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時潮

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安全保障関連法案の廃案を

機関誌部長清水 裕貴
7月16日に衆議院を通過した安全保障関連法案は、「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」と「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」から構成されている。

前者は既存の法律の一部改正案のかたちをとって、10本の法律案をひとまとめにしたものである。条文見出しが(自衛隊法の一部改正)とつく第1条から始まって、(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律の一部改正)第2条と続き、各条ごとに、既存の法律の改正内容を示し、(国家安全保障会議設置法の一部改正)第10条で終わっている。

既存の法律のうち「周辺事態」で始まる法律名をもつものが二つ(第3条、第4条)、「武力攻撃事態」で始まる法律名をもつものが五つ(第5条、第6条、第7条、第8条、第9条)である。

こんなところに、この法律案の意図を読み取ることができる。例えば第3条では「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律の一部を次のように改正する。題名を次のように改める。重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律 第1条中「我が国周辺の地域における」を削り、「周辺事態」を「重要影響事態」に、「対応して我が国が実施する措置、その実施の手続きその他の必要な事項を定め」を「際し、合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより」に、「寄与し」を「寄与することを中核とする重要影響事態に対応する外国との連携を強化し」に改める」となっている。

つまり自衛隊の海外派兵について「周辺事態」では地理的制約があったが、「重要影響事態」ではその制約がない。「周辺事態」を「重要影響事態」に置き換えてしまうのだから、米国が主導してきたアフガニスタン、イラクなどへの戦争に世界中付いていき、後方支援をする自衛隊の派兵が可能となる。また、安倍首相の国会答弁では「他国の武力行使と一体でない後方支援は、武力行使でない」といっているが、後方支援とは、武器弾薬や兵員の輸送のことであり、軍事行動とみなされ、かっこうの標的にされる危険がある。日本の自衛隊がそのような犠牲者を出すことを多くの国民は望んでいない。

今度は「武力攻撃事態」で始まる第5条をみてみよう。「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律の一部を次のように改正する。題名を次のように改める。武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」となっている。

「武力攻撃事態」とは、既存の法律では(定義)第2条二で「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう」となっている。今回の改正で第2条四に「存立危機事態」を加え、その定義によると「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう」となっている。

昨年7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定をうけ、法制化に伴い新たに出現した「存立危機事態」が集団的自衛権の第一要件である。閣議決定では第二要件を「これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」、第三要件を「必要最小限度の実力の行使にとどまるべきこと」としていた。この新三要件のもとで自衛のための措置として「武力の行使」が許容されると政府はいう。

つまり「存立危機事態」では、日本が武力攻撃を受けていないにもかかわらず、密接な関係にある他国が武力攻撃を受けたので、相手国に対して日本側から武力の行使を行うということである。相手国側にしてみれば、日本に先制攻撃を受けたわけだから、当然日本に反撃してくる。日本国民は守られるどころか、危険にさらされる。安全保障関連法案は実に恐ろしい内容である。

今年は戦後70年の節目の年に当たる。憲法9条のもとで、個別的自衛権のみが認められると限定的に解釈、実践してきたおかげで戦争に巻き込まれることもなく、軍事費の負担に押しつぶされることもなく、平和で安全な日々を過ごすことができた。少子高齢化が進み、1,000兆円を超える国債を抱え、社会保障費のねん出にもしんぎんしている我が国が、集団的自衛権も認められると、9条の解釈を変更して、戦争に巻き込まれる道を進むべきではない。参議院に審議の場を移し、議員数の上では与党が多数派だが、空前に盛りあがった反対の世論と野党が結集して、この安全保障関連法案の廃案を求めたい。  

(しみず・ひろたか:東京会)

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