所有権を管理しているので、日本政府の保有分が帳簿に記載されているだけのものである。

何故、米国債が売れないのか? 1971年ドル切り下げのニクソン・ショックから6年後、1977年米国は「IEEPA」という法律(国際非常時経済時限法と訳す)を成立させた。この法律の第202項において「米国の安全保障、外交政策、経済に異常で重大な脅威が、海外の全域あるいは多くの地域で発生した場合、これに対処すべく大統領による国家非常事態宣言を経て、第203項で大統領に付与される権限が行使される」、第203項では「外国とその国民が有する資産に関して」それを所有したり、取引したり、権利を行使することなどを「調査、規制あるいは禁止」したり、「破棄、無効あるいは予防する」とうたっている。

特に、「調査し、規制しあるいは禁止する」項目中には「すべての外国為替取引」、「通貨、有価証券の輸出入」の項目が入っている。このような状態では、日本が米国債(あるいはドル)を売ろうとすれば、IEEPA により禁止されてしまい、売り捌けない状態に陥ることが予測される(参考:1993年7月7日日経新聞コラム「大機小機(経済原爆)」。

1977年6月、当時の橋本首相が「米国債を売りに出したいという誘惑にかられたことがある」と発言した途端、NY ダウが暴落した経緯がある。もちろん橋本元首相は米国債を売ることなどアメリカが許さないことは百も承知のうえではったりをかけたのである。

ニクソン・ショックと言われた1971(昭46)年は1ドル= 360円であった。それ以降延々とドル安が続き、1995年4月1ドル=80円まで至った。2001年1月現在は118円であった。仮に1971年に30年物の米国債を買っていたら、その価値が3分の1で日本は大損である。金利がつくから多少ましという問題ではない。80年代は米ソ冷戦の最終段階、減税と軍拡というレーガノミックス時代で、その穴埋めとして米国債を日本が日銀を含め民間にも大量に買わされた時期の平均レートは1ドル240円であったから、その時の米国債は今や半分以下の価値である。

乱暴な計算であるが、1997年の残高の半分の価値が失われたとすれば、政府と民間合わせて110兆円の損失である。政府日銀が米国債を買う原資は日本国民の税金であり、銀行・生保が買う原資は日本国民の預貯金や生保に払った金であり、日本国民が間接的に買わされているものである。どちらにしてもドル安は日本の損失=アメリカの利益であり、日本がアメリカに納めた上納金?である。日本国民の大多数がアメリカに上納金を支払うことを了解した覚えがないのである。

2002年2月18日のブッシュ大統領との日米首脳会談に臨んだ小泉元首相は、アメリカに対し「日本が持っている国債は売りません」と約束した(森田実氏のHP「森田実の時代を切る」2007年2月25日付け記事)。

森田氏がチェイニー副大統領のスタッフに「小泉はある時払いの催促なしでいいよ」と言ったのかと聞いたところ、「アメリカにはそんな曖昧な表現はありません」「ブッシュの報告は、いただいたとアメリカは理解している」と答えたというのである。さらに、森田氏が「アメリカがただ奪うだけではひどすぎる」と言うと、彼(スタッフ)は「ブッシュは小泉に、小泉が一番欲しいものを与えている」という返事が返ってきたそうである。それは「小泉さんにはブッシュは日本の政治史上最も偉大なるリーダーだという褒め言葉を与えている。ブッシュは歯の浮くようなお世辞を小泉に言い続けてきたのは400兆の金をくれたことに対するお礼」と言ったそうです。この発言のやりとりで「400兆の金」という表現がでている。戦後アメリカに貢いだ総額を指しているのだろうか。ドルではなく、400兆円と解すれば日本の国債残高の半分近くという驚愕の数値になる。このような独断は許されるものではない。
4 外為特会の剰余金(積立金)が22.6兆円まで積み上がっている(2014年3月末現在)

外為特会の積立金は、外貨資産と円建ての政府短期証券の金利差から生じた剰余金を積み立てたものである。会計検査院によると、これまでにこの積立金が資金不足から取り崩された形跡はないと言われている。管理する財務省国際局も為替変動相場制(1973年2月)になってから積立金の取り崩しはなかったと認めている。

積み立てていても使われた実績がないということは「なくても困らない」ということである。今回活用が浮上したこの積立金は、何も軽減税率の財源不足に限定する必要はなく、この22兆円余りの休眠資金をそっくり現下の経済・雇用危機や年金、医療、介護、子育て、教育などの財源として活用を検討するのが妥当策といえる。

しかし、この休眠資金である積立金は、資金活用策の議論をされたくないのか? 2013年の「特別会計に関する法律の一部改正」によって、2014年度から積立金が廃止され、この外為特会の決算書類から積立金の表示が消えてしまい、それまでの積立金は外国為替資金残高に組み込まれてしまった。
5 外為特会の剰余金が一般会計へ繰入られてきた

外為特会に改められた1951年から1981年度まで毎年決算上の剰余金はその全額を積立金として積み立ててきた。しかし、1982年度から積立金に積み立てる一方で、剰余金の多くが一般会計に繰り入れられるようになった。その背景は、1975年代以降、本格的な特例公債発行の時代に入り、国の財政が厳しくなる。財政再建の名の下、1982年度予算編成に向けて、概算要求枠として一般政策経費の伸び率をゼロとしたいわゆるゼロ・シーリングが決定された。

しかし、人事院勧告実施の公務員給与の上積み約4千億円、国民健保等の一部地方負担増、災害復旧事業費追加、為替レート変動の歳出増、税収不足7千億など約1兆6700億円の財源不足が見込まれ、法人税延納、貸倒引当金縮減による実質増税、地方交付税交付金の減額留保、補助金の削減策等がとられ、その財源対策の一環として外為特会から一般会計繰入が2千億円行われた。その後も緊縮予算が組まれたが、1983年度も外為特会から一般会計に4600億円が繰入れられた。

それ以降、外為特会で生じた決算剰余金は、ほぼ毎年のように「予算で定めるところにより」一般会計に繰り入れられる状況が続いている。1982年度から2012年度までの31年間の一般会計繰入額の総額は、32.5兆円に達している。とりわけ2012年度までの10年間では19.2兆円と恒常化している。更に、税収不足等を理由として特例法に基づき別途に一般会計へ繰入がなされている。

2010年度3500億円、2011年度東日本大震災に対処のため2309億円である。0.05% 以下の安い支払金利で日銀に引き受けさせる調達資金を米国債や長期国債10年ものの金利率2.5〜 3% 程度という比較的高水準で運用するために年間2~ 3兆円の運用収益が見込める状態にある。このように外為特会の運用収益をアテにして一般会計予算の編成をする体制が常態化しているので、外為特会を縮減することができない状態になっている。
6 外為特会は、湾岸戦争時の「湾岸平和基金」の資金拠出にも活用?された

1990(平2)年7月イラクがクウェートに侵攻した、いわゆる湾岸戦争の勃発に対し日本政府は多国籍軍へ10億ドルの資金提供を決定した。「湾岸地域における平和回復活動を支援するため平成2年度において緊急に講ずべき財政上の措置に必要な財源の確保に係る臨時措置に関する法律」(平成3年法律第2号)に基づき、平成2年度第2次補正予算において、外為特会から一般会計に1125億円が繰り入れられた実績がある。

日本政府が決定した10億ドル(1340億円余り)の拠出金は湾岸地域の平和復興のための資金とする名目であったが、日本の貢献が少ないという米議会の脅かしに屈して30億ドルを追加した。更に翌91年イラクへの多国籍軍の開戦決行に際し、米国が再び追加支援を日本に要請し、90億ドルの追加拠出を決めた。

更に90億ドル支援時の円安進行で5億ドルを追加して合計135億ドル(1ドル= 134.70円として1兆8184億円)が米国に支払われた。この拠出金を日本政府は赤字国債や酒・たばこ税、消費税等の増税で賄ったが、最終的にはいずれも日本国民が負担を強いられたものである。
7 外為特会の資産にはIMF(国際通貨基金)に対する貸付金や出資金が計上されている。

2015年3月末現在におけるIMF に対する貸付金残高は1兆1061億円、出資金額は2兆6266億円である(財務省の2014年度外為特会財務書類による表21115)。

2008年9月に発生したリーマンショック後、11月にワシントンで開催された緊急首脳会議(金融サミット)で、麻生元首相・中川元財務相が金融危機克服に向け、IMF(国際通貨基金)に対し、外為特会から最大1000億ドル(10兆円)の資金融通を行う用意があると正式に表明した。

この時約束した融資は、日本が購入してきた米国債を原資としてIMFに振替貸付を行うものであったが、この決定は米国債が担保として使われて流動し始めることを意味する重大な決定であった。つまり、日本の帳簿上は米国債への投資がIMF への貸付に変わるだけだが、IMF はその数字を根拠に資金を各国に融資することになり、米国債が流動性を持つ可能性が生じ、世界経済に重大な衝撃を与えた。

2009年3月のG 7合意で急速な円高局面が始まり、連日日本円の価値が大幅に上昇する円高が報道され(1ドル75円台突入)、輸出企業の多くは決算予想を悪い方向に修正した。合意直後の中川元財務相が酩酊状態で記者会見を行ったこともあり失脚、その後の選挙で落選し、同時に自民党政権は下野し、民主党政権に変わった歴史がある。この酩酊会見の横で止めもせず平然としていた篠原財務官は、不始末で失職を問われることなく同年11月にIMF の専務理事に就任している。

その後、中川氏は自宅で変死した。また中川氏を絶賛したフランスの次期大統領と言われていたストロス・カーン氏もニューヨーク滞在中にメイド強姦容疑で逮捕起訴された。その後被害者が証言を撤回したが同氏はIMF 専務理事を辞任し、フランス大統領選への出馬も取りやめることになったというきな臭い話がある。
8 外為特会の貸付先に(株)国際協力銀行(以下、JBIC という)が上がっている

1950(昭25)年に設立された日本輸出銀行を前身(後に日本輸出入銀行:輸銀)とするJBIC は2012年4月正式に独立して国際金融部門の受け皿となる立場を外為特会の中に築いた組織である。財務省はJBIC を特別扱いして新たな事務次官級の天下り先確保の道筋をつけたのである。

外為特会の財務書類に旧JBIC が貸付先として登場してきたのが2008年度の貸付金5460億円であった。サブプライムローンによる金融危機後、緊急危機対応7項目の一つとして2009(平21)年3月に財務省が外為特会から外貨準備の50億ドルを旧JBIC に融資する政策を打ち出して以来である。

外為特会から2009年3月に50億ドル(約4850億円)の外貨資金の貸付けが実行されるやいなや、即座に対応したのがトヨタ自動車の100%子会社トヨタファイナンシャルサービス(株)からの2000億円の融資要請である。民間企業向けに対応する金融機関は日本政策投資銀行(以下、政投銀)であるが、何故か旧JBIC を通したルートをわざわざ設け、その存在を維持しようとした。外貨借入れや貸付けであれば政投銀も日本政策金融公庫(以下、日本公庫)もできたのであるが、当時の日本公庫の一部門である旧JBIC を独立させる実績づくり工作である。

その後、外為特会におけるJBIC に対する貸付金は急速に拡大し、2015年3月末では5兆9230億円(当初貸付金の10倍以上)に膨れ上がっている(表212参照)。政府の後押しを受けたJBIC の「円高対応緊急ファシリティ(融資枠)」が2013年3月末の期限にあたり新たな再編拡大を目論見て、日本企業の海外展開支援をより一層推進する観点から支援対象分野を海外展開に資するすべての事業とし、JBIC の「海外展開支援融資・支援出資ファシリティ」を開始した。

当然、外為特会からの融資枠が増え、海外展開に必要な資金をJBIC が低利で借入れて大商社や大企業向けに貸付けたから外為特会の貸付金残高が膨大になったのである。これらの融資拡大には、過去にも経験したJBIC 出身者の天下りという見返りも期待されているのであろう(過去の事例は後述を参照)。

財務省の天下り御三家とは、2008(平20)年10月に行われた政策金融の民営化で誕生した政府系金融機関の政投銀、日本公庫、国際協力銀行(旧JBIC)の3つをいう。政投銀は旧日本政策投資銀行を継承して設立された特殊会社で、完全民営化が予定されている。

日本公庫は旧国民生活金融公庫、旧農林漁業金融公庫、旧中小企業金融公庫の3機関を統合した特殊会社である。国際協力銀行は旧国際協力銀行のうち国際金融部門が日本公庫に、海外経済協力部門は独立行政法人国際協力機構(JICA)にそれぞれ統合されたが、国際協力銀行は日本公庫の国際金融部門としてその名称を残し、旧輸出入銀行業務を行う金融機関として日本公庫の中にありながら、独立して銀行を名乗り、組織も業務も資金調達も統合前の状態を貫く歪んだ状況下(日本公庫という一つ屋根に2つ部屋の存在)にあった。

民営化議論の当時、旧JBIC は経営責任者以下取締役が財務省出身者で占められて、旧JBIC の国際金融業務部門(輸銀)であり、財務省が既得権益の維持・拡大を目指して組織解体に最も激しく抵抗したのである。当時の旧JBIC の経営責任者は、日本公庫の副総裁(旧大蔵省出身者・元事務次官候補)の渡辺博史氏である。

2011(平23)年5月株式会社国際協力銀行法が公布・施行され、翌2012年4月1日に日本公庫から分離して正式にJBICが発足した。初代代表取締役総裁が元経団連会長の奥田氏(トヨタ自動車社長・会長歴任)、代取副総裁が先の渡辺博史氏、代取専務に星氏(日本輸銀出身)、日本輸銀出身者の取締役と常勤監査役の各1名、社外取締役が旧住友銀行常務であった。2014年から代取総裁が渡辺氏に交代し、総裁・副総裁・専務の三役は元財務省OB が独占する人事となり、現在に至っている。

旧JBIC 時代には、財投金利に0.025%程度を乗せた低利の融資を大企業・大商社向けに実行して癒着していた。事例としてマレーシアの液化天然ガス(LPG)プロジェクトで三菱商事に約224億円を貸し付けた(東京新聞2005年11月7日)と報じた。トーメン、三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅により設立されたシルクロード石油輸入株式会社に対して3000億円を貸し付けている。

同社はイランの石油公社の子会社に対して旧JBIC 等から調達した資金を融資する役割を担った会社である。同社は低利の資金を調達し、金利を上乗せしてイラン側に貸し付けて利ざやを稼いでいた(同社の2003年の利益6億800万円、2004年は利益5億7600万円)のである。しかも低利融資だけでなく、旧JBIC から代表権を持つ取締役1名、取締役・監査役各1名が旧JBIC のOB として送り込まれている。

つまり、商社が企業を作り、そこに融資を行う。見返りにOB を送り込む関係が成立していた。同じような例が、丸紅・三井物産により設立された天然ガス開発を目的とするカタールの会社には融資残高が約930億円あり(2002年度)、取締役・監査役各1名が旧JBIC 出身。伊藤忠・三菱商事等の商社によるブラジルの油田開発目的で設立された投資会社には融資残高が約620億円、旧JBICの大阪支店長が取締役に就任した。こうした旧JBIC 関連企業の全貌が「天下り40社リスト」と題して詳細に報じられた(2005年11月24日発売の週刊文春)。

資源開発以外にも、トヨタ自動車が50%出資してチェコにプジョー、シトロエンとともに設立したTPCA社、トヨタ系部品会社デンソーチェコにも2004年3月時点で411億円ほどを融資している。その他にも旧JBIC は天安門事件など民主化問題で日本の外務省がODA の停止などに取り組んでいる際に大蔵省直轄の対中資金をどんどん供与し、2000年までに中国に3兆3000億円の融資が実行されていた。中国側は日本の縦割り行政の矛盾をついている(以上の旧JBIC 時代の事例は草野厚慶應義塾大名誉教授の「解体、国際協力銀行の政治学」東洋経済新報社発行より紹介)。
9 外為特会の損益構造

外為特会が赤字になったのは1951年度以降、1958・59年度のたった2回で、その赤字額はそれぞれ1億円と2億円というわずかの額である。それ以外の年度はすべて黒字であり、近年では年間3兆円を超える剰余金を計上している。外為特会の利益は主として運用収入にある。これは受け取る外貨証券(ほとんどが米国債)の利子額が大きく毎年2兆円を超えている。受け取る運用利回り率が支払う日本国債(政府短期証券)の利子率よりも遥かに高いからである(表3参照)。

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更に必要のない外為(短期)証券の発行で得た円貨を同じ財務省管轄の財政投融資特別会計(以下、財投特会という)の財政融資資金勘定(旧資金運用部)に預託され、その金利収入が預託金利子収入(表3)として入ってくる。外為特会の収益が外為証券の利払いや人件費、事務費に充てられているが、政府が発行する外為証券は3〜6ヶ月と短期であり、金融緩和のため低金利(例えば想定金利0.75%が、実態は0.0372%)となっているから利払い部分はわずか(表3)で、かなりの利益が発生する構造になっている。

この利益を積立金として計上し、その資金を財投特会で長期間運用することで更に金利収入が得られるのである。この財源に財務省主計局が目を付けて、1982年度から一般会計に予算計上されて繰入られている。1998年以降では毎年度1〜3兆円近くまで繰入額を増額している(表4参照)が、外為特会の運用資金残高は100兆円以上あり、2014年度末では156兆円に積み上がっている(表3下段の各年度末残高参照)。

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円を借り入れるために発行した政府短期証券(外為証券)の利払いは借入金利子と称して外為特会から国債整理基金特別会計に繰り入れられている。資金特別会計と言われる外為特会と財投特会の2つと国債整理基金特別会計は資金的に密接に絡んでおり、いずれも財務省が管轄下に置いている。しかも、一般会計予算以外に特別会計を通じて大規模に資金融通していることが注目される。

国の会計は民間企業のように儲けるための仕組みでないはずで、この仕組みは本来の目的から大きく外れているだけでなく、次回(6月号)で触れる財投特会にみる特殊法人や独立行政法人に対する貸付金や出資金を通じて運用されて、利ざやを稼ぎ、配当金収入を得て、財務省が「資金運用を活用」して特殊法人や独立行政法人に自らの天下り先を確保する道具として使っている。

不用不急の資金調達とその運用は縮小すべきである。2012年1月の特別会計改革工程表では、「平成25年度より外為特会で資産計上された財投への預託金を減額し、政府短期証券(負債)を償還することを通じて資産・債務残高を縮減し、外為特会に留保する剰余金相当額について円貨資産として保有し続けないように対応を図る」と明記されているのでその実行を注視したい。

(次回(6月号)に続く)

(くにおか・きよし)

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