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時潮

時潮
大企業にこそ課税強化を

事務局長 吉元 伸
膨張を続ける大企業

格差社会と言われて久しいが、ますますその深みは増している。世界的な格差や貧困について研究している国際団体オックスファムが、今年も格差に関する報告書をまとめている。その報告書によると、拡大する格差が抑制されなければ、2016年には富裕層上位1%の富は、その他99%の人々の富を上回ることを報告している。まさに驚くべき事態が確実に進行しているのである。本来、科学的・医学的な進歩により「満ち足りた豊かな社会」となるべきはずの21世紀において、格差は広がり、貧困層が増え続けている。その格差拡大の元凶にあるのは大企業への利益の集中だ。利益の最大化を常に求める大企業にとって規制を失った経済市場は寡占を高める格好の舞台となっている。資本主義経済における金銭的貪欲性は際限なく増殖を続け、社会的な弱者を不幸に追いやっている。

大企業に首を垂れる国家

EU の欧州委員会は「(国際的な大企業である)アップル社に対しアイルランドが特別な優遇措置を与えている」と警告。これを裏付けるようにアップル社は実質的な法人税が2% 以下のアイルランドに多額の利益を移動している。

さらに欧州の小国であるルクセンブルグにも疑念の目が向けられている。国境を越える出資や融資にルクセンブルグの法人を介在させることによって課税を免れる「租税回避」の方法を記した文書が見つかり、この文書にルクセンブルグの課税当局者の承認印が押されていることが発覚した。税務当局が特定企業との間で税金にダンピングを行う密約を取り交わす異常な行為が行われていたのである。いずれも国家間の課税対象の矛盾をついた脱法的行為であり、その一端を国家が担っていることに現在の病巣の深さが現れている。これらのことから二つのことがわかる。

ひとつは、巨大グローバル企業がそれこそ巨大化を続け、国家と対等に渡り合えるほど力を持ったことだ。その力の背景には国家がうらやむほどの潤沢な資金力がある。さらにその資金力を背景として国家との交渉を行ったり、ときには国家を恫喝しながら、したたかに更なる富の蓄積を求めている。いまひとつは国家と大企業との関係の変化である。経済活動を規制するルールなどはできるだけなくし、民間企業の自由な活動にゆだねた方が経済はうまくいくという市場原理主義的な考え方を先進国間も容認し、また経済成長を求めることを国家の命題としている国家にとって大企業は民間企業のリーダー役として貴重なパートナーになっている。

法人税減税競争

法人税減税の流れも止まらない。法人減税は日本の税制改正の目玉となっている。また英国が牽引する世界的な法人税減税の流れから取り残されていたアメリカもついにオバマ大統領が法人税引き下げの方針を打ち出した。世界規模の減税競争。このようなダンピング合戦に終わりは来るのだろうか。

法人税を引き下げなければならない理由として2つの理由が挙げられている。ひとつは法人税が高いと税率の低い国に企業が移転をしてしまい、税収が下がり、また雇用も維持できなくなるというもの。しかし果たしてそうであろうか。企業が営利を追求するにあたって為替変動の影響を極力避け、成長市場に食い込みビジネスを拡大するには、現地化は避けられない。いくら日本の税率が下がったとしても、日本にとどまる主要な要因にはなりえない。もう一つはトリクルダウン理論である。トリクルダウン理論とは、大企業が利益をあげればめぐりめぐってそこで働く労働者や下請け企業にもそのおこぼれが「滴り落ちる」という考え方だ。

国民の所得増は、企業収益が拡大すれば自然と増えるという。しかし、現実にはそうなっていない。そもそも資本の論理では、国家に対する忠誠心など持ちあわせてはいない。税金が少なくなるのであれば、本社を移転することなどいとわないのである。大企業はその利益追求理念に基づき、獲得した利益を次の投資に充てるため内部留保として溜め込み、再投資するチャンスをうかがっているだけである。

全体の富が増大しているのに、国民の賃金は停滞を続け、格差が拡大しているという現実。その原因は野放図に大企業の横暴を許している政治システムにある。今の政治システムでは健全な市場を維持することはできない。そればかりか逆に大企業と富裕層が他者のすべての富を搾取できるようなルールを設計してしまっていることに根本的な原因が存在する。どのような市場であっても規則は存在しなければならないわけで、その規則は政治的なプロセスを経て確立していくものである。

東証に上場している上位50社のうち45社がタックスヘイブンを活用し、ケイマン諸島だけの活用に限っても、日本の大企業は55兆円の投資を行っており、世界第2位となる規模の税逃れをしている。このような大企業に、モラルや企業倫理を求めていくのではなく、規制の対象として監視をしていかなければならない。政治システムの重要な位置を占める税制をまっとうなものに改正し、大企業からまともな税金をきちんと払ってもらうこと、法人税に累進税率を導入すること、悪質な課税逃れに罰金を課すことを求めなければならない。

(よしもと・しん:千葉会)

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