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時潮

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「実地の調査」とはなにか

事務局長吉元 伸
最近、税務署が「実地の調査以外の調査」と称して納税者を税務署に呼び出し、税務調査を行う例が多発している。そしてこの調査は国税通則法で新設された事前通知も事後手続きも必要のないものだと主張し、実際、調査の現場でも事前通知はしていない。煩雑な事務を要する税務調査の事前及び事後手続きを回避できる救世主として、この「実地の調査以外の調査」は、実調率低下を懸念する課税庁にとってその比重は益々大きくなっている。

1.国税庁の主張している「実地の調査」とは
この「実地の調査」は、国税通則法にまず次のように登場している。国税通則法の第74条の9は
『税務署長等は、国税庁等職員に納税義務者に対し実地の調査を行わせる場合には、あらかじめ、納税義務者に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする(一部省略・以下条文、通達について同じ)』
と定めている。

そして「実地の調査」の意義については通達3-4で次のように定義している。
『法第74条の9及び法第74条の11に規定する「実地の調査」とは、国税の調査のうち、当該職員が納税義務者の支配・管理する場所(事業所等)等に臨場して質問検査等を行うものをいう』

つまり、国税庁の論理では税務調査には二通りあり、ひとつは納税者宅に臨場する「実地の調査」、もうひとつは税務署に呼び出して行う「実地の調査以外の調査」である。税務署内でもこの論理に基づき税務調査を区別し、調査の現場でも「これは実地の調査以外の調査です」と納税者を税務署に呼び出し、かなりの数の調査を行っている。この国税庁の解釈でいけば、新しく制定された国税通則法の手続き規定も国税通則法74条で見るように「実地の調査」についてのみを規定したものであるから、「実地の調査以外の調査」については当てはまらないので、納税者宅に臨場しない税務署内で行う「実地調査以外の調査」には事前通知も必要なく、また調査終了の際の手続きも一切いらないということになる。

このように法律において定義のはっきりしていない「実地の調査」の概念を課税庁が通達により都合よく手前勝手に解釈し、調査実務に活用しているのである。もちろん納税者は通達に法的に拘束されることはないが、現実の税務行政は、通達を根拠として行われていることも多く、納税者の方で争わない限り、通達に従って処分が確定することもある。このような通達行政について定着する前に素早く反撃する必要がある。

2.税務調査手続きの厳格性
申告納税制度の下では、納税者自らが自己計算し、申告書を作成することによって納税義務は完結する。この申告納税制度をさらに深く国民に浸透させるためには、租税法を国民にとってより理解しやすいものとし、納税者の納税予測可能性についてもわかりやすく明確なものとしなければならない。そのためには法文の中で疑義を持たれるような不明確な文言を排除していかなければならないし、たとえそうならない場合であっても行政が勝手に都合のいい解釈をすることは許されることではない。

また税務調査についても、税務行政は本来租税法に基づいて執行されるはずのものであるから、租税法に規定のない事項について行政が通達でそれを補完することはできない。特に租税の確定は国民の財産権を一方的に侵害する性格を有するものであるところから、憲法は30条(納税の義務)及び84条(課税の要件)を通して他の法律に比して厳格な法的要件を定めることを要請しているものといえる。そのことは税務調査の手続きでも同様である。

3.税務調査と事前通知は表裏一体の関係
国税通則法で新たに規定された事前通知は、税務調査の範囲を事前に明確にするという点で納税者にとって大きな前進であり、一部例外を除いて税務調査については事前通知を受けることが原則となった。この事前通知は税務調査を受ける納税者にとってその調査を主体的に準備するために必要な手続きであり、改正によって納税者は事前通知を受ける権利を得たことになる。この新たに獲得した納税者の権利が調査を行う場所によって決定的に異なってくるというのが国税庁の解釈である。それではその税務調査について検討してみよう。税務調査とは、国税職員に質問検査権を与え、はじめて成立する。それでは、この質問検査権とは具体的にどのような行為を指すのであろうか。

国税通則法第74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)には
『国税庁等は、所得税、法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、納税義務者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる』
とあり、質問検査権とは、帳簿書類等について納税者に質問し、帳簿書類等の提示や提出を求めることができる権利となる。質問検査権の対象となるものは、納税者が自ら作成した申告書の基となった帳簿書類等であり、質問をする対象者である納税義務者と帳簿書類等があれば、調査がどこで行われていようとできるのであり、質問検査権の行使に影響は生じない。調査が行われる場所によって納税者の権利が損なわれるとすれば、これは国民一人ひとりが国家との法的権利・義務の関係において等しく扱われなければならないという憲法の平等原則に抵触していることになる。

事前通知の例外として「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」がある場合は、事前通知を要しないと国税通則法第74条の10に規定されている。しかし、このような場合に該当するような事案であっても事務運営指針(「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について」)の記載によると、
臨場後速やかに、「調査の目的」、「調査の対象となる税目」、「調査の対象となる期間」、「調査の対象となる帳簿書類その他の物件」、「調査対象者の氏名又は名称及び住所又は居所」、「調査担当者の氏名及び所属官署」を通知する
ことになっており、一定の事項の事前通知をしなければならない。

このように「実地調査以外の調査」の対象者は、「正確な税額等の把握を困難にするおそれのある者」でも受けることができる権利さえも、それを一方的に奪われていることになる。税務調査は、罰則によって担保された間接強制であるため、納税者は緊張を強いられ、また回避できないために日常生活や営業、人権に大きな影響を受けることになる。そのために事前通知は当然必要なものであり、今まで事前通知を伴わない税務調査を行っていたこと自体が異常だったのである。税務調査は質問検査権の行使であり、事前通知はこの質問検査権が適法に行われるための要件の一つであって、税務調査と切り離すことのできない表裏一体の関係にあるはずである。

(よしもと・しん:千葉会)

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