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時潮

時潮
これからの高齢化社会に向けて

副理事長 武本 康夫
我が国では一昔前は祖父、子、孫の三世帯の家族構成も多く見受けられましたが、現在は子供が成人の頃になると独立し、それぞれ別家族として生活していくようにライフスタイルも変化してきました。その結果、平均寿命が年々伸び、さらに核家族化が進み、高齢の単身者あるいは夫婦二人だけの世帯が急増し、高齢化社会によるいろいろな問題点が浮き彫りになってきています。

最初の問題点は老人性痴呆の問題があります。
例えば親が寝たきり又は判断能力が低下し、その生活をサポートしている家族が親の生活費を引出すため定期預金を解約しようとすると、銀行の窓口で本人確認を求められてその場では解約できず、後日無理やり親を銀行に連れて行ったり行員を自宅や病院へ連れていって本人確認をした経験をお持ちの方も多くおられるのではないかと思います。

実際このように本人確認を行っても、本人はあまり理解できていないケースも多いと思われます。このようなことを防止するために、現在は成年後見制度が設けられています。

この成年後見制度には大きく分けて法定後見と任意後見がありますが、法定後見は、本人に判断能力がないと認識された時点で、その家族等からの申立てにより後見人を選任する制度です。その申し立てに記載された成年後見人候補者から後見人に選任されたり、予定者が記載されていない時は家庭裁判所が弁護士等第三者を選任する事もあります。

任意後見は、本人が判断能力がある時に、将来判断能力が無くなった時に備えて財産の管理等、従前に公正証書に記載された契約内容を任意後見人に実行してもらう制度です。しかし家族間で争いがあるときに、任意後見契約により後見人となる者が家族である場合に、家庭裁判所は後見開始の申し立てがあった時に、家庭裁判所の判断で別の第三者を後見人に選ぶことがあります。このケースでは被後見人の意思は全く無視され、司法権の民事に対する過剰な介入のような気がします。またこの任意後見契約を締結した時は互いに若い時でも、実際に実行される時は高齢になっていて、契約通り後見人として実行できるかどうか問題があります。

昨今顧問先から相続の相談から、この成年後見制度特に任意後見についても相談が増えてきています。任意後見や法定後見は生存中だけのことであるため、任意後見と遺言書の作成並びに遺言執行者までも依頼されるケースが増えてくることが考えられます。後見制度を適用すると原則として被後見人の財産の処分や贈与等被後見人の財産を減らす行為は出来なくなります。したがって相続対策を行うことは難しくなりますし、相続の争いに巻き込まれないよう気を付けなければならないと思います。

次に相続での問題点ですが、被相続人の介護の負担が相続人の間でアンバランスがあり、被相続人の財産の分割のときに争いが生じるケースが増えてきているようです。現在の司法は、介護は介護できる家族が当然行うものであると言う考えがあるため、寄与分の評価をほとんどしないことも、このような争いが生じる原因の一つになっています。高齢化により介護の期間が長くなり、負担のアンバランスが拡大するケースが多くなり、今後寄与分に対する評価を見直す必要があると考えています。

次に最近増えつつあるのが遺言書です。特にご自身で書かれた自筆の遺言書が見つかった場合です。最近の家庭裁判所での検認は自筆であるか、書いてある内容について問題がなければ、その筆跡が本人のものであるかどうかまで関知しないようです。その自筆かどうかの判断は相続人間で行ってくださいというスタンスのようです。高齢化で判断能力が落ちた人が遺言書を自筆で書く場合が増えてくると思われます。書いたときに本人が正しく判断できる状態であったかどうかは、亡くなったあとでは分からないのが現状です。

またそのような遺言書が複数枚出てきた場合、その書いた日が後の物が有効になるため、その書いた日も本当に正しいかどうか問題が残ります。今後この自書の遺言書の真偽を担保する方法も考えていかなければならないと思います。出来れば公正証書の遺言書であれば、本人が公証人の前で口述した内容を公証人が書面にし証人2人が確認するので、少なくとも自筆の遺言書より信頼性は高いものとなります。

次に医療の問題ですが、判断能力の落ちた高齢者が施設等に入所した場合に、家族に対して万が一治療が必要な場合にどこまでの治療を希望されるか確認される場面に直面するときがあります。事前に本人から話を聞いていれば答えやすいでしょうが、何も聞いていない場合に、その判断は難しいものになります。私は最近相続に関する相談を受けたときに相手の方が高齢であれば必ず自身の延命治療の範囲などを書き残すか相続人に伝えておくように話をしています。このような話は身内からはしにくいものですから、遺言書と同じく第三者である顧問税理士等から話せば意外に抵抗感なく聞いてもらえるようです。

終りに、最近発表された2015年度税制大綱で、親から子供への財産の移転を促進させる贈与税の改正が書かれていましたが、今、中高年の人が所得を消費ではなく貯蓄に回している資金を早期に子供に移転させ消費を促進させようとしています。政府が声高に言っている「豊かな老後」が約束されれば自然とこの問題も解消されるのではと思います。

社会福祉事業もこれからの成長産業とし、公益事業者と一般企業の事業者との税のバランスをとりながら市場の拡大と雇用の促進を図り、利用者の利便利性を高める施策を立案実行してもらいたいものです。

(たけもと・やすお:神戸会)

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