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時潮

時潮
マイナンバー制度

研究部長 櫻木 敦子
中小企業の負担増大

今年の10月からすべての国民にマイナンバーが配布され、いよいよ来年1月から利用が開始されます。通知まで5ヶ月だというのに、すべての国民に浸透しているとは言い難いのではないでしょうか。

マイナンバー制度が施行されると、国民一人一人が番号で管理され、税金と社会保険がすべて掌握されることになるということは、顧問先である中小企業の社長も認識していますが、自身が個人番号関係事務実施者になり、番号を収集・管理・破棄する義務があるという認識はまだまだ薄いようです。対象者の洗い出し、社内規程の作成、安全管理措置、対象者への周知、システムの改修など、10月に番号が配布されるまでにすべきことは数多くあります。事業主は従業員だけでなく、その扶養親族等や報酬・家賃の支払先などからも番号を取得して管理しなければならないのです。そして、違反すると個人情報保護法よりも重い罰則が制定されています。

私たち税理士事務所も、これまで以上に特定個人情報の取り扱いには慎重にならなくてはならず、十分な安全措置を講ずる必要があります。新システムの導入、事務所内教育、顧問先との契約の見直し、顧問先への周知など。そして税理士事務所は、顧問先からマイナンバーに関する業務を委託され、顧問先から監督される立場になるのです。

マイナンバー制度は、私たちの事務所や中小企業の事務実施者にコスト、事務手続において多大な負担を強いるものです。

利用拡大のおそれ

現行法ではマイナンバーの利用範囲は、社会保障・税・災害対策の分野の中で法律や条例で定められた行政手続のみに限られています。しかし、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(「マイナンバー法」)附則6条では「この法律の施行後3年を目途として、この法律の施行の状況等を勘案し、個人番号の利用及び情報提供ネットワークシステムを使用した特定個人情報の提供の範囲を拡大すること並びに特定個人情報以外の情報の提供に情報提供ネットワークシステムを活用することができるようにすることその他この法律の規定について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、国民の理解を得つつ、所要の措置を講ずるものとする」と定められています。この規定はマイナンバーの民間利用を視野に入れたものです。

3月10日に閣議決定された改正法案には、金融分野、医療分野等における利用範囲の拡大が明記されており、預貯金口座への付番、特定健診・保健指導に関する事務における利用、予防接種に関する事務における接種履歴などを管理することとされています。預金口座については、2018年から新たに開く口座を対象として任意で付番するものとし、その後、既存の口座にも拡大するといいます。麻生財務相は、その3年後の2021年を目途に預金口座への付番の義務化を検討するとしています。

同じ3月10日閣議決定された個人情報保護法の改正案では、保有している個人情報の数が5,000人以下の小規模事業者を個人情報取扱事業者としない規定を削ることとしています。また、個人情報を特定の個人を識別することができないように加工すれば、利用制限が緩和されることとしています。マイナンバー法も放置すると拡大の一途をたどる可能性があります。

税の分野からスタートするマイナンバー制度は、このまま拡大していけば国民に関するさまざまな情報が集約されることになります。システム上は一元管理するのではなく分散管理することとなっていますが、情報流出によりビッグデータとして集約され、利用される可能性もあります。マイナンバー制度が今後どのように運用されるべきか、国民が監視していく必要があります。

(さくらぎ・あつこ:東京会)

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